会社員などの給与所得者の年間所得は、勤務先から受け取った1年間の総収入額から、給与所得控除額を引いて算出します。一方、企業に勤めていない個人事業主は給与所得控除を適用することはできませんので、1年間の総収入から1年間にかかった経費を引いて、その年の儲けとなる所得を算出することになります。所得を算出して確定申告することで納税額が決まるので、収入額が同じであっても、経費が増えれば所得が減り、納める税金も減ることになります。
では、個人事業主に認められている経費はどこまでの範囲なのか、また上限はいくらまでなのか経費について知っておきましょう。
経費とは
経費とは、事業を営むのに必要な費用のことです。個人事業主が事業所得額を算出する際に、必要経費に算入できる金額は、以下の額です。
・総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
・その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
つまり、事業収入を得るために使ったお金が経費ということになります。経費に計上できるかどうかは、事業収入を得るために直接または間接的に使ったお金であるかどうかが大切です。
例えば書庫を買った場合、自分の趣味の雑誌を入れる目的であれば生活費であり経費にはなりませんが、顧客のデータを保存するためであれば経費としての計上ができます。
経費として認められるもの
個人事業主の場合、事業収入を得るために支出した費用は基本的に経費にできます。例えば、以下のようなものは経費計上できます。
・販売する商品を仕入れた代金
・販売する商品を作るために他者に仕事を依頼した際の外注費
・商品を販売するために得意先まで往復した際の交通費
・得意先に商品を買ってもらうための接待費
・営業事務を行うための事務用品購入代 など
他にも経費として認められるもので、経費にできるか迷いやすいものは以下のようなものです。
・従業員に支払う給料(給料賃金)
・従業員の健康診断費用や社員旅行など慰安の費用(福利厚生費)
・業務用資産の購入などのための借入金の利息(支払利息)
・事業税や業務用の部分に対する固定資産税(租税公課)
・携帯電話料金やインターネット回線使用料(通信費)
・取引先の冠婚葬祭の祝儀(接待交際費) など
家事按分で経費にできるもの
家事按分とは、事業用にもプライベート用にも利用しているものを、利用している割合などから生活費と事業費に分けることを指します。家事按分で、事業用とできる費用は、電気料金・通信費・家賃・光熱費・駐車場代などです。
基本的に事業のための費用なら、経費計上できます。家事按分の方法は、費用によって異なります。例えば、自宅兼事業用として家を借りていて家賃を経費計上する場合は、事業用に使っているスペースの床面積がどれくらいの割合か算出して計算します。
例)
床面積60平方メートルで家賃10万円のマンションの15平方メートルを事業用として利用している場合
15平方メートル÷60平方メートル=0.25×10万円=25,000円
この場合だと、経費計上できる家賃は25,000円となります。事業用で使っていない範囲は、経費計上できないので気を付けましょう。加えて、水道光熱費や通信費など事業とプライベートの両方で使っていて一緒にお金を支払っている場合は、それぞれを適切な割合で按分して経費と認められる額と認められない額を算出します。
また「個人事業主のための支払い(国民健康保険・国民年金など)」「家庭用の支払い(事業以外で使用したガソリン代・事業とは関係ない買い物など)」のようなものは経費計上できないので、経費計上する際は「事業で使っているものであること」をベースに考えましょう。
経費として認められないもの
事業収入を得るための支出ではない費用、つまり個人事業主がプライベートで使用するものや家族が使うものに支払ったお金は経費にはできません。
その他にも、事業と関係があっても経費にならないものがあります。以下がその例です。
・個人事業主自身が受ける健康診断の費用
・取引先へ車で行った時の駐車違反の反則金など各種の罰金
・所得税や住民税、税金の延滞金 など
個人事業主には給与という概念がないため、「給与」という科目で経費に計上できません。上記の例のように経費として認められる範囲を理解せずに経費計上してしまうと、税務署から調査が入ることもあります。この調査で本来、納めなければならない税金を納めていないという状態を作ってしまうと、最悪の場合、脱税とみなされてペナルティを課せられることもあります。
経費の上限はいくらまで?
