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5科目を教えない塾「studioあお」の代表に、10歳からの社会人教育の真意を聞いた

5科目を教えない塾「studioあお」の代表に、10歳からの社会人教育の真意を聞いた

社会で生き抜くために必要な能力とは、なんでしょうか。

基礎学力、人間関係構築能力、業務遂行能力…。様々な能力が求められますが、社会人生活で最も求められる能力は「問いを立て、発想し、実装する能力」。

そう語るのは、株式会社COLEYO代表で「放課後教室studioあお」の教室長を務める、川村哲也さん。

川村さんの運営する「放課後教室studioあお」は受験対策はおろか、テスト対策すら行わない、極めて珍しいスタイルの学習塾です。

「放課後教室studioあお」はなぜ、教科教育を行わないのでしょうか。

「テストに解答を埋める力より、そもそもの問題を見つけて解を導き出し、実際に問題を解決する力こそ、社会を生きていく上で必要である」―。10歳からの社会人教育を掲げる、その真意を伺いました。

<プロフィール>
川村哲也さん
株式会社COLEYO・代表取締役CEO
放課後教室studioあお・教室長

北海道生まれ。立命館大学卒業後、株式会社リクルートコミュニケーションズに入社。

エンジニアやビッグデータ、IoTの採用広告領域に携わる。就職後1年で退職し、株式会社COLEYOを起業。

京都府上京区、学問の神様こと菅原道真が祀られている北野天満宮のお膝元で「放課後教室studioあお」を立ち上げる。

学校の補習や受験対策を行う、一般的な教科勉強のための塾ではなく、こどもの頃から社会で生きていくための課題発見能力・課題解決力などを養う社会勉強を専門に扱う塾であり、京都を中心にメディアから注目を受ける。

その他、企業向け事業として教育コンテンツの開発や、教育事業立ち上げ支援などにも力を入れる。

・川村哲也さんTwitter
https://twitter.com/tetsu_studioao

・studioあおTwitter
https://twitter.com/studioao_coleyo

・studioあおFacebook
https://www.facebook.com/studio.ao.kyoto/

・studioあおブログ
http://stud-io.hatenablog.com

この10年でスマホは普及したのに、公教育は10年前と変わらない。世の中と教育業界のギャップへの危機感

―いわゆる教科勉強を行わない塾として有名な「放課後教室・studioあお」(以下、「studioあお」)の教室長であり、株式会社COLEYOの代表である川村さん。まずは起業に至った経緯から教えてください。

川村さん
独立・起業には学生の頃から興味がありつつも、普通に就活しました。

いくつか内定をいただいたものの、就職するかどうか悩んでいたのですが、新卒で入ることになった会社の役員に「とりあえず1年、会社員として働いてみたら?」と誘われたこともあり、入社しました。

その会社を1年で退職して、株式会社COLEYOを起業するのですが、最初は大学時代にお世話になっていた先輩の会社の一部署としてスタートしました。当時はまだキャッシュも人も足りてなくて。

―本当に1年で辞められたのですね(笑)。

川村さん
はい。雇ってくれた会社からすると、僕を採用したコストに見合ってないだろうな…と思いつつも、辞めてしまいました(笑)。

しかし、この1年の経験で感じたことが起業への大きな動機になっているので、僕からするととても必要な時間でしたね。

―詳しく聞かせてください。

川村さん
僕は人材系の会社に就職したのですが、ビッグデータ、IoTの採用広告を任されていました。

採用市場について当然勉強するわけですが、そこで世の中ってこんなに速いスピードで進化しているのかと、驚いたんです。

僕らの目に見えるところで分かりやすく言えば、スマートフォンがこの10年で爆発的に普及しました。

皆さんもご存じの通り、企業のマーケティング施策にビッグデータを活用したり、IoT家電やスマートスピーカーも着々と僕たちの生活に結びつき始めています。

10年単位と言わず1年、半年のスパンで新しいものが生み出されている世の中であるにも関わらず、教育の世界は全くそれについていけていないなと感じました。

―教育の世界、ですか?

川村さん
ええ。僕の実家は大家族で、僕を含めて6人兄弟です。ある日実家に帰った時に12歳年下の小6の弟が学校の話をしてくれて。

その弟から聞く今の教育業界が、僕が小学生だった時と全く変わらない内容だったんです。

すでに社会人として働いていた僕からすると「教育業界の取り残され方はヤバイぞ」と。

その危機感が株式会社COLEYO、そして「studioあお」の始まりでした。

テストに解答を埋めるのではなく、解くべき問題を見つける。勉強を教えない塾「studioあお」のコンセプト

―「studioあお」とは、どのような塾なのでしょうか。

川村さん
「studioあお」は、学校の定期テスト対策や受験指導をする塾ではありません。いわゆる教科教育の指導は行っていないのです。

あえて言うなら「社会で活躍するための対策」の塾、でしょうか(笑)。

―なぜ教科教育の塾ではないのでしょうか?

