一般社団法人日本リ・ファッション協会/東京都中野区
代表理事
鈴木純子さん(47歳)
1965年、茨城県生まれ。高校時代に起業家を志し、卒業後、経営やコンピュータの専門学校に通う。88年、大手システムソリューション会社に就職したのを皮切りに、経営コンサルティング、雑誌編集などの職を経験、92年、フリーのマルチメディアプランナーに。96年、マルチメディア関連業務などを請け負う「アプロディー」を設立、代表取締役に就任。循環型社会創出への貢献を考えるなか、2009年、思いを同じくする仲間と「日本リ・ファッション協会」設立、代表理事として精力的に活動している。 http://www.refashion.jp
大量生産・消費から循環型社会へ――。言い古された感のあるスローガンではあるが、一貫したビジネス、ムーブメントに具体化するのは、そうたやすいことではない。鈴木純子が2009年に設立した日本リ・ファッション協会は、「衣」を核に、リユース、リフォーム、リサイクルなど〝Re(再び)〟に焦点を定めた様々な行動を提唱 している。ポイントは「リ」に、モノの循環を支える日本の伝統技術や知恵に対する「リスペクト」 の意を込めていること。それらを結集した「いいものを長く愛用する」社会の再構築が目標だ。
設立4年目、そうした趣旨に賛 同する会員は、企業、個人合わせて約380に達した。現在、「リ・ファッション」を理解してもらうためのワークショップ、コンテストの開催や、初心者でも気軽に手芸を楽しめる「ソーイングカフェ」の運営に取り組む。さらに、回収した古着などを使って新たなビジネスの創設を目指す「リ・ファッション ラボ」では、いくつかのプロジェクトが立ち上がってきた。「多くの人と手を携えながら、自ら〝稼ぎ出せる〟新しいビジネスを」。NPOなどではなく一般社団法人として旗揚げした鈴木の思いは、確実に芽吹き始めている。
「いいものを長く愛用する」ための技と知恵を見直し、企業化を図る。それが循環型社会を支えるムーブメントになる
━ 起業を決意したのは16歳の時だったとか。
引き金になったのは、高校受験失敗のトラウマです。それからずっと抜け出せなくて、こんなふうに、他人のモノサシに引きずられる人生を送るのはいやだなと。で、自分の価値観を軸に生きていくのだったら、将来「社長」になるしかないと思ったのです。実際に起業したのは、いくつかの会社勤めを経験した後、29歳の時でした。
━ リ・ファッション協会を設立したきっかけは?
もともと技術畑なので、日本の伝統的な技術や知恵を残したいという意識が強かったんですね。それとリンクさせて、何か、生活や心の豊かさを実現できるビジネスモデルが構築できないかと、いろんな人とも意見交換しながら試行錯誤を重ね、やっと行き着いたという感じです。
日本には、昔から高い技術に裏打ちされたメンテナンスという仕事がそこかしこにあって、それで世の中が動いていたわけです。モノを循環、再生させることで潤いのある暮らしを演出していた。大量消費時代の到来で忘れ去られていたそういう社会を、今の時代に合ったかたちで提案しようと考えたのです。と、理論だけではなかなか理解してもらえないので(笑)、まずは「リ・ファッション」の普及活動から始めました。
━ 具体的には?
例えば「リ・ファッション コンテスト」。参加者には、私たちが一般家庭から回収した不用衣類を素材として提供し、2着以上の服を使用したリメイク作品を発表してもらう。その作品を公開展示やWeb投票で審査し、グランプリを決めるというイベントです。参加者だけでなく、衣類の提供や審査というかたちで、数多くの人に 「リ・ファッション」の楽しさを知ってもらえるのがミソ。3回目となった2012年は、受賞祝賀パ ーティに100人ほどの方が集まってくれました。
「ソーイングカフェ」にも手ごたえを感じます。お茶を飲み、講師のアドバイスも受けながら縫いものをする、ありそうでなかった空間です。東日本大震災の支援活動の一環でもあるのですが、テーブルを囲んで作業をするというのは、距離感がちょうどいい。心のケアや新しいコミュニティづくりに一役買っています。
━ リ・ファッション市場の創造にも取り組まれているとか。
家庭に眠る衣類を回収し、会員仲間とともに新しいビジネスを起こそうという「リ・ファッションラボ」事業です。例えば被災地や障害者施設の作業所などは、商品開発やマーケティングが不得手で、そのことが生産の壁になっている場合が少なくないのです。そこで、そうした部分を会員企業などが担当し、現場は縫う、編むといった作業に特化して仕事量を増やすというプロジェクトが始動しました。これを端緒に、いくつかの新しい仕組みづくりに取り組めそうです。
━ これからの夢は?
あえて株式会社という営利組織でもなく、NPOという非営利組織でもない「一般社団法人」にしたのは、自分たちだけではなく、生産や流通、メンテナンスに携わる人々に消費者も巻き込んだ、実効力のあるムーブメントにしたいと考えたからです。その目標に照らせば、ようやく一歩が踏み出せたところ。芽が出始めた事業を着実に花開かせながら、さらに認知度を高めていきたいですね。
循環型社会が大事だと言いますけど、突き詰めれば、モノを使い捨てにする社会は、人も使い捨てにする。仕事も同じだと思うんですよ。常に創造しつつ、同時にみんなが幸せになれる持続可能な事業を追求する。その原点は忘れずにいたいと思っています。
取材・文/南山武志 撮影/刑部友康 構成/内田丘子