事業の立ち上げや存続・拡大のため、今手元にある以上の資金が必要になることもあるでしょう。
本記事では資金調達とは何かを解説し、
・資金調達が必要なタイミング
・採択できる資金調達の方法
について、企業の規模や状況に応じた“おすすめ”をご紹介していきます。
「事業を立ち上げたいけれど、自己資金が足りない」「事業を拡大するために、追加の資金が必要だ」という方は、ぜひこの記事を読んでください。
資金調達とは
“資金調達”とは、会社を経営するために必要な“運転資金”を融資などによって調達することを意味します。会社にとっての資金は、人間の身体でいうところの血液です。資金の流れが途絶えてしまうと会社は機能できなくなってしまうため、経営者は資金調達の方法を知っておくことが重要です。
資金といっても“短期資金”と“長期資金”の2つに分けられ、返済期間や調達目的はそれぞれ異なります。“短期資金”と“長期資金”について、ご紹介していきます。
短期資金とは
短期資金とは、返済期間が1年未満の資金のことです。短期資金には次のようなものがあります。
・決算資金
・従業員への賞与
・突発的な仕入費用や閑散期の固定費(季節資金)
・収支のタイミングのズレにより、一時的に不足する資金(つなぎ資金) など
簡単にいえば“突然、資金が必要になったとき”に、短期資金の調達が必要になります。
長期資金とは
長期資金とは、返済期間が1年以上の資金のことです。長期資金には次のようなものがあります。
・不動産や設備の購入にかかる費用(設備資金)
・売り上げや仕入れなど定期的にかかる費用(経常運転資金) など
長期資金は返済期間が長いため、金利も高く、負債として経営を圧迫しやすいです。しかし、長期資金として調達すべきものを短期資金として借り入れてしまうと、返済が間に合わなくなることもあります。金利や返済期間を踏まえ、余裕を持った資金計画を立てる必要があります。
資金調達の目的と役割
資金は会社を経営する上で欠かせないものです。資金調達をする目的は、事業活用を円滑に行い、事業を存続・発展させていくことです。
事業の発展のためには、雇用や設備投資を増やす必要がでてきます。資金調達とは、 手持ち資金を調達し、人や財産を増やすための役割を果たすものです。
資金調達をせずに事業を拡大してしまうと、手持ちの運転資金はやがて枯渇し、資金不足を起こし、会社が倒産してしまう恐れがあります。経営陣は資金不足に陥らないためにも、常に資金調達について考慮しておく必要があります。
資金調達と融資の違い
資金調達と“融資”とは、金融機関やその他会社などの第三者から資金を“借り入れ”て資金を得ることを意味します。
資金調達方法として、補助金や助成金の活用、クラウドファンディングなどがありますが、融資も資金調達の手段の1つです。
資金調達が必要になるケース
法人・個人事業主に関わらず、事業を進めていれば資金調達が必要な場面は訪れます。資金調達はどのようなときに必要になるのでしょうか。3つのケースを紹介します。
【資金調達が必要になるケース】
・開業、起業するとき
・事業拡大するとき
・資金が不足したとき
開業、起業するとき
資金調達が必要になる1つ目のケースとは、“開業・起業するとき”です。開業・起業するときは、事務所や店舗などの不動産、設備、集客など、さまざまな資金が必要になります。特に、事業所用の賃貸物件は、住宅用の物件よりも保証金などが高額となるため、初期費用が高くなります。エリアや物件によっては月々の賃料の10~16ヵ月程度を見込んでおいたほうがよいでしょう。
事業拡大するとき
資金調達が必要になる2つ目のケースとは、“事業拡大するとき”です。既存事業の規模を拡大したり、新規事業を興したりするときには、何かと費用がかかります。これまでの利益から賄える場合は資金調達の必要はありませんが、足りない分は外部から調達しなければなりません。
資金が不足したとき
資金調達が必要になる3つ目のケースとは、“資金が不足したとき”です。資金不足は経営難に陥ったときだけでなく、突発的なトラブルにより起こることもあります。
また、資金不足は、個人事業主にとってもよく起こり得ることです。最近増えてきたフリーライターやフリーエンジニアなどの“パソコン1つで始められる個人事業”でも、仕事の受注量が足りなくなり、事業を続けるために資金調達が必要になることもあります。
