店の強み。
飲食店に限らず、事業においては他にはないような強みがないと、生き残っていけません。しかしそれを自分自身で理解し、事業に活かしていくのは意外と難しいもの。
今回お話を伺ったのは、佐藤シュンスケさん。
佐藤さんは、2016年に浅草に飲食店「ほしや」を開業。その後店舗を拡大。コロナ禍にもかかわらず、順調に事業を成長させてきました。
今回はそんな佐藤さんのキャリアとともに、店のファンを増やす強みの活かし方についてお話を伺いました。
佐藤シュンスケさん
株式会社フーテン代表取締役
美大で建築学を専攻。
その後職を転々として、2016年に仲間と共に起業。
浅草に飲食店「ほしや」を立ち上げる。
その後、個人事業主として浅草で飲食店を立て続けに開業。
元の会社から「ほしや」を買い取り、2021年に新たに株式会社フーテンを起業。
現在はカラオケバー、スタンディングバーなども経営する。2022年9月には西浅草にワインバーを新たにオープン。
「もの」を作るより「コミュニティ」を作る方が、自分の興味があることに気がついた
――佐藤さんは、浅草で飲食店を数店舗経営されているということですが、いつ頃から飲食店を開業しようと考えていたのでしょうか?
最初、一店舗目として立ち上げたのは、この(※)「ほしや」なのですが、それが2016年、僕が29歳の時でした。
ただそれ以前から、ずっと飲食店を開業しようと思っていたかというとそうでもなく……。20代はさまざまな職を転々と渡り歩いていたんですよ。
ただ飲食店に関しては母も今の僕と同じように、スナックやビヤガーデン、日本料理屋などを営んでいたので、飲食という世界は僕にとって非常に身近でしたね。
※取材は「ほしや」にて行われた
――それではなぜ飲食店を開業しようと?
元々は美術大学で建築学を勉強していて、ものづくりの方向に進みたかったんですよ。
ですが勉強をしていく中で、僕は「もの(建物)」を作るというよりも、その建物の中で行われる人同士の「コミュニティ」の方が好きなんだなということに気づいてしまって。
そこからイベント関連の仕事をしたり、ある起業家の方のカバン持ちを経験したりと紆余曲折ありました。
そんな時、学生時代の友人2人に「一緒に会社をやらない?」と、声をかけられたんです。
当たり前ですが、起業をするなら何か事業を起こさないといけません。友人はエンジニアとデザイナーだったので、そういった仕事を受けるようになりました。
会社の自社事業として飲食店経営をすることになり、その担当者として私がジョインしました。
――じゃあほぼ未経験で店舗を構えることに?
そうですね。飲食店でアルバイトをしていたことはあるのですが、店を経営する側に立つのは初めてでしたね。
――「ほしや」とはどのようなコンセプトのお店なのでしょうか?
「ほしや」の「ほし」は「干す」から来ていて、干し物、干したもの全般(干し肉や干し野菜、ドライフルーツなど)を提供する飲食店です。
元々僕は新宿のゴールデン街のような雰囲気の飲食店が好きでして。せっかく自分たちがお店を出すなら、そういったちょっと尖った、キャラクターのある店を出してみたいなと。
そういったコンセプトから始まったのが「ほしや」でした。
常連さんを大切にしながら、新規のお客さんを増やしていく。店のファンの作り方
――2016年に「ほしや」を開業し、その後数店舗に事業を拡大。そして2019年には株式会社フーテンを起業されていますね。
ええ。
「ほしや」をある程度軌道に載せてから、個人事業主として飲食店を2つ開業しました。
ただ友人と起こした会社でも、飲食事業は他の事業とかなり毛色が異なっていたので、分けた方がいいんじゃないかと税理士から打診を受けました。
そこで僕が会社からスピンアウトする形で、株式会社フーテンを起業。個人事業として運営していた店の事業と、元の会社の「ほしや」を事業譲渡していただく形で会社を立ち上げ、現在に至ります。
――その後、すぐに2020年からコロナ禍がやってきました。株式会社フーテンの事業はいずれも飲食業と、コロナ禍の影響を多大に受けそうですが……。
そうですね、驚きましたし大変でしたね。
それでも店を畳むことなく今に至れるのは、常連さんのおかげだと思っています。
――「コミュニティ」を大切にする、佐藤さんならではの店づくりの賜物ですね。
そうだといいんですけどね(笑)。
そんなに大袈裟なものではないですが、今来てくださっているお客さんを大切にするよう、スタッフにも話はしていました。
かといって「常連主義」というほど、クローズドでもなく。新規のお客さんにも入ってもらいやすい店づくりを目指していきました。
――ファンを増やす店の作り方について、佐藤さんなりのメソッドがあったら教えていただけますか?
シンプルに、自分たちの良さが「コミュニケーションにある」と信じて、店を作っていきました。
そもそも「ほしや」の場合、味が自慢のレストランではありませんから、お酒や食事そのものだけで、お客さんは魅了できないと思っていて。
となると店の居心地の良さだったり、コミュニケーションで他の店と差別化していくしかないんですよね。
例えば「ほしや」は、路面店でガラス張りなので、中から外の様子が見えるんですよ。
店の中が気になっていそうな方がいらっしゃればお声かけしますし、入店されたら「いらっしゃいませ!」と元気よく声をかけます。
常連さんを大切にするといっても、新規のお客さんが入りやすいオープンな雰囲気が作れるようかなり心がけていますね。
――常連さんに対しての「コミュニケーション」の取り方というのは?
すごく変な例え方ですが「合コンで場を回す人に徹する」と言いますか。要するに、お客さんを楽しませることに尽力しています。
そのお客さんを見ながらの対応にはなりますが、スタッフだけでなく、お客さん同士をつなげたり会話をフォローすることもありますね。
時に会話に入っていったり、盛り上がってきたらさっと引いたりと。この辺りはもう経験と、その場の空気の読み方ということになってしまいますが、かなり意識はしていますね。
自分の得意不得意を知ることが、独立・起業につながる
――佐藤さんの今後の展望について、お聞かせください。
20代の終わりに開業して、以降6年間飲食店の経営を経験して、ようやく自分なりの武器ができてきたのかなという実感があります。
もう少し経験を積んで、40代になったら教育事業にも幅を広げていきたいなと思っているんです。
――教育事業ですか?
はい。飲食はもちろん他の業界においても、コミュニケーション能力をはじめとした「人間力」って極めて重要だなと思っていて。
その人間力を養っていくために、フーテンがある種学校のような形になればいいなと。
給料をもらいながら現場で経験を積んでもらって、マネージャーを経て独立をサポートできるような。
フーテンは社長の僕だけで、社員は全員個人事業主のような感覚で、ゆくゆくはフーテンから独立する前提の、そんな会社にしていきたいと思っているんです。
――最後に、読者の方へメッセージをいただけますか。
個人的に、独立・起業には向き不向きがあると思っています。
いろんな人がいてこの世界が成り立っていますから、どちらが上とか下とかありません。自分が向いていないと思うのであれば、無理して独立・起業する必要はないんじゃないかなと。
向いているか向いていないかは、ある程度年齢を重ねていかないと分からないものだったりします。僕も20代はずっと、自分に何が向いているか、探していましたから。
自分のことをよく知るためにも、とりあえず目の前のことに一生懸命取り組んでみる。そして自分の適性や得意なことを理解して、自分に合った働き方をするといいのではないでしょうか。
取材・文・撮影=内藤 祐介