個人事業主の経費計上額に上限はありません。事業に関係する支出であれば上限なく経費として認められます。しかし、実際には、いくらでも経費として認められるかというと、そうでもないようです。
年間の売り上げが100万円である個人事業主が、100万円以上の接待交際費を使っているとしたら、事業で使ったのではなくプライベートで使ったのではないかと疑われることになります。
個人事業主に経費の上限はないものの、「どのくらいの頻度で」「どのような場所で」「何のために」「いくら使ったか」も、経費として認められるかどうかのポイントになってきます。
事業に関係する支出をした時は、レシートや領収書を受け取ると同時に、使用目的を記載しておくようにしましょう。
個人事業主が経費計上するには支払いの証明書類が必要
個人事業主が経費計上する際は、支払いを証明するための証拠が必要です。代表的なものは、レシートや領収書です。
証拠書類を提示した際に、チェックされる項目は以下のようなものです。
・支払いがわかる日付
・支払った人の名前や会社名
・支払金額
・支払いを受けた人の名前や会社名・会社の所在地
経費計上した際の証明としてレシートや領収書を保管する際は、これらの項目がわかるかどうかを確認するようにしましょう。
領収書とレシートはどちらがいい?
結論から述べると、事業の必要経費であることを証明できる書類であれば、領収書でもレシートでも、どちらでも問題ありません。
「経費といえば領収書」というようなイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、より多くの情報を残せるものはレシートでしょう。領収書は、多くの情報が残るものというよりも「この金額を受け取りました」という事実を証明するものに近いです。
基本的にどちらでも構いませんが、特にこだわりがなければ、レシートの方を保存しておく方が得策かもしれません。
領収書やレシートがない、紛失した場合は?
領収書やレシートを紛失した場合は、普段からクレジットカードを利用することが多い方はクレジットカードの明細から情報を洗い出しましょう。
もしもクレジットカードの明細も紛失してしまった場合は、クレジットカード会社に連絡して明細を郵送で送ってもらいます。窓口に問い合わせれば、数日で送付してくれるでしょう。
クレジットカードで支払ったのではなく、領収書やレシートも紛失している場合は、購入した店舗にかけあって「再発行」をお願いするという手もあります。
ただし、領収書やレシートは基本的に売買の時に発行されるものです。再発行してもらえないケースや、再発行にはお金がかかるケースもあることを想定しておきましょう。
個人事業主が節税する時の6つのコツ
個人事業主の税金は節税対策を行うことによって、税負担を軽くできます。節税対策をすることで、たとえ同じ収入でも支払う税金が10万円〜100万円以上変わることもあります。
ここからは、個人事業主が節税する際のコツを6つ紹介します。できるだけ無駄な税金を支払わずに済むよう、参考にしてみてください。
節税のコツ1. e-Taxで青色申告をする
個人事業主の節税のコツ1つ目は「e-Taxで青色申告をする」ことです。
確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類の方法がありますが、青色申告の方が白色申告よりも課税対象額に対する控除額が大きいというメリットがあります。
青色申告の特別控除は65万円でしたが、2020年分からはe-Taxで申告した場合は最大65万円、そうでない場合は最大55万円となりました。e-Taxで青色申告をするのは、個人事業主が節税する時の基本といえます。
節税のコツ2.経費にできるものがないか、支出を見直す
個人事業主の節税のコツ2つ目は「経費にできるものがないか支出を見直す」ことです。
事業を行ううえでかかった費用はすべて経費計上できます。例えば、仕事中に利用したタクシー代や、仕事で使うPCやPCソフトなどの道具です。
経費にできそうなものは、なるべく経費計上して節税対策をしましょう。
節税のコツ3.減価償却の特例を受ける
個人事業主の節税のコツ3つ目は「減価償却の特例を受ける」ことです。
