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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第120回・ネットスーパーの2つの壁

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第120回・ネットスーパーの2つの壁

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

インターネットが普及し始めた頃から、「ネットスーパー」は有望なビジネスモデルだと注目され続けていますが、20年以上経った今でも苦戦していると言わざるを得ません。その理由を考えてみると、ネットスーパーのビジネスモデルには、2つの大きな障壁があるといわれています。1つはコスト面ですが、「共働きで忙しい高収入の人」をターゲットにすることで、そこは突破できました。しかしもう1つ、なかなか突破できない壁があるのですが、それは何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

「ネットスーパー」は、インターネットが普及し始めた当初から「間違いなく有望なビジネスモデルだ」と注目され続けてきました。生活必需品の購入は多くの人にとって欠かせないことであり、それが便利になるのを多くの人が望んでいるからです。

しかし、事業者も利用者もそれなりに多くはいるものの、当初期待されていたほど普及しているとは言えないでしょう。そして、そこには大きな壁が2つあるといわれます。

冷静に考えてみると、得てして新規事業とはそういうものなのです。「絶対にいける」と思ってやり始めても、大きな障害があることが後から分かり、思わぬ苦戦を強いられることは多いのです。

それでは解説します!

ネットスーパーが思ったように普及しない1つ目の壁が、「コスト面」です。ネットスーパーというビジネスモデルの構造上、自分が買うのではなく、誰かがかわりに商品をピックアップして届けてくれるわけですから、どうしてもそのためのコストがかかります。買い物にはそれなりに時間や体力を要するわけで、それが料金に上乗せされれば、当然、高くなりますよね。

そこをクリアしようと、多くの事業者は「共働きで忙しいが、比較的高収入な世帯」をターゲットにすることでビジネスモデルを組み立てました。その結果、「多少高くなっても、便利ならいい」というニーズは確かに拾えたわけですが、新たなボトルネックが浮上しました。

それが2つ目の壁で、「受け取り方」の問題です。スーパーで買い物をするようにネットスーパーを使おうとすると、必要なものがすぐに届くことが大事になってきます。しかし、共働きで家を留守にしがちなターゲットであれば、そもそも受け取れる時間はどうしても限られてしまいますよね。

ネットスーパーのビジネスモデルを考えるうえで1つ重要なポイントとなるのが、不在時でも荷物を簡単に受け取ることができる「宅配ボックス」が使えない、ということです。これは、ルール的な問題で、「食品などの痛みやすいものは、冷凍・冷蔵に限らず入れられない」のです。

ならば、クール便などのサービスを使用すればいいのでしょうが、それをすると手数料はさらに上がります。どこまで許容するかの問題ですが、「高すぎる」となるのは目に見えていて、とても普及するとは思えません。

そこで妥協点となっているのが、「置き配」のようなかたちで、週に一度、一週間分の商品をまとめて届ける仕組みです。忙しい人でも、品物が届く日は仕事を少し早めに切り上げたりして、玄関の前に置いておいてくれた商品を早めに家の中に入れるわけですね。

最近普及した「あのビジネス」がネットスーパーを救う!?

確かにそれもありがたい仕組みではありますが、ネットスーパーというビジネスモデルを想像する場合、やっぱり「ほしいものがすぐに買えて、すぐに届く」ことが理想です。それこそ、注文したら1、2時間でスッと届けば、非常に価値が高いビジネスとなります。

実は、この2つ目のボトルネックが、最近一気にクリアになりそうな兆しがあります。

それが、ウーバーイーツに見られるような配達員の存在です。あわせて、バイク便や宅配便のコストが下がってきていることから、お店側がこうした人たちと提携することで「注文を受けたらすぐに届けられる仕組み」が整いつつある、というわけですね。

1つ目のボトルネックだった金額面についても、「梱包時の商品ピックアップの自動化」という効率化によって、コストを下げられそうです。

店舗型のお店であれば、DX(デジタルトランスフォーメーション)化によってどの順番でピックアップすれば効率的かが分かるようになってきています。倉庫型の店舗の場合はもっと進んでいて、棚の方が動いて届けてくれたり、ロボットが全てピックアップしてくれたりするような「ロボット倉庫」もでき始めています。イオンと提携しているイギリスのネットスーパーのベンチャー企業「OCADO(オカド)」などは、まさにそれです。

ウーバーイーツのような宅配サービスが一気に普及したのは、新型コロナウイルス感染症の影響が多分にあったでしょう。いずれにしても、20年くらいかかりましたが、有望だといわれていたビジネスモデルが一気にスパークする環境が整い始めたと考えてよさそうです。

ある時に突然、ボトルネックが解消されることがある

最初にお話しした通り、「これは有望だ!」とみんなが思うものでも、なかなかボトルネックを突破できずにくすぶることは大いにあります。そして、長い年月の末に、突然ボトルネックが突破できる環境が生まれ、業界が一気に活気づくことはあるのです。

まさにネットスーパーに関しては、宅配のところで新しいビジネスモデルが普及したところから1つの突破口が見えたのではないか、と私は考えています。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「受け取るのが大変」でした。これまでネットスーパーの多くは、配送料がかかるうえに1つずつの商品も店頭価格に比べたら高めに設定されていることは多かったです。それがコストに見合ったものになってくれば、いよいよ逆襲ともいえる状況が始まるのではないかと密かに期待しています。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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