仕事を作る。
独立・起業において仕事を作る能力というのは、まさに生命線。
特に企業から仕事を請け負う場合、単発の仕事だけでなく、定期的に仕事を発注してもらえるかによって経営の安定性が変わってきます。
今回お話を伺ったのは、トリッキングパフォーマーのDaisukeさん。
トリッキングとは、バク転(バク宙)を始めとするアクロバット的な動きに加え、体操やダンス、武術などを組み合わせたエクストリームスポーツのこと。
Daisukeさんは、トリッキングの世界大会で優勝するほどの実力者です。
まだ大会で成績を残す前、高校卒業時から「トリッキングを仕事にする」と決意していたというDaisukeさん。
トリッキングの知名度が低かった時代から、コツコツと仕事を生み出し、現在は自らトリッキングのプロ選手として活躍する傍ら、有名アーティストのツアー帯同やアパレル、レッスン業など、トリッキングを中心にさまざまな領域で仕事をされています。
そこで今回は、Daisukeさんのキャリアを振り返ると同時に、どのようにして仕事を作っていったのか、その哲学を伺いました。
Daisukeさん
プロトリッキングパフォーマー
ゲームの主人公のアクションに憧れ、独学でアクロバットやアクションの技を体得する。小学校6年生の時に、動画サイトを通じてトリッキングと出合う。
高校卒業後はトリッキングパフォーマーとして活動を開始。企業の広告やキャラクターショーのアクターなどを務める。
2016年に行われた全日本大会では、3大会全てで優勝。
2017年にオランダで行われた世界大会「Hooked 2017」では初出場にして優勝。アジア人で初となる快挙を達成。
以降はトリッキングプロ選手として大会に出場。
8人組のトリッキングパフォーマンスチーム「TOKYO TRICKING MOB」を率いて、パフォーマンスイベントの開催や著名アーティストのツアー参加、その他アパレル、レッスン業など、トリッキングを中心に幅広い活動を行っている。
世界大会で優勝するも、日本で全然知られてない? エクストリームスポーツ・トリッキングとは
――プロトリッキングパフォーマーとして活躍されているDaisukeさん。まずはトリッキングがどのようなスポーツについて、簡単に教えていただけますか?
端的に言えば、バク転などといったアクロバットパフォーマンスを行う、エクストリームスポーツです。
……と言ってもあまりピンと来ないと思うので、まずはこちらの動画を参考にしてみてください。
大会では、使用した技の難易度や美しさ、完成度、希少性、オリジナリティ、コンボの構成といったさまざまな観点でパフォーマンスの腕を競います。
フリースタイルのダンスバトルなどをイメージしていただくと、分かりやすいかもしれません。
――Daisukeさんはいつ頃からトリッキングを始められたのでしょう?
小学校6年生の時ですね。激しいアクロバットやアクションに目覚めたのはもう少し前で、10歳くらいの頃でした。
当時大好きだったアクションアドベンチャーゲームの主人公のように、バク転や体術を、僕自身もやってみたくって。
ゲームをプレイして動きを確認しては、ベッドの上や近くの河川敷で動きを真似してみたんです。
そしてある時、動画サイトを通じてトリッキングを知りました。武術の型にアクロバットを取り入れ、常人とは思えないような動きを見て「僕のやりたいことはこれだ」と。
以来、ゲームや動画を参考にしながら、独学でトリッキングを学んでいきました。高校を卒業する頃にはもう「トリッキングを仕事にしよう」と思っていたんです。
――「トリッキングを仕事にする」というのは、あまり簡単ではないかと思いますが……具体的にどのようなことをされていったのでしょう?
そうですね、最初は特に大変でした。だからまずはトリッキングというより、自分がこれまで培ってきた「アクロバットの技術」を使った仕事を探したんです。
体操教室でこどもにバク転を教えたり、キャラクターショーのスーツアクターに挑戦してみたり、企業CMの出演やコラボなども少しずつさせていただきました。
↑当時担当したCM。「絶対に裾の出ないシャツ」の広告のため、シャツとスラックス姿で激しいアクロバットを行っている。
――トリッキングの選手としてのキャリアは、どのように始まったのでしょう?
全日本の大会に出場するようになったのが、2014年のことでした。初出場でなんと3位を獲得。
そこからケガなどが重なり、思ったより結果が出ない紆余曲折の時期もあったのですが、2017年にトリッキング界のオリンピックのような位置付けの世界大会「Hooked 2017」に出場し優勝したんです。
そこでの成績が評価され、アメリカにてプロアスリート契約をするに至りました。日本人はもちろん、アジア人としても快挙だったのですが……。
帰国して、ある課題感を抱いたんです。
――課題、ですか?
