司法書士は、司法書士法に基づいた国家資格で、暮らしの法律家とも呼ばれます。
一方、巷では「司法書士は独立しても仕事がない」「AIに将来とってかわられる職種だ」という噂が流れていたりもします。
本記事では「司法書士は仕事がない」という噂の真相や、「司法書士として成功するためのポイントは何か」などを紹介していきます。
司法書士の平均年収は「971.4万円」
厚生労働省の「令和4年(2022年)賃金構造統計調査」によると、司法書士の平均年収は約971.4万円です。
これは、全産業の平均年収約596万円と比較しても高い水準といえます。
しかし、この数字はあくまでも平均値であり、個人の年収は大きく異なります。
独立・開業した司法書士の平均年収
独立開業している司法書士の場合、年収が2,000万円を超える人もいれば、300万円程度にとどまる人もいます。
日本司法書士会連合会が発行している「司法書士白書 2021年度版」を参考に見ていきましょう。
経費などを負担して事務所の経営にあたる人を経営者司法書士としていますが、経営者司法書士の令和元年度分の確定申決算書の金額「売上(収入)金額」は次の通りです。
「司法書士白書 2021年度版」(日本司法書士会連合会)
このグラフで最も多いのは1,000万円~4,999万円で、全体の約35%という数字になっています。
もちろん、個人事業主と会社員では年収の意味合いが異なりますので、一概にこの金額だけを参考にできるとは言い切れません。
しかし、多くは売り上げが1,000万円を何とか超え、そこから経費や人件費を引いて300万円から700万円ほどの年収といった司法書士が多いと思われます。
企業や事務所に所属している司法書士の平均年収
日本司法書士会連合会が発行している「司法書士白書 2021年度版」を参考に見ていきましょう。
「司法書士白書 2021年度版」(日本司法書士会連合会)
このグラフは、勤務司法書士624人を対象に、平成31年1月1日~令和元年12月31日までの年収(賞与を含む)を聞き取りした結果です。
最も多いのが、300万円~400万円未満で全体の約21%、次いで400万円~500万円未満が約18.3%でした。
一般的には、勤務年数が長いほど年収が高く、大規模な事務所よりも小規模な事務所の方が、年収が低い傾向があります。
「司法書士は独立しても仕事がない」といわれる理由
前述のとおり、全産業の平均年収を上回る給与水準の司法書士ですが、「司法書士が独立しても仕事がないのでは」という噂があるようです。
その理由と真相について、解説します。
AIの台頭
2015年のオックスフォード大学と野村総合研究所による共同研究では、司法書士の仕事の78.3%が将来的にAIによって代替される可能性があると示唆されました。
これは、司法書士の業務内容の多くが定型化された作業であり、AIが得意とする分野であることが理由と考えられます。
具体的には、登記申請書類の作成や審査、不動産登記簿謄本等の取得、遺産分割協議書の作成といった業務がAIによって代替される可能性が高いとされています。
しかし、この研究結果はあくまでも将来的な可能性であり、現時点ではAIが司法書士の仕事を完全に代替することはできません。
また、司法書士には「法律に基づいた判断やアドバイスを行う」「顧客のニーズを理解した上で最適な解決策を提案する」といった、AIには高度なコミュニケーション能力・コンサルティング能力が求められます。
AIが得意とする登記書類の作成や不動産登記簿などの取得といった分野はAIに任せて、司法書士はより高度な専門性を活かせる分野に特化する必要があるでしょう。
人口減による案件の取り合い
確かに、2009年から2021年までの不動産登記及び商業登記の件数を3年単位で見ると、全体的な減少傾向が見られます。
これは、少子高齢化や人口減少といった社会環境の変化による影響と考えられます。
しかし、これは司法書士の仕事が将来的になくなってしまうことを意味するものではありません。
司法書士の仕事は、登記手続き以外にも幅広い業務を担っており、時代や環境の変化に応じて、その役割も変化しています。
