ドミナント戦略とは、同じ地域に同じ看板を持つ店舗を集中出店することで、店舗を地域に浸透させる戦略です。ドミナント戦略が成功した地域には、競合他社は参入しづらくなります。
他社がすでに確固たる地位を築いている地域に参入しても、勝てる見込みが少ないからです。
本記事では、ドミナント戦略のメリットやデメリット、出店エリアの選び方について解説します。また、ドミナント戦略を軸に出店を進めているチェーンストアに、フランチャイズ加盟するときの注意点も紹介。
ドミナント戦略について理解し、フランチャイズ選びに失敗しないようにしましょう。
ドミナント戦略とは?
ドミナント戦略とは、1つのチェーンストアを、同じ地域に集中出店する経営戦略です。
ドミナント(dominant)を直訳すると、「支配的な」「最も有力な」となります。同じ地域に、同じ看板を持った店舗を集中出店するドミナント戦略は、まさに「1つの地域を、自分のチェーンストアで支配してしまおう」という戦略といえるでしょう。
確かにドミナント戦略は、成功すれば地域の顧客からのシェアを一手に集め、競合他社の入り込む余地をなくすこともできる戦略です。しかし、同じ地域への集中出店には、相応のリスクもあります。
ランチェスター戦略との違いを事前に解説
ドミナント戦略について考える際、混同しがちなのがランチャスター戦略です。
2つの戦略の混同を避けるため、本項目では下記の解説をおこないます。
ランチェスター戦略とは?
ランチェスター戦略とは、競争に勝ち抜くための理論と実践手法を体系化した経営戦略です。
この戦略では、企業を市場シェアに基づいて「強者」と「弱者」に分類し、それぞれの立場に合わせた戦い方を提示します。
一般的には市場でトップシェアを持つ企業が強者、それ以外の企業はすべて弱者と定義されます。
ランチェスター戦略には大きく分けて「第一法則」と「第二法則」の2つの法則があります。
- 第一法則(弱者の戦略):一対一の状況や、局地的な戦いに適用される法則。数で劣る弱者は特定の「分野」に資源を集中投下し、顧客との関係性を深めることで強者に勝利する可能性を探る。
- 第二法則(強者の戦略):広範囲での大規模な戦いに適用される法則。強者は数の優位性を活かして広域展開や総合力で弱者を圧倒する。価格競争や豊富な広告宣伝などもこの戦略に含まれる。
ビジネスにおけるランチェスター戦略は主に「弱者が強者に勝つための戦略」として扱われるため、中小企業が特定のニッチな分野に参入することで大企業に勝利するための戦略として覚えておきましょう。
ドミナント戦略との違い
ここまでに解説した内容から読み取れる、ドミナント戦略とランチェスター戦略の違いは以下の通りです。
ドミナント戦略 | 特定の「地域」における市場シェアの圧倒的な支配を目的としている |
ランチェスター戦略 | 特定の「分野」や「商品カテゴリ」を狙うことで競合他社に負けないシェアの獲得を目的としている |
ここを抑えておくことで、ドミナント戦略とランチェスター戦略を混同することを避けられます。
それぞれの違いを理解したうえで、ここからはドミナント戦略のメリットとデメリットをそれぞれ見ていきましょう。
ドミナント戦略のメリット
ドミナント戦略のメリットは、主に下記の3つです。
各種コストを抑えられる
同じ地域に集中出店するドミナント戦略では、商品の配送コストや店舗の宣伝コストを抑えられます。店舗同士の距離が近く、より少ない移動距離で商品を配送できるため、最小限の時間と費用で商品の配送が可能です。
地域に浸透しやすい
宣伝費の節約にも、ドミナント戦略は効果的です。例えば地域を絞った宣伝をする場合、同じ地域に10店舗がまとまっていても5店舗がまとまっていても、一度の宣伝にかかる費用は変わりません。ドミナント戦略なら、同じ一度の宣伝で、より多くの店舗が宣伝の効果を受けられるのです。
競合他社の参入を防げる
また、同じ地域に集中出店することで、チェーンストアの看板が地域の人の目に触れる機会が増えます。「単純接触効果」といって、人は同じ対象に繰り返し接触することで、対象への好感度を無意識に高めていきます。ドミナント戦略に成功したチェーンストアは、単純接触効果でも地域に深く浸透し、競合他社は参入しづらくなります。
人的資源の効率化もおこなえる
