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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第121回・「モーニング」のメリット

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

愛知県の名古屋周辺には、喫茶店で飲み物を頼むとおまけがついてくる「モーニング」という独自の文化があり、最近このサービスが全国に広がり始めています。あなたが喫茶店を経営しているとして、お店で同様にモーニングサービスを始めるとしたら、どんな効果が期待できると思いますか?いくつか考えてみましょう。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

名古屋周辺には「モーニング」という文化があることをご存知の方も多いと思います。喫茶店で飲み物を頼むと、トーストやサラダなどの「おまけ」がついてくるサービスです。

元々は名古屋地方の独自のサービスでしたが、最近、名古屋発の人気の喫茶店・コメダ珈琲が全国展開したこともあり、モーニングという文化が一気に広まっているようです。

それでは解説します!

モーニングは、1950年代に名古屋市から少し北にある一宮市で始まったといわれています。一宮市は日本有数の繊維のまちとして知られ、多くの機屋さんが立ち並んでいます。機織り機が大きな音を立てて稼働していることから、なかなか社内では打ち合わせができなかったようで、会議室の代わりに喫茶店を利用する会社が多かったのだとか。

モーニングは、そうやってよく利用してくれる常連客へのお礼の気持ちとして、お店側が独自に始めたサービスだそうです。そしてそれが色々なお店に広まり、独自の文化として発展したといわれています。

さらに、この一宮市の独自の文化が名古屋一帯に広まったのにも理由があります。名古屋駅の近くには日本三大繊維問屋街の一つである「長者町繊維街」があります。一宮の機屋さんがそこに納品に行った際、「地元にはこういうサービスがある」と話したことで広まっていったのだそうです。

ちなみに、モーニングと似た文化として、喫茶店でコーヒーに「ピーナッツ」がおまけでついてくるサービスがあります。これは、ヨコイピーナッツという名古屋市の会社がピーナッツの自動皮むき機を導入したことで生産性が上がったのを機に、「新たな販路を拡大しよう」と喫茶店に営業したのがきっかけだそうです。

元々、名古屋の食べ物は味が濃いものが多く、その後味に負けないように喫茶店で出すコーヒーも濃い目のものが多かったそうです。そんな時に、ピーナッツを食べてスッキリできることから、評判を呼び一気に広まったのだそうです。

こうした一地方では当たり前になっていた文化が、地元企業のチェーン展開によって全国に広まっていくのは、なかなか面白い話ですよね。

「モーニング」は実は賢い商売

では、こうした「モーニング」の文化を新たに取り入れることで、お店や利用客にはどのようなメリットがありそうかを、さっそく考えてみましょう。

1つは、飲み物一杯の値段で朝ごはんがついてくるわけですから、どう考えてもお得です。お店としてもたくさんのお客さんに来てもらいやすくなり、集客につながります。

2つ目は、お客さんの生活習慣が変わる、ということです。朝起きて自宅でコーヒーを入れ、トーストを焼いて朝ごはんを食べていた人にとっては、「同じことがお得にできる場所」として喫茶店という選択肢が生まれます。

つまり、お店側としては、今までは自宅での自炊に持っていかれていた需要が、丸ごともらえる可能性が増えるわけです。これは「新たな売り上げを作れる」ということでもあります。

もう1つ考えられるとしたら、「一日に何回も来てもらう」という新たな需要を開拓できるということ。

分かりやすい例が、マクドナルドの「朝マック」です。朝は他の時間帯と違うメニューを出すことで、朝にお店を利用した人も、お昼や夜にまたお店を利用してもらおうと考えて始めたのが朝マックです。つまり、喫茶店でモーニングを出すことで、朝は朝の時間の需要が取り込めます。そして、昼以降についても「朝に一度行ったし、もう行かなくていいや」ということにはならないようにしたわけです。一日に何度も利用できる仕組みを整えたわけですね。

こうしていくつか挙げただけでも、名古屋式の「モーニング」をお店側が取り入れることは、色々なメリットがあることが分かります。

一つ言えるのは、この「モーニング」、一見すごくお得なサービスに見えますが、別にめちゃくちゃお得なものではないということです。お店としては赤字覚悟でやるようなサービスではないのです。

それは、飲み物代をとったうえでのサービスだからです。モーニングで提供するトーストやサラダなどのおまけは、かたちとしてサービスで提供してはいるものの、別にそれだけを無料で販売しているわけではありません。つまり、飲み物代とトータルで、利益はちゃんと確保できる仕組みになっています。

これもマクドナルドの「100円マック」によく似ています。100円マックを購入するお客の多くが、それだけでなく、一緒にドリンクやサイドメニューなどを頼むことから、トータルではちゃんと利益が出るように考えられています。

つまり、すごくお得に見えるように提供している「賢い商売」なのです。

お店の「差別化」にも使える!?

そんな「モーニング」ですが、「140種類のメニューから好きなものを選べる」みたいなお店も実際にあり、サービス自体はどんどんエスカレートしている側面もあるようです。とはいえ、それがお店の独自性につながるなら、方法としてはアリなのかもしれません。

全国に広がり始めているといっても、まだ浸透していない地域もたくさんあるでしょう。このビジネスの仕組みを生かして、何か新たなサービスを考えてみると面白いかもしれませんね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「集客につながる、生活習慣を作れる、何度も来店してもらえる、など」でした。ちなみに、最後に触れた140種類のメニューから選べるお店というのは実際に岐阜県にあり、そこではラーメンや豚の生姜焼きなど、とてもコーヒーのおまけとは思えないようなものまでサービスしているようです。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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