ケアプロ株式会社/東京都渋谷区
代表
川添高志さん(29歳)
忙しくて時間が取れない、保険証がないから経済的な負担が大きい――。長寿大国と称されるこの国には、様々な理由で健康診断を受けない、受けられない人が、年間3000万人を下らない。川添高志が2007年に設立したケアプロは、そんな人たちに安価で手軽にその機会を提供している。常設の店舗や出張サービスの会場では、血糖値、中性脂肪といった検査が1項目につきジャスト500円で受けられ、結果も数分で出る。小規模自営業者、フリーター、子育て中のママ……事業は、予想どおり「潜在需要」の心に届いた。
独立を志したのは高校1年の時。父親が突然のリストラに遭い、雇われる身の危うさを感じたことがきっかけだ。その後、ボランティア活動した老人ホームで、人手不足で高齢者をぞんざいに扱わざるを得ない現場の矛盾を体験し、起業の方向を医療分野に定める。決意を胸に関連の学部に進んだ大学時代、米国の医療視察に参加。大型スーパーの片隅で客が簡易な医療サービスを受けている光景を目にしたことで、「これだ」と事業の骨格は固まった。事業の全国展開、さらに新たなサービスの創出に向けて、川添は走り続けている。様々な「圧力」にも抗しながら。
本当に世の中に必要とされる事業なのか―自問自答を繰り返す。それが「社会貢献の企業化」を推し進める力になる
━ 初めから「社会貢献事業」をやりたいと考えたそうですが、成立に不安はありませんでしたか?
昔から、お金の問題を深く考えるたちではないんです(笑)。「世の中に必要なビジネスならば、失敗するはずがないだろう」という発想で、ずっとやってきました。だから、常に自問自答していたのは、「これは人々の役に立つ仕事なのか」ということ。そこに確信を持てていたから、必ず事業は成立すると思っていました。
━ ワンコイン健診は、どのように具体化していったのでしょう?
大学4年の時から2年間、医療専門のコンサルティング会社で医療経営に触れ、その後、東大医学部附属病院で看護師として働きました。病院では糖尿病の病棟に所属したのですが、症状の重い患者さんたちに、「なぜ、もっと早くに健康診断を受けなかったのか?」と聞いて回ったんですよ。その結果わかったのが、多くの人にとって、健診が意外に敷居の高いものだということ。
わざわざ医療機関に出かける時間がなかったり、予約が面倒だったり。さらに、保険証のないフリーターなんかにとっては、数千円という金額もネックになる。ならば、いくらなら受診する気になるのか、”値頃感”を詰めていったら「500円くらいなら」という声が非常に多かったんですね。あるべきサービスをこの価格で提供できれば、需要はあるということがわかったのです。
━ 2008年、第1号店として出店したのが東京・中野でした。
駅前の大きな商店街に狙いを定めたのです。店舗を構え、中には看護師が一人。例えば通りすがりで、予約や保険証がなくても、お客さんは、その場で看護師の補助を受けながら自分で指先から微量の採血をすれば、あとは数分結果を待つだけという、ファストフード感覚の健診です。最初の頃は知ってもらうまでが大変で、僕も白衣を着て、駅前で宣伝しました。人通りが途絶えると白衣を脱ぎ、「ワンコイン健診ってどこですか?」と商店を回ったり。店を認識してもらうための”サクラ”(笑)。
おかげさまで、口コミなどで来客数はだんだん増えて、開店から半年後には採算ベースに乗りました。久々に受けてみたら、数値が異常だったという人は、やっぱり多い。実際にやってみて、事業の社会的意義を再認識しました。ちなみに2店舗目は、昨年8月にオープンした東急横浜駅店です。
━ 出張サービスも軌道に乗っているようですね。
今までに駅ナカ、スーパー、商店街、パチンコ店などに、延べ1500回ほど出張し、喜ばれています。ただ本当は、店舗をメインに事業展開したいのです。ところが出店しようとすると、保健所から「検査はだめだ」というような、根拠のない横やりが入ったりする。潰された店舗計画や出張イベントも、けっこうありますよ。何ら違法性はないのに、おそらく既得権益を守りたい人たちから圧力がかかっているのでしょう。
でも、事業の意義を理解して味方になってくれる自治体なども確実に増えていますし、フランチャイズのパッケージづくりを中心に、全国展開の準備は着々と進めています。
━ 今後の夢
起業の原点でもある在宅医療、高齢者介護に本格参入したいと考えています。ハードルの高い分野であることは承知していますが、最も「世の中に必要とされるビジネス」であることも確か。そのためにも、今いる10人の社員を含めて、人材育成に力を入れていきます。おこがましいですけど、目指すのは医療・福祉界のジャニーズ事務所です(笑)。
いろんなタレントを発掘しプロデュースして、独自のソーシャルサービスを提供し続けたいと思っているのです。
取材・文/南山武志 撮影/刑部友康 構成/内田丘子