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茶道とビジネスの掛け合わせで独立。茶人・小山匡子さんが実践する時代に沿った働き方

茶道とビジネスの掛け合わせで独立。茶人・小山匡子さんが実践する時代に沿った働き方

副業会社員、リモートワーク、週3日休暇制など、以前と比べても企業によってはさまざまな働き方が可能になった現代社会。

中には会社を退職して、独立・起業を考える方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

今回お話を伺ったのは、茶人の小山匡子さん。

小山さんは長年茶道の稽古に励みながら、大手メーカーで化粧品原料等の研究開発、管理職などの経験を経て、2021年に独立・起業しました。

現在は茶道の考え方をビジネスパーソン向けに解説するセミナー「茶道思考」の主宰や、化粧品関連コンサルティング事業を展開しています。

自分の主体性はもちろん、時代の流れやタイミングが重なったからこそ、起業する道を選んだという小山さん。

今回はそんな小山さんのキャリアとともに、働き方や事業の選び方について伺いました。

<プロフィール>
小山匡子さん
株式会社スモールウィン代表取締役/茶道裏千家準教授
8歳の頃から茶道を習い始める。
以来数十年にわたって稽古を積み、教授者となる。茶器の色の変化に興味を持ち、大学では化学を専攻。
大学卒業後、味の素株式会社に入社。化粧品原料の研究開発を経てアミノ酸製造技術部門で分析、評価技術、品質管理などを担当。その後2度の転職を経て独立し、株式会社スモールウィンを設立。
現在は茶道の精神や考え方をビジネスの課題解決につなげるセミナー「茶道思考®︎」を主宰をする他、化粧品関連技術のコンサルティングなど、茶道やこれまでのキャリアを活かした事業を展開する。

※茶道思考は同社の登録商標。

自分を見つめ直し、客人をもてなす。ビジネスにも応用できる茶道の精神

――小山さんの運営する株式会社スモールウィンでは、いくつかの事業を展開されていると伺いました。まずは事業の概要を簡単に教えてください。

小山さん
大きく2つの事業を展開しています。1つ目はビジネスパーソン向けのセミナー「茶道思考」を主宰しています。茶道にあまり馴染みのない方へ簡単に解説すると、茶道とは「喫茶」(コミュニケーション)と「禅」(マインドフルネス)と「型」(お点前や作法)の3つの要素で成り立っています。特に喫茶という側面は、戦国時代に活躍した千利休に代表されるように、相手をもてなすためのコミュニケーションツールとして取り入れられてきました。

さらに、禅はマインドフルネス(瞑想などで現在起こっている事象に注意を向けること)のための有効的な手段として近年人気を博しています。

自分を客観的に見つめ直し、相手をもてなす。

茶道思考では、ビジネスパーソンの方を対象に茶道の精神をビジネスの問題解決へ応用する考え方をお伝えしています。

もう1つは化粧品関連事業です。前職までのキャリアで培ってきた経験を活かして、化粧品関連技術のコンサルティングや化粧品開発なども行っています。

――ビジネスパーソン向けの茶道のセミナーと化粧品事業。一見すると全く関係のない両者ですが……どういった経緯で現在の事業に至ったのでしょう?

小山さん
半世紀近く茶道のお稽古を積んできた経験と会社員としての私のキャリアのその両方の掛け合わせで現在の形になりました。順を追って説明します。まず、茶道に関しては8歳の頃から始めて結婚出産時期を除いて、四半世紀以上稽古を積んできました。茶道思考の事業の根幹となったのは、味の素時代に指導アシスタントとして依頼された「茶道サークル」での経験が大きかったですね。

小山さん
というのも当時、私は既に教授者(茶道を人に教えられる資格を持つ人)でしたので、自然とサークル内で皆さんにお茶のお点前を教える立場にあったんです。お点前や所作の指導と並行して、茶道が歩んできた歴史や背景、考え方を説明する機会があったのですが、その時の皆さんからの反応が非常に良かったんですよね。

――なぜ反応が良かったのでしょうか?