川村さん
社会で生きていくために必要な、課題発見能力・課題解決能力を養うことが、こどもたちにとって重要な教育であると考えるからです。

教科教育や偏差値を伸ばすための教育が全く必要ない、というつもりはありませんが、学校のテストで高得点を取る能力と、社会で生き抜くために求められる能力はそもそも全く異なります。

分かりやすく言うと「テストの問題用紙と解答用紙が配られ、解答用紙に正解を埋めていく」のが一般的な学校や学習塾で必要とされる能力。

一方、社会で必要となるのは「そもそも問題はどこにあるのか。何を問題と定義し、その問題をどのような手段で解決するか」といった能力です。

―そもそも問題がどこにあるのか、という本質的な問いからスタートするんですね。

川村さん
これも「studioあお」を立ち上げた理由と被るのですが、就職してから潰れていく人が僕の周りにたくさんいたんですよ。

それも学生時代に優秀で真面目だった人たちが鬱になったり、会社を辞めざるを得なくなったり。

原因は明確です。学生の間は「学校」という世界の中の尺度で測られますが、学校を出た瞬間、いきなり「ビジネス」の世界に放り込まれるわけです。

20歳あたりまで文科省ベースの価値観で育てられ、急にそこから経産省ベースの価値観に変わります。就職活動にあんなに苦しむのだってそれが原因ですよね。

「配られたテストに正解を埋める」作業から、そもそも「問題そのものを探す」作業への移行は多かれ少なかれ、誰もが戸惑います。

この急激な環境の変化や求められる能力の変化に適応できないと、鬱になったり会社を辞めることを選択してしまうんです。

僕の肌感覚ではありますが、「学校」の世界で優秀で真面目な人ほど「ビジネス」の世界とのギャップに苦しんでいる傾向がある。

なら早いうちから、こどもの頃から「ビジネス」の世界で求められる能力を養う場所があってもいいんじゃないかと思ったんです。これが「studioあお」のコンセプトです。

写真集を作るために、こどもたちが先生相手にプレゼンする! 10歳からの社会人を育てる教室

―同じ塾でも、通常の学習塾とは全くコンセプトが異なるんですね。

川村さん
はい。経営者的な観点で話をすれば、通常の勉強を教えてくれる学習塾は世の中にめちゃくちゃたくさんあります。

他を圧倒できるような強力な武器があるならともかく、せっかく事業を始めるのにわざわざ自分からレッドオーシャンに入っていく必要はないかなと(笑)。

それよりも誰も参入していないブルーオーシャンで、且つこどもたちにとって本質的な学びを提供できる教育事業を作ってみたかったんです。

―「studioあお」では、実際どのような授業が行われているんですか?

川村さん
ケースにもよりますが、生徒1人1人が取り組みたい問題を見つけ、その問題の解決案を導き出し、実際に状況を改善するまでが一連の流れになっています。

少し分かりづらいので、ある生徒(Aくん)の話を例に挙げましょう。

Aくんは小学校4年生の時に入塾しました。彼は運動も勉強もあまり得意ではなく、友達も多いわけではありません。自分にどこか自信がなく、なんとなく学校も休みがちでした。

彼は入塾当時、特に興味があるものも取り組みたいこともなかったので、他の生徒が取り組んでいるプロジェクトを見学していました。

そんなある日、教室の近くで野良猫が寒そうにしていて、それをかわいそうに思った生徒の1人が教室に猫を連れてきたんです。

その場にいた先生やAくんを含めた数人で、その猫をどうするか話し合われたところ、飼い主を探すことになりました。

では、どのようにしたら飼い主が見つかるかを考えたところ、いくつか案が出されました。その案のうちの1つが、Instagramで猫をアップして人気者にして飼い主を募ろう、というものだったんです。

Aくんは、その猫をInstagramにアップするためのカメラの担当になりました。教室に一眼レフカメラがあったので、Aくんにカメラを貸し出し写真を撮ってもらったところ、Aくんはカメラに熱中。

日を重ねるごとに彼のカメラの腕前は、メキメキと上達していったんです。

「Instagramに載せるだけじゃもったいない」ということから、彼が取った猫の写真集を作ることになりました。写真集を無事に出版し、今は2冊目の写真集の制作に打ち込んでいます。

ちなみに、猫は無事、近所の美容師さんに引き取られました。

―めちゃくちゃいい話じゃないですか…! なんだかドラマみたいです。

川村さん
分かりやすいキャッチーな例としてこの話を挙げましたが、規模の大小はあれど、同じようなことが「studioあお」では頻繁に起こっています。

ここで僕たち塾側が、彼らに介入するポイントは大きく2つです。

1つ目は、ある問題に対しての解決方法を生徒に考えてもらうこと。
今回で言えば、猫を連れてきたという問題に対して、

・でも教室では飼えない
・じゃあ飼い主を見つけよう
・どうやって飼い主を見つける?

