一昔前だと、“会社譲渡”に対してネガティブなイメージがあったかもしれませんが、今では後継者のいない会社の事業承継に利用されています。他にも、事業の選択や事業に集中をするための子会社売買など、中小企業にてよく利用される方法になってきています。
今回は、会社譲渡の契約条項や注意点について解説します。
会社譲渡でなぜ契約書が必要なのか
会社譲渡をする場合いくつかの方法が考えられますが、ここでは“全株式を譲渡すること”を前提に話をしていきます。
株式の譲渡ですから、全株式を相手の望む価格で渡してしまえば済んでしまうことでもあります。
しかし、購入側からすれば簿外債務などがあったら困るため、事前に調査をして株式の適正な評価をしなければなりません。したがって、会社譲渡においては、資産や契約関係を正しく評価して株式の譲渡価格を決めるとともに、隠れ債務や瑕疵などがあった際の取り決めなどを事前に交わす必要があるのです。そのためにも、しっかりとした契約書を交わさなければなりません。
会社譲渡の契約書に記載する契約条項
会社譲渡の契約書に記載する条項としては、以下のものがあります。
・株式の譲渡対象である会社の名称、住所
・譲渡の対象となる株式の種類、株式数および株主名
・株式の譲渡価格
・譲渡代金の支払い方法
・譲渡承認手続きおよび期限
・株主名簿書き換えへの協力
・表明保証
契約条項における注意点
まず、譲渡対象の株式が発行されているのか、いないのかを確認しましょう。
2006年5月1日以降に設立の会社は、定款に特に定めがなければ株券は不発行となっています。逆にそれ以前であれば、定款に特に定めがなくても、株券が発行されることになっています。株券発行会社と不発行会社では手続きが異なるため注意が必要です。
一般的に非上場会社であれば、株式には譲渡制限がついています。譲渡制限がある場合には、譲渡には株主総会もしくは取締役会による承認が必要な上、株式の名義書き換えにも協力してもらう必要があります。譲渡の承認が下りたら、速やかに名義書き換えを行うよう、契約で決めておくことができます。
株式の譲渡価格は慎重に吟味して決定することが望まれます。有形の固定資産だけではなく、信頼や評判といった無形の資産についてどの程度評価するのかによって、価格は大きく変わる可能性があります。価格によっては、売却側では譲渡益が発生し、課税される場合もあるでしょう。購入側でものれん代が発生して、償却費がかさむ恐れがあるため注意が必要です。
表明保証とは、譲渡株式について、売却側が購入側に対して行うさまざまな保証を記すものです。購入側にとっては譲渡にあたり、財務や人事、契約などが無事に継続されることが望ましいです。予期していない債務が発見されたり、契約が消滅していたりなど、不測の事態が起こった際の手続きは、記載しておくべき重要なことです。一方、売却側としては、保証を多くしすぎると売却後も心配の種がつきませんので、保証はなるべく最小限にするほうが良いでしょう。
元の株主がすぐに競業する事業を行わないようにする競業禁止義務や損害賠償の規定なども、考えておいたほうが良い項目です。
会社譲渡契約でひな形使用は危険!?
会社譲渡で契約書を作成する場合、ひな形を使っても良いのでしょうか。インターネットで検索すれば、契約書のひな形はすぐに出てきます。しかし、インターネット上で見つけたひな形は、そのまま使わないほうが良いでしょう。
同じような取引を多く行う場合には、最初にひな形を作って必要な部分を変更すれば良いのですが、会社譲渡は一つひとつ内容が違ってきます。そのため、ひな形はあくまで“ひな形”と考え、都度内容を修正したほうがいいでしょう。それぞれの譲渡で何を重視するのかや押さえておくポイントが異なるため、契約書は専門家を交えて作成したほうが良いといえます。
契約書における基礎知識
普段、あまり契約書になじみのない人は、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。まず大切なのは、“原則、お互いが平等でなければならない”ということです。相手側が一方的に有利な権利をもっていたり、売却側が不当に幅広い義務を負ったりしないようにしましょう。例えば、契約の解除権であれば、お互いがもつべきものです。
また、瑕疵担保においてあまりに長い期間を設定すると、売却側としては不安を抱えたままとなってしまいます。通常は契約書の作成に不慣れな方が多いと思いますので、専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
会社譲渡は1対1の契約なので、細かな条項は当事者間で決めなければなりません。したがって、契約書のひな形を使用すること自体は問題ないですが、本当に契約すべき項目がすべて網羅されているかは、専門家にチェックをしてもらったほうが良いでしょう。