自分のやりたいこと。
仕事や家事、子育てなど、日常のやるべきことに忙殺されているうちに、「自分のやりたいこと」を見失ってしまった人もいるのではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、刺繍作家でイラストレーターのありまさん。
ありまさんは、自身の出産・育児の経験を「育児日記」としてInstagramに投稿し人気を博し、子育て系インフルエンサーとして活動。その後、刺繍作家としてもSNSを中心に活動をスタートさせます。
そんなありまさんも「自分のやりたいこと」が明確になるまで、かなりの時間を要したと語ります。
今回はありまさんのキャリアとともに、「自分のやりたいこと」の見つけ方について伺いました。
ありまさん
刺繍作家/イラストレーター
妊娠、出産を経て発信するようになった「育児日記」が、InstagramなどのSNSで人気を博し、子育て系インフルエンサーとして活動するようになる。
その後、元々趣味で行っていた刺繍についての解説なども発信。
現在は刺繍作家/イラストレーターとして、SNSを中心に活動中。その他Webでの連載や書籍の出版など、活動の幅は多岐に渡る。
子育て系インフルエンサーからの転身? ありまさんが刺繍作家になるまで
――刺繍作家、そしてイラストレーターとして活躍されているありまさん。まずはありまさんと刺繍との出合いから教えていただけますか?

刺繍をちゃんと始めたのは、大学3年生の時ですね。
当時私は就職活動真っ只中だったのですが、「自分のやりたいこと」が見つからなくて。

そんな中、母は和裁(和服裁縫のこと。和服の制作や裁縫)を始めたり、仲の良い友人が起業に向けて留学をしたり、小さい頃から夢だった仕事に内定をもらったりと、それぞれ夢に向かって動き始めたんです。
そんな周りを見て私も「好きなこと欲しい!」と、思うようになり。
そしてたまたま立ち寄った本屋で出合ったのが、刺繍の本だったんです。
――さまざまな本がある中、なぜ刺繍の本に惹かれたのでしょう?

兄が高校生だった頃、クッションを作る課題があったんです。それが面白そうで兄にお願いして、手伝わせてもらったのですが、それがとても楽しかったんですよね。
「そういえばあの時作ったの、楽しかったな。またやってみようかな」と、本を手に取ってみたんです。
――それで、刺繍作家としての道を歩み出したんですね。

いえ。本格的に刺繍作家として活動を始めることになるのは、もう少し後の話なんです。
雑貨店の常駐作家も経験しましたが、当時は「(自分の作った)作品に値付けをして、お客さまに買ってもらうこと」に対して、なんだか申し訳なさのようなものを感じてしまって。
結局、刺繍とは全く関係のない会社に就職しました。
――なぜ再び刺繍をするようになったのでしょう?

きっかけはSNSでした。
というのも妊娠5カ月の時、安定期に入ったのと時間があったこともあって、育児に関する出来事をイラストにした「育児絵日記」を、Instagramに投稿するようになりました。

ありがたいことに、フォロワーさんがどんどん増えていって。1万人を超えた頃には、いくつかの子育てメディアで連載のお仕事をいただくようになりました。
その後、いわゆる“子育て系のインフルエンサー”として発信を続けていくことになるのですが……こどものプライバシーなどの問題も鑑みて、4〜5歳になる頃には発信に一区切りつけようと思っていました。
とはいえ「私から育児絵日記を取ったら何があるんだろう……?」と、考え始めて。そんな時にイラストレーターの先輩方から「刺繍ができるじゃん」と、アドバイスをいただいたんです。
子育てが楽しかったからこそ、“自分の好きなもの”が“なくてもいいもの”になっていった
――就職、結婚、出産、子育て、SNSでの発信を経て、ここでついに刺繍に戻ってきたんですね。

はい。
刺繍が好きだったことを思い出して、手芸屋さんに行って久しぶりに糸に触った時に、なんだか涙が溢れてきたのをよく覚えています(笑)。
大前提として、こどもも子育てもかけがえのないほど大好きです。こどもとの日常を日記にして発信するくらいですから(笑)。
ですが一方で、子育てに一生懸命になりすぎてしまったが故に、「自分が好きだったもの」が分からなくなっていったんです。
――「自分の好きだったもの」が分からなくなる、ですか?

おそらく育児を経験された方なら、共感していただけるかと思うのですが……。
例えば、動きやすいようにヒールは履かない、こどもにケガをさせないようにアクセサリーもしない……。
ファッションはもちろんライフスタイルを子育てをする上で快適なものへ変化させていくうちに「自分の好きだったもの」がだんだん「なくてもいいもの」になっていったんです。
だから久しぶりに糸を見た時に、「ああ、そうだ……私、刺繍がめっちゃ好きだった……」と、再認識して。

こどもが少し大きくなってからは、再び刺繍をするようになり、SNSでも子育てだけでなく刺繍についても発信をするようになっていきました。
子育てもイラストも刺繍も、全て「私」を構成する一部。「自分のやりたいこと」の見つけ方
――ありまさんの現在の活動について、改めて聞かせてください。

刺繍作家、イラストレーターとして活動しています。
主にInstagramやTwitterといったSNSで、刺繍の解説やイラストの投稿を行っています。

投稿については自分の作りたいものを作って、描きたいものを描いているだけなので、かなり自由に行っていますね。
その他、育児メディアでの連載をさせていただいたり、書籍を出させていただいたりもしています。
――こうして活動についてお聞きすると、イラストを投稿する“子育て系インフルエンサー”から、刺繍作家へと、異業種に転向したようにも見えますね。

確かに活動だけを見ると、そう見えるかもしれませんね(笑)。
でも私個人としては、そんなに「何かが大きく変わった」という認識ではなくて。
私の中では、子育てもイラストも刺繍も、どれもバラバラじゃないんですよ。それらをひっくるめて、全部が「私を構成する一部」というか。
――かつてありまさんが、就職活動時代に探していた「自分のやりたいこと」の答えに、気づけたんですね。

そうですね。
当時は「探さなきゃ!」という焦りがあったのですが……結局その答えは、全部自分の中にありました。

イラストを描くのも刺繍を作るのも、こどもの頃から好きでしたし。
「自分のやりたいこと」を見つけるために必要なのは「自分をよく知ること」だと思います。
こどもの頃の記憶や、大人になってからした経験。好きだったことや嫌いだったこと……。
振り返ってみると、その全てがヒントになりますし、意外なところで何かと何かがリンクしたりするんですよね。
――ありまさんのこれからの展望について聞かせてください。

私は「作品を作ること」よりも「もっと気軽に刺繍について知って、刺繍ができる環境を作ること」に、モチベーションを感じています。
もっと刺繍のハードルを下げられるような、誰でも簡単に刺繍ができる解説本や刺繍キットを作ってみたいですね!
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

先ほども言った通り、結局「自分のやりたいこと」の答えは、自分の中にあるんじゃないかと、私は思っています。
だから自分が「楽しそうだな」と思うことは、積極的にやってみるといいんじゃないでしょうか。
「楽しそう」ということは、自分の心の琴線のどこかに触れているということ。自分のその感覚は、大切にしてあげたいなと、私自身強く思っています。
私もイラストや子育て、刺繍に次ぐ、新たな「自分のやりたいこと」を、これからもずっと探し続けていきたいです。
楽しみながら「自分のやりたいこと」を見つけていく。そこに独立・起業のヒントも隠されているのかもしれませんね。
取材・文=内藤 祐介