ドミナント戦略は店舗を同じ地域に集中して出店するため、店舗間の応援要請がしやすくなります。急な欠員が出ても近隣店舗から応援を呼べたり、各店舗のイベントや繁忙日にあわせて従業員の層を厚くするなど柔軟な対応がおこなえるので、人材の確保が難しい地域でも効率的に人員配置・活用がおこなえるのです。
ドミナント戦略のデメリット
ドミナント戦略のデメリットは、主に下記の3つです。
災害や人口減少の影響が大きい
同じ地域に集中出店するドミナント戦略では、災害や人口減少の影響が大きいです。集中出店した地域に大規模な災害や人口減少が起きると、地域内全ての店舗が被害を受けてしまうリスクがあります。
需要の変化による影響が大きい
また、人口は変わらなくても、地域の需要が変化することはあります。エリア内に大きなショッピングセンターができたり、競合店が出店したり、地域の需要は些細なことで変わります。
同じチェーンで顧客を奪い合うことも
需要の変化が良い方向に働くこともありますが、悪い方向に働けば、少なくなった需要を同じチェーンストアで奪い合うことになってしまうでしょう。
取得したノウハウを他地域では活かしづらい
ドミナント戦略は成功体験が特定の地域性に深く依存するため、得られたノウハウを他の地域では活かしづらいというデメリットがあります。
ドミナント戦略の成功事例
ドミナント戦略は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの生活に欠かすことのできない店舗や、カフェのような日常的に利用頻度の高い店舗に適した戦略といえます。
ここからは、アメリカ最大手のスーパーマーケットチェーン・ウォルマートの事例と、ドミナント戦略を軸に店舗のブランディングを進めるカフェの事例を紹介します。
ドミナント戦略を軸に地域客を囲い込むウォルマート
アメリカ最大手のスーパーマーケットチェーン・ウォルマートも、ドミナント戦略を軸に出店を進め、成功を収めてきた企業です。
1962年に創業したウォルマートは、低価格で生活必需品を販売している店として、評判を集めてきました。いわゆる「薄利多売」ではなく、購入頻度の少ない商品までも低価格で販売することで、顧客満足度を高め続けてきたのです。
1960年代後半になると、ウォルマートはドミナント戦略に基づく出店をはじめました。物流センターを中心に集中出店し、発注を集中管理することで、配送や発注管理にかかるコストを削減。人口の少ない町を狙って出店することで、地域No1の座をほしいままにしたのです。
結果、2020年現在のウォルマートは、世界有数のスーパーマーケットチェーンとして誰もが名前を知る企業になりました。
ドミナント戦略を軸に全国47都道府県に出店したセブン-イレブン
いまや全国47都道府県に出店している大手コンビニチェーンのセブン-イレブンも、ドミナント戦略を徹底することで業界内の高い地位を確立した企業の一つです。
セブン-イレブンは1974年に1号店を東京都江東区に出店した際、同区内に集中的に出店することでエリアでの知名度を飛躍的に高め、キャッチコピーにもある「近くて便利」な存在としての地位を確立しました。
規模を拡大する際もドミナント戦略を徹底し続け、スーパーバイザーの巡回効率向上による手厚いサポートの実現や、多頻度小口配送の徹底により商品の廃棄ロスや保管コストの削減を実現しながら「いつでも鮮度の高い商品をそろえられる」といった顧客のニーズも満たすことで成長を続けていったのです。
ドミナント戦略を軸にブランディングを進めるカフェ
「ドミナント戦略=フランチャイズ」というイメージのある人は多いかもしれませんが、ドミナント戦略は直営・フランチャイズにかかわらず活用できる戦略です。
ドミナント戦略を軸に、出店を進めてきた国内の某カフェは、ほとんどが直営店です。
某社は、ある程度栄えている地域に出店エリアを絞り、まずは駅構内に自社のカフェを出店します。たとえ駅でカフェを利用しなくても、多くの人がほとんど毎日、店舗の看板や賑わいを目にするための仕組みです。
駅周辺にも、同じ看板のカフェを複数出店します。毎日、頻繁にカフェの様子を目にすることで、親近感が湧いてきます。実際に店舗を利用する機会があり、サービスや味が良ければ、親近感はさらに高まるでしょう。
同じ地域に集中的に出店することで、店舗自体が他店舗の宣伝役になるようにしているのです。ドミナント戦略は、配送やスーパーバイザーの巡回にかかるコストを下げながら店舗のブランディングを進める、効率的な出店計画といえます。
