起業したばかりのころは、銀行からの融資で開業資金を調達するのはとても難しいのが現実です。そんなときに利用できるのが、助成金や補助金、そして日本政策金融公庫の「新規開業資金」「新創業融資制度」と地方自治体による「創業融資制度」ではないでしょうか。
これらの制度を活用すれば、事業の実績がなくても、一定の条件を満たし、事業の社会的意義や成長性をうまくアピールすることで、お金を借りることができます。本記事では、起業する際に知っておいた方が良い助成金や補助金の制度と、2つの融資制度について解説します。
起業時に使える助成金や補助金とは?
助成金や補助金は、国や地方公共団体が用意した資金支援制度のことです。金融機関からの融資とは異なり、返済の義務がないため、助成金や補助金を活用すれば起業する際の資金負担を抑えることができます。
最初に、助成金と補助金の概要を解説します。それぞれ制度の目的や条件に違いがあるので、助成金と補助金を検討している人は参考にしてみてください。
助成金
助成金とは困っている人を「助成する」という意味合いを持っています。
個人事業主になりたてのときは、仕事が安定して受注できないなど、資金繰りに悩むこともあるでしょう。このような悩みを抱えている個人事業主など事業者に向けた制度といえます。
ただし、助成金は公的な資金から給付されるため、誰でも受給できるわけではありません。助成金を受給するには、要件を満たす必要があります。要件の詳細については官公庁のホームページから確認できるので、申請を検討すべき助成金があればチェックしてみてください。
補助金
補助金とは、国や自治体が推進する政策・事業の「補助」を目的につくられた制度です。事前に予算や採択件数が定められている場合が多く、補助金を受給するためには審査もあります。
審査の際には、1ヵ月程度の公募期間中に事業計画等の必要書類を提出する必要があります。
また、補助金は予算枠が設定されている場合が多いので、条件を満たしていても必ず受給できるわけではありません。
給付金との違いは?
給付金は、助成金や補助金のように何かに取り組む必要なく、金銭を受給できるものです。
例えば、新型コロナウイルスの影響により売上高が減少した事業者に対する「持続化給付金」や無条件で世帯主に給付された「特別定額給付金(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関連)」などです。
給付金制度は、給付金を受給するための新規事業などに取り組む必要はなく、受給要件を満たした人全員に一定額の金銭が給付されます。
起業時に使える助成金・補助金7選
起業時に申請できる助成金4つ、補助金を3つ紹介します。
これらをうまく活用することで、起業時の金銭的な負担を減らせるでしょう。
キャリアアップ助成金
起業時に使える1つ目の助成金は「キャリアアップ助成金」です。
アルバイトや派遣社員などの非正規雇用労働者のキャリアアップを目的とし、正社員化や処遇改善をした事業主に対して助成されます。助成金の内容は、下記の6つに分かれています。
【キャリアアップ助成金】
・正社員化コース
・障害者正社員化コース
・賃金規定等改定コース
・賃金規定等共通化コース
・賞与・退職金制度導入コース
・短時間労働者労働時間延長コース
なお、2022年12月より「正社員化コース」は、人材開発支援助成金「人への投資促進コース」のうち自発的職業能力開発訓練、定額制訓練の加算額が9万5,000円から11万円に引き上げられました。この加算対象となる訓練には新しく「事業展開等リスキリング支援コース」も設置されています。そのほか、「賃金規定等改定コース」の助成金額は支給要件がかわり、助成額が拡充されました。
助成金の申請条件や申請方法・受給するまでの流れはこちらに厚生労働省のホームページに掲載されているので、キャリアアップ助成金の受給を検討している人はチェックしてみてください。
人材開発支援助成金
起業時に使える2つ目の助成金は「人材開発支援助成金」です。
従業員のキャリア形成を促進させるための職業訓練を行い、職に関連した専門的な知識や技能の習得を目的とした助成金です。業種や内容によって下記の9つのコースが用意されています。
【人材開発支援助成金】
・特定訓練コース
・一般訓練コース
・教育訓練休暇等付与コース
・特別育成訓練コース
・建設労働者認定訓練コース
・建設労働者技能実習コース
・障害者職業能力開発コース
・人への投資促進コース
・事業展開等リスキリング支援コース
これらの助成金を受給申請するには、受給要件を満たす必要があります。詳細については、こちらのサイトをご覧ください。
仕事と家庭の両立に関する助成金(両立支援等助成金)
