「プロゲーマーと独立・起業は、ある意味とても似ていると思うんですよね」。
そう語るのは、今回お話を伺ったプロゲーマーのaMSa(あむさ)さん。
aMSaさんは任天堂の人気ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズDX』のプロゲーマーとして活躍し、国内外問わずさまざまな大会で好成績をおさめる、日本を代表するプロスマブラー(プロのスマブラ選手)です。
今回はそんなaMSaさんのプロスマブラーになるまでの経緯について、そして知られざるプロゲーマーとしてのキャリアプランの設計をテーマにお話を伺いました。
キーワードは、挑戦者であるために必要なこと。ゲーマーもビジネスパーソンも、全ての“挑戦者”たち必見の内容です!
aMSa(あむさ)さん
プロゲーマー
レッドブル・アスリート
2001年に任天堂より発売された『大乱闘スマッシュブラザーズDX』のプロゲーマーとして、レッドブルとプロ契約を結び活躍中。
幼少期の頃から『スマブラ』シリーズで遊んでいたが、大会に出場し始めたのは比較的遅く、当時大学生だった2013年から。
同年5月に大阪で開催された大会で入賞を果たすと、7月にアメリカ・ラスベガス開催された「EVO2013」では、世界屈指のプレーヤー、Mew2Kingから弱キャラのヨッシー(※)で1本もぎ取り、海外から大きな注目を浴びる。
2014年5月にプロゲーマーとして契約。『スマブラ』シリーズでは、日本人初のプロゲーマーとなる。大学を卒業後、同年10月にIT企業に入社。プログラマーとして従事し、会社員とプロゲーマーを両立する。
その後一度の転職を経て、2019年5月に独立。現在は専業プロゲーマーとして活躍する。
※『スーパーマリオブラザーズ』に登場するキャラクター名。
地元最強から世界へ! 日本初の“プロスマブラー”は、こうして生まれた。
――『大乱闘スマッシュブラザーズDX』(以下『スマブラDX』)のプロゲーマーとして活躍されているaMSaさん。現在に至るまでの経緯を教えてください。
ゲームは物心つく前から大好きでした。
兄と姉がいたこともあり、よくきょうだいや友達とゲームをしていました。典型的なゲームっ子だったと思います。
『スマブラ』シリーズも第1作の「NINTENDO 64」の頃から遊んでいたので、第2作の『スマブラDX』も発売当初から友達とプレーしていましたね。
――やはり当時からお上手で、結果を残されていたのでしょうか?
どうでしょうか(笑)?
なんやかんや地元では1番強かったですけど、田舎に住んでいたので、大都市で行われる大会やオフ会には行けなかったんですよ。
だから今のように、目に見える結果は全く残っていません。
こどもの頃はひたすらに「地元最強」であり続けましたね(笑)。
その後は勉強だったり部活やサークルだったりと、自分が成長するにつれゲーム以外のことにも力を入れて取り組むようになっていったのですが、大学時代に大きな転機となった出来事がありました。
――転機?