4種類の資金調達方法
資金調達にはさまざまな方法があり、目的や状況に応じて選ぶべき方法が異なります。4種類の資金調達と、それぞれの具体的な方法を紹介します。
【4種類の資金調達】
1.資産を売却し資金を調達する方法
2.資本を増やし資金調達する方法
3.負債を増やし資金調達する方法
4.補助金・助成金で資金調達する方法
1.資産を売却し資金を調達する方法
資金調達の1つ目の方法とは、“資産を売却し資金を調達する方法”です。この方法は“アセットファイナンス”とも呼ばれます。事業に欠かせないもの以外の資産を売り、現金に換える方法が主です。個人事業主なら、プライベートの“不用品”を売るのもよいでしょう。具体的には、次のようなものの売却方法があります。
【売却できるもの】
・不動産
・社用車
・機器、設備
・ゴルフの会員権 など
【その他の資産の売却による資金調達】
・ファクタリング:売掛債権(請求書)を売却し、支払期日よりも早く現金を得る方法
・リースバック:社用車や不動産などの資産を“リース会社”に売却し、リース会社とリース契約を結ぶことで売却した分の資金を得て、さらに資産を使い続けることができる方法
メリット・デメリット
すでに会社で持っている資産を売って現金化し、資金を得るアセットファイナンスのメリットは、買取市場がある車両、重機、不動産などの資産を売却することで、手早く現金化ができる点です。即効性のある資金調達を望んでいるのであれば、アセットファイナンスにメリットを感じる方は多いでしょう。
アセットファイナンスのデメリットとしては、現金化可能な資産を持っていないと、そもそも実施ができない点です。また、中には実際の評価額より低い価格で買い叩かれてしまうケースもあります。売却をする際にはどこで買い取ってもらうのか十分に検討しておくことをおすすめします。
2.資本を増やし資金調達する方法
資金調達の2つ目の方法とは、株式を発行して“資本を増やし資金調達する方法”です。“エクイティファイナンス”とも呼ばれます。
メリット・デメリット
エクイティファイナンスのメリットは、会社が減資や解散をしない限り資金を長期にわたって社内に滞留させられる点です。
株主が1万円で株を購入し、業績不振によって株式の価値が500円にまで下がってしまったとしても、企業は補償義務を負う必要がないのもメリットといえるでしょう。エクイティファイナンスによって集まった資金は借入金ではないため、資金が直接外部に行ってしまうことは、よほどのことがない限りありません。
信用面から借り入れや社債発行ができない企業でも、エクイティファイナンスであれば資金調達が可能です。ただし、エクイティファイナンスには買収や合併などのリスクがあるという大きなデメリットが伴います。通常の株式では経営権が株主の持分に応じて生じます。そのため、場合によっては投資家や投資企業が経営権を事業主から取り上げてしまうケースもあります。エクイティファイナンスにより資金調達をする場合は、外部の第三者が保有する株式の持分割合を十分に考慮しておきましょう。
3.負債を増やし資金調達する方法
資金調達の3つ目の方法とは、“負債を増やし資金調達する方法”です。“デッドファイナンス”とも呼ばれます。
負債を増やすとは、“借り入れ”をすることです。金融機関や国民政策金融公庫からの借り入れ、社債の発行などが“デッドファイナンス”にあたります。ここまで紹介した資金調達の方法の中でも、デッドファイナンスは“大きな資金の調達”に適しています。
メリット・デメリット
買掛金や支払手形などの仕入債務を増やしたり、借金をして手持ち資金を確保したりなど、負債を増やして資金調達するデッドファイナンスのメリットには、“レバレッジ効果”が挙げられます。レバレッジ効果がどのようにメリットとなるのかを説明します。
本来であれば設備投資に800万円しかかけられない自己資本1,000万円の企業であっても、500万円の借り入れをすることで設備投資に1,300万円かけることができ、より大きな利益を生み出すための設備投資ができるようになるのです。このとき、800万円の設備投資で300万円の利益が得られ、450万円の利益が1300万円の設備投資で得られるとします。すると、借り入れをしたほうが自己資本は1,000万円のまま大きな利益を得られるようになるのです。このように、自己資本に対する利益率(自己資本利益率(ROE))が高まることをレバレッジ効果と呼びます。
