補助金も交付金も“国や地方自治体から支給される返済義務のないお金”です。いずれも新たな事業を構築したり、既存の事業において新たな設備投資を行ったりする場合などに利用します。
事業が活路を見出して存続したり、また新規開拓が成功・拡大したりすることで、企業等が増収・増益となり、それを通しての国・地域の発展と税収の増加を期待しての政策です。
何か新たな事業を展開する場合に、目的に合った補助金や交付金があるかどうかを調べて、返済しなくてよい資金を獲得できるとなれば、計画上かなり有利になります。
補助金とは何か
補助金とは、国や地方自治体が、企業・民間団体・個人などの事業をサポートするために給付するお金のことです。前述のとおり、原則、返済義務はありません。補助金は、その種類によって目的や補助金額・補助割合、申請できる経費、募集の時期などさまざまな種類があります。
中でも創業者や小規模事業の経営者に広く利用されているのが、「小規模事業者持続化補助金」です。これを例にみていきます。
「小規模事業者持続化補助金」は、例えばサービス業であれば従業員5名以下の小規模事業者が対象となり、販路開拓等への取り組みに対して最大50万円(補助率2/3)が支給されるというものです(通常枠の場合)。
例えば、2名で運営しているヘアサロンが新たにネイルのメニューも追加するのに、ネイルの施術に必要な機器の購入や改装のために75万円必要だとすると、審査が通れば最大50万円まで補助金が支給されるということになります。
申請できる経費の種類はかなり細かく決められていますが、仕入れに該当するものや、家賃などは対象外です。
ここにある販路開拓という目的を聞くとかなり大ごとな感じがしますが、飲食店がメニューを増やしたり、インターネット販売を始めたりするなど、新たに顧客を獲得するための施策であれば問題ありません。
このように各補助金に設定されている目的は文字通りに捉えるのではなく、自分の事業内容に引き寄せ、広い意味で捉えることが補助金有効活用のポイントです。
「小規模事業者持続化補助金 <一般型> ガイドブック」(小規模事業者持続化補助金事務局)
(P.2より)
※リンクの遷移先はPDFファイルです。ダウンロードに大量の通信費がかかる可能性があります。
交付金とは何か
交付金の意味は広く、補助金と同様に国または地方自治体が特定の目的をもって支給するお金のことを指しますが、基本的には国から地方自治体へ支給するお金です。
交付金を受けた地方自治体は、地域の実情に合わせて、交付金の趣旨に添った事業やプロジェクトを立ち上げ、その運営を民間企業または民間企業のプロジェクトチームに委託します。したがって、1つの民間企業が自ら企画する事業のために単独で交付金を受けるというよりは、国や地方自治体が行う事業やプロジェクトに民間企業がチームを組んで受託者として参加し、資金の交付を受けるということになります。
また、規模に関しても少額のものから億単位のものまであり、補助金と比べ極めて大きなものも存在するのも特徴で、事業が複数年にまたがるような場合は、交付金も複数年に分けて交付されます。
交付金が支給されている分野としては、まちづくり・地域活性化・地方創生・防災・復興などの地域経済への貢献性が高い分野が主となっています。中でも地方創生については、地方創生推進交付金(デジタル田園都市国家構想交付金)として令和5年度年度予算1000億円が計上されており、注目を浴びています。
「デジタル田園都市国家構想交付金 (令和5年度第1回) 採択結果について」(内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局・内閣府地方創生推進事務局)
※リンクの遷移先はPDFファイルです。ダウンロードに大量の通信費がかかる可能性があります。
補助金と交付金の違い
補助金と交付金ともに、さまざまな種類があるため、一概にはいえませんが、大まかな補助金と交付金の違いは上記のとおりです。
補助金の3つのメリット
補助金は交付金以外に、助成金とも比較されます。助成金は補助金と同様に申請して受給するものであり、仕組みが類似しています。ここからは、補助金にはどのようなメリットがあるのか、助成金と比較しながらみていきましょう。補助金の主なメリットは以下の3つです。
1. 助成金より種類が多い
2. 助成金より支給額が多い
3. 適用範囲が広い
それぞれのメリットについて、解説していきます。
1.助成金より種類が多い
補助金は、 政策目的の実行や達成に向けて国・地方公共団体が税金を活用し、企業や個人などを支援する制度です。募集は国の予算を組んだ後に始まるため、4月〜5月頃に一般的な補助金の公募が集中します。さらに、補正予算が組まれた後に追加募集されるケースもあります。
このような制度の特徴から補助金は種類が多様です。補助金の利用を考えている人や企業にとって、種類の豊富さはメリットといえるでしょう。
2.助成金より支給額が多い
補助金の支給額は目的や用途によって異なります。支給額は数百万円のものもあれば、大規模な政策等に関する用途であれば数億円規模など高額になることも珍しくありません。補助金の支給額の大きさは、利用を検討している方にとっては心強いでしょう。
3.適用範囲が広い
補助金の制度は、新規事業や創業促進など、国や地方公共団体によって行われる政策を着実に推進させる支援の1つです。目的達成のために必要になるであろう予算を算出し、民間部門を幅広く支援します。
さまざまな人が規制なく自由に補助金の申請ができるよう、補助金の適用範囲は幅広く設定されているので、見逃さないようにしましょう。
補助金の4つのデメリット
補助金は似ている仕組みの助成金と比較してメリットが多いのは確かです。しかし、補助金にもデメリットはあります。補助金のデメリットは、主に以下の4つが挙げられます。
1. 公募期間が短い
2. 申請しても支給されない可能性がある
3. 支給されるまでの時間が長い
4. 事業のすべての費用を賄えるわけではない
この補助金の4つのデメリットについて、詳しく解説していきます。
1.公募期間が短い
補助金の1つ目のデメリットは、公募期間が短い点です。