起業時に使える3つ目の助成金は「両立支援等助成金」です。
従業員が働きながら育児や介護を両立できるような制度を導入すると支給される助成金です。
【両立支援助成金】
・出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金) ※中小企業のみ対象
・介護離職防止支援コース ※中小企業のみ対象
・育児休業等支援コース ※中小企業のみ対象
・新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置に関する助成金 ※中小企業のみ対象
・不妊治療両立支援コース ※中小企業のみ対象
・小学校休業等対応助成金(令和5年3月31日をもって終了予定)
中小企業のみ対象の助成金が多いため、申請時は助成金を受け取れるのかを確認してから申請しましょう。
「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置に関する助成金」は令和3年4月1日から令和5年3月31日までに、対象となる労働者に当該休暇を合計5日以上取得させた場合に助成されます。また、「小学校休業等対応助成金」は令和4年12月1日から令和5年3月31日の間に、新型コロナウイルス感染症対策で臨時休業となった保育所や小学校の子どもの世話や、新型コロナウイルスに感染した子どもの世話で有給休暇を取得した保護者が対象です。申請は令和5年3月31日で終了予定です。申請期限はどちらも令和5年5月31日までなので注意しましょう。
「仕事と家庭の両立に関する助成金(両立支援等助成金)」(東京労働局)
雇用調整助成金
起業時に使える5つ目の助成金は「雇用調整助成金」です。
新型コロナウイルスの影響で、事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るために休業を実施する事業者へ休業手当の一部を支給する助成金です。雇用調整助成金を受給するには、さまざまな要件を満たす必要があります。
なお、雇用調整助成金は令和2年4月1日から令和5年3月31日までの期間が対象です。申請は令和5年3月31日までとなります。制度自体は令和5年4月以降も継続しますが、取扱いについて は、新型コロナウイルス感染症の感染状況や雇用情勢を踏まえながらの検討となるため、該当する場合は早めに申請をするようにしましょう。
「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」ものづくり補助金
起業時に使える1つ目の補助金は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)」です。
これは、中小企業の製品・サービス開発、生産工程の改善などを支援する補助金です。補助金の上限額は種類によって分かれ、具体的には下記のようになります。
【ものづくり補助金の上限額】
・一般型:1,250万円(補助率1/2、再生事業者は2/3)
・グローバル展開型:3,000万円(補助率1/2または2/3)
14次の締め切りは令和5年4月19日(水) 17時です。
サービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金 )
起業時に使える2つ目の補助金は「IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金)」です。
この補助金の目的は「生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者を支援する」ことです。POSレジシステムや予約・顧客管理システムなど経営課題を解決するためのIT機器や・ソフトを導入し、それらを利用することで補助金を受給できます。
補助金の上限額は導入目的によって異なり、詳しくは下記のようになります。
・通常枠:最大450万円(補助率1/2以内)
・セキュリティ対策推進枠:最大100万円(補助率1/2以内)
・デジタル化基盤導入類型:最大350万円(補助率3/4以内または2/3以内または1/2以内)
令和5年10月より始まるインボイス制度に対応するための会計ソフトやツールを導入した場合などにも、IT導入補助金の「デジタル化基盤導入枠」が活用できます。
令和4年2月現在、令和5年の公式サイト・応募要項が出ていませんが、前年の公式サイトで確認すると、1次の申請が3月31日(木)受付開始です。
IT導入補助金2022
※令和5年度の公式サイトは令和4年2月現在未開設
「経済産業省関係 令和4年度第2次補正予算の事業概要(PR資料)」
(P.18より)
※リンクの遷移先はPDFファイルです。ダウンロードに大量の通信費がかかる可能性があります