減価償却とは、車やパソコンのように時の経過等によってその価値が減っていくものを購入した場合は、その耐用年数に合わせて分割して経費計上しなければならないという規則です。
確定申告を「白色申告」で提出している場合は取得価額10万円以上、「青色申告」で提出している場合は取得価額30万円以上のものが基本的には減価償却の対象です。 減価償却のルールに従って複数年に分けて経費計上していくことになります。
節税のコツ4.会計ソフトや確定申告ソフトで帳簿付けを楽に
個人事業主の節税のコツ4つ目は「会計ソフトや確定申告ソフトで帳簿付けを楽にする」ことです。
「freee会計」や「マネーフォワード クラウド確定申告」のようなソフトを活用することで、より楽に帳簿付けができるようになります。
銀行口座やクレジットカードとの連携も可能なため、レシートや領収書がなくとも、銀行口座やクレジットカードの利用明細から自動的に仕訳してくれるものもあります。
会計ソフトや確定申告ソフトを活用することで、確定申告にかかる手間を省けるだけでなく、会計処理にかける時間も減らせるでしょう。
節税のコツ5.住宅ローンを組む前は、経費計上を抑えるのもアリ
個人事業主の節税のコツ5つ目は「住宅ローンを組む前に経費計上を抑える」ことです。
節税を考慮して経費計上しすぎると、収入が少ないことになり、金融機関に住宅ローンの借り入れを申し込んだ際に融資の審査が通りづらくなります。
今後、住宅を購入するなど住宅ローンを組むことを検討されている方は、経費計上を抑える方が得策といえます。経費計上は、住宅を購入してから考えるようにしましょう。
節税のコツ6.結局、税理士に相談するのが一番
個人事業主の節税のコツ6つ目は「税理士に相談する」ことです。税理士に相談・依頼すると、次のようなメリットがあります。
・帳簿付けや確定申告の正確性が上がる
・経理業務の負担が減り事業に集中できる
・正しい節税対策ができる
・資金繰りの相談ができる など
税理士に依頼すると依頼費用はかかりますが、その分、事業に集中できます。
「ある程度、費用はかかってもいいから事業に集中したい」「仕事に追われていて会計業務を行う時間がない」といった方は、税理士に任せる方が得策かもしれません。
税理士に依頼する費用を抑えたい方は、会計ソフトや確定申告ソフトを活用しましょう。現在では、確定申告を行ったことがない方でも、アプリ内で手順通りに進めれば確定申告できるソフトもあります。
状況に合った経費計上で、個人事業主のメリットを最大限に活かそう
個人事業主は必要に応じて取引先を接待する際に、経費を使うこともあるでしょう。しかし、経費はあくまでも事業を営むのに必要な費用です。
多額の経費を使うと、納める税金は少なくなりますが、経費として使った分は儲けが減っているということでもあります。
例えば、住宅ローンを組む際には、課税所得が少ないと審査に通りづらくなることもあります。何でも経費計上することが得だというわけでもありません。個々の状況に応じて、経費にするか、しないかを考えるようにしましょう。
事業を行うということは、儲けを出すことでもあります。正しく経費を計上することも、個人事業を成功させる1つのコツであると考えておきましょう。
また、経費については動画で詳しく解説していますので合わせてご確認ください。
会計の基礎知識。経費の仕訳は節税の基本です。
村上 年範さん/クレディ・テック株式会社 代表取締役
金融商品や不動産を活用した経営コンサルティングを得意とし、前職のプルデンシャル生命保険株式会社在籍時より担当したクライアント数は年間200社にのぼる。2013年クレディテック株式会社設立。金融と不動産を軸とし、税務・法務の観点から知識提供を行う、資産形成および財務のコンサルティングサービスを展開。海外不動産についても強いコネクションと発信力を持ち、これまでの取扱高は150MM以上。現在、「幻冬舎GOLD ONLINE」にて、幅広い資産形成ノウハウを連載中。【村上年範 運営】金融・不動産にまつわるYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCDq3bojqCvTnRXKu7Aur_Kg
<文/ほのゆき>