デイサービスによる介護(通所介護)は、高齢化社会において今後も需要が高まるとみられる事業です。しかし開所したところで、失敗に終わってしまう例も少なくありません。需要は増えているのになぜ失敗してしまうのか、フランチャイズでデイサービスを開所する際の注意点についても紹介します。
高齢化社会が進めば増える?儲かる?デイサービスの実態
少子高齢化社会において高齢者が通所して介護を受ける、デイサービスの需要は高まっています。
デイサービスの主な種類
デイサービスにもさまざまな種類があります。総合型のほかにもリハビリ特化、認知症対応、お泊りデイ、療養型といった介護内容に合わせた専門性の高い特化型のものなど多くのデイサービスが増えています。また大規模、小規模、民家型などのように規模も異なっています。利用者がより安心して通い続けられるデイサービスの多様化が進んでいると考えられます。
デイサービスの治療方法
デイサービスの多様化により、治療内容も異なっています。健康管理、認知症予防のためのトレーニングだけでなく、趣味に特化したレクリエーション活動や音楽療法などがあります。デイサービスは定期的に同じところに通うことになるため、自分の興味や健康維持のために多様なサービスが求められるでしょう。
デイサービス需要の増加傾向
高齢化によって高齢者の数が増えるにつれて、デイサービスへの需要も自然と増える傾向にあります。高齢者は日中の時間を有効に活用したり、社会的なつながりを持ったりする場を求めることが多いため、デイサービスがその需要を満たす役割を果たすことが期待されています。
またデイサービスによって、在宅介護を受けながら日中の時間を施設で過ごすことができるため、在宅介護の支援策として重要な存在です。介護者が日中に仕事など介護以外で必要な時間を確保することができるため、需要が高まると予想されます。
需要は増えているのに、倒産率過去最多の実態
2022年の「老人福祉・介護事業」の倒産は143件(前年比76.5%増)で、介護保険制度が始まった2000年以降で2020年の118件を上回り最多を更新しています。これは新型コロナウイルスの収束見通しが立たなかったことが大きな要因と考えられますが、ほかにも介護人材の不足や事業者の新規参入が増え競争が激化していることも、デイサービスの倒産要因となります。
需要高なのになぜ…デイサービスで失敗する原因5選
前述した通り、高齢化社会においてデイサービスの需要は高いと考えられます。それでも事業に失敗、つまり倒産してしまうのはなぜでしょうか。詳しくみていきましょう。
資金が足りなくなってしまう
事業が失敗してしまう最も大きな要因が、資金不足です。当初見込んでいた収益が得られず、施設の維持費や人件費などが支払えない場合、事業を倒産するほかなくなってしまいます。
デイサービス事業でよくある資金不足の例が、黒字化までに時間がかかることです。介護事業所の許可申請は「法人であること/人員基準を満たしていること」が必須条件になるので、まだ収益が得られない開所前から職員の雇用が必要となります。
また、デイサービス事業の売り上げとなる介護保険サービス利用料が支払われるまでには、3ヵ月ほど必要となる性質があります。つまり、売り上げは立っているのに手元に現金がなくなってしまい、給料支払いなどができなくなってしまうといったことが起こるのです。
さらに開所したばかりの頃などは、はじめから多くの利用者を見込めないので、軌道に乗るまでは収支がマイナスになりえることもあります。
また、3年に1度の介護報酬改定により、当初の収益モデル通りに資金計画が進まない可能性があるというリスクもあります。これらの要因から、デイサービス事業の資金不足が発生してしまうのです。
人材不足①ー採用が困難
介護業界では、慢性的な人材不足に陥っています。しかしデイサービス事業を行う際には下記のような配置基準があり、利用者に対して一定数の資格保持者を配置しなければなりません。
このため介護職員などの離職が続いて新しい人材が採用できない場合、介護サービスを提供できなくなってしまうのです。
職種名 | 配置基準 | 資格要件 |
---|---|---|
生活相談員 | 事業所ごとにサービス提供時間に応じて専従で1以上 | 社会福祉士 精神保健福祉士 社会福祉主事 |
看護職員 | 単位ごとに専従で1以上 ※通所介護の提供時間帯を通じて専従する必要はなく、訪問看護ステーション等との連携も可能 | 看護師 准看護師 |
介護職員 | ①単位ごとにサービス提供時間に応じて専従で次の数以上(常勤換算方式) ア 利用者の数が15人まで1以上 イ 利用者の数が15人を超す場合 アの数に利用者の数が1増すごとに0.2を加えた数以上 ② 単位ごとに常時1名配置されること ③ ①の数及び②の条件を満たす場合は、当該事業所のほかの単位における介護職員として従事することができる | 特になし |
機能訓練指導員 | 1人以上 | 理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 看護師 准看護師 柔道整復師 あん摩マッサージ指圧師 はり師・きゅう師(※実務経験要件あり) |
※定員10名以下の地域密着型通所介護事業所の場合は看護職員又は介護職員のいずれか1名の配置で可
参照:厚生労働省|通所介護及び療養通所介護(参考資料)(P.2より)
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人材不足②ースタッフの定着率が低い
次に、離職率の高さが要因となった人材不足の課題があげられます。介護職の離職率が高い理由はいくつかありますが、労働条件の厳しさや報酬の低さが代表例です。
介護職は身体的にも精神的にも負担の大きい仕事であり、長時間労働や夜勤、重労働などの負担があります。さらに介護職の報酬は一般的に低く、労働に見合った給与や待遇が得られないと感じることがあります。介護業界は業界全体で賃金水準が低いため、経済的な不安や生活の安定性への懸念が、それ以外の職を求めて離職の要因になることがあります。