小山さん
茶道というと「細かい所作を暗記するもの」「難しい」というイメージがある方も少なくないかもしれませんが、実は所作にも一つ一つ合理的な理由が存在します。歴史や背景から紐解くほうが「ただ所作を暗記する」よりも、さらに茶道を楽しんでもらいやすいですし、何より茶道の本質は「喫茶」と「禅」にあります。自分を見つめ直し、客人をもてなす。そうした茶道が大切にしているポリシーをビジネスパーソンに向けて噛み砕いて説明するセミナーがあったら面白いのではないかと思い、現在の茶道思考の原型が生まれました。

――化粧品事業の方はいかがでしょうか?

小山さん
お仕事の方は大学を卒業した後、味の素株式会社に入社。化粧品原料の研究開発から管理職まで、さまざまな経験をさせていただきました。2度の転職を経て、これまで培ってきた見識を活かして事業を作れないかと思い、現在の化粧品関連技術のコンサルティングを始めたんです。

キャリアも働き方も、その時々で変わっていってもいい。

――起業から2年が経ちますが、いかがでしょうか。

小山さん
自分の人生における流れやタイミングを大切にしてきて良かったなと改めて思いますね。実はだいぶ説明を端折らせていただいたのですが……。私が「起業してみようかな」と思えたのは起業に挑戦したい気持ちもあったのですが、それと同じくらいいろいろなタイミングが重なったからという理由も大きいんですよ。

――タイミング、ですか?

小山さん
はい。会社員としてある程度たくさん経験させていただいたことや、出産や子育てもひと段落して、もう一度改めて茶道に向き合うことができたこと。親の介護の関係で時間が必要だったことなど、さまざまな事情が重なって、事業を立ち上げてみようかなと思えたんです。今の自分にとって無理のない働き方や得意なこと、できることを考えていったら自然と今の事業に行き着いた、そんなイメージです。いい意味で肩の力を抜いて、自然な形で起業できたからこそ、茶道思考も化粧品事業もありがたいことに無理なく運営できているのかなと。

そんなふうに改めて思います。

小山さん
実はお茶の歴史もその時々によって形や在り方が変わっていったんですよ。戦国時代に千利休が「茶道」を確立する以前、お茶は遣唐使によって中国から「薬」として伝わりました。以降は貴族の趣味として親しまれるようになり、千利休が茶道として大成させ、現代に至るまでの基礎を築き上げました。その後、明治維新の時代には西洋化の影響を受け、テーブル茶道(腰掛け式の立礼)など、新しい茶道の在り方が生まれていきました。

――お茶の歴史が物語るように、キャリアもまた、時代やタイミングに合わせて在り方や形を変えていってもいいということでしょうか。

小山さん
そういう考え方もありますよね。自分も社会も全てのものは移り変わっていくわけですから、キャリアや働き方もその時々に合わせて柔軟に変えていってもいいんじゃないかなと。逆に、私の場合の茶道のように時代が変わっても自分の中に存在するものや価値観などは自分にとっての普遍的な「本質」だと思います。その本質こそ、もしかしたら皆さんの事業の根幹になるかもしれません。

もちろん独立や起業が全てではないですが、もし自分がどんな事業を立ち上げようか迷っているのなら、その「本質」を探すところから始めてみてはいかがでしょうか。

独立は手段でしかない。自分の本質や目的に沿った働き方を考える

――小山さんのこれからの展望を教えてください。

小山さん
茶道思考を多くの人に受けていただきたいですね。茶道は日本が誇るべき文化の1つです。その文化が絶えないよう、1人でも多くの人に茶道の考え方に触れながら、お茶を点てられるようになっていただけるようにこれからも頑張っていきたいですね。

――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

小山さん
いろいろな考え方があるとは思いますが、先ほどもお話した通り、私はキャリアも働き方もその時々で変わっていってもいいんじゃないかなと思っています。自分の中でのタイミングが重なれば、独立・起業を選択してもいいでしょうし、逆にそうじゃなかったら無理してする必要もないというか。結局、独立・起業というのは手段でしかありません。肝要なのは手段ではなく、皆さんにとっての本質であり、目的です。事業を通して成し遂げたいことや目指したい働き方など自分にとって大切な本質を言語化するところから始めてみて、そして自分に合った手段を選択できたらいいのではないでしょうか。

取材・文・撮影=内藤 祐介

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