その一方で、融資を受けるためには企業としての信用が必要になります。不動産などの担保や保証人が必要になるのはもちろん、期日が来れば赤字経営であるかどうかに関わらず返済しなくてはいけません。担保や保証人が用意できなかったり、赤字でも返済しなくてはいけなかったりする点が、不安定さが残るベンチャー企業や零細企業にとってはデメリットになってしまうかもしれません。
4.補助金・助成金で資金調達する方法
資金調達の4つ目の方法とは、“補助金・助成金で資金調達する方法”です。
補助金は国や地方公共団体が事業者に対して支給するお金で、主に民間企業にはDX(デジタルトランスフォーメーション)・GX(グリーントランスフォーメーション)などの政策を達成するための支援金として提供されます。そのため原則として返済不要であり、一定の条件と審査が必要となります。補助金は予算枠が決まっており、競争に基づいて支給される「公募型補助金」と、特定の条件を満たせば支給される「指定型補助金」があります。
助成金も、補助金と同様に国や地方公共団体が支給し、社会的な課題の解決を支援します。こちらも原則として返済不要で、条件を満たせば支給されることがほとんどです。一般的に、助成金は補助金に比べて1事業者あたりの支給金額が少ないです。
補助金・助成金どちらも不正受給は厳しく罰せられ、返還命令や刑事罰、受給停止、信用の失墜などのリスクが存在します。
補助金や助成金の相談窓口は、商工会議所、地方自治体、国の行政機関、専門のコンサルティング会社などです。
参照:「【税理士監修】補助金・助成金とは?活用すべき事業者向けの制度7つを紹介」
メリット・デメリット
この方法では資産を手放したり、負債や株式が増えたりすることがありません。補助金や助成金は“返済しなくていいお金”だからです。
ただ、希望するタイミングで補助金や助成金の募集があるかどうかは分かりませんし、審査や手続きに時間がかかります。特に補助金は予算が決まっているため、要件を満たしていても審査に通るとは限りません。資金調達までには時間がかかり、それまでの“つなぎ資金”が必要になることも多いです。
資金調達をスムーズに進める3つのポイント
資金調達をするといっても、増資するのか、負債を増やすのか、資産を売却するのか、方法はさまざまです。どの方法で資金調達をするにしても、スムーズに資金調達を進めるためにはいくつかのポイントを押さえておく必要があります。
1.資金の使い道を明確にする
2.事業内容や経営戦略で信用を獲得する
3.会社規模に最適な金融機関を選ぶ
以上の3つのポイントをどう押さえるべきなのか、詳しく解説していきます。
1.資金の使い道を明確にする
資金調達をスムーズに行うための1つ目のポイントは、“資金の使い道を明確にする”ことです。
まずは“何のために”“いくら”自分が資金を調達しなければならないかを明確にします。特に何のために資金を使いたいのかは、最初に明確にしておくべきです。例えば、5年先に受注が見込まれる機械の購入を検討していたとしても、“何のために”購入するのかが明確にできていれば購入タイミングは今かどうかの重要な判断材料になります。
2.事業内容や経営戦略で信用を獲得する
資金調達をスムーズに行うための2つ目のポイントは、“事業内容や経営戦略で信用を獲得する”ことです。
上場株式の中でも、信頼のできる銘柄の株式は誰もが欲しがるでしょう。資金調達において、特にエクイティファイナンスにより資金調達を行いたいのであれば、株式に信用が必要です。株式が持つ対外的な信用度をアップさせるためにも、魅力的な事業内容や経営戦略を明確にして発信していくことをおすすめします。
3.会社規模に最適な金融機関を選ぶ
資金調達をスムーズに行うための3つ目のポイントは、“会社規模に最適な金融機関を選ぶ”ということです。
資金調達をする際、大きな額を融資してもらわなくてはいけないと思ってしまう企業担当者もいるかもしれません。しかし、融資を受ける際には自分の会社の規模がどれほどのもので、どれくらいの融資を必要としているのかをよく考慮するべきです。また、会社の規模や融資額に応じた最適な金融機関を見つけることも大事です。まずは、複数の金融機関で話を聞いてみることをおすすめします。
【ケース別】おすすめの資金調達方法とは?