広く一般から募集する期間のことを“公募期間”といいます。補助金は上限額や最大件数が決まっています。そのため、公募方法が抽選や先着などによって決められます。
また、支給要件の発表から締め切りまでの期間が短いため、すぐに申請しないと締め切りに間に合わなくなってしまうこともあります。特に人気の高い補助金だと、公募期間の終了が前倒しになるケースも少なくはありません。狙っているものがあれば、すぐに申請できるよう、普段からこまめにチェックすることをおすすめします。
2.申請しても支給されない可能性がある
補助金の2つ目のデメリットは、申請しても支給されない可能性がある点です。
補助金は国・地方公共団体が政策目的を達成させるために、税金を使って予算を組み、民間企業等の新規事業促進というようなかたちで支援する制度です。補助金の原資は「税金」であるため、予算の範囲に制限があります。中には、「最大○件」といった要件のあることも多々あります。また、補助金の支給を受けるためには厳しい審査があります。お金を出す側も、より確実な事業に支給したいと考えるのは当然です。そのため、申請しても支給されない可能性もあるので、注意が必要です。
3.支給されるまでの時間が長い
補助金の3つ目のデメリットは、支給されるまでの期間が長い点です。
補助金の支給は公募期間への応募後、審査が行われます。審査に通った民間部門に対して、補助金が支給されます。しかし、補助金は上限額や最大件数が決まっていて、厳しく審査されるため、結果が出るには一定期間を要します。
中には申請してから1年後に支給されるケースもあるため、審査に通ったからといって、補助金に頼り切らず、支給されるまでの運転資金をしっかり確保しておくことをおすすめします。
4.事業のすべての費用を賄えるわけではない
補助金の4つ目のデメリットは、事業のすべての費用を賄えるわけではないという点です。補助金は、名前のとおり事業を“補助”するための資金です。補助金が支給されたからといって会社全体が潤うわけではありません。補助金の支給額は、事業のすべてもしくは一部を支援する以上のものではないのです。そのため、事業によっては、企業独自の資金調達が別途必要となります 。
今から使える補助金と交付金
最後に、今から使える補助金と交付金をそれぞれご紹介します。
補助金3選
補助金と一言にいっても、さまざまな種類があります。ここでは、おすすめの補助金を3つご紹介していきます。
1.IT導入補助金
2.小規模事業者持続化補助金
3.ものづくり補助金
それぞれ詳しく解説していきます。
1.IT導入補助金
1つ目におすすめする補助金は「IT導入補助金」です。IT導入補助金とは、売り上げ拡大や業務効率化などを目的にITツールの導入をする企業への補助金です。類型により補助額や補助率は異なります。
「IT導入補助金2023」(IT導入補助金2023後期事務局)
2.小規模事業者持続化補助金
2つ目におすすめする補助金は「小規模事業者持続化補助金」です。小規模事業者持続化補助金とは、小規模事業者の持続発展と、販路開拓をサポートするための補助金です。類型によって、上限額と補助率は異なります。
「小規模事業者持続化補助金」(小規模事業者持続化補助金事務局)
3.ものづくり補助金
3つ目におすすめする補助金は「ものづくり補助金」です。ものづくり補助金とは、革新的なサービス・試作品の開発などのための機械装置費・システム開発費をサポートすることを目的としています。人気の高さゆえ、競争率も高くなっています。
「ものづくり補助金総合サイト」(ものづくり補助事業公式ホームページ)
交付金2選
ここからは、交付金の例を2つご紹介します
1. 運輸事業振興助成交付金
2. 就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金)
それぞれについて、解説していきます。
1.運輸事業振興助成交付金
1つ目にご紹介する交付金は「運輸事業振興助成交付金」です。運輸事業振興助成交付金とは、バス協会やトラック協会等に交付される交付金です。以下のような事業の経費をサポートするために交付されます。
・旅客または貨物の輸送の安全確保
・サービスの改善および向上
・共同利用に供する施設の設置または運営
・災害時の物資輸送体制の整備
「運輸事業振興助成交付金制度の概要」(公益社団法人全日本トラック協会)
※リンクの遷移先はPDFファイルです。ダウンロードに大量の通信費がかかる可能性があります。
2.就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金)
2つ目にご紹介する交付金は「就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金)」です。就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金)では、次世代を担う農業者となることを志向する者に対し、就農前の研修を後押しする資金(2年以内)および就農直後の経営確立を支援する資金(3年以内)を交付します。
「就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金)」(農林水産省)
まとめ
補助金や交付金は原則返済義務のない“貰えるお金”ですが、自ら情報をキャッチして活用しなければ知らないまま終わってしまいます。
何か新しい事業アイデアが浮かんだ際には利用できる補助金や交付金がないか調べたり、お付き合いのある金融機関、国が全国に設置している無料の経営相談所であるよろず支援拠点などで専門家に問い合わせたりしてみてください。是非これらの制度を有効活用し、事業に役立てていきましょう。
齋藤雄史さん
税理士/公認会計士
宮城県仙台市出身。
高校卒業後、進学資金を貯めるため、新聞販売店に勤務。その後、地元の簿記専門学校に進学、東日本大震災同年の2011年公認会計士試験合格。
合格後、新日本有限責任監査法人福島事務所勤務。
法律の世界に魅せられロースクールに進学し、同時期に板橋区にて会計事務所を開業。
ITやクラウド対応を武器に顧客開拓に成功し、20代〜30代をはじめとする多くの起業家から厚い信頼を得ている。
借金を上手く使う人は、成功する。若き税理士が語る、お金との上手な付き合い方
<文/ちはる>