大学3年生の時に友人から、「aMSaってスマブラ強いよね? この人と戦ってみてよ」と、ある方を紹介されたんです。
そこで出会ったのが、Sanne(※)でした。僕はその時、人生で初めて負け越したんです。
そして僕を打ち負かしたSanneは「全国には俺よりももっと強い連中がいるよ」と。それで一気に『スマブラDX』熱が復活しました。
※Sanne(さんぬ)選手。aMSaさんの大学時代からのライバル。
――そこからいわゆる『スマブラDX』ガチ勢(大会などに出場し、本気でそのゲームに取り組む人という意の俗語)入りを果たしたと。
そうですね。
僕がこどもの頃とは違い、もうその頃にはすでにYouTubeなどで上手な人のプレー動画や大会の配信動画がたくさんあがっていました。
それを見て、自分なりに研究して練習をして……を繰り返し、自分の腕を研鑽していったんです。
そして2013年5月に開かれた国内の大会で入賞後、7月にはラスベガスで開催された「EVO2013」(※)に出場することになりました。
「こんな大きな大会でスマブラがプレーできるなんて、2度とないかもしれない!」
そう思い渡米したのですが、その大会が僕の人生を変えてしまうほどに衝撃的だったんです。
※世界各国から腕利きの格闘ゲーマーたちがアメリカ・ラスベガスに集い、その頂点を決める格闘ゲームの大会。『スマブラDX』は発売後12年が過ぎていたが人気投票の末、メイン種目に抜擢された。
「EVO2013」での衝撃、そして――。日本初のプロスマブラーが、会社員との二足のわらじで感じた、大きなメリット
――『スマブラDX』のガチ勢界に彗星のごとく現れたaMSaさんが、「EVO2013」において世界屈指のプレーヤーを相手に善戦し、大きな盛り上がりを見せたと伺いました。
世界的名プレーヤーを相手に、自分がいい試合をしたということももちろん嬉しかったのですが、ゲームを通じてさまざまな人とコミュニケーションを取れたことがとても楽しかったんです。
そこまで英語を流暢に話せたわけではないのですが、ゲームという1つのツールを通して、言語の壁を超えて気持ちを共有することができました。
僕のこれまでの人生には、なかった経験なんです。
数多くのトッププレーヤーたちとも交流することができ、ゲームの可能性や奥深さを知る大きなきっかけになりました。
そんなこんなでラスベガスで『スマブラDX』ざんまいの日々を送った後に、帰国。
「大会、楽しかったな……」と夢見心地のまま、その1カ月後に迫った大学院入試の準備など、当然手につくはずもなく……(笑)。
――大学院入試を控えてのラスベガス渡航だったんですか(笑)。加えて人生を変えるような出来事の後だったとしたら、受験勉強に集中できないですよね。
はい(笑)。それくらい大会は楽しかったですし、衝撃的でしたから。
大学院試は一応受験したのですが、準備不足もあり落ちてしまって。とはいえ大学院に進学しないなら、進路を考えないと……。ということで就職活動をスタートさせました。
その間もゲーマーとしての活動は並行して続けていて、翌2014年5月にプロ契約に至りました。
その後同年10月にIT関係の会社に就職し、働き始めたんです。
――なぜプロゲーマー専業にならずに、会社員との二足のわらじを?
理由はいろいろあるのですが……。やはり一度は、会社員を経験した方がいいなと。
プロゲーマーの専業になりたい気持ちもありましたが、このままそっちに舵を切り過ぎてもいいのかな、という思いもあって。
最初からプロゲーマーと会社員を兼業しながら働くのは、正直大変かな……と予想はしていましたし、実際やってみて結構大変だったんですが、振り返るととてもいい経験だったと思います。
勤めていた会社がとても理解があって、ゲームの大会に出場するための休暇も取ることができましたし。
会社員としての仕事もプログラミング関係だったこともあり、ゲームとも近からずも遠からずといった具合で。
そして会社員として経験を積むうちに、次第にプロゲーマーと会社員を両立することの、大きなメリットに気づいていったんです。
挑戦者でありたいなら、“サブプラン”を用意せよ!
――会社員とプロゲーマーを両立することの大きなメリット、ですか?
はい。
1番大きなメリットは、収入が安定することです。
プロゲーマーは収入がどうしても不安定になるので、本業によって固定の収入が入ってくることは精神衛生上、非常に良かったです。
「他に仕事をしてゲームをする時間を奪われるくらいなら、ゲーマーの仕事に集中したい」という考え方ももちろん否定しませんが、それは収入がある程度安定して、かつ蓄えがある人の話。
特に「プロゲーマーになりたて」くらいの方だと、収入の上がり下がりにどうしても一喜一憂してしまいますし、かえってそれが邪念になってゲームに集中できなかったら元も子もありませんから。
――収入は生活の基盤ですからね。どんな仕事をするにせよ、まず収入の安定があってこそです。
就職する前は僕も「正直プロゲーマー1本でもいけるんじゃない?」と思っていました。
でも例えばもし僕がケガをして、今のようなプレーができなくなってしまったとしたら?
