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元ファンドマネジャーの「切り絵師」に学ぶ、信用形成のコツ

元ファンドマネジャーの「切り絵師」に学ぶ、信用形成のコツ

「貨幣経済」ではなく「信用経済」。
いつしか生まれたこの言葉は、貨幣一辺倒だった経済のあり方を変化させている。経済活動はもともと「与信」を根本に据えているが、SNSやテクノロジーの発展により「信用」は可視化されるようになった。

今ではクラウドファンディングやマイクロファンディングなど「信用」や「人間関係」を担保にした資金調達も一般的になっている。

元・ファンドマネジャーで現・切り絵師という異色のキャリアを持つ小西光治さんは、クリエイターを応援するコミュニティを作るためにクラウドファンディングを行った。結果は当初の目標金額の2倍となり、プロジェクトは大成功を収めている。

今回は小西さんに、切り絵師の仕事や、信用形成のコツを伺った。

<プロフィール>
小西光治さん

新卒で証券会社に入社後、ファンドマネジャーとして働く。29歳で独立し、ファンドを立ち上げたがリーマンショックの余波に飲まれ撤退。その後シェアハウス事業を行う。オーナー業の傍ら日本唯一の「風水切り絵師」としても活動。2019年からはコミュニティスペース「Motto」の運営者としても活動中。

切り絵師のファーストキャリアはファンドマネジャー

― 小西さんは風水切り絵師として活動しています。どのような経緯を経て今のお仕事を始めたのでしょうか?

小西さん
時系列で経緯を話していくと、僕は大学卒業後、証券会社に入社しました。ファンドマネジャーとして7年働いた後に「独立したい」と思い、29歳の時に退社して投資ファンドの会社を立ち上げたんです。けれど、タイミングが悪かったんですね。立ち上げ直後にリーマンショックが起きて、ファンドが倒産してしまいました。

独立した時には結婚していて、息子が生まれたばかりでした。倒産しても僕が家族を養っていかなければいけない、だから「次の仕事は景気に左右されない、時間が自由に使える仕事にしよう」と思ったんです。それでシェアハウスの大家を始めたんですよ。

最初は一棟だけだったシェアハウスも、徐々に軌道に乗り、持ち家で4棟を運営できるまでになりました。でも、経済的な基盤が固まるのと並行して労働意欲が下がってしまったんですね。30代後半になってからはゲームにハマってしまい、1日7〜8時間ロールプレイングゲームをやり込んでいたんです。最初は楽しい、でもだんだんと「もったいないな、この時間で何かできないかな」と思い始めました。

僕は漫画を読むのが好きで、絵を描くのも好きだったんです。だから何か創作してみようと。でもテクニックはない方だし、創作を仕事にしたかったのでレッドオーシャンには飛び込みたくなかった。考えた結果、木彫りか切り絵をやろうと。でも木彫りは工作機械が必要だし、音も出る、それに工房が必要です。だから手軽に始められる切り絵を始めたのです。

切り絵は日常品ではない、販売のためにファンを作る

― 気になっていましたが、風水切り絵師とはどのようなお仕事なのでしょうか?

小西さん
僕の切り絵のテーマは「おめでたいもの」。風水師さんは「家の南西に〇〇を置いてください」とアドバイスするけれど、家のインテリアと合わなくて置きづらい時もありますよね。だから現代風で置きやすいものを、というコンセプトで制作しています。

それと、僕の切り絵は1枚の紙を千切れないように制作しています。切れ目がないから「縁が切れない」。そういう意味でも縁起物として喜ばれているんです。

― 切り絵を制作し始めた小西さんですが、販売はどのように行ったのでしょうか?

小西さん
最初はTwitter経由で購入者が現れました。知人から制作依頼が入ったり、ブログ経由で依頼もいただいていましたね。わりと順調だったんですけど、大きくプロモーションの方向性を変えた出来事もありました。

とあるオンラインコミュニティに参加して、主催者にアドバイスをもらったんですよ。

「切り絵は売りづらい商品ですよね。たとえば生鮮食品や洗剤なら仕事の帰りに『今日買っていこう』と思うけれど、切り絵はそうは思いません」。

僕もその意見に納得して、切り絵は生活必需品ではないなと。ならば「どう売ろう?」と考えました。出た答えは「ファンやコミュニティを作ろう」だったんです。

僕の作品を知ってもらい、ファンを増やして制作を依頼してもらう。すごく真っ当な方法です。

それからはSNSやブログに制作工程を掲載したり、完成品を掲載したりするようにしました。次第にファンも増え、お店の開店祝いや結婚祝い、還暦のお祝いなど様々なシーンで贈り物として活用してもらうようになりました。

― お値段はいくらなのでしょう? お金がらみの質問で、できれば月収も教えていただきたいのですが……。

小西さん
ひとつの目安ですけれど、A4で4万円。A3で5.5万円をいただいています。月収はシェアハウスの家賃収入も合わせて50万円ほどです。

コミュニティスペースのオーナーにもチャレンジ、応援されるプロジェクトの作り方

― そういえば、小西さんは切り絵師やシェアハウスのオーナーの他に、コミュニティスペースの運営もされています。なぜスペースを運営しようと思ったのですか?

