個人事業主として1人で独立するか、法人を立ち上げ起業するか。
業種によっても異なりますが、開業そのものにお金がかからないこと、従業員を雇うことでの固定費が発生しないことから、まずは試しに1人で開業する人も少なくありません。
今回お話を伺った荒木雄志さんもその1人。荒木さんは株式会社ミライトオンの代表取締役で、主にVTuberのプロデュース業や楽曲制作などを手掛けています。
2018年に開業以来、いわゆる「1人会社」で事業を回してきた荒木さんですが、今年3月に新たにスタッフ2名と共に会社を再スタートさせました。
一体なぜでしょうか?
荒木雄志さん
株式会社ミライトオン・代表取締役社長
大学時代に友人から誘われたことがきっかけで、バンド活動にのめり込む。
以来、10年以上バンド活動を経験する。
バンド活動と並行して、映像制作会社に就職。しばらく会社員とバンド活動の二足のわらじをしながら、2年前に独立。
そして2020年3月。新たにスタッフ2名と、株式会社ミライトオンとして再スタートする。
自分のやりたいことをやるには、自分で舵を取るしかない。荒木さんが独立を決意した理由
―VTuber(バーチャルYouTuber)を始めとしたコンテンツ制作会社の代表である荒木さん。音楽や映像の制作には、いつごろから興味があったのでしょう?
初めに音楽に触れたのは、とある有名ダンスグループのレッスンを受けたところからですね。
もともとは役者を目指していたのですが、事務所のレッスンにダンスや音楽といったカリキュラムがあって。
その後、大学に入ってから高校時代の友人からバンドをやろうと誘われて。最初はあまり乗り気ではなかったのですが、実際にやってみたらとてもおもしろくて。
そこから本格的に音楽にのめり込んでいきました。
―その後はどういった活動を?
バンドを始めてから「どうせやるからには売れたい」と思うようになって、同じ志を持った仲間と一緒に音楽をやるようになりました。
大学を卒業し、映像に関する会社にフリーランスとして関わっていたのですが、その間もおよそ10年ほど並行してバンド活動をしていました。
―前職ではどういったお仕事をされていたのでしょう?
YouTubeやSNSなどにアップする動画を制作する会社で、私は映像編集を担当しておりました。
映像クリエイターとしていろいろな会社と関わって行く中で、徐々に自分のやりたいことが見えるようになってきて。
フリーランスだと請けられない仕事、企画の根幹の部分から関わっていくためにはどうしたらいいのかと考えるようになっていったんです。
自分のやりたいことをやるには、自分で舵を取るしかない。そう思って独立を意識し始めました。
幸いもともと私の周りには起業家も多く、会社を設立することはごく自然な流れだったというか。諸先輩方の姿を見つつ独立した形ですね。
会社を経営することは、バンド活動の延長だ
オオゾライロ - 七瀬タク
荒木さんは楽曲プロデュースとして参加。
―現在のお仕事の内容についてお聞かせください。
現在はVTuberの運営や楽曲映像制作、イベント制作などを行っています。
会社を設立して丸2年ほどなのですが、これまではどちらかというとライブの制作やCGの制作を中心に行ってきました。
そして3年目にあたる今年、社名を「株式会社ミライトオン」に変更し、新たに加わった2名のスタッフとともに再スタートを切ったんです。
―なぜ、今年を再スタートと位置づけたのでしょうか?
会社を立ち上げた時は、いわゆる「1人会社」の状態からスタートしたんです。
それから2年経って様々なお仕事をさせていただいていくうちに、もっといい仕事をするためにはリソースもスキルも、私1人では足りないなと感じるようになっていったんです。
そんな時に出会ったのが、サウンドクリエイターのchocckとエンジニアの篠田の2人だったんです。
―そのお2人はとても優秀だったのですね。
もちろん、一緒に仕事をしたいと思ったのは、彼ら2人が私にないスキルをたくさん持っているからというのも理由の1つです。
例えばchocckでいえば、VTuberに関するプロデュースからディレクション、営業、制作まで全て1人で一貫して行うことができますし、篠田はエンジニアとしてだけでなく会社のマネタイズ面でも相談させてもらっています。
ただ僕がそれ以上に大切にしているのが、2人とのコミュニケーションの取りやすさですね。要するに、性格が合うんです(笑)。
―たしかに、スキルだけでなく的確かつ気軽に意思疎通が取れる関係性というのは、スタートアップ時には、とても重要なポイントだと感じます。
そうですね。今抱えている案件についていろいろ相談できることはもちろん、今後、会社としてどんなことをしていくかを相談できる間柄は、極めて重要だと思っています。
起業したての会社は限られた人員で、新規事業を回すパワフルさが必要ですから。
変な話ですが、例えばランチを一緒に食べている時に何気なく出た話が、会社の次の事業として武器になることだってある。
そういうスピード感で、同じ方向性で仕事ができることが、スタートアップに求められていることなんじゃないかと思っています。
―少数精鋭で事業に取り組む。まるでバンド活動のようですね。
まさにそのとおりです。僕の中では、バンド活動の延長でこの会社が存在しているといっても過言ではありません。
「仲間と協力して、お客さんに楽しんでいただいたり喜んでいただく」。
会社もバンドも、結局はやることは変わらないんです。
これは1人で会社をやっていた時代と今で、決定的に違うことかもしれません。
仕事の幅に限界を感じているなら、仲間を見つけるのも選択肢の1つ
DESKTOP SINGER - 初音ミク
荒木さんは作詞作曲、映像・楽曲プロデュースを担当
―荒木さんのこれからの展望を聞かせてください。
やりたいことは、大きく2つあります。
1つはこれまでずっと、VTuberという領域で仕事をしてきましたので、VTuberの世界をもっとより良くしていきたいと思います。
ファンが求めているものをどこまで突き詰めて考えられるか。お客さんにもっと喜んでもらえるようなコンテンツをこれからも作っていきたいです。
もう1つは、日本人の「音楽観」を変えられるような取り組みを行っていくこと。
現在VTuberの他に、サウンドインスタレーション事業(※)にも力を入れています。
こちらは、日本でトップクラスのある企業さんと協業しているのですが、まだプロジェクト自体がシークレットになっていて詳しいことはお話できないのですが…。
ただかなり面白いことができるんじゃないかと、今からとても楽しみです。音楽をもっと身近に感じていただくために、日々仲間と議論しながら前に進んでいます。
※サウンドインスタレーション……ある空間の中で音を使って表現する芸術。
―最後に、読者の方へメッセージをお願い致します。
「1人会社」ではリソース的にもスキル的にも、そしてイマジネーション的にも限界があります。
その限界を感じ始めていた時に、同じ志を持った仲間と出会ったことで事業そのものがスムーズにいくことが多くなりました。
僕自身は作家としても映像クリエイターとしても一流ではないけれど、高いスキルや志を持った仲間と一緒に仕事をすることで、結果としてより良い仕事ができるようになっていきました。
ご自身の業種にもよりけりですが、もし自分の仕事の幅に限界を感じているのであれば、仲間を見つけて一緒に仕事をするというのも、1つ有効な選択肢なのかもしれません。
取材・文・撮影=内藤 祐介