働き方改革とは、働く人の事情に応じた働き方を実現させるための改革のことです。2019年4月から本格的に始まった制度ですが、あまり詳しくない人もいるのではないでしょうか。本記事では、“働き方改革とは”“働き方改革の生まれた背景”“働き方改革のメリット・デメリット”などを解説します。働き方改革とは何なのか、イマイチわからないという人も本記事を読めば理解できるようになるでしょう。
働き方改革とは?
働き方改革とは、働く人が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で“選択”できるようにするための改革のことです。2019年の4月から「働き方改革関連法」が順次施行されています。
具体的な取り組みとしては、長時間労働をなくすための施策をしたり、柔軟に働けるために環境整備をしたりしています。
「『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律』について」(厚生労働省)
働き方改革が生まれた背景とは?
働き方改革が生まれた背景には、どのような理由があるのでしょうか。
総務省の発表によるとこれから日本の人口はどんどん減少していくと予想されており、2070年には9,000万人を下回る予想です。(人口が減ると労働者数も減少していくため、経済の低迷や国力の低下も起こりうえます。そこで、人口減少に伴う施策として働き方改革が始まりました。
ここからは、働き方改革が生まれた背景を詳しく解説します。
労働者の不足
働き方改革が生まれた背景の1つ目とは“労働者の不足”です。
厚生労働省の人口動態統計によると、2022年の出生数は過去最少で、統計を取り始めた1899年以降、初めて80万人を割りました。また、死者数は過去最多となっており、16年連続で自然減が続いています。総人口数の減少に伴い労働者数も減少していくと予想されることから、働き方改革は生まれました。
働き方改革を行う目的は、労働環境を見直し、労働者にとって働きやすい環境をつくることです。例えば育児や介護があり、従来の制度では仕事との両立が難しい人も、リモートワークや時短勤務などなら仕事を続けられるかもしれません。また、ライフワークバランスが整うことで生産性を上げることにもつながるでしょう。
働き方改革は、「少子高齢化による労働者数の減少」や「長時間労働問題」などを対処するための手段として、国が始めた制度です。
「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」(厚生労働省)
出生率の低下
働き方改革が生まれた背景の2つ目とは“出生率の低下”です。
1970年代には第二次ベビーブームが起こり、一家あたりの出生率は2.1ほどでしたが、直近3年の2019年から2021年までは1.34〜1.37で、1970年代と比べると大幅に低下しています。
出生率の低下には、育児や介護をしながら働くことが難しい労働環境も理由として挙げられます。働き方改革は労働環境を整えることも含めて、始まったといえます。
労働生産性の低さ
働き方改革が生まれた背景の3つ目とは“労働生産性の低さ”です。
公益財団法人 日本生産性本部 生産性総合研究センターの発表によると、日本の労働生産性はほかの国と比べると低く、主要先進国7ヵ国(アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・カナダ・イタリア)の中でも最下位です。労働生産性を上げるために、業務を効率化できるツールを導入したり、労働者一人ひとりの能力向上のための人材育成に力を入れたりすることなども必要です。このような動きも、働き方改革の施策のひとつです。
「労働生産性の国際比較2022」(公益財団法人 日本生産性本部 生産性総合研究センター)
働き方改革のメリットとは?
近年の人口減少に伴い、労働力も低下していくことを見越したうえでの施策が働き方改革です。それでは、働き方改革にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここからは、働き方改革に取り組むメリットを解説します。
メリット1.労働生産性の向上が期待できる
働き方改革に取り組む1つ目のメリットとは“労働生産性の向上が期待できる”ことです。
簡単にいえば、労働者一人ひとりが成果を出しやすくなるということです。業務効率のためにITツールを導入したり、短時間労働などの制度を導入したりすることで、労働者はストレスを抱えにくくなります。仕事で発生するストレスが少なければ、労働者はモチベーションやパフォーマンスを維持しつつ働くことができます。そうなれば、一人あたりの労働生産性も向上するでしょう。
メリット2.ライフスタイルに合わせた生活を送れる
働き方改革に取り組む2つ目のメリットとは“ライフスタイルに合わせた生活を送れる”ことです。
働く場所を選ばない働き方として、“テレワーク”などがあります。これらは、自分が働きたいときに働きやすいという特徴があります。例えば、育児や介護をしている人は子どもや両親の面倒をみる必要があるため、フルタイムで働くのが難しいケースもあります。しかし、テレワークを活用した在宅勤務や時短勤務、短時間でできる副業なら、子どもや両親の面倒をみながらでも働けるかもしれません。
このような、働きたくても働けない人を手助けする手段としても、働き方改革は有効です。
メリット3.長時間労働を解消できる
働き方改革に取り組む3つ目のメリットとは“長時間労働を解消できる”ことです。
働き方改革の目的のひとつに“長時間労働の是正”があります。具体的な取り組み内容は、有給休暇の取得率を上げることや、長時間労働が常態化している会社については監督指導を行うことなどです。
働き方改革法案成立により労働基準法が改正され、年10日以上有給休暇の権利がある人は、最低でも5日以上は有給を取らなければならないと義務化されました。労働者が有給を取りやすくなったことで、心身のリフレッシュもしやすくなるでしょう。また、昔から問題視されているサービス残業も、働き方改革のおかげもあり、少しずつ減少してきているといわれています。
働き方改革のデメリットとは?
