年の瀬になり、来年こそは「独立開業したいな」と考えている方もいるのではないでしょうか。
とはいえ、独立開業に関して情報が錯綜しすぎていて、何を信じたら良いのか分からない、という方も多いはず。
独立・起業の「お金」に関する悩みを、税理士の齋藤雄史先生に解説していただく「税理士が教えるお金と起業」シリーズ。
今回は齋藤先生に、各種統計調査等から独立開業の数字のリアルについて解説していただきました。
1 開業率は増えている? 減っている?
今回は独立開業に関わる様々な数字をテーマに解説していきます。
そこで最初に皆さんに意識していただきたいのは、数字はものごとを示す1つの指標に過ぎないということです。つまり他の角度から見たら全く見え方が変わったり、数字の奥に隠れている事実がないか常に疑うようにしてください。
それを踏まえて、開業率の増減について見ていきましょう。
近年「1億総フリーランスの時代」「複業時代」の到来などと騒がれ、皆さんの周りにもフリーランスとして活躍されている方が増えている気がしませんか?
さて、実態はどうでしょうか。
国が主要な指標として位置付けている「開業率」です。
※雇用保険事業年報をもとにした開廃業率は、事業所における雇用関係の成立、消滅をそれぞれ開廃業とみなしています。
2017年度のデータですが、図によると開業率5.6%です。
2018年度のデータでは、図にはないですが4.4%です。
どうやら開業率は増えていないですね。
実はこのデータには難点があります。このデータは雇用保険事業年報を元にしているので、雇用保険が発生する開業、すなわち雇用する人材がいる事業所のデータとなりますから、雇用者がいない「個人事業主」の数が反映されていないのです。
そもそも1人で事業をやっている場合、雇用保険の対象外ですからね。
日本経済新聞でも、開業率が実態を反映しているかについて言及している記事がありました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49402420U9A900C1EA1000/
「他に実態を把握出来る数字はないの?」ということで、国税庁の統計を見ていきましょう。
出典:国税庁 申告所得税標本調査結果 平成29年度申告所得税標本調査結果
(税務統計から見た申告所得税の実態)
ここでは、フリーランスの方は「事業所得者」と読み替えます。
※フリーランスの方は「雑所得者」に分類されることも考えられます。
2016年度(平成28年分)…174万人
2017年度(平成29年分)…170万人
2018年度(平成30年分)…未公表でした。
昨対で見ると4万人ほど減っているように見えますが、2011年度(平成22年分)から見ると増加傾向にはあるようです。
2 独立に適した年齢って何歳?
開業時の年齢は「40歳代」が36.0%と最も高く、次いで「30歳代」が33.4%を占めている(図-1)。開業の主要な担い手は「40歳代」「30歳代」である。
開業時の平均年齢は43.5歳と1991年度の調査開始以来、最も高くなった。2013年度以降、7年連続で上昇している。
なお、この対象は以下のとおりです。
(2)調査対象 日本政策金融公庫国民生活事業が2018年4月から同年9月にかけて融資した企業のうち、融資時点で開業後1年 以内の企業8,260社(不動産賃貸業を除く)
開業の主要な担い手はやはり30代、40代ですね。
異論はないでしょう。
しかしここからは私、齋藤の私見ですが、日本政策金融公庫で融資の審査で重要になる項目は、「事業の経験年数」や「自己資金の金額」です。
※詳しくはこちらの記事をチェックしてみてください
起業してすぐの資金調達なら「日本政策金融公庫」一択!【税理士が教えるお金と起業②】
とすると、20代や30代で融資を受けるハードルは、相対的に40代以上の方より高いと考えられます。
融資を受けていない(又は審査で落ちた)20代の層も一定数いることを想定すると、実際はもう少し20代の開業の割合が高いのではないかなと思います。
つまり20代で「融資を受けずに開業」する方はもいますし、逆に「融資を受けて開業」する方は、30〜40代の方が多くなる傾向があるということですね。
自分の業種から逆算して開業するのも、1つの手段ですね。
3 平均所得
フリーランスとして開業する動機の1つとして、収入を増やしたいという方の割合も多いと思います。では実際フリーランスってどれくらい稼げているのか、見ていきましょう。
出典:国税庁 申告所得税標本調査結果 平成29年度申告所得税標本調査結果(税務統計から見た申告所得税の実態)
図の1番上の「事業所得者」を見てましょう。
※ここではフリーランス=個人事業主(=事業所得者)という意味合いで考えてみます。
驚くのは平成29年度のデータですと、全体の約8割が所得500万円以下ということですね。
ここでの「所得」とはざっくり、「収入−経費」の残った利益と考えましょう。
ただし忘れてはならないのが、事業所得者は収入から「経費」を引いて所得とすること。
つまり会社員とは異なり、自らの所得の数字を変えやすいのです。所得を小さく申告すれば、それだけかかる税金も安くなりますから。(もちろん申告額が過度に小さかったり虚偽の申告をすれば罰せられますが…)
だからこそ、経費を乗せるだけ乗せて、500万円以下として申告している可能性も高いのです。
しかし中には税金対策をして法人化し、何千万円、何億円を稼ぐ方もいらっしゃいますから、夢がありますね!
