大学2年生の頃、あなたはどんな日々を過ごしていましたか?
勉強・恋愛・サークル活動。あるいはすでに就職活動に向けて動き出していた人もいるかもしれません。
ですがあるサッカー青年は、“年齢”や“経験”という概念を飛び越えて「起業」にチャレンジしました。
その青年の名は木村友輔さん。
昨年にサッカーの練習メニュー共有サイト「シェアトレ」(http://www.sharetr-soccer.com)を運営する「株式会社シェアトレ」を同じ大学の仲間3人と設立し、代表取締役に就任。
立ち上げから約1年で知名度を上げ、サッカー界を始め、各メディアから高い注目を浴びています。
学生でありながら起業に踏み切った背景には、どのようなきっかけや思いがあったのでしょう?
木村さんの起業に至るきっかけと、将来に向けた今の思いを聞きました。
木村友輔さん
筑波大学体育専門学群3年(休学中)。1996年生まれ、東京都出身。
小石川中等教育学校卒。12年間続けたサッカーで中学時代には東京都フットサルリーグで最優秀選手賞、得点王、ベスト5を受賞。
その後、筑波大学体育会サッカー部に所属しながら、全国の指導者が自分の練習メニューや指導法を投稿して共有できるサイト「シェアトレ」を開発。
スタート5ヶ月で、月に2万人の指導者が訪れるサイトに成長し、現在は筑波大生5人でサイトを運営中。
また経済産業省が主催している次世代のイノベーターを育成する「始動Next Innovator 」に最年少で参加。
http://www.sharetr-soccer.com
本当の意味で「安定」するために、就職ではなく起業の道を目指した
ー木村さんは現役大学生で起業されていますが、会社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。
もともとは起業家ではなく、プロサッカー選手を目指そうと思っていました。
小学生から始めて、高校入学と同時に都内の有名なクラブチームに入団したりと、比較的順調にキャリアを積んでいきました。
しかし高校1年生の時、次第に実力に限界を感じ始め、その矢先に選手生命に影響するような大ケガをしてしまい「プロに行くのは厳しいな」と挫折してしまいました。
ーその挫折の後、どうされたのですか?
将来の夢を見失ってからは、何を目指したらいいのか、自分でも分からなくなってしまったんです。
その後、サッカーができなくなってからは、ひたすら本を読んでいました。以前から自己啓発本を読むことが好きだったので。
ケガから復帰するまでの間はとにかくたくさんの本を読んでいたのですが、たまたま読んだ本の中に、新たな夢を見出すきっかけになった1冊がありました。
それが、稲盛和夫さんの『生き方』でした。
京セラとKDDIを創業し、JALを再生に導いた、言わずと知れた「経営のカリスマ」稲盛和夫さんの生き様を見て「経営者ってカッコいいな」と思ったんです。
しかしどうせなら、ここまでお世話になったスポーツを絡めた事業をやりたいなと。その構想が、大学生になってから立ち上げた「シェアトレ」の原型でした。
ー「シェアトレ」というサービスについて教えてください。
大学入学後から少年サッカーのコーチを始めました。コーチになってから気づいたのですが、毎回練習メニューを考えるのって、とても大変なんです。
さらにメニューを考えても、そのメニューがこどものレベルにあっていないことも多く、サッカーを10年間やってきた僕でさえ、ちゃんと教えることができませんでした。
自分を決して上に見ているわけではありませんが、ある程度サッカーの経験を積んできた僕が、教える上で迷うということは、他のボランティアコーチはもっと迷っているんじゃないかと思ったんです。
そして実際に他のコーチに聞いてみると、やはり「1人ひとりのこどものレベルに合わせて均一に教えるのは、とても難しい」と言っていました。
アマチュアコーチの指導に役立つ、いい方法はないかと考えました。
そこで、練習メニュー考案に役立つサイト「シェアトレ」を作ってみようと思い付いたんです。
ーなるほど。それからすぐに起業されたのですか?
