昨今、さまざまな障がいへの認知が進み、障がい者向けのグループホームも増えました。この記事では、障がい者グループホームを開業するメリット・デメリット、開業にあたり知っておきたいポイントをまとめて解説していきます。
日本の介護・福祉業界の現状
日本の介護・福祉業界の現状を把握するのは、障がい者グループホームを運営するにあたり重要です。障がい者支援事業の利用者数はどのくらい増えているのか、福祉や支援に対して国としてどれほど予算を確保しているか、ご紹介していきます。
利用者は12年で約3倍。施設数は足りているのか?
障害者の地域移行を推進し、安心して生活をするための障がい者グループホームの利用者は、令和3年4月時点の実績で144,570人でした。入居対象者は全体で約414万人であり、入居実績は全体の3%ほどになりました。障がい者グループホームの利用は年々需要が高まってきています。施設の数には限りがあり、足りていないのが現状です。そのため、障がい者グループホームを開業しても入居者がいないという事態にはなりにくいと考えられます。
参照:厚生労働省 障害者の居住支援について(P.24)
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社会保険料で賄えるビジネス
「障害福祉サービス関係予算額」より捻出される訓練給付金の予算額は年々増加し、直近13年間で約3倍にまで増えています。令和5年度の予算は1兆5,079億円で、前年と比べて869億円も増加しています。これだけ国の予算が確保されるほど、障がい者グループホームなどの障害福祉サービスは需要があるのです。安定して収益を上げられる事業なので、参入を検討してみても良いでしょう。
参照:令和5年度 障害保健福祉部予算案の概要(P.1)
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障がい者グループホームとは
障害者向けのグループホームとは、障害者総合支援法による「障害福祉サービス」の1つで、「知的障害」「精神障害」「身体障害」のある方が集まり共同生活を送る場所です。
障害者向けのグループホームは、障害のある方が病院を退院したり、施設を退所したりしたあとに地域生活へ移行するためのサポートすることを目的としています。ホームには、障害のある方の生活面の支援するためにサービス管理責任者や世話人が配置されています。
障がい者グループホームに入居できる対象者は、障がい者総合支援法に定義されている障がいを患っている方です。
- 障がい者手帳を持っている方
- 障がい支援区分の1~6に認定されている方
- 身体障がい者においては65歳未満であり、障がい福祉サービスなどを65歳の前日まで利用したことがある方
認知症高齢者向けグループホームに関しては、こちらの記事をご覧ください。
https://entrenet.jp/magazine/42421/
(高齢者向け)認知症グループホームとの違い
障がい者グループホームに対して高齢者向け認知症グループホームは、家事を分担しながら認知症高齢者が共同生活を送る施設です。施設は病院のような場所ではなく、一軒家のような少人数で家庭的な雰囲気のある場所が適しています。入居者が共同で調理、買い物、洗濯などの家事を無理のない範囲で行うことは、認知症の進行予防や症状の緩和に効果があるといわれています。
高齢者向け認知症グループホームに入居できる対象者は以下のような方です。
- 要支援2要介護1以上の認定を受けた認知症を患っている65歳以上の方
- 介護保険で定められている特定疾病が要因で介護が必要な方
- 40歳以上64歳以下でも若年性認知症を患った方
フランチャイズで障がい者グループホームを開業するなら
障がい者グループホームをフランチャイズで開業するには、どれほどの費用がかかるのでしょうか。人の命を預かるサービスだからこそ、必要な経費はかさみます。どのような費用がかかるか、障がい者グループホームをフランチャイズで開業する際に知っておきたいポイントとあわせてみていきましょう。
障がい者グループホームの開業にかかる費用
障がい者グループホームの開業には、以下のような初期費用がかかります。
ランニングコスト
障がい者グループホームは、ランニングコストとしてフランチャイズ本部に支払うロイヤリティ以外に以下のような経費がかかります。
設備基準
障がい者グループホームは法人や自己所有物件であることを問わず、アパート、マンション、一軒家のいずれかの落ち着いた物件を用意することが推奨されています。
1人一室の個室を居室として用意することが原則とされており、入居者の私物が収納できるよう4.5畳以上の広さを確保するよう定められています。ただし個室の定員数に関して「利用者へのサービス提供において必要と認められる場合」のみ、2名一室の入居が認められます。
入居者が共同で日常的に利用する共用施設として食堂、台所、便所、洗面設備、浴室、消防設備(スプリンクラー)などの整備も必要です。段差解消工事や車椅子対応設備の導入が、場合によっては必要になります。従業員用の事務スペースや書類保管庫などは、利用者の生活スペースとして確保する共同施設とは別で設置することが規定されています。
人員配置基準
厚生労働省が発表した「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」にてグループホームの人員配置について定められています。
また、生活サイクルに応じて事業所ごとに日中・夜間・深夜の時間帯を定める必要があります。「日中の時間帯」における出勤している介護スタッフの勤務時間の合計は24時間以上になる必要があり、常に1人以上の確保をしなくてはいけません。
都道府県への申請が必要
障がい者グループホームを運営する際には、事業所ごとに指定を受けるために事前に都道府県に申請が必要になります。このとき、事業者は法人格を有する必要があり、法人格がない団体は特定非営利活動法人(NPO法人)等の法人格を取得しなければなりません。
