起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第132回・旧車が熱い
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
EV化が進むにつれて、いろいろな企業の参入も進んでいます。今回のクイズの企業は1995年に中国で創業した「とある分野」の大手メーカーで、2003年に自動車メーカーを買収して自動車産業に進出しています。
業界をウォッチしていればすんなり答えが出ると思いますが、そうでなければちょっと難しい問題かもしれません。
全く見当がつかないという人は、「何に強みを持っている企業なのか」を考えてみてください。
それでは解説します!
乗用車と同様、タクシーやバスなどの商業車においてもEV化は着々と進んでいます。国内において、EVバスのシェアの約7割を持っているのが、中国のBYDという会社です。
BYDは、今や「世界最大級のEVメーカー」などといわれているようですが、実はもともとは蓄電池メーカーとして知られていました。そんな会社が日本のEVバスでトップシェアを占めているなんて、なかなか面白いですよね。
これまでEVは、圧倒的に「乗用車」が中心で語られがちでした。メーカー側としては、どこかにフォーカスした方がいいだろうということで、テスラしかり、ヨーロッパなどの多くの自動車メーカーも、乗用車に注力してきた歴史があります。
その流れの中、アマゾンが事業で使う配送車のEV化を目指し、Rivianというベンチャー企業に出資してEVの小型トラックを共同開発したのです。そのあたりから、小型トラックの分野でEV化が進んでいきました。
一方で、後れをとったのがバスのEV化でした。そこに目をつけたのが、今回取り上げたBYDだったのです。BYDは、中国においても乗用車も含めたEVのシェアを拡大中で、今後は世界のEV市場でも「台風の目」になるのではないかといわれているそうです。
電池メーカーでも自動車を作れてしまう時代に
トヨタにしても、テスラにしても、電気自動車ビジネスを進めていくためには「どうしても避けて通れない技術」があります。それが電池の開発です。実際のところ、両社ともパートナー企業と一緒に次世代電池の開発に取り組み、EVの生産を進めています。
面白いのは、BYDはそもそも蓄電池メーカーだったという点です。電池を開発するノウハウはいくらでもありますよね。
だとしたら、「そんな電池の会社が自動車を作れるのか?」という疑問が湧いてきますが、これも同様で、BYDがノウハウを持っていないところはパートナー企業と手を組んでいるわけです。
実際、エレクトロニクスについてはファーウェイと提携していたり、自動運転の技術についてはバイドゥのものが用いられたりするのだとか。つまり、技術を持った会社と手を組めばできてしまうわけですね。
仮に日本で例えるなら、パナソニックが自分のところで車を作ってみようとして、マツダや三菱自動車あたりから技術を供与してもらうということと同じです。これはあくまでも例ですし、今のところはありえない話でしょうが、そういう発想で強みを生かしていけば、新しいチャレンジはいくらでもできそうな気がしてきます。
競争相手はどこからやってくるか分からない
以前、トヨタの社長がEV化の流れの中で「最大の危機がやってくるかもしれない」と語っていたことがありましたが、今回の話はまさにそういうことかもしれません。
思わぬ競争相手がいきなり出てくる可能性はどの業界にも常にあるんだと、頭に入れておく必要はあるかもしれませんね。
それにしてもBYD、なかなか面白そうです。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「BYD(中国の蓄電池メーカー)」でした。世界に比べて日本のEV市場は後れをとっていて、日本発のEV車の存在感も薄いといわれていますので、今後の国内自動車メーカーの取り組みに期待したいと思います。
構成:志村 江