独立や起業をするにあたって必要なことってなんだと思いますか?
事業に対する熱い想い、相応のスキル、経験、経営者としての資質…。事業を運営していくのは、生半可な覚悟ではできませんから、そのどれもが必要になってくるでしょう。
今回お話を伺ったのは、株式会社『和える』代表取締役の矢島里佳さん。
矢島さんは独立や起業について「川の流れに逆らわない」こと、そして「あらゆるご縁を大切にする」ことが重要だと語ります。
ピンと伸びた背筋に凛とした雰囲気を持つ矢島さん。自分の実現したいことに対して真っ直ぐな、芯の強さを感じます。
独立・起業を考えている方へ。川の流れに逆らわない、矢島流・経営論のスタートです。
矢島 里佳・『株式会社和える』代表取締役。
1988年東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。大学4年時の2011年3月、「日本の伝統を次世代につなぐ」株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。
2013年、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程修了。日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げ、東京・京都に直営店を出店。
その他、日本の伝統を暮らしの中で活かしながら次世代につなぐ様々な事業を展開。
和えるWEB:http://a-eru.co.jp
主な著書に、『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』(早川書房)、『やりがいから考える 自分らしい働き方』(キノブックス)がある。
やりたいという気持ちに素直に。日本の伝統を次世代につなぐために選んだ、起業という選択肢
―『和える』を創業するまでの流れから教えてください。
日本の職人と伝統の魅力に惹かれて、大学時代から日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始めました。その仕事をしていく中で「日本の伝統を次世代につなぎたい」という思いから、大学卒業する年の3月に『株式会社和える』を創業しました。
―大学卒業と同時に起業されたのですね。もともと、起業家志望だったのでしょうか?
いえ、もともとは起業家になりたかったわけではなく、ジャーナリスト志望でした。そしてジャーナリストになる以上「自分が何を専門にして伝えるのか?」とずっと考えていました。そして大学生の時に、一生かけて伝えていきたいことに出逢ったのです。
―それが「日本の伝統を次世代につなぎたい」ということだったのですね。
はい。私たち日本人の多くは日本で生まれ、日本で育ちます。しかし日本に生まれながら、日本の伝統についてあまりよく知りません。なぜ自分の国の伝統についてよく知らないままで大人になってしまうのか。
さまざまな理由が考えられますが、その原因の1つに、幼少期から日本の伝統に触れる機会が少ないことが挙げられます。
では、幼少期から日本の伝統に触れるためにはどうすればいいのか。
私はさまざまな手段を考えました。
結局、既存の職業に就いてこのミッションを達成するのは難しいなと思い、モノを通して伝えるという新たなジャーナリズムを考え、自分で仕事を生み出す道を選んだのです。
―具体的に、どのような事業を展開されているのですか?
『和える』では現在までに4つの事業を展開しています。その中で起業当時から展開している事業が「0歳から6歳の伝統ブランドaeru」です。日本の伝統を受け継ぐ職人たちと共に、子どもたちが日本の伝統に自然と出逢えるように、器や玩具、産着などオリジナルの日用品の企画・開発・販売をしています。
幼い頃から自分の暮らしの中に日本の伝統を取り入れていくことで、感性が磨かれていくと思うのです。こうした日本の伝統に触れることで、子どもたちの身の回りのものに新たな選択肢を提案できたら、と考えています。
―日本の伝統を伝える、という自分のやりたいことを実現するために、大学を出ていきなり起業してしまうとは、誰にでもできることではないと思います。
よく、いろいろな方からそのようにおっしゃっていただくのですが、私からすると「勇気を出して起業した」のではなく「自分の実現したいことをやらない勇気がなかった」のですよ。つまり、やりたいことをやらないという選択ができなかったのです。
先ほどもお話した通り、もともと起業家になりたかったわけではありませんでしたが「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いを実現するために、起業家という道を選んだのです。
「起業する」というと、まるで一世一代の大きな決断と捉えてしまいがちですが、私にとってはやりたいことを実現するための1つ手段だったのです。
―起業当初はビジョンやミッションがあっても、日々の仕事に追われ、ついつい会社を運営することが目的になってしまいがちな経営者も少なくないと思います。
たしかに、日々の業務に追われてしまうと、目の前のことしか見えなくなることもあるかもしれません。しかし、私は今でこそ経営の仕事もしていますが、本質的には自分のことをジャーナリストだと思っています。
ジャーナリストは、事実や問題を伝える、いわば何かを伝えるための存在です。
自社の製品や直営店の空間づくり、そして会社。日本の伝統を次世代につなぐために必要なことは何か、何を伝えるべきなのかを意識しています。
揺るぎないコンセプトがあるからこそ、会社運営を1つの”手段”としていい意味で客観的になれているのだと思います。
川の流れに逆らわずに生きる。『和える』の成長速度に合わせた”待つ”子育て(経営)方針
出典:『和える』より
https://a-eru.co.jp/
―今年で創業から丸6年を迎える株式会社『和える』ですが、矢島さんにとってこの『和える』という会社はどんな存在なのでしょう?