人生、何が起こるかなんて分かりません。
だからこそプロゲーマー以外にも稼いでいける手段を、きちんと若いうちから考えておく必要があると思ったんです。
就職して行っていた業務もPC関連の仕事だったので、もしゲームができなくなったとしても、会社員時代の経験とスキルがあれば、なんとか食べていくことはできるなと。
大変ではありましたが、そう信じてプロゲーマーと会社員の両立を選びました。
この考え方はプロゲーマーに限らず、これから独立や起業を考える人にとっても大切なんじゃないかなと思っていて。
――と言いますと?
僕のゲームスタイルでもあり、かつ生き方の軸になっていることなんですが、何事もサブプランとして二の手、三の手を考えておく必要があると思うんです。
例えば僕は『スマブラDX』の試合に臨む際、自分なりの“勝ちパターン”をいくつか用意しておきます。
そうすることで用意してきた秘策がたとえ失敗に終わっても、すぐに切り替えて別のアプローチから攻略へ向けて動き出すことができるんです。
口で言うのは非常に簡単なんですが、いろいろ入念に準備してきたものが失敗に終わるとショックもとても大きくて(笑)。
でもだからといって試合を投げ出すわけにもいきませんから、すぐに次のプランに切り替えられるよう、心の準備をしておくんです。
――戦略だけでなく、心にも準備が必要であると。
これは独立・起業も同じで、例えばあるビジネスモデルが何かの事情で頓挫してしまったとしても、サブプランとして二の手、三の手があれば、ショックも最小限に留めつつ速やかに次のアクションに移ることができます。
特に独立・起業したてで、まだ自分(ないしは自分の会社)の資金的体力がないうちは、次のアクションを速やかに取らなければ、あっという間に潰れてしまいます。
これの難しいのは、考えもせずにただ闇雲に次のアクションを起こせばいい、というものでもないんですよね……。
プロゲーマーなら試合の前、そして独立・起業なら開業へ向けた準備の段階で、いくつもの自分なりのサブプランを考え、保険をかけておくといいんじゃないんでしょうか。
――サブプランを事前に作っておくことは、ゲームもビジネスも、ひいては人生においても大切なことなのですね。
はい。このサブプランは、僕がプロゲーマーという仕事をしていく上で、めちゃくちゃ考えて作りました。
2019年に独立して、今でこそ僕は専業プロゲーマーとして、2年ほど活動させていただいています。
会社員とプロゲーマーの両立をしていた約5年間は、自分の人生におけるサブプランを考え、そのための力を蓄える時間だったとも言えます。
プロゲーマーというとここ近年で知名度がグッと上がり、ゲームをよく知らない方からすると、もしかしたら「自分の好きなことだけをして、食べていっている人たち」のように映っているかもしれません。
たしかにその見え方は、間違っていないと思います。
僕は『スマブラDX』が心の底から大好きですし、それを仕事にしている以上、自分の全身全霊をもって仕事に取り組んでいます。
ですが、だからこそ「大好きなゲームで食べていくことができなかった場合の、自分の人生」というパターンも入念にシミュレーションをし続けましたし、今でも考え続けています。
「結局なんやかんやいろいろあって、『スマブラDX』で食べられませんでした!」で、そのままドラマや映画のように、人生が終わってしまうわけではありませんから(笑)。
特にコロナ禍のこの状況下になってから「自分ができることは何か」を、常に頭の片隅に置いて生活するようになりました。
究極的に『スマブラDX』で食べていけなくなってしまったとしても、前職の経験とスキル、そしてプロゲーマーとしての活動で得たものを上手く使っていければ、違う手段でどうにか食べていくことができるかもしれない。
自分が何かに挑戦するなら。挑戦者でありたいなら。その挑戦がどう転んでもいいように、サブプランをきちんと持っておくべきなんじゃないかな思います。
――ありがとうございました。後編では、そんなaMSaさんが専業プロゲーマーになろうと決めた理由、そしてコロナ禍の今、プロゲーマーとしての活動がどのように変遷し、この情勢とどう向き合っているかについて伺っていきたいと思います。
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取材・文・撮影=内藤 祐介
5年の会社員時代は無駄じゃなかった――。プロスマブラー・aMSaさん、コロナ禍の挑戦