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プロBBQ屋の開業記。スタートはトング1本だった【中村圭一】

2018年10月10日

プロBBQ屋の開業記。スタートはトング1本だった【中村圭一】

夏場に川や海に集まってするバーベキュー。それが仕事になると聞いたら、あなたは驚くだろうか?

この記事で紹介する中村圭一さんは、トングとグリルを持ち歩いて全国に出張し、食材を焼いて振る舞うことを生業にしている「プロのバーベキュー屋」である。

出張料は食材込みで1人5000円から(10名から申し込み可能)。圭一さんは自ら出張し、お客さんの前で肉を焼いている。

圭一さんは、もともとは医療メーカーのセールスマンとして働いていたそうだが、なぜこのような珍しい仕事を始めたのだろうか? その経緯を伺った。

<プロフィール>
中村圭一さん

1984年3月生まれ、福岡県糸島市出身。
大学生時代は臨床心理学を専攻。大学卒業後は医療系の企業に就職し、5社を渡り歩く。退職後に語学留学、海外インターンを経て帰国。

帰国後、出張バーベキューというサービスを知り魅了される。現在は、福岡を拠点に出張バーベキューサービス「旅するBBQ Smore(スモア)」を運営し、出張バーベキューサービスを提供する。自他ともに認めるTHE BBQ 男。

医療器具の営業職から、プロのバーベキュー屋になるまで

− まずは経歴から教えてください。

中村圭一さん(以下、圭一さん)
ファーストキャリアは、医療系の営業職でした。

僕は医療系の大学で心理療法士の勉強をしており、大学卒業後は地元の福岡で職を探したんです。受かったのは医療機器販売代理店。でも、入社2カ月で交通事故に遭ってしまい、退社することになったんです。

− 入社2カ月で退社とは…、大変でしたね。

圭一さん
そうですねぇ。でもそれが上京へのきっかけになったんです。けがが完治して、転職活動をしていたら都内の医療器具メーカーに入社できたんです。そこから6年間は医療メーカーのセールスマンを続けて、眼科や循環器、神経内科領域を5社ほど渡り歩きました。

− 今までのお話に「バーベキュー」って単語が1つも出てこなかったんですが、プロのバーベキュー屋になるまでにどのような経緯があったんでしょうか?

圭一さん
きっかけは転職の時でしたね。最後に務めた会社に思うところがあり、次の予定も決まっていないまま退職したんです。それから約1年は語学留学や海外インターンに勤しんでいました。バーベキューの仕事と出合ったのは、海外インターンから帰国した後でした。

インターンから帰国してまた医療メーカーに内定したのですが、同じタイミングで知人から声がかかったんです。「バーベキューインストラクターの派遣をしている社長と今度会うんだけど、一緒にどう?」って。そこでお客さんの前で食材を焼くようになりました。

− インストラクターの仕事ってどのようなことをするんですか?

圭一さん
料理のケータリングに近いですかね。バーベキュー場にグリルを持って行って炭をおこし、お客さんに食材を焼いて提供するんです。

その会社なんですけど、研修に行ってみるとすごいんですよ。丸鶏を蒸し焼きにしたり、野菜を丸焼きにしたり、拳より大きい塊肉を焼いたりね。「うわ! すごい!!」と感動して、一気にハマっちゃいました。

− 先ほど焼いているところを見せてもらいましたけど豪快ですよね。豚バラ肉が1kgくらいかな、あんな大きな塊見たことないです。

圭一さん
あれは2kgですね(笑)。そこからしばらく会社に所属してインストラクターをしていたんですよ。あっちこっちのバーベキュー場に行って調理するのが楽しかったんです。

セールスマン時代はエンドユーザーの顔が見えづらかった。その点インストラクターはサービスした結果がすぐ目に見える。ゲストが「美味しい」って食べてくれるのがすごく嬉しかったんですね。

− なるほど、お客さんのダイレクトな反応がやりがいになっていたんですね。

冬場は海外で焼いちゃいます! 流しのバーベキュー屋の働き方

− インストラクター時代までは会社に所属していたんですよね? 独立まではどのような経緯があったんでしょうか?