公益財団法人介護労働安定センターの調査によれば介護職を辞めた理由として、男性から最も多い回答を得たのが「自分の将来の見込みが立たなかったため」で女性が選んだのは「結婚・妊娠・出産・育児のため」でした。
近年では離職率も徐々に下がってきていますが、介護職に将来性を感じられないとスタッフの定着率が慢性的に低くなってしまい、人材不足となってしまうのです。
参考:公益財団法人介護労働安定センター介護労働の現状について 令和2年度介護労働実態調査の結果(P.15より)
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法令やルールが複雑で、ルールを逸脱してしまう
介護保険は国の政策で進められていることもあって、介護報酬は定期的に改訂されています。そのため事業形態によって得られる収益が大きく変わったり、運営方法を少しずつ変更していく必要があります。それらの法令改定やルール変更は複雑であるにもかかわらず、わかりにくいという点も事業失敗の例としてあげられます。法律に違反してしまえば給付金の対象から外れてしまったり、事業が続けられないリスクもあります。
参考:厚生労働省|介護報酬 厚生労働省|令和4年度介護改定の概要
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ライバルが多く、利用者が確保できない
デイサービスは介護事業の中でも新規参入しやすい分野で、需要の高まりとともに供給も増えて競争が激化していることも、事業失敗の例としてあげられます。
小規模でも開所できるほか、在庫を抱えないビジネスのため初期投資も比較的抑えられています。また介護報酬は9割が公費から負担されているため、利用者側の未払いや不払いのリスクも少ないです。
事業者が多いことからライバルが多く、利用者を安定的に確保できないことによる稼働率の低下から事業が失敗してしまうこともあるのです。
デイサービスのフランチャイズで失敗しない!成功のポイント
ここまでデイサービスの失敗例について紹介してきましたが、フランチャイズに加盟して事業を行うことで成功の確率を上げることができます。ここからはデイサービスのフランチャイズに加盟した際の成功ポイントについて紹介します。
資金不足対策は地道に
資金計画は事業継続にとって死活問題です。資金不足対策は地道にコツコツと積み上げていきましょう。
介護事業には補助金や助成金の申請も可能です。それらの申請漏れがないように事前準備を行い、必要な書類をそろえたり手続きをすることを怠らないようにしましょう。
フランチャイズに加盟すれば、資金計画の策定や補助金・助成金申請のサポートを受けられたりするというメリットがあります。無駄な経費を削減して効率的に事業を進めていくノウハウについても参考にするとよいでしょう。
人材不足対策は先行投資
介護事業を継続していくために、人材への投資は必要不可欠です。新規の人材を採用するだけでなく働いているスタッフのモチベーションを保つためにも、処遇の改善を常に行ったり、福利厚生の充実もはかるようにしましょう。それらにコストがかかるかもしれませんが、先行投資として人材募集広告に費用をかけて新規採用するよりも、結果として人材不足の解決につながることもあります。
また、資格によるスキルアップも求められる業界であるため、スタッフの資格取得サポートを行ったり、教育研修制度を充実させることも全体の勤続年数を上げることに貢献してくれる可能性が高いです。
さらに、デジタル化を導入して、本当に必要な業務に集中できるように煩雑な事務作業や時間のかかる作業を効率化する姿勢も経営者として求められます。
デイサービス事業を展開するフランチャイズに加盟することで、本部の持つ研修ノウハウを活用できたり、スタッフ指導を行ってくれたりするというメリットがあります。
付帯サービスの充実でライバルとの差別化
競合が多い分、介護サービスのみならず付帯サービスとして介護保険外サービスを充実させるなども差別化に効果的です。介護保険外サービスとは、介護保険の対象とならない自費で利用するもので宅食、訪問理容、家事代行、外出付き添い、送迎などです。介護を必要とする高齢者がどんなサービスを求めているのか理解し、付帯サービスもメニュー化します。
フランチャイズ本部によって内容や条件は異なりますが、そのような介護保険外サービスのノウハウやルートを持つフランチャイズもあります。開所する予定の地域や利用者の特性を考慮し、どんな介護サービスが求められているのか見極めていきましょう。
運営指導に備えておくことで法令違反を回避
介護保険は国によって運営されているため、行政からの介護施設への運営指導が行われています。実地指導とも呼ばれていましたが、令和4年からオンラインでの指導も内容に含まれるようになり、運営指導と呼ばれるようになりました。法令で定められている基準を満たしているのか判断され、必要であれば指導が入ります。事前に備えておき、法令違反によるペナルティを回避するようにしましょう。フランチャイズならば運営指導への対策についても本部へ相談できます。
参考:厚生労働省|介護保険施設等運営指導マニュアル 令和4年3月
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下記記事ではフランチャイズの仕組みを解説しています。参考にしてください。
https://entrenet.jp/magazine/25755/
まとめ
高齢化社会において欠かせない役割を担うデイサービス(通所介護)は、今後も需要は増大していくと考えられます。しかし開所したからといって、失敗なく事業を続けられるわけではありません。資金不足対策や人材確保など、経営者としての手腕は大きく問われます。
フランチャイズに加盟すれば、本部の持つノウハウやマニュアルを活かして個人で開所するよりもはるかに効率的に開所できるはずです。本部によってサービス内容や加盟店の条件も異なるため、ぜひアントレネットを参考にして比較してみてください。
<文/北川美智子>