といった具合ですね。

2つ目は、問題解決のための資金的、設備的支援をすること。
今回で言えば、

・猫をアップするためのInstagramを開設
・写真を撮るためのカメラの提供
・写真集出版のための資金、人的援助

などですね。

―なるほど。ここに「studioあお」としての役割があるんですね。

川村さん
はい。「studioあお」では投資制度というものがあります。

今回で言えば「猫の写真集を作りたい」という目的に対して、なぜ写真集を作りたいのか、写真集を作る意義は何なのかをこどもたちに整理してもらい、こどもたち自身で僕たち塾側にプレゼンをしてもらうんです。

塾側で話し合ってOKが出れば、それに必要な資金を調達します。1つのプロジェクトに対して最大10万円まで資金援助をしたこともありますよ(笑)。

―これって会社で言うところの予算取りや、投資、クラウドファンディングと同じですよね。

川村さん
そうですね。必要なものに対してお金を集めるために、なぜお金を集めないといけないのか、お金を集めてどうしたいのかをきちんと意思表示するんです。

そういった意義のあるものに、お金が集まってくるのは「studioあお」でも実社会でも変わりません。

今回はAくんのカメラの話を例に説明しましたが、他にも炎上商法について研究、卵からひよこを孵すための方法を研究、人気ゲーム「Minecraft」とプログラミングをかけ合わせたプログラムなど、生徒によって扱っているものは異なります。

これだけ幅広い領域をカバーし、生徒1人1人に目を届かせるため、教室の在籍生徒数は20名に限定しているのです。

―会社としての収益はどのように確保しているのでしょうか?

川村さん
「studioあお」の月謝収入の他に、企業への教育コンテンツ開発事業も展開し、そこでも収益を得ています。

「何か新しい形の教育を展開したい」と考えている教育系企業や「教育事業へ進出したい」と考えている一般企業へ、僕たちのノウハウや企画力を提供しています。

そこで収益を確保しつつ、「studioあお」では実際に自分たちが教育の現場に立っています。

人と人が違うことを、もっと当たり前に受け入れる社会へ

―川村さんの今後の展望を教えてください。

川村さん
漠然とした言い方になってしまいますが、事業を通して「優しい世界」を作りたいです。

僕たち日本人は、テレビや新聞のチャネルも少なく、文化的同質性が高いということもあり、どうしても「自分と違う他者」を受け入れづらいところがあります。

例えばIQがめちゃくちゃ高い子がいてもいいし、走るのが極端に遅い子がいたっていい。

背が高いから幸せなわけでもなければ、何か病気を抱えているから不幸、というわけでもありません。

身体、知能、病気、障害。全てを含めて、その人自身の個性なんですよね。

「studioあお」では1人1人が本当の意味での個性を活かして、こどもたちが社会を楽しく渡り歩いていけるよう応援していきたいですし、社会に対してももっと「他人と違ってもいいじゃん」って思える価値観を醸成させていきたいです。

―最後に読者の方へ、アドバイスをいただけますか?

川村さん
事業を立ち上げる時「仮に100億円拾ったとしても、やりたいこと」を考えてみるといいかもしれません。

独立・起業の際に多くの人は「ちゃんと食っていけるか」ばかりを考えてしまいがちですが、その心配が取り除けたとしてもなお、自分が就きたい仕事を考える。

そして実際にその仕事をしながら生きていくために、上手くいきそうな方法を考えます。スキルをつけて専業でがんばるもよし、専業が厳しいなら何か副業と両立して挑戦するのも良し。手段はいくらでも考えられると思います。

「studioあお」ではこどもたちへ、「なんとなく上手くいかなそうだからやらない」と最初から諦めてしまうのはダメだよ、と声をかけます。

自分の達成したいことのための筋道を考えて実践することに、こどもも大人も関係ありません。

自分が挑戦してみたい領域で仕事をするために、必要なことを考えてみるところから始めてみてはいいのではないでしょうか。

取材・文・撮影=内藤 祐介

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