圭一さん
所属していた会社が事業転換をして、インストラクターの派遣をやめてしまったんです。僕は現場に立つことにやりがいを感じていたので、会社を退職しました。

実家に帰って、これからどうしようかなと考えていたんですが、やっぱりバーベキューの仕事がしたかった。だから、フリーランスのバーベキュー屋になろうと思ったんです。でも、1つ懸念がありました。…父です。

うちの父は銀行員で、親戚は農家が多い。つまりすごく堅実な家なんですよ。当然、僕がバーベキューのインストラクターをしていたことも黙ってました。

でも独立するなら言っておかないと、と思って「バーベキューのインストラクターをしたい」って伝えたんですよ。そうしたら「独立はお前が思うほど甘くない、事業計画書を出せ」と言われて、折れてしまったんです。

− 厳格なお父さんなんですね。その時はどこかに就職されたんですか?

圭一さん
食に関わりたいと思い飲食店に就職しました。でも人間関係や、労働環境がきつくて身体を壊してしまい、「やっぱりバーベキューを…」という思いから父に黙って独立しました。それが2016年の3月のことです。


<名刺には「お肉、足りてる?」のキャッチコピーが>

− 独立の時はどのように準備したんですか? 集客なども難しそうですが。

圭一さん
独立は「やりたい!」という勢いで始めたので、名刺とトング1本のスタートでした。バーベキューグリルも届いてなかったですね。あとは本を読んで、飲食業の申請や、開業のしかたを調べました。

僕はバーベキューのインストラクターをずっと東京でやっていたので、独立当初、福岡にはお客さんが1人もいなかったんです。

だから、「まずは僕のことを知ってもらわないと」と思い、学生から経営者までが集まるビジネス交流会に出かけました。

そこで「バーベキューしてます」と自己紹介したら面白がってくれたんです。それで後日、自分のプレゼンも兼ねて交流会の人たちとバーベキュー会をすることになりました。あとはその会に集まった約15人がお客さんを紹介してくれたんです。

宣伝はSNSを使ってます。バーベキューの現場でお客さんとFacebookやInstagram、LINEで繋がると、今度はそのお客さんが幹事になってバーベキューを開催してくれるんです。

そんな風に、数珠繋ぎに仕事の依頼をいただけています。また、僕自身もバーベキューやお肉の写真をよくアップしているので、「僕=バーベキュー屋さん」ってイメージがついたこともプラスに働きました。

− 集客は全て口コミやSNS経由なのですか? ホームページとかは。

圭一さん
ありません。お客さんは全て「僕の連絡先を知っている人」です。自分でも特殊なやり方だと思っているので、今も続けられている事が不思議ですが(笑)。

僕の場合、友人・知人、先輩・後輩、そしてそこからの紹介のみというやり方が合っているんです。ホームページを設ければ依頼が増えるかもしれませんが、1人で対応するには限界があります。

それと、サイトを設けることで必ず発生するリスクが「当日キャンセル」や「無断キャンセル」です。

僕はバーベキュー開始の3時間ほど前から、食材を焼きながら参加者の皆さんを待っています。もし50人分の準備をしていて、時間になっても誰もこないとしますよね? そうすると大量の食材を無駄にしてしまいます。

顔も連絡先も知っている方からの依頼だと、連絡も密にできますし、信頼関係があるので、当日キャンセルになったことはないんです。

− なるほど、小商いだからこそのやり方ですね。そういえば依頼が減りそうな冬場はどうしているんですか?