『和える』は、我が子も同然です。というのも、会社を創業することは法人格を生み出すことであり、株式会社は人格を有しているのです。
つまり会社を創ることとは、人間の赤ちゃんが生まれることと同じだと考えています。
だから私は、この『和える』の母親として、これまで一緒に歩んできました。
―いわば起業は出産であり、経営は子育て、というわけですね。
はい。起業当初は私(母親)と『和える』の2人だけだった家族も、おかげさまで徐々に増えています。
―『和える』の子育て(経営)方針について教えてください。
『和える』が成人(創業20年)を迎えるまでに、11の事業の立ち上げを考えています。現在は4つの事業が立ち上がっており、その他の7事業は仕込み中ですが、基本的には進められる段階までの準備をして、後は『和える』の健康(経営)状態や世の中の状態、人々の状態の3軸を見て立ち上げるかどうかを判断します。
出典:『和える』より
https://a-eru.co.jp/
―事業構想がありながらも、急いで全ての事業を立ち上げない、ということでしょうか?
はい。やはり自然の流れに逆らわずに生きていくことが、人生にとって重要なことだと思うのです。人にとって重要なことは、会社にとっても重要なことです。無理に成長速度を速めようとするのではなく、『和える』の成長速度に合わせながら新しい事業を立ち上げていきたいのです。
だから究極的には20年目を迎えた段階で全ての事業が立ち上がっていなくても、それはそれでいいと思うのです。無理に立ち上げても仕方ないですから。けれども、そのイメージを常に持ち行動し続けていると、実現していくのです。
―会社を”人”として捉える矢島さんならではの考え方ですね。「待つ」子育て方針は、新しい”家族”(スタッフ)を迎え入れる時も同じなのでしょうか?
そうですね。不思議なことに、自分たちができる限りの準備をして待っていれば、自ずと必要なタイミングで必要な人がやってくるのです。例えば「◯◯という事業を進めていきたいな」と思い始めた時に、今いる家族(スタッフ)で準備を進めます。そしてその事業をなし得る上で、どうしても必要な能力があったとします。
その能力を持った人を募集すると、不思議とそれに合致した方と『和える』が巡り逢えるのです。
―まさに「縁」のようなものですね。
そうなのです。逆に、必要な人が現れない時はまだ『和える』にとって時期尚早なのだと解釈しています。これは私の経験則なのですが、しっかりと待った上で現れた方はちゃんと調和していくのです。とにかく焦らずに待つ。待った上で素敵な人が現れたら、そのタイミングで事業を動かしていくことを心がけています。
無理に起業する必要はない。素直に生きる秘訣は、他人や社会ではなく自分自身と対話をすること。
―先程『和える』が成人になるまでに11の事業を立ち上げるとおっしゃっていました。成人になった後、『和える』はどのように歩んでいくのでしょうか?
その時になってみないと分かりませんが、1つ決まっていることがあります。それは、私が母親役(社長)を引退することです。
―あと14年程で代表を退くのですか?なんだか早すぎる気もするのですが…。
『和える』が成人になるとき、私は42歳になっています。40歳以降は最前線に立つのではなく、見守る側になっていたいと考えています。
もちろん、緩やかな移行期間が必要だと思いますが、成人以降の『和える』には、『和える』とちょうど同い年くらいの、20代の若い経営者に世代交代できたらと思っています。未来の話は誰にも分からないですが、これも自然としかるべきタイミングで、次の『和える』のお母さん、ないしはお父さんになってくださる方が現れるのではないかと思っています。
―後継者についても自然の流れに任せるのですね。最後に、独立や起業を目指している方へ、何かアドバイスはありますか?
自分自身の気持ちに正直に、素直に生きて欲しいです。自分のやりたいことはなんなのか、自分とたくさん対話して耳を傾けた結果、独立や起業が最善だと答えが出たら自ずとそうなりますし、逆に独立や起業が最善の答えでないケースもあるでしょう。
そうなったら無理に起業する必要はないと思います。
情報が洪水のように溢れ出す世の中では、ついつい他人や社会に振り回されてしまいがちですが、自分の答えは自分にしか決められません。
あなたがあなた自身の気持ちに赴くままに行動してみたら、自ずと道は開けていきます。そこにきっと素敵なご縁が待っていると思いますよ。
ぜひ、自分の気持ちに素直に生きてください。