4 開業に必要な資金額は?
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_191122_1.pdf
○ 開業費用の分布をみると、「500万円未満」の割合が40.1%と最も高く、次いで「500万~1,000万円未満」が27.8%を占める(図-13)。「500万円未満」の割合は、調査開始以来、最も高くなった。
○ 開業費用の平均値は1,055万円と調査開始以来、最も少なくなった。
ここだけ読み解くと「1,055万円なんて用意できないよ」と声が聞こえてきそうです。
ここでもう1つ。日本政策金融公庫では「ゆるやかな起業家」に対する面白い調査を行っています。
※ゆるやかな起業家の定義は、ゆるやかな起業の実態と課題 ~「起業と起業意識に関する調査(特別調査)」結果から~ p.1参照
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_190204_1.pdf
この調査では「ゆるやかな起業家」それ以外の「起業家」に分けて分析しています。
○ 起業費用は、「かからなかった」割合が28.1%と最も高い(図-10)。「100万円未満」の割合は、42.3%と起業家(34.5%)に比べて高く、少額で起業した人が多い。
○ 起業費用に占める自己資金の割合は、「100%(自己資金のみ)」が73.0%と起業家(62.4%)を上回る(図-11)。自己資金割合が低くなるほど、回答割合も低くなっている。
出典:ゆるやかな起業 の実態と課題 ~「起業と起業意識に関する調査(特別調査)」結果から~
先ほどの図13とは、統計に用いる調査方法と母数に相違がありますが、ここでみると「起業家」でも2割の方が起業費用がかかっていないことが判明しました。
実際、私も税理士として創業支援をしたお客さまは、開業資金が50万円未満という方は結構いるなという印象があります。
さらに、起業費用に占める自己資金割合にあるように、「起業家」の方は起業費用に占める自己資金割合は6割程度です。
5 倒産理由ベスト3は?
起業するにあたって恐れるものの1つは「倒産」ではないでしょうか。
直近の倒産件数を見ていきましょう。
出典:東京商工リサーチ 2018年(平成30年)全国企業倒産状況
2018年の全国企業倒産(負債総額1,000万円以上)は8,235件、負債総額が1兆4,854億6,900万円だった。
こちらは年々減少件傾向であるようですね。
そして倒産理由ベスト3です。
1位…販売不振(業界シェアの縮小、競合の出現等)
2位…既往のしわよせ(経営状態が悪化しているにもかかわらず、具体的な対策を講じないまま過去の資産を食い潰してくことで倒産に至ること)
3位…放漫経営(経営者の判断ミスや会社の私物化等)
出典:東京商工リサーチ調べ
「倒産」と聞くと怖いというイメージを持つ方もいるでしょう。
しかし倒産する理由を分析して、最悪な事態にならないよう事前に対策しておけば、大抵の倒産は防げるはずです。
販売隆盛、以往の好循環、夢のあるロマン経営を目指していきましょう!
情報の1つの側面だけを鵜呑みにしない
最初にお伝えしたとおり、データはものごとの1つの側面しか表しません。元も子もない言い方かもしれないですが、実態を完璧に把握することは至難の業です。
ここで大切にしたいのは、
・情報の1つの側面だけを鵜呑みにしないこと。
・客観的な統計で実態を追っていく姿勢を持つこと。
・情報を分析する目を養うこと。
統計データなどを見た時に「これで測れない層ってどこなんだろう?」「自分の事業に当てはめるとしたらどうなんだろう?」と常に冷静な視点を持って、安易に情報に流されないようにしましょう。
文=齋藤 雄史
編集=内藤 祐介
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