「1時間以内無料配送」をドミナント戦略で実現したカクヤス
酒類販売チェーンのカクヤスも、ドミナント戦略に基づいた出店で「ビール1本から、1時間以内に、送料無料で配達する」という戦略をヒットさせ、現在も不況の波に飲まれることなく店舗数を増やし続けています。
コロナ禍の煽りを受けて競合他社が配送人員を大幅に削減した中、カクヤスは飲食店だけでなく個人宅への配送部隊などを強化する形で配送人員を減らすことなく雇い続けた結果、コロナ明けにも従来通りのサービスを提供しました。
それを実現できた背景には、店舗を特定のエリアに集中して出店したことによる配送の速さがありました。
現在カクヤスはエリア拡大により大阪や福岡にも店舗を出店していますが、そこでも出店戦略は変えずに「特定エリアに出典を集中させること」を貫いています。
ドミナント戦略とランチェスター戦略の両立で成長するラッキーピエロ
北海道函館市を中心に展開するハンバーガーレストランのラッキーピエロも、創業から函館市とその周辺地域にのみ店舗を集中させることで独自のブランドを確立しています。
実はラッキーピエロの成功には、ドミナント戦略だけでなくランチェスター戦略も関係してきます。
ラッキーピエロは「北海道ジンギスカンバーガー」や「函館山ハンバーガー」など、商品を一般的なパテを使ったハンバーガーではなくザンギやトンカツを使った独自の商品を出すことで、大手ハンバーガーチェーンとは違った戦い方をしているのです。
ともすると過剰だと言われかねない戦略ですが、これに成功したことによってラッキーピエロは函館内で絶対に崩れない牙城を手にしました。
ドミナント戦略に基づく、出店エリアの選び方
ドミナント戦略において、出店エリアをどう選ぶかは、非常に重要です。
同じ地域に集中的に出店することには、出店に失敗した場合、地域の店舗全てが共倒れになってしまうというリスクがあります。
次に、ドミナント戦略における出店エリアの選び方と、ドミナント戦略でフランチャイズに参入するときの注意点を解説します。
ドミナント戦略に必要な、4つのエリア調査
ドミナント戦略で出店エリアを決める際は、下記の4項目を重視して、エリア調査を行いましょう。
【ドミナント戦略に必要な4つの調査項目】
- 人口増減
- 夜間と昼間の人口差
- 競合調査
- 需要特性
人口が減少傾向にある地域に集中出店しても、利益は見込みづらいでしょう。店舗を利用する人(=需要)は年々減っていくのに、店舗数(=供給)が増えていくことになります。減っていく需要を、同じチェーンストアで奪い合う可能性があります。
出店地域の人口に合わせた戦略設計が重要です。
夜間と昼間の人口差も重要です。例えば、昼間は人がほとんどいないベッドタウンに、カフェを出店したらどうなるでしょうか。店舗の開店に合わせて人がいなくなり、閉店に合わせて人が増える地域では、売り上げは見込めません。人の動きを分析し、出店場所を考える必要があります。
競合と需要特性の調査も重要です。出店しようとしている地域に、サービスの需要がある場合、競合他社がすでに浸透している可能性があります。競合他社が浸透している地域に同じ種類の店舗を出店するには、差別化を図るなどの工夫が必要になります。
エリア調査に有用なGIS(地図情報システム)について
ドミナント戦略をたてる際には、GIS(地図情報システム)を活用しましょう。
GISとは、地図上にあらゆるデータを重ね合わせて分析をおこなえる機能であり、特定のエリアでのマーケティングに非常に役に立つツールです。
前項で挙げた4つの調査項目もGISで測ることが可能なので、効率的に情報を収集し、競合よりも早い行動が可能になります。
ドミナント戦略で、フランチャイズに参入するときの注意点
ドミナント戦略を行っているチェーンストアに、フランチャイズで参入するときは、注意が必要です。競合他社ではなく、同じチェーンストアのほかのオーナー店舗とシェアを取り合うことになってしまうかもしれないからです。
チェーンストアを地域に浸透させ、出店エリアで確固たる地位を築くドミナント戦略は、フランチャイズに加盟する側にとって魅力的です。加盟前からチェーンストア自体にブランド力があるため、自分の店舗も成功する可能性が高いと感じられるからです。