働き方改革にはよいところもありますが、問題点やデメリットもあります。それぞれ、どのような対策を取るべきか考えてみましょう。
デメリット1.残業時間の低下で給料が減少する傾向にある
働き方改革に取り組む1つ目のデメリットとは“残業時間の低下で給料が減少する傾向にある”ことです。
働き方改革が始まったことにより、残業時間の上限は月間45時間、年間360時間までとなりました。何らかの特別な事情がない限り、この時間を超える残業はできません。残業をせずにいち早く帰宅したい人にとっては嬉しい規定ですが、これまで残業代を頼りに生活していた人にとっては喜べないでしょう。
副業解禁や手当の支給など、従業員の生活を守るための対策も必要かもしれません。
デメリット2.業務を効率化できないと期日に間に合わない
働き方改革に取り組む2つ目のデメリットとは“業務を効率化できないと期日に間に合わない”ことです。
働き方改革が始まったことで、業務時間の上限が制限されました。上限が定められたことにより、毎月の残業時間も限られます。そのため、業務を効率化できないとこれまで残業で対応していた仕事量を短時間でこなす必要が出てきます。終了期日までに間に合わないことも出てくるでしょう。「納期に間に合わないから」という理由で、勤怠をつけずにサービス残業をする従業員も出てくるかもしれません。
デメリット3.環境整備のために一時的にコストがかかる
働き方改革に取り組む3つ目のデメリットとは“環境整備のために一時的にコストがかかる”ことです。
具体的には、業務を効率化できるITツールやテレワークの導入などにかかるコストが挙げられます。テレワークをするためには、自宅用のパソコンやWi-Fi環境などが必要です。従業員が働きやすい環境を整えるには、初期投資がかかることを認識しておきましょう。
働き方改革の現状とは?起こりうる問題点を3つ紹介
すべての企業が働き方改革を導入できているかと問われると、導入できていないというのが結論です。問題点はさまざまですが、多くの場合は“人材不足”がネックになっているといわれています。人材不足から働き方改革が導入できないため、厳しい条件下で働く人がなかなか減らず、最終的にはモチベーション低下や心身の不調などにより離職するという流れが多いようです。
ほかにも働き方改革で起こりうる問題点を紹介します。
残業の減少により収入が減り、従業員のモチベーションが下がる
働き方改革の1つ目の問題点とは“残業の減少により収入が減り、従業員のモチベーションが下がる”ことです。
働き方改革により、原則として残業時間は毎月45時間、年間360時間までと制限されました。毎月の残業代を頼りに生活していた人からすれば、喜ばしくないことともいえます。
例えば、働き方改革の前までは、毎月70時間近く残業をしていたとすると、「これまでの25時間分の残業代をどうやって確保すればいいのか」と悩んでしまうでしょう。モチベーションが下がったり、生活を維持するために転職をする従業員も出てくる可能性もあります。
サービス残業や管理職の負担が増加する
働き方改革の2つ目の問題点とは“サービス残業や管理職の負担が増加する”ことです。
ここでいう管理職とは、労働基準法における“管理監督者”のことです。簡単にいえば、経営者に近い権限と責任を担っている人です。管理職には、労働基準法で定められている“労働時間”“休憩”“休日”などの規定が適用されません。そのため、管理職にとっての残業は、いわゆるサービス残業になってしまいます。
従業員の残業時間を規制しても、肝心の仕事が終わらなければ、管理職が代わりに仕事をしなければならなくなるでしょう。そうなれば、残業時間の規制がない“管理監督者としての管理職”の負担が増えてしまいます。
管理職だけに負担がかかってしまうと、最悪の場合、離職につながる可能性もあります。社内で働く人のバランスを保てるように解決策を考えておくことも大切です。
人件費やツール導入にコストがかかる
働き方改革の3つ目の問題点とは“人件費やツール導入などのコストがかかる”ことです。
人件費がかかる理由には、“年次有給取得の義務化”と“正規労働者も非正規労働者も業務内容が同じなら、同額の給料を払いましょう”というような考え方である“同一労働同一賃金”の2つが挙げられます。
年次有給所得の義務化により、賃金をもらいながら休む人が増えると、その分の穴埋めを誰かがしなければなりません。仮に穴埋め分の業務を他の従業員に任せた場合、その従業員が稼働した分の給与を支払う必要があります。