フランチャイズビジネスの市場規模やメリット・デメリットなど、基本的なことから知りたい方は、まずこちらの記事を読んでみてください。
https://entrenet.jp/magazine/25755/
フランチャイズで障がい者グループホームを開業するメリット
フランチャイズで障がい者グループホームを開業するのには、どのようなメリットがあるのでしょうか。主な2つのメリットをご紹介します。
専門性が必要な場面で役立つ
フランチャイズでも障がい者グループホームを開業するには、入居者を募集するための集客はもちろん、それ以外に実地指導を受けたり、資料や申請書の作成をしたりなどの業務も行わなくてはなりません。
しかし介護福祉の難しいところは、集客するのに専門性が高いチャネルに出稿したり、病院や他の介護施設などといった特別なルートでの集客が必要になる点です。また、開業するにあたり必要な資料や申請書は書く項目が多く、誤った情報を書いてしまったり、漏れがあったりなどすると法令違反につながってしまうケースも少なくありません。フランチャイズに契約して開業する場合、このような複雑な申請や資料の作成はフランチャイズ本部がサポートしてくれます。不慣れな業務もフランチャイズ本部のサポートを得ることで、よりスムーズな開業ができるようになるでしょう。
専任のアドバイザーに相談できる
障がい者グループホームをフランチャイズで開業する場合、フランチャイズ本部により専任のアドバイザーを用意してもらえるケースがあります。開業するまで介護や福祉に関する知識や経験がなかったとしても、業界、サービス、関連法についてなど、さまざまな相談は専任のアドバイザーに乗ってもらえれば安心です。フランチャイズ契約をしていれば何かあったときにすぐに頼れる人がいるということは大きなメリットといえるでしょう。
フランチャイズで障がい者グループホームを開業するデメリット
フランチャイズで障がい者グループホームを開業していると、デメリットとも向き合わなくてはなりません。障がい者グループホームをフランチャイズで開業するデメリットを2点ご紹介します。
自由度が少ない
ご自身で理想とする障がい者グループホーム像があると、ときに本部との経営方針と自分のしたいことが合致しないケースが出てくるでしょう。もちろん、ビジネスの需要が合わないような場合には、フランチャイズ本部に新しい提案を持ちかけることも可能です。そこで承認が得られたら新たな経営方針を取り入れられるかもしれません。
しかし承認が得られない場合、やりたくないことや自分のホームには合わないことでも、やらざるを得なくなる可能性もあることを理解しておきましょう。
思ったほど収益があげられない可能性も
せっかく障がい者グループホームを開業しても、集客できなければ売り上げは立てられません。入居者を募集するためにはまず介護スタッフを雇い体制を整えなくてはいけません。仮にスタッフが確保できなかったり、入居者が集まらなかったりして売り上げがなくても、フランチャイズの場合には毎月ロイヤリティの支払いが必要になります。そのため、どれほどの額を毎月売り上げなくてはいけないかを念頭に置きつつ運営していきましょう。
障がい者グループホームの難点と失敗を避けるコツ
障がい者グループホームを失敗することなく運営していくためには、どのようなポイントを押さえておくべきなのでしょうか。
監査と実地指導の対策をみっちり行う
障がい者グループホームに限らず介護福祉のケアハウスなどでは、より良いケアを提供するために監査や実地指導を受けます。このときにもらった指摘は対策を講じてサービスの質向上につなげられるようにしましょう。
関連法案や業界の動向をよく調べておく
福祉や介護についての法律は、人口の割合の変化などに応じて日々変わりやすい性質を持っています。そのため、関連法案や業界の動向については常にアップデートしておく必要があります。費用はかかってしまうかもしれませんが、自己投資だと思って業界のニュースサイトなどを購読することをおすすめします。
スタッフケア、待遇改善
日々介護の仕事をしていると、ストレスがかかったり、精神的負担を抱えてしまったりする介護スタッフもいるでしょう。障がい者グループホームは介護スタッフありきの事業なので、スタッフのケアや待遇の見直しなどは怠らないようにしましょう。資格取得のサポートをしたり、福利厚生を充実させたりなど、有能な介護スタッフを確保し続けるための工夫は、オーナーとして考えるべきポイントです。
士業家に相談できるようにしておく
社会福祉事業である障がい者グループホームは、書類を提出したり、決められた場所にホームを建築したりなどすることで国の予算が使えます。しかし、そのための書類作成などには高い専門性が求められるため、フランチャイズ本部への相談だけでなく、より踏み込んだ相談ができる士業家を見つけておき、いつでも相談できる体制を整えておくことをおすすめします。
経営に専念できるように
スタッフありきの事業だからこそ、スタッフ業務に従事していると経営に専念できず疎かになってしまうリスクがあります。フランチャイズの中には、介護スタッフの補充はフランチャイズ本部で代行してくれるケースもあります。自分が経営に専念できるための方法を探り、それを叶えられるフランチャイズ本部を探しましょう。
地域となじむ努力を
障がい者グループホームは地域密着型の施設です。そのため、近隣住民との関係性は良好にしておくに越したことはないでしょう。近隣との関係を良好に保っておくことで利用者がより心地よく過ごせるようになると、「過ごしやすいグループホームだ」と口コミを得られ、将来的な集客につながります。
まとめ
現在、日本にいる障がい者の約3%ほどの方が障がい者グループホームを利用しています。需要はさらに高まるといわれていることもあり、今後の新規参入希望者は多いでしょう。しかし、専門性が問われる業界である上、人の命を預かる業種のため「上手くいかなかったら廃業すればいい」と簡単に手放せるものではありません。フランチャイズで開業するのであれば、サポートの充実度合いと相談しながら、契約先を見つけるようにしましょう。
<文/ちはる>