トリッキングって、僕にとってはとても身近な存在だったんです。それこそ小学生の頃から練習していましたから。
でも世の中的にはそうじゃなかった。トリッキングってかっこよくて面白いのに、日本で全然注目されてないなと。それってすごく勿体無いなって思ったんです。
そこでもっといろんな人にトリッキングを知ってもらうため、現在のような活動をスタートさせていきました。
ゼロから仕事を作り、道なき道を切り拓く。「トリッキングを仕事にする」上で大切なこと
――改めて、Daisukeさんの現在のお仕事についてお聞かせください。
トリッキングを軸に、さまざまな活動をしています。
1つ目はトリッキングのプロ選手としての活動です。アメリカでプロアスリート契約を結んで、世界各国で行われるトリッキングの大会に出場しています。
2つ目は、トリッキングパフォーマーとしての活動。
8人組のトリッキングチーム「TOKYO TRICKING MOB」の代表を務め、パフォーマンスイベントの開催や、GENERATIONSさんなどを始めとする著名アーティストさんのライブのアクロバット担当としてお仕事をさせていただいています。
他にはトリッキングのレッスン業やYouTubeでの発信活動、自治体とのイベントの企画開発やアパレルなどの仕事もしています。
――高校卒業時に「トリッキングを仕事にする」と決めてから、ここまでさまざまな仕事をされるまで、とても大変だったのではないかと思います。前例のない、まさに「道なき道」を歩いてきたわけですが、仕事をする上で大切にしていることはなんでしょう?
人としての“当たり前”を、きちんと実行するよう、ずっと心がけてきました。
トリッキングって、いわゆるストリートのカルチャーが源流なので、ファッションや髪型が比較的派手なんですよね。
もちろん、自分たちがカッコいいと思えるスタイルを貫くことは大切です。
しかし語弊を恐れずに言うなら、ストリートやトリッキングを知らない人からすると、僕たちは「チャラそう」「だらしなさそう」と思われてしまうかもしれない……。
だからこそ“当たり前”を当たり前にやって、行動で見せていこうと。これは僕自身はもちろん、僕の運営する「TOKYO TRICKING MOB」でも大切にしています。
――例えばどのようなことをされているのでしょう?
挨拶をきちんとする。時間を必ず守る。楽屋は来た時よりも綺麗にしてから出ていく……など、言葉にすると、本当に当たり前のことばかりですよね。
でもこれらを「守り続ける」ことは、案外難しいものです。
だからこそ僕らは、こういった“当たり前”をとにかく徹底しようと。
「トリッキングさえ上手ければ」「パフォーマンスさえかっこよければ」という考え方をしているメンバーは1人もいません。
トリッキングそのものの実力が高いのは当たり前で、その上で「トリッキングを仕事にする」ためには、人から信頼していただくことが大切だと思っています。
――その信頼によってゼロから仕事を作り、道なき道を切り拓いていったと。
そうだったとしたら、とても嬉しいですね。
せっかく任せていただいたお仕事は、期待以上のものにしてお返ししたいですし、トリッキングってこんなに素晴らしいものなんだと、皆さんに知っていただきたい。
信頼というものは、積み重ねるのは難しく失う時は一瞬です。「またDaisukeに仕事をお願いしたい」と思っていただけるよう、これからも精進あるのみですね。
臆病者こそ、独立・起業に向いている?
――これからの展望を教えてください。
トリッキングをオリンピック競技にしたいです。というより、個人的にはオリンピック競技に「なるだろう」と信じて、活動を続けています。
オリンピック競技にするためには競技人口を増やすこと、そしてオリンピックで結果を残すためには、よりレベルの高い人材を育てていくことが必要不可欠です。
そのために、優秀な選手を育成する施設を作っていきたいですね。
そしてオリンピックという「メジャー」からあぶれた人が活躍できる場も作っていきたいと思っていて。
――どういうことでしょうか?
オリンピックの競技になるということは、技に対して「得点」が与えられ、それを元に「順位」をつけることになります。
しかしトリッキングはスキルを競うスポーツでありながらも、ある種の「表現のスタイル」という側面があるのも事実です。
オリンピックで点数が稼げる、いわゆる「コスパの良い技」だけが、トリッキングではないということです。
だから、オリンピックという「メジャー」がありながらも、そうしたスキルや表現を重視するプレイヤーたちが、きちんと輝ける場所や大会を作っていきたいなと。
メジャーとアンダーの両面から、トリッキングという文化をもっと広めていけたらと思っています。
――最後に、読者の方へメッセージをいただけますか。
「トリッキングを仕事にする」というテーマでここまでお話をしてきたので、もしかすると意外かもしれませんが……。
実は僕はめちゃくちゃ臆病で、自分に自信がないんです。
昔はそれがコンプレックスだったんですが、最近ではむしろこの臆病さによって、むしろいい方向に進んでこれたなと思っていて。
不安や緊張をする分、何かをする時には徹底的に調べる癖がついていたり、できないことは割り切って人にお願いするなどしているからこそ、別の長所を伸ばすことに時間を費やせたり。
そう振り返ると、実は臆病者こそ、独立や起業に向いているんじゃないかと思うんです。
不安を払拭するために、人より時間はかかってしまうかもしれませんが、その分、堅実に行動を起こすことができる。
行動派の人も慎重派の人も、まずは自分の性格を理解して、自分に合った独立・起業ができたら、素敵なのではないでしょうか。
取材・文・インタビューカット撮影=内藤 祐介
画像提供=Daisuke