近年注目されているのは、民事信託や財産管理といった新たな業務への需要拡大です。
民事信託: 高齢化社会の進展により、認知症対策や相続対策として民事信託の利用が活発化しています。
司法書士は、民事信託の契約書作成や信託財産の管理など、民事信託に関する様々な業務に携わることができます。
財産管理: 高齢化や障害などにより、財産管理を自分で行うことが困難な人が増えています。
司法書士は、成年後見人や財産管理人として、財産管理に関する様々な業務を行うことができます。
これらの新たな業務は、従来の登記手続きとは異なる専門知識やスキルが必要となりますが、司法書士の資格を活かせる分野であり、今後ますます需要が拡大していくことが期待されています。
自分で登記手続きをする人が増えている
近年、司法書士に依頼せず、個人で登記手続きを行う人が増加している傾向があります。
- インターネットの普及により、登記手続きに必要な情報や手順を容易に調べられるようになった
- 経済的な事情から、この費用を節約したいと考える人が増えた
- 平日や日中に時間が取れない
といった理由が多いそうです。こうした層には
- オンラインによる登記申請手続きの更なる普及
- 低価格な司法書士サービスの登場
といったサービスの提供が望まれるでしょう。
「仕事が困らない司法書士」になるために必要な戦略
司法書士として独立・開業した後、安定した収入を得るためには「仕事に困らないための戦略」が必要になります。
具体的には、以下の項目を意識してみましょう。
専門性を高める
「仕事が困らない司法書士」になるためには、ニーズの高い特定の分野に特化し、専門性を高めることが重要です。
具体的には、以下のような分野があげられます。
相続: 相続問題は誰もが直面する問題であり、近年は高齢化社会の進展により、ますます需要が高まっています。
相続に関する知識や経験を深めることで、多くの顧客から依頼を受けることができます。
不動産: 不動産売買や賃貸借は、日常生活中頻繁に行われる取引であり、常に一定の需要があります。
不動産に関する知識や経験を深めることで、安定した収入を得ることができます。
民事信託: 高齢化社会の進展により、認知症対策や相続対策として民事信託の利用が活発化しています。
民事信託に関する知識や経験を深めることで、新たな顧客を獲得することができます。
事業承継: 事業承継は、後継者不足や経営者の高齢化といった問題を抱える企業にとって重要な課題であり、近年は需要が高まっています。
事業承継に関する知識や経験を深めることで、企業からの依頼を受けることができます。
仕事の幅を広げる
必要な資格を取得する: 民事信託業務や財産管理業務を行うためには、認定民事信託士や成年後見人などの資格が必要となります。
これらの資格を取得することで、専門性をさらに高めることができます。
研修やセミナーに参加する: 司法書士会や民間団体が開催する研修やセミナーに積極的に参加し、最新の法改正や実務に関する知識を習得することが重要です。
同業者との人脈づくり
司法書士の仕事は、人とのつながりが重要です。
多くの顧客を獲得するためには、積極的に人脈を築くことが重要です。
具体的には、以下のような方法が考えられます。
弁護士や税理士などの専門家と連携する: 他の専門家と連携することで、より幅広いサービスを提供することができます。
地域住民との交流を深める: 地域住民との交流を深めることで、地域のニーズを把握することができます。
司法書士会などの団体に加入する: 司法書士会などの団体に加入することで、他の司法書士との人脈を築くことができます。
経営ノウハウを身につける
4. 経営に関する知識や経験を身につける
独立開業を目指す司法書士にとって、経営に関する知識や経験は不可欠です。
会計: 収入や支出を管理し、損益計算書や貸借対照表を作成する必要があります。
マーケティング: 顧客を獲得するための戦略を立案し、実行する必要があります。
人事: 従業員を採用し、育成する必要があります。
法務: 契約書の作成や法令遵守に関する対応を行う必要があります。