しかし、自分が出店した近くにも、同じチェーンストアが増えていく可能性があります。競合他社だけではなく、同じチェーンストアが自店の周りに増えることで、自店の顧客が減ってしまうリスクがあります。
ドミナント戦略を軸に出店を進めているチェーンストアにフランチャイズ加盟するときは、将来的に自店の周りに同じチェーンストアが増えることも視野に入れて、慎重に考えましょう。
エリア選定以外のドミナント戦略のポイント
ここまで、ドミナント戦略は「特定の地域に出店し、メリットを最大限活かす戦略である」と解説してきました。
本項目では最後に、エリア選定以外で重要なドミナント戦略のポイントを解説します。
ポイントは以下の通りです。
人材の育成
ドミナント戦略を成功させるポイントの一つに「人材の育成」があります。
流通や配送などのシステムは組み替えることも比較的容易ですが、人材の育成は一朝一夕にはおこなえません。
人材の育成がおこなえないと慢性的な人手不足につながり、人手不足に陥ると顧客に満足なサービスが届けられなくなるので、最終的にはドミナント戦略失敗の要因になる可能性があります。
ドミナント戦略を実施する際は前述のセブン-イレブンの例に倣い、スーパーバイザーが巡回しやすい導線を作ったうえで各店舗の育成に力を入れるか、後述するマニュアルの作成やフローの簡略化(キャッシュレス決済の導入など)によってスリム化を図ることでスタッフを育成しやすい環境を構築しましょう。
徹底したマニュアルの作成
前述の「人材の育成」にも関わる内容ですが、人材育成のために業務フローをマニュアル化することもドミナント戦略の成功には重要です。
ドミナント戦略では徹底的に業務フローを遵守することが重要になるので、フロー自体が煩雑で分かりにくいと人材育成がおこないづらく、人手不足に足を取られる可能性が高まります。
また、育成のフローが確立されていないと育成担当者によって教える内容が変わってしまい、多店舗への応援などに悪影響を及ぼす可能性があります。
これらのリスクを回避するためにも、あらかじめ業務フローや育成のフローはマニュアル化しておくことがポイントです。
キャッシュレス決済の導入
ドミナント戦略を成功させるには、現金管理のしやすさや店舗マネジメントのおこないやすさも重要です。
厳禁のやり取りはそこまで手間ではないかもしれませんが、受け取ったはずの現金を無くしてしまいレジ金が合わないといった人的ミスはキャッシュレス決済で防ぐことが可能です。
また、キャッシュレス決済システムには組数や客単価、1日の商品の売れ行きを自動で集計できるメリットもあるので、店長が閉店後に手動で集計する手間も削減できます。
このようにシステム面からスリムにしていくことで属人化を防ぎ、より強固な戦略の実現が可能になるでしょう。
SNSでの宣伝
ドミナント戦略は出店地域を限定する戦略のため、広く宣伝するためのSNS運用は相性が悪いと考える人も多いようです。
しかし実際には、SNSを活用することでより店舗の存在感や市場優位性を高め、地域内での売り上げを伸ばすことができます。
前述のラッキーピエロもSNSアカウントを運用しており、割引情報や新メニュー情報をコンスタントに更新しています。
これによりテレビCMを目にする機会が減った若者層にも宣伝できるだけでなく、RP(リポスト)で地域外への宣伝も可能になるのです。
SNSのアカウントを作成して発信するだけなら無料でおこなえるので、コストをかけずに最大限の宣伝効果を得たい場合はSNSを活用してみましょう。
ドミナント戦略には、綿密なエリア調査が必要
ドミナント戦略には、綿密なエリア調査が必要です。エリア調査に基づき、出店エリアをどう選ぶかが、ドミナント戦略の成否をわけるといっても過言ではありません。
エリア調査では、人口の増減や競合他社の動向を調べ、顧客獲得の戦略を考える必要があります。人口が多くても、自社の需要に合った顧客が少なかったり、同じチェーンストアと顧客の奪い合いになったりするリスクも見極めましょう。
ご説明してきた通り、ドミナント戦略にはメリットだけでなく、デメリットも多くあります。特に、ドミナント戦略を軸にしているチェーンストアに、フランチャイズ加盟するときは注意が必要です。本部の出店計画やエリア調査なども加盟前にしっかり確認するようにしましょう。
<文/赤塚元基>