資金調達にはさまざまな方法があり、それぞれメリットもあればデメリットもあります。どの方法を採るべきなのかは、状況や企業規模によって変わってくるでしょう。
しかし、企業規模や事業内容に応じて、ある程度の目安となるものはあります。どのような場合に、どの方法で資金調達するのがおすすめなのか、3つのケースに分けて紹介します。
【ケース別のおすすめ資金調達方法】
・個人事業主の場合
・スタートアップやベンチャー企業の場合
・中小企業や大企業の場合
個人事業主の場合
資金調達方法には以下のような方法があります。
【主に開業前に活用できる資金調達方法】
・補助金・助成金
・公的な融資制度
・家族や友人・知人からの借り入れ
・クラウドファンディング
・自己資金の活用
【主に開業後に活用できる資金調達方法】
・金融機関からの融資
・ファクタリング
補助金や助成金は返済不要で公的な資金支援を受けられますが、手続きが煩雑で受給の条件が厳しいことがあります。公的な融資制度は低金利のため返済が比較的短期間で可能であり、事業計画のサポートも受けられますが、手続きに時間がかかることや審査が厳しい場合もあります。
家族や友人からの借り入れは利息もありませんが、返済の遅れが人間関係に悪影響を及ぼす可能性があります。クラウドファンディングは基本的に返済不要で資金調達とプロモーションが同時にできますが、選ばれるためにはプロモーションやブランディングが必要です。
自己資金や資産の活用は返済や審査が不要であり、資金を貯める過程で経営感覚が育つメリットがありますが、時間がかかることや大きな額の調達が難しいというデメリットもあります。金融機関からの融資はまとまった金額が調達できるものの、綿密な事業計画書が必要で金利が高いことがデメリットです。
ファクタリングは未収金を即金化できますが手数料が高く、請求先や金額によっては利用できないことがあります。
以上の資金調達手段を比較検討し、事業計画に合った方法を選ぶことが重要です。
参照:「税理士監修【開業前後】個人が使える7つの資金調達と、リスクヘッジの方法」
スタートアップやベンチャー企業の場合
スタートアップやベンチャー企業におすすめの資金調達方法には次のようなものがあります。企業の成長フェーズ(シード期/アーリー期/ミドル期/レイター期)によって適した方法が異なります。
・ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの出資
・金融機関からの借り入れ
・クラウドファンディング
・助成金や補助金の活用 など
ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの出資は、返済不要で経営アドバイスや人脈拡大が期待できますが、出資者探しに時間と労力がかかり、出資を受けた後も経営方針に制約が生じます。シード期~ミドル期に適しており、上場を検討していない企業に向いているといえるでしょう。
金融機関からの借り入れはまとまった金額の調達・調整がしやすいという特徴がありますが、負債が増えるとその分利息が発生するうえ、審査も厳しいです。信用保証が必要でその費用は高額なため、利息と保証料、2つの支払いがその後の経営にのしかかります。成長フェーズによる制限はありませんが、特にミドル期以降のフェーズに適しています。
クラウドファンディングは資金調達の制限がなく、成長フェーズに制限なく適しています。プロモーションやブランディングにもなりますが、お礼の品やサービスの提供が必要で、プロモーションスキルが求められます。D2C(DtoC:Direct to Consumer)ビジネスに有利といえます。
補助金・助成金の活用は、返済不要で消費税対象外となることが特徴です。受給実績そのものが社会的信頼につながるため、他に検討している融資に対しても有利な条件をもたらすことが多いです。ただし、手続きが複雑で時間がかかるうえ、受給要件が厳しい場合もあります。成長フェーズに制限なく適しているのが特徴です。
参照:「【5つの方法】ベンチャー企業の資金調達は成長フェーズで考えよう」
中小企業や大企業の場合
中小企業や大企業におすすめの資金調達方法とは、次のようなものです。
・金融機関からの借り入れ
・社債の発行
・株式の発行
・不要な資産の売却、リースバック など
ある程度の企業規模や社会的信用がある企業であれば、金融機関からの借り入れもしやすいでしょう。社債や株式の発行でも出資者を募りやすく、元々の株式数が多い企業なら、経営権を握られるリスクも低いなります。長く続いている企業なら、不要な資産がたくさん残っているかもしれません。まずは売却できる資産がないか探してみてから、ほかの方法を考えるのがおすすめです。
最適な資金調達方法は、企業規模や目的により異なる
最適な資金調達の方法とは、企業規模や状況、目的によって異なります。本記事でご紹介した“ケース別のおすすめな資金調達方法”もあくまで目安です。実際に資金調達をするときは、必要な資金と社内の状況を照らし合わせて最適な方法を考えてみてください。
資金調達をするうえで大切なのは、情報収集です。自社の状況に合った補助金や助成金の募集が、たまたま良いタイミングで行われていたり、自社に出資してくれそうな投資家が、出資先となる企業を募っていたりするかもしれません。
まずは資金調達の方法を広く知り、それぞれのメリットとデメリットを把握してたうえで方法を絞り込み、リスクを最小限にできるものを選びましょう。
村上 年範さん/クレディ・テック株式会社 代表取締役
金融商品や不動産を活用した経営コンサルティングを得意とし、前職のプルデンシャル生命保険株式会社在籍時より担当したクライアント数は年間200社にのぼる。2013年クレディテック株式会社設立。金融と不動産を軸とし、税務・法務の観点から知識提供を行う、資産形成および財務のコンサルティングサービスを展開。海外不動産についても強いコネクションと発信力を持ち、これまでの取扱高は150MM以上。現在、「幻冬舎GOLD ONLINE」にて、幅広い資産形成ノウハウを連載中。
【村上年範 運営】金融・不動産にまつわるYoutubeチャンネル
<文/ちはる>