これらの知識や経験は、独学で身につけることもできますが、経営に関する研修やセミナーに参加するのも有効です。
集客・営業に力を入れる
いくら優秀な司法書士でも、自分のことを知ってもらわなければ、仕事に困ってしまいます。
そこで、「仕事が困らない司法書士」になるためには、積極的にマーケティング活動を行い、自分の存在をアピールすることが重要です。
ホームページを作成する: 自分の専門分野や実績などを紹介するホームページを作成することで、顧客に自分のことを知ってもらうことができます。
ブログやSNSを更新する: ブログやSNSで法に関する情報や豆知識などを発信することで、顧客との接点を増やすことができます。
セミナーや講演会を開催する: セミナーや講演会を開催することで、自分の専門知識を披露し、顧客を獲得することができます。
名刺交換会や交流会に参加する: 名刺交換会や交流会に参加することで、他の専門家や顧客との人脈を築くことができます。
まとめ
独立して司法書士事務所を開業することは、資格があれば誰にでもできます。
ただ、司法書士としての仕事を継続していく、つまり事務所を経営していくためには、新規のクライアントを獲得し続ける必要があります。
司法書士に限らず、独立・開業には経営者としてのスキルも必要です。
成功するためには「事務所を構える場所」や「どのようなブランディング戦略をしていくのか」といった事務所経営に関して、しっかりと考えておくことが大切です。
そのためにも、独立する前から遺言書作成や相続対策などのセミナーの講師を務めるなどして「知名度やスキルを上げておくこと」「人脈づくり」「専門分野へ特化すること」など「自分の強みをつくること」を意識しながらしっかりと準備をしましょう。
また、個人では扱うのが大変な案件が舞い込むこともありますし、金額の大きな裁判や、税務などは司法書士では扱えないものもあります。
そのようなときのために、同業である司法書士の方とはもちろん、同じ地域の弁護士や税理士といった士業の人たちと互いに相談・協力できるようなつながりを作っておくとよいでしょう。
よくある質問
Q:司法書士は女性でも稼げる?
A:性別による年収格差はほとんどなし
近年、女性司法書士の数も増加しており、2021年における司法書士全体の約15%を占めています。
女性司法書士の活躍の場も広がっており、
相続に関する業務
離婚に関する業務
成年後見に関する業務
民事信託に関する業務
など、幅広い分野で活躍しています。
Q:司法書士は何年で独立できる?
A:資格があればいつでも可だが、
2~5年の勤務経験を積んでから独立する人が多い
「令和4年度司法書士試験の最終結果」によると、司法書士試験の合格者の平均年齢は40.65歳、「司法書士白書 2021年度版」によると司法書士会員の平均年齢は54歳と高い年齢層が多いことが分かります。
人を見た目で判断すべきではありませんが、業界に限らず、年齢を重ねた人の方が人生経験も豊富だから安心だと感じる人は少なくありません。そういった意味で見た目や経験というのもそれなりに大切といえます。独立・開業に適した年齢を一概にはいえませんが、ある程度の経験を積み、多少のことでは慌てず冷静に対処できるようになってからがよいでしょう。あくまでも一例のため、全ての取引先がそうとは限りませんが、自分が自信をもって判別できる知識や能力は独立を後押ししてくれるでしょう。
これは全ての士業に共通していえることですが、資格を取得して独立・開業したから「一生安泰」「何もしないでも仕事がくる」ということは絶対にありません。例えば、現代では司法書士の業務の土台となる民法・会社法をはじめ多くの法律が、頻繁に改正されますし、それに伴い新しい制度が次々に導入されています。裁判についても、時代の変化につれて多様な問題が取り扱われています。常に地道な勉強や営業努力をしていく必要があります。
(P.35より)
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Q:司法書士の独立開業にはいくらかかる?