圭一さん
冬は、お客さんが室内、僕がテラスなどの半屋外施設での依頼をいただきます。ほかには海外でも焼きますね。東京のお客さんがシンガポールに引っ越しされて、現地に焼きに行ったのをきっかけに毎年シンガポールに出張しています。

− そういえば機材はどうやって持ち運んでいるんですか? グリルは抱えきれないくらい大きいですけど。

圭一さん
レンタルすることもあるし、郵送しちゃうこともあります。畳めばダンボール1箱くらいになるので意外といけるんですよ。

− まさに流しのバーベキュー屋ですね。立ち上げ後は順調ですか?

圭一さん
幸い40名以上の大きな依頼も継続的に入ってきて、1年目は1200名以上とバーベキューをするほど商いは順調に進みました。そして、独立前に懸念していた父との関係にも動きがありました。

− そういえば、お父さんには黙ったまま開業されたんですよね。

圭一さん
そうなんです。でも独立して1年が経ち、実家に戻った時に「お前、仕事の調子はどうだ?」と聞かれたんですよ。

「ついにこの時が来たか」と思いました。

そのままごまかして隠すこともできたんですが、嘘をついたらお客さんとの時間をごまかすことになってしまう。それは嫌だったので、1年目の売り上げや実績、課題も正直に話しました。

− お父さんはどう反応されたんですか?

圭一さん
「理解はしてくれたのかな」という感じでしたね。たぶん「どこかに就職してほしい」と考えているとは思いますが(笑)

夢はバーベキュー場とスクールの運営。やりたいことは、膨らんでいく

− お父さんからのお許しを得たんですね。これからも圭一さんはバーベキュー屋として活動していくんですか?

圭一さん
もちろんです。バーベキューを仕事にしていますけど、あまり仕事だと思っていないんですよ。たぶん他の仕事をするようになってもやめることはないと思います。

− ライフワークなんですね。今後どのように仕事をしていきたいか、計画はあるのでしょうか?

圭一さん
2つあって、1つは食材のセレクトショップが併設されたバーベキュー場を開くこと、もう1つはバーベキューのスクールを開くことです。

僕は福岡を拠点にしていますけど、食材の生産者が身近にいて、驚くような食材に出合うことも多い。バーベキュー場に食材屋が併設されていたら、「今日はこの生産地の〇〇さんが作ったお肉がオススメですよ」って紹介できるじゃないですか。そんなバーベキュー場ができたら面白いと思います。

スクールをしたいのは、バーベキューの啓蒙活動をしたいと思うからです。塊で焼いた肉や野菜の美味しさを知らない人も多いので、食材の焼き方や切り方、炭の扱い方、そのほかマナーなんかも伝えたい。バーベキューは家族でやる事も多いので、こどもに「カッコイイ!」って言われるお父さんを増やしたいですね。

とはいえまだ計画段階なので、しばらくは福岡を拠点に各地を飛び回る生活が続きそうです。


(インタビュー終わり)

バーベキューの魅力や将来の計画を語る圭一さんはとても活き活きとしていて、とても楽しそうだった。それは圭一さんがこの仕事が大好きだからなのだと思う。

好きなことを仕事にしようとすると、「そんなに甘くない」とアドバイスされることがあるだろう。けれど、好きだからこそ勢いがついたり、多少の困難が困難でなくなることがある。

なんとかなると思っている人がなんとかなるのは、困難をどうにか切り抜けたいと思って行動するから。これは仕事に愛情がなければできないことだと思う。

開業はたしかに甘くはない、「好き」ばかりでお客さんのニーズを鑑みないと失敗することだってある。けれど圭一さんのように好きだからこそ上手くいくことだってあるはずだ。だから開業前にもう一度考えてみよう。自分はこの仕事が好きなのか? 楽しく続けていけるのかを。

取材・文 鈴木雅矩(すずきがく)

ライター・暮らしの編集者。1986年静岡県浜松市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車日本一周やユーラシア大陸横断旅行に出かける。
帰国後はライター・編集者として活動中。著書に「京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)」。おいしい料理とビールをこよなく愛しています。

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