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自分の願望が事業のヒントになる。鈴木里苗さんが、放課後等デイサービス事業を始めた理由

自分の願望が事業のヒントになる。鈴木里苗さんが、放課後等デイサービス事業を始めた理由

「もっとこうだったらいいのに」。

そんなふうに日常生活や仕事をする中で何気なく思っていたことが、事業になることもある――。そう語るのは今回お話を伺った、鈴木里苗さんです。

鈴木さんは山形県で10年以上、放課後等デイサービス事業(障害や発達に特性のあるこども向けの福祉サービス)「セカンドハウス彩祐結(あゆむ)」を経営しています。

今回はそんな鈴木さんのキャリア、そして「セカンドハウス彩祐結」の事業について伺います。開業の裏側には、鈴木さんにとっての「もっとこうだったらいいのに」がありました。

<プロフィール>
鈴木里苗さん
放課後等デイサービス・相談支援事業 「セカンドハウス彩祐結」代表山形県出身。
大学で福祉を学んだ後、宮城県内で一般企業に就職。山形へ帰って結婚。
ケアワーカーとして勤務し、出産後に転職して、ケアマネジャーとして働きながら、子育てと仕事を両立。程なくして長男が発達障がいと発覚。
子育てと会社員としての仕事の両立が困難になり、発達障がいから重症心身障がい児までの幅広い障がいのあるこどものための事業を立ち上げることを決意する。
2012年より、山形県で放課後等デイサービス事業「セカンドハウス彩祐結」を設立する。

鈴木さんが、放課後等デイサービス事業を始めるまで

――山形県で放課後等デイサービス事業「セカンドハウス彩祐結」を経営する鈴木さん。まずは、放課後等デイサービスという事業について、教えていただけますか?

鈴木さん
支援を必要とする障がいのある小学生から高校生の子を対象に放課後や長期休暇に利用できる福祉サービスです。あまり馴染みのない方に端的にご説明するなら、高齢者向けのデイサービス事業のこどもバージョンで、その施設で療育支援がなされると解釈していただければと思います。こどもたちにとって、家庭とも学校とも異なるリラックスして楽しく過ごせる場所を目指して、2012年にオープンし、現在は山形県内に2つの事業所を構え、毎日80名ほどのこどもたちが利用しています。

――鈴木さんが「セカンドハウス彩祐結」を設立するまでの経緯を教えてください。

鈴木さん
開業のきっかけは長男が発達障がいだと発覚したことですね。それまで私はケアワーカーやケアマネジャーなど、会社に所属して福祉関連の仕事に従事し、子育てと仕事を両立する毎日を送っていました。長男が幼稚園に進むと変化が訪れました。周りのお友達とトラブルを起こしてしまうことが増えていったんです。息子の発達障がいは幼稚園の先生に指摘を受け、地域の発達相談会から専門の病院を受診したことでわかりました。小学校に上がってからは担任の先生や教頭先生に、毎日呼び出されるようになってしまいました。仕事と普段の子育てに加えて、毎日学校に行っては謝り……と、心が休まらない状態が続いたことで、私の体力と精神力が限界を迎えてしまって。やがて仕事を退職することにしました。

――なぜ独立を決めたのでしょうか?

鈴木さん
会社員としてフルタイムで働くことは体力的に難しいですが、何かしら仕事はしなければなりませんでしたし、仕事をしたかったんです。次に仕事をするなら、息子や私と同じような境遇に苦しむ人を助けたい。私なら理解して寄り添えると思い、自分で事業を立ち上げることを考えました。創業準備はフルタイムで働いていた前職の社長に了承を得て、行いました。創業し、事業が軌道に乗るまではパートでケアマネジャーの仕事を続けていました。最初に始めたのは学童保育事業だったのですが、ちょうどその頃(2012年4月)に、放課後等デイサービスが福祉事業として児童福祉法のもとでスタートしました。学童保育見学の保護者から「こどものデイサービスができるけど、しないの?」とお声をよく頂いていたので、それならうちでもやってみようと思い、手続きをして、放課後等デイサービス事業の指定をいただいて、2012年5月から現在の形になりました。

仕事と子育て、それぞれの経験。点と点が、今のキャリアに繋がった

――数ある事業の中、なぜ放課後等デイサービスの事業を選んだのでしょうか?

鈴木さん
せっかく事業を立ち上げるなら、長男や私(障害を持つこどもとその保護者)が、自分の気持ちを吐き出せるような場所を作ったらいいんじゃないかと考えたんです。実は当時、重度の知的障害や身体的障害を持っているお子さんには、同じ障害を抱えるこどもを持つ保護者のネットワークがありました。一方、アスペルガー症候群や発達障がいを持つこどもの保護者には、そういうものがなかったんです。一見すると障害を持っているか分からなかったりする子でもやっぱり学校に馴染めなかったり、保護者が学校から呼び出されたりするなど、かつての私と同じように悩んでいる人も多くいると思ったんです。

――それでこの事業を選んだんですね。事業を始めて10年以上経ちますが、いかがでしたか?

鈴木さん
事業を始める時に私が思っていた「実は私と同じように悩んでいる人がたくさんいるのでは?」という仮説はやはり的中しました。この山形にも、さまざまな障害を抱えるこどもとその保護者の方がいます。そんなこどもと保護者の方にとって「セカンドハウス彩祐結」が1つの居心地の良い空間として役に立っているのが、この上なく嬉しいです。

――お話を聞いていると、鈴木さんのキャリアや境遇が重なった結果、必然的に起こった事業だなと思いました。

鈴木さん
そうかもしれません。まず長男が発達障がいでなかったら、そもそも独立していませんでしたし、放課後等デイサービスについても知らなかったのではないかと思います。それに会社員時代にケアマネジャーの仕事で、事業所の運営や収入の立て方について知っていたのも独立に大いに役立ちました。こうしたキャリアや子育てでの経験、それぞれの点が線になってできたのが「セカンドハウス彩祐結」だったのかなと、開業から10年経った今、思いますね。

「もっとこうだったらいいのに」が、事業のヒントに繋がる

――鈴木さんの今後の展望を教えてください。

鈴木さん
今後はオンラインにも活動の領域を広げていきたいと思い、すでにスタートしています。現在、山形県内に2軒の事業所を構えているのですが、県内だけでなく全国にいる悩める親子の力になれるよう、活動の輪を広げていきたいと思っています。新しく展開するオンラインサービスが「セカンドハウス彩祐結」のように、まだ見ぬ誰かの居場所になったら嬉しいです。

――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

鈴木さん
自分にとっての動機が1番大切だと思います。独立・起業のヒントは身近なところに転がっています。特に自分が「もっとこうだったらいいのに」と思うことが、意外と誰かの役に立つことがあるんです。私にとっての「もっとこうだったらいいのに」を事業化した結果が「セカンドハウス彩祐結」となりました。そしてありがたいことに10年以上事業を継続することができました。そのきっかけやタネがあれば、あとは走りながらでも意外とどうにかなるものです。これから独立を考える人は、ぜひ自分らしい「もっとこうだったらいいのに」を大切に事業を考えてみてはいかがでしょうか。

取材・文=内藤 祐介

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