NPO法人 ジービーパートナーズ/東京都港区
代表理事
松井 昭さん(69歳)
1948年、東京都生まれ。新卒入社した出版社では主にシステム開発に携わり、38年間勤務。定年退職後は、もともと関心の強かった社会貢献や地域活動に参加。その過程で出会った仲間とともに、2012年、任意団体・ジービーパートナーズ(13年にNPO法人化)を立ち上げる。「NPOや市民活動団体などの運営サポート」と「シニアが活躍する場の創出」を両輪に活動する。法人設立後の5年間でサポート先は20団体を超え、抱える人員は約60名となった。
長年勤めた出版社を定年退職し、ジービーパートナーズを立ち上げたのは63歳の時。松井昭の第二の人生の名刺には、「社会を変えるNPOのベストパートナーをめざします」という文言が添えられている。NPO法人や市民活動団体などのバックオフィスを支えるジービーパートナーズは、いわゆる“縁の下の力持ち”。経理や事務局運営などの事務作業を柱に、「一緒に手を動かし考えながら」広く経営全般をサポートする。
その戦力となっているのは、豊富な実務経験を持つシニアたちだ。ジービーパートナーズの活動は、定年前後の世代が持つ知識・スキルを生かす機会の創出にもつながっている。社会や人の役に立ちたい、何か自分にできることはないか――そう考え、次なる活動の場を求めるシニアは決して少なくない。誰より、松井自身がそうだった。もとより社会貢献意識が強い松井は、定年後、NPOや地域活動に参加しており、その過程で、思いを同じくする仲間と事業の着想を得たのである。組織化されたシニアによるNPOサポート事業は、まだ希有だ。法人化してまる5年、チャレンジから成長段階へと移行した今、松井たちの活動は確実に広がりを見せている。
社会を変える活動に取り組む若い世代を応援していく。
それが、よりよい社会を次代につなげる道になる
━ 活動を始められた経緯は?
きっかけとして大きかったのは、東日本大震災の発生を受けて創設された「まなべる基金」に関わったこと。震災の影響で進学や就学が困難になった高校生のための給付型奨学金制度です。以前から出入りしていたNPOがその事務局運営をすることになり、私も参加したんです。被災地でボランティアをする、寄付をするといった手段以外にも、こういう裏方的な支援のかたちがある…。それを実感として知ったので、社会課題の解決に取り組むNPOや団体の後方支援を“業”にできないかと。
この時のメンバーに、今うちで事務局長を務めている上野がいまして、彼女がシニア人材の活用に情熱を持っていたことから、それとNPO支援をマッチングさせる事業モデルを考えていったのです。発起人8人で、まずは任意団体を立ち上げました。
━ 滑り出しは順調でしたか?
「まなべる基金」を引き継いだので、仕事としてはボリュームがありました。ただ、新規については難しい側面が。私たちは「シニアが支援します」という文脈で始めたわけですが、実はシニアというと「説教されそう、何か否定されそう」と警戒するNPOがけっこうあって。また、若い世代の人たちには、シニア=アラウンド80くらいのイメージがあるようで、時には「パソコン使えますか?」なんて聞かれたりね。ですから焦らず、いたずらな宣伝もせず、ひたすら粛々とです(笑)。ミスマッチが起きないよう、知り合いのNPOなどを通じて少しずつ支援実績を重ねてきました。
一方、動き始めて分かったのは、経理に困っているNPOが多いこと。代表者の経営、計数管理に対する理解不足もありますし、専任スタッフを雇えないなど、聞けばさまざまな事情があります。支援ニーズの高い領域なので、そこをカバーできる人材育成を始め、経理サポートに力を入れてきました。事務局運営と合わせ、今ではうちの2本柱になっています。
━ サポートに就く人材の育成もされていると。
もちろんです。NPO支援において「我々はプロである」という価値観の共有は大事ですし、仕事のクオリティーにはこだわっています。実務力が身につくNPO経理養成講座や、IT技術の先端を学ぶ勉強会なども実施しています。前提としてうちは門戸が広く、出身大学や企業などは一切問いませんし、もちろん年齢も。大切なのはやる気と行動力で、私たち自身が楽しみながら学び、成長したいと思っているんですよ。
働き方も自由で、週数回の場合ならパートタイム制、経理の場合には業務委託制も導入するなど、シニアたちがそれぞれ活動しやすいよう工夫しています。勉強会もそうですが、これら内部での工夫の積み重ねがクオリティーの高さにつながっていくと考えています。
━ 今後の方針としては?
NPO応援団として、その団体にとって最善の対応を一緒に考えていくことが私たちの本分。その根っこに立ち、今後はさらに支援の領域を広げていきたいですね。すでに職業紹介業の認可も受けているんですけど、例えば団体の中に入るかたちでの支援など、いろんな展開ができればと。加えて、最近ではコンサルティングも増えてきました。事務作業を入り口にしながら「そもそも、これでいいんですか?」という話ができる、いわばパートナーとしての関係ですね。ここも強化したいです。
求められ、喜んでもらえるのは、本当にやりがいがあるもの。「NPOのことならジービーパートナーズに聞け」と言ってもらえるのを目標に、まだまだ走り続けたいと思っているところです。
取材・文/内田丘子 撮影/刑部友康
アントレ2018.秋号 THE INNOVATION【志こそが人を熱くする】より
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