事業再構築補助金
起業時に使える3つ目の補助金は「事業再構築補助金」です。
これはポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するために中小企業等の事業再構築を支援し、日本経済の構造展開を促す目的の補助金となります。新分野の事業展開、事業・業種転換、賃金引き上げなど、大規模な再構築を始める事業者を対象とした補助金で、補助金の上限額は1.5億円となっています。
なお、中小企業者枠(通常枠)では、補助額は100〜8,000万円(補助率2/3、6,000万円超えは1/2)です。
本記事で紹介した助成金・補助金以外も、もっと探してみたいという方は、経済産業省の「ミラサポplus」を見てみてください。
中小企業向け補助金・総合支援サイト「ミラサポplus」(経済産業省)
創業融資は、実績ゼロでも一生に一度のチャンス
開業資金の借入先としてお勧めしたいのが、「日本政策金融公庫」の融資です。
日本政策金融公庫は、学資ローン(教育一般貸付)などを知っている人もいるかもしれませんが、「日本政策金融公庫法」という法律に基づいて設立された政府系金融機関です。
創業融資とは、文字通り創業支援を目的とした融資で、起業前または起業間もない企業を対象にしています。
主な特徴としては下記の3つです。
1.国の施策にあわせた固定金利で借りられること
2.長期間の融資を受けられること
3.信用保証料がいらないこと
利用できる時期は限られていますので、これを活用しない手はありません。
日本政策金融公庫の融資限度額
日本政策金融公庫の創業融資で代表的なものは、「新創業融資制度」と「新規開業資金」です。
「新創業融資制度」は、日本政策金融公庫が行う中小企業向け融資の1つで、新たに事業を始める人や事業を開始して間もない(事業開始後税務申告を2期終えていない)方を対象にした制度です。
「新創業融資制度」の最大のメリットは、原則「無担保・無保証」で利用できることですが、融資される最高額は3,000万円(そのうち運転資金は1,500万円)となります。
また、原則「無担保・無保証人」であることから、その他の一般的な融資と比べると、返済の利率が少し高いといえるでしょう。
さらに、「創業に必要な資金のうち1/10以上は自己資金で賄うことができること」が条件となっています。
公庫資金の融資上限額は3,000万円ですので、上限いっぱいに融資を受けたいと考えるのであれば、少なくとも333万円は創業資金として利用できる自己資金が必要です。
返済期間は併用する各融資制度で定める返済期間に準じます。
また、「新規開業資金」は担保と保証人は要相談となりますが、新規事業を始める方はもちろん、事業開始後おおむね7年以内であれば最大で7,200万円(そのうち運転資金は4,800万円)までの融資を受けることができます。
自治体の制度融資と限度額
自治体の制度融資の特徴は、起業したばかりでも融資を受けやすいこと、日本政策金融公庫の新創業融資制度と比べて金利が固定されていたりすることや金利が安いことです。
ただし、各自治体によって融資の条件や融資限度額が異なり、条件が良い自治体があったとしても会社所在地の自治体でしか利用できません。
また、新創業融資制度や一般的な融資と比べると、信用保証協会の利用を条件とするなど、手続きが煩雑で、融資実行までに時間がかかることがデメリットになります。
起業時は助成金や補助金だけでなく、日本政策金融公庫の融資も活用しよう
日本政策金融公庫は、民間の金融機関と異なり、回収不能となるリスクが高い創業当初の小さな会社へ可能な限り融資を行うことで創業支援と国の経済発展に貢献することを目的としています。
そのため、民間の金融機関では断られてしまうような融資も受けられることがあります。
また、返済が滞ると新規融資を受けることが難しくなるので「今月は返すことが難しい」と思ったら、必ず担当者に相談をしてください。理由次第では、考慮してもらえます。
反対に、毎月遅れることなく返済をしていけば、担当者から新たな融資を紹介してもらえたり、自社にあった融資制度を紹介してくれたりすることもあります。
日本政策金融公庫の創業時支援や自治体の制度融資は、銀行などの融資と比べると融資を受けやすくなっています。もし、この2つで融資が受けられない場合は、銀行の融資でも同じ結果になる可能性が高いということです。
そうすると、どこからも開業資金を借りることができなくなり、開業が難しくなってしまいます。
そのようなことにならないように、この2つの融資制度を徹底的に調べて確実に融資を受けられるようにすることが重要です。場合によっては社会保険労務士などの専門家に頼るのも良いでしょう。
<文/ほのゆき>