いえ。その時はまだ起業は考えていませんでした。
正直「シェアトレ」は自分の実績として就職に役立てられればいいな、くらいの気持ちで起業せずにサービスだけ立ち上げようと思っていました。
ですがある時、その考え方が180度変わったんです。
僕はよく「自分に足りないな」と思うことについて、その道のエキスパートにアドバイスを聞きに伺います。そして今回のテーマである起業については、知り合いの社長に手当たり次第自分の考えをお話して、意見を聞きに行きました。
すると、ある経営者の方に「既にやりたいことがあるなら、今のうちから起業した方がいいよ」と、アドバイスしていただきました。
僕は今まで、就職することが1番の「安定」だと思っていましたし、起業するにしても、一度就職をして会社員生活を経てから起業した方が良いのではないかと思っていました。
しかし早い内から「自分で何か価値のあるものを作り出す力」を養うべきだ、という言葉をいただき考えが変わりました。
会社に依存するのではなく、自分が世の中に価値を提供することができれば、まず食いっぱぐれることはありません。
就職とはあくまでも手段です。本当の意味で「安定」するには、自分で世の中に素晴らしい価値を提供できる人間にならなければいけない、ということに気付いたんです。
ーそれで起業しようと決意されたわけですね。
はい。
ただ、会社を立ち上げようにもお金が足りなかったので、クラウドファウンディングを活用して資金調達を始めました。
すると「練習メニュー考案に役立つサイトを作りたい」という僕の考えに、たくさんの方から賛同してもらえたんです。
多くの方から出資していただくことで、起業に必要な資金を集めることができました。
そういった支援もあり、大学2年生の時に「株式会社シェアトレ」を立ち上げることができたんです。
たった1年で検索順位トップを獲得! 「サッカーの初心者コーチ」にフォーカスしたニッチ戦略
画像出典:https://www.sharetr-soccer.com/
ー「シェアトレ」のサービスについて、より具体的に教えてください。
「シェアトレ」は、全国のサッカー指導者に練習メニュー動画を投稿してもらい、みんなでそれをシェアできる、トレーニング共有サイトです。
ですが指導者の方に動画を投稿してもらうだけではなく、自分が指導しているチームの宣伝もできるようにもなっています。
サイトの特徴としては、年代別・技術別・ポジション別・テーマ別と言った具合に、タグ検索で見たい動画がピンポイントで見られるようにしてあります。
例えば、シュート練習メニューが見たい時は「シュート」、試合の戦術を練りたい時は「戦術」で検索するとそれに関する動画が出てきます。
もし、見た動画を気に入って「また見たい」と思ってもらえたなら、「マイトレ」というボタンをクリックすると、自分のお気に入り動画としてサイト内に保存することができます。
しかし、練習メニューの動画を見るだけでは指導レベルは上がりません。そこでサッカーの知識を深められるコラムも掲載しています。
記事の執筆は、実際に現場で指導しているコーチに依頼して書いてもらっています。
実際に練習を教えるに当たって、具体的にどのように指導すればいいのか。練習を指導する上で、必要な基礎の部分が書かれているんです。
このように、初心者コーチにフォーカスしたサイトになっています。
ー日本全国の指導者の練習メニューが見られるなんて、初心者の方からすると本当に心強いサイトですね。このような動画共有サイトにしようと思ったのはなぜでしょう?
大学時代から1人暮らしをしているのですが、自炊をするときに「クックパッド」を使ったことがきっかけです。
様々なユーザーの作ったメニューをシェアできる「クックパッド」を見た時に、これのサッカー練習メニューバーションがあったら面白いんじゃないか」と閃いたんです。
ー「シェアトレ」ではどこから収益を得ているのですか?
広告収入がメインとなっていますね。
例えば飲料メーカーや用具品など、「シェアトレ」との相性の良い、スポーツに特化したアプリやサービスのページへ飛んでいくようになっています。
また「シェアトレ」はサッカー指導者が3万人以上訪れるサイトにまで成長しているのですが、指導者がここまで集まるサイトは他にないんです。
サイトを見ている人がかなりニッチな層なので、一見するとマネタイズが難しそうに見えますが、逆にサッカー指導者というニッチな層を独占することによって、その層と相性の良い広告を出すことができます。
おかげさまで全国のサッカー指導者からの支持をいただけるようになり、サイトを見ていただいているユーザーが、継続的に流れるようになりました。
そしてローンチからわずか1年経たずに、検索順位のトップを取るコンテンツもいくつか出てくるようになりました。
例えば「サッカー 練習メニュー」などで検索すると、トップに出てくると思いますよ(笑)。
ニッチな層ではありますが、そこでNo.1でいられることはかなり強いなと思いますね。
「0から1」を生み出し続けたい。自分の人生に責任を持つ覚悟
ー木村さんの今後の展望を教えてください。
「シェアトレ」を始めてみて気づいたんですが、僕は「0から1」を生み出すことが得意ですし、好きなんですよ。
だから新規事業を立ち上げてある程度にまで育てるのが、僕の仕事だと思っています。
僕が得意なことが「0から1」だとすれば、「1を10」にすることが得意なメンバーがいるので、事業を発展させる部分はメンバーに任せてしまおうと思っています。
「シェアトレ」は現段階でのサービスを成長させつつ、今後は新しい事業も模索していきたいですね。
また、僕個人としては“シリアルアントレプレナー”(何度も新しい事業を立ち上げる起業家)を目指しています。
もちろん「シェアトレ」のサービスも含めてですが、スポーツビジネスをもっと極めた上で、スポーツ以外の分野でも起業してみたい、という思いも強いんです。
とにかく、常にアイデアを生み出せる立場にいたい。一生「0から1」を生み出し続けたいんです。自分の好きなことをずっと続けていけるような、そんな人生を送っていきたいですね。
ー最後に、起業・独立を考えている方へ何かメッセージをいただけますか?
自分の気持ちに正直に「意志」を持って生きることを、大切にしてほしいですね。
全ての人の人生に言えることでもありますが、その中でも特に、独立・起業という選択は「答えがない世界に飛び込むこと」です。
その世界で生きていくためには、常に自分の頭で考えて、自分なりの「答え」を模索し続けなければいけません。
その荒波の中を、生半可な覚悟では生き抜くことはできません。現に僕も何度も挫けそうになりました。
でもその度に、自分のやりたいことや実現したい世界観といった、今の自分を突き動かしている「意志」の力で乗り越えてきました。
自分がなぜ独立・起業をするのか。自分の「意志」を明確にすることで辛い時もがんばれますし、自分の人生に責任を持つ覚悟が生まれます。
なんだかとても独立・起業に対してのハードルを上げてしまいましたが(笑)、自分の人生に責任を持つことは、厳しさ以上の楽しさがあります。
独立・起業を考えている方はぜひ一度、ご自身の「意志」を再確認してみてください。