さらに、同一労働同一賃金の義務化により、業務内容が変わらない場合は給料も同額になりました。企業側がこれまでに、支払わずにいた賃金を支払う必要が出てきたため、人件費は高騰しているといえます。
また、業務を効率化するためのITツールやシステムなどの導入にもコストがかかります。働き方改革により、労働環境は徐々に整備されている傾向にありますが、そのためのコストがかかっているのも現状です。
働き方改革における問題点の解決方法とは
働き方改革における問題点を解決するには、どのような取り組みをするのがよいのでしょうか。働き方改革では、自社の課題をハッキリさせ、それを解決できるような施策から始めるのがおすすめです。ここからは、働き方改革における問題点を解決するコツを紹介します。
課題を整理して現状を把握する
働き方改革の問題点を解決する1つ目のコツとは“課題を整理して現状を把握する”ことです。
まずは従業員の意見を集め、現場の問題点を把握しましょう。組織内の労働環境の把握だけでなく、生産性や従業員の不満なども把握することが大切です。
従業員の意見や、部署・チームごとの生産性をまとめたデータなどから実情を把握し、分析することで問題点を把握できます。問題点がハッキリすれば、それを解決するための取り組みも見えてくるはずです。
生産性を向上させる
働き方改革の問題点を解決する2つ目のコツとは“生産性を向上させる”ことです。
例えば年功序列を廃止し、職務評価制度を導入するのもよいでしょう。職務評価制度は、担当する仕事の内容や難しさで評価が変わる制度です。
職務評価制度にすることで、従業員のモチベーションは高まり、生産性アップにもつながるでしょう。成果や生産性の低い従業員に対して過剰な給与を支払うこともなくなり、人件費の無駄も少なくなります。
業務を効率化できるツールを導入する
働き方改革の問題点を解決する3つ目のコツとは“業務を効率化できるツールを導入する”ことです。
例えば、Web会議システムやビジネスチャットなどのツールを導入すれば、テレワークも導入しやすくなるでしょう。テレワークではない従業員同士のコミュニケーションも取りやすくなります。
ほかにも、勤務管理やオンラインストレージなど、自社の課題や働き方に合ったツールを取り入れてみましょう。
働き方改革の成功事例とは?業界ごとに分けて徹底解説
働き方改革の成功事例を飲食業界、IT業界、宿泊業界の3つに分けて紹介します。これらの業界に属する企業はもちろん、他業界の企業でも参考に出る部分があるでしょう。
飲食業界の成功事例
労働環境を整えて、人材不足を解消する施策をとった飲食会社がありました。そこでは、24時間営業を廃止したり、メニューの改定回数を減らしたりすることで、現場で働く従業員の負担を減らしました。結果的に、その企業では従業員の満足度は上がり、社員の定着率も上がったという結果が出ています。従業員が働きやすい環境を追求したことで成功した事例です。
IT業界の成功事例
残業時間を減らすために「時短推進委員会」という委員会を立ち上げて、ノー残業デーを徹底したり、残業時間のモニタリングを行ったりなどの施策をした会社がありました。残業代を減らし、その分を毎月の給与に還元する仕組みをとっています。最終的には、3年間で残業時間を50%削減できました。
宿泊業界の成功事例
優秀な社員を定着させるために、子育てサポートやITツール導入などの施策をとった旅館があります。子育てをしながら働く社員が多いという理由で、旅館内に子どもを預けられる託児所を設置し、ITツールを導入したことで従業員の負担を軽減させることにも成功しました。働き方改革を実施したことで、優秀な人材の確保や業務の効率化に成功し、業績アップにもつながりました。
働き方改革を実現するには“無駄を省くこと”が重要
働き方改革ではさまざまな取り組みが必要ですが、中でも“無駄を省くこと”は特に重要です。
例えば職務評価制度を取り入れるだけでも、従業員の意識が変わり、組織全体の生産性が少しずつ高くなっていくかもしれません。ITツールを導入するだけでも、ルーティン作業を自動化したり、本来の業務に集中しやすくなったりするでしょう。
まずは自社の課題をハッキリさせ、解決の優先順位をつけてみてください。深刻な課題から一つひとつ解決していけば、働き方改革が実現されることでしょう。
<文/ほのゆき>