A:50万円から150万円程度
司法書士は「開業費用」だけ見ると、他業種と比べても決して大きな金額は必要ないといわれていますが、開業時の事業規模によって必要な資金は大きく変わってきます。
まず、全ての人に共通するのが司法書士会への登録費用です。
登録料に25,000円、登録免許税に30,000円、司法書士会への入会は都道府県ごとに異なりますが35,000~50,000円程度、必要となります。
さらに司法書士会の登録後は、司法書士会の会費として月額25,000円程度が必要です。
そのほか、事務所を借りるのであれば物件にかかる費用、パソコンやプリンターといった備品、電話やインターネットなどの加入費や使用料、ホームページを開設するのであればサーバーを借りる費用などが必要です。
費用を極力抑えたいということであれば、自宅での開業を目指して、必要最低限の応接設備や一般的な事務機器を揃えれば開業することも可能です。
その場合は、開業費用として最低でも50万円程度の準備があれば開業することが可能でしょう。
開業資金を用意する際に融資を検討しているという方は、民間の金融機関の前に「国民政策金融公庫」の融資制度を検討してみましょう。
司法書士事務所の新規開業であれば、日本政策金融公庫の「創業支援制度」の融資条件を満たせるでしょう。
返済条件も緩やかで、最大3,000万円までの融資を受けることが可能です。
Q:司法書士の働き方について知りたい
A:1.司法書士法人で勤務する
2.個人の司法書士事務所や総合法人で働く
3.組織内司法書士
4.開業司法書士
1.司法書士法人で勤務する
司法書士法人は、司法書士の法人形態です。
収入が勤続年数にしたがって伸びていくケースが多いですが、収入の伸び率は一般の会社員と同程度というところがほとんどです。
開業司法書士と比べると、収入の平均が劣る傾向にありますが、常に顧客を開拓しなければならないというプレッシャーは小さく、将来にわたって安定した収入を得られるというメリットがあります。
個人の司法書士事務所と比較すると、司法書士法人には案件が集まりやすく、案件の内容も多種多様です。
収入アップというより、司法書士として色々な経験を積みたいという方におすすめの働き方の1つです。
また、被雇用ならではの厚生年金や健康保険、有給など福利厚生面でのメリットもあります。
2.個人の司法書士事務所や総合法人で働く
個人の司法書士事務所に勤務する場合、経営者である司法書士との相性がとても重要になってきます。
就業規則や有給休暇などが組織として整備されているか、自身の得意分野を伸ばし、キャリアアップに繫げることができるような場所であるか、などをしっかりと見極めましょう。
総合法人は、弁護士法人、税理士法人、司法書士法人、行政書士法人などさまざまな士業の人を集めた大規模な組織で、その名の通り総合的な案件に対応します。
司法書士に特化した法人と比べると、より大規模で複雑な案件に携わる機会を得られるというメリットがあります。
3.組織内司法書士
組織内司法書士は、一般企業の法務部や総務部などに所属して、司法書士としての専門知識を活かして働くという選択肢です。
一般企業での勤務の場合は、法律に対する専門性に期待して司法書士の有資格者を採用します。
司法書士としての執務能力というよりも、企業法務全般に対する知識や経験などを重視して採用を決める傾向にあります。
企業規模にもよりますが、収入や待遇などは司法書士法人などと比べると好待遇になるようです。
4.開業司法書士
開業司法書士は、独立・開業した司法書士のことをいいます。
この記事を読んでいるほとんどのみなさんが目指している、または検討している働き方でしょう。
司法書士が独立・開業する理由は人それぞれですが、多くは収入アップやワークライフバランスを考えてのことではないかと思います。
司法書士に限ったことではありませんが、独立・開業のメリットの1つは、受注する案件の内容や報酬、稼働量などを自分で決められる点です。
その分、案件を獲得するための営業活動から請求までバックオフィスの業務に関わること全てや、宣伝活動、そのほか経理や雑務に至るまでを1人で担わなければなりません。
司法書士は、専門性が高いことから独立・開業がしやすいというだけでなく、企業からの需要も高い傾向にある仕事です。
Q:司法書士として独立開業するメリット/デメリットとは?
A:メリットは自由な働き方、高収入、やりがい、専門性/
デメリットは安定した収入確保まで道のりが長く、長時間労働の可能性
司法書士として独立開業するメリットは、大きく分けて以下の4つが挙げられます。
1. 自由な働き方ができる
独立開業すれば、勤務時間や場所、休暇も自由に取得できます。
2. 高収入が期待できる
個人の能力や経験、経営状況によって年収は異なりますが、成功すればサラリーマンよりも高収入を得られる可能性があります。
3. やりがいのある仕事ができる
相続手続きや不動産登記手続きなど、クライアントの悩みや課題を解決することで、感謝の言葉を頂戴することも多いです。
4. 自身の専門性を活かせる
独立開業すれば、自分が得意とする分野や興味のある分野に特化した業務を展開することができます。
もちろん、独立開業にはデメリットもあります。
収入が安定しない
顧客を獲得しなければならない
経営に関する知識やスキルが必要
長時間労働になる場合がある など、
独立開業を検討する際には、メリットだけでなくデメリットも理解した上で、慎重に判断することが重要です。
<文/西川ちづる>