小西さん
スペースの名前は「Motto(モットー)」と言うんですけど、熱い想い(モットー)を持って活動されている方々に役立てる場所を作りたかったんです。各々の技能を活かしてワークショップを開いてもいいし、作品を展示してもいい。そういう場所を作りたかった。

コミュニティスペースは銭湯の2階にあるんですけど、切り絵師として活動を始めてからしばらくして、オーナーの大坪がくさんと出会ったんです。先ほどの「コミュニティを作る」話と繋がるんですけれど、大坪さんに僕のやりたいことを話したんですよ。ちょうど彼は、経営する「入船温泉」2階の余剰スペースを有効活用したかった。「無償で貸しますよ」と大坪さんが言ってくれたので、コミュニティスペースを作ることになりました。

小西さん
スペースは準備の際、コミュニティづくりも兼ねてクラウドファンディングを利用することにしました。目標金額は40万円、2019年の1月にプロジェクトを開始しています。結果、サポーターが206人集まり、目標金額の倍以上、約90万円を集めることができました。

― 大成功ですね。なぜそれだけの支援を集めることができたのでしょうか?

小西さん
工夫したこととして、友人知人からリターン(プロジェクトに成功した場合、支援者に贈られる物品や体験)を提供してもらったんです。たとえば、アクセサリー作家の友人にはオリジナルのアクセサリーを、整体師の知人には出張整体が受けられる権利を提供してもらったんですね。成功した場合は、リターン提供者に金額の一部をお返しする約束もしました。すると、リターン提供者は僕のプロジェクトに参加していることを告知してくれますし、自身の活動も宣伝できる。

構造的には、Mottoを作るという「大きなプロジェクト」の下に、リターン提供者の「小さなプロジェクト」が集まった形になります。このやり方は、僕が利用したクラウドファンディングの規約にも違反していませんでしたし「熱い想いを持って活動されている方を応援するスペース」というMottoのコンセプトに合っていました。

― なぜそのような方法を思いついたのでしょうか?

小西さん
銭湯オーナーの大坪さんとのディスカッションから生まれた側面もあります。それと、僕はファンドマネジャーをしていた頃から自分のプロジェクトに周囲を巻き込むタイプだったんです。ファンドってなかなか手を出しづらいじゃないですか、だからお客さんに「思うように商品が売れないんですけど、どうしたらいいんでしょうか?」と等身大の自分を見せて、相談もしていたんです。そうすると、お客さんも親近感を抱いて仲間になってくれる。結果的に成績を伸ばすことができました。

これは例え話ですけど、BBQって肉が焦げていても誰も怒らないじゃないですか。でもレストランで焦げた肉が出てきたら怒りますよね。そういう風に、仲間内のお祭りにしてしまうんです。弱点を隠さずに見せて、正直に話せば信用が生まれる。SNSの時代なので、取り繕ってもバレてしまいます。

現代って、クオリティの高いアウトプットは出揃っているんです。その中で勝負していくには、「余白」が武器になると思っています。たとえば、デビューしたてのアイドルは応援したくなるじゃないですか、アイドルの成長とともに「自分が育てた」という意識が生まれ、根強いファンが付く。どうすれば「応援したくなるか」を考えて実行すれば自然とファンは生まれるものだと思っています。

― ちなみにスペースはどのように運営しているのですか?

小西さん
賃料や光熱費はオーナーの大坪さんが負担してくれているので、銭湯の入場料400円を払ってもらえれば誰でも無料で使えます。僕はシェアハウスの運営と切り絵で生計が立てられるので、ここをマネタイズする必要はないんです。スペースは作家さんの展示に使われたり、料理教室やヨガの教室、会社の会議などにも利用してもらっています。

― コミュニティスペースも完成し、運営も好調な中、小西さんはこれからどのようなことをしていきたいですか?

小西さん
いくつかあって、まずは「切り絵作家といえば小西」と広く認知してもらいたい。日本に限らず、世界レベルで僕の名前が知られたら嬉しいです。そして、Mottoも盛り上げたいですし、50代以上限定のコミュニティサロンも作り始めています。「誰かを支援する場づくり」をもっともっと進めていきたいですね。

(インタビュー終わり)

「人助けは回り回って自分を助ける」という価値観は、長らく日本の中で培われている道徳観ではないだろうか。

終身雇用が崩れ、働き方の変化が起きている現代は少し生きづらい。そういう世の中で、貨幣よりコミュニティを信用する生き方も模索され始めている。貨幣はもともと信用を可視化したものだ。小西さんの働き方はその原点に立ち返るものだと言って良いのかもしれない。

文=鈴木 雅矩
編集=内藤 祐介

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