個人事業主とは個人で事業を営む人のことです。法人を設立せずに、個人として事業を行います。
本記事では、以下をご紹介します。
・法人や会社員と比べた個人事業主のメリット・デメリット
・個人事業主になる方法
・確定申告をはじめとする開業後の手続き
個人事業主とは
個人事業主とは、法人を設立せずに、個人で事業を営んでいる人のことです。具体的にはフリーランスのデザイナーやWebエンジニア、飲食店や美容室のオーナーなどが個人事業主にあたります。
個人事業主は会社員とは異なり、雇用契約を結んでいません。仕事量ややり方を自分でコントロールでき、自由度が高いです。自分の努力次第で売り上げを大きくすることもでき、やりがいを感じられるでしょう。
その一方で、会社員と違って社会保険や雇用保険の適用を受けられない、失敗の責任はすべて自分で負わなければならないなどのデメリットもあります。
個人事業主のメリット
初めて開業するなら、法人よりも個人事業主の方が良いでしょう。その理由を、個人事業主の3つのメリットと併せてご紹介します。
開業しやすい
個人事業主になる1つ目のメリットは、開業しやすいことです。
個人事業主になるために、特別な資格や条件はありません。事業を始める際に、原則として1ヵ月以内に管轄の税務署に開業届を提出するだけで個人事業主になれます。
「個人事業の開業届出・廃業届出書」(開業届)の提出だけで済むため、法人を設立する場合と比べてほとんど手間がかかりません。開業届の書き方も、税務署のホームページで調べたり税務署職員に聞いたりして作成することができます。
開業後の各種手続きも簡単
個人事業主になる2つ目のメリットは、開業後の各種手続きも簡単なことです。
個人事業主には事業に必要な支払いを経費計上できたり、青色申告をしている場合は特別控除を受けたり、税制上のメリットがあります。税制上の優遇を受けるためには、確定申告をする必要がありますが、個人事業主の確定申告は、法人の税務申告よりも簡単です。税理士などに依頼せず、無料の会計ソフトを使って自ら行う個人事業主も少なくありません。
会計ソフトは以下のようなものを自動化できます。
・カードや銀行情報など取引データの取り込み
・レシートや領収書のデータ読み取り
・仕訳表や元帳などの帳簿、資金繰り表などのレポート作成
「確定申告なんて何から手をつければ良いかわからない」「紙やエクセルで記帳や仕訳をして、さらに確定申告だなんて作業時間がもったいない」と感じる人は会計ソフトを活用しましょう。
「フリーランスになったら確定申告は必須!手続きを楽にしてくれる会計ソフト8選」
売り上げが低いうちの節税がしやすい
個人事業主になる3つ目のメリットは、売り上げが低い間は節税がしやすいことです。
個人事業主の所得税には累進課税が適用されます。税率は5~45%の間で変動し、所得が上がるほど税率は高くなります。
その一方、資本金が1億円以下の適用除外事業者法人ではない普通法人の場合、法人税は事業所得が800万円までの部分に対しては15%、800万円を超える部分に対しては一律23.2%です。
そのため、利益が少ないうちは、個人事業主の方が法人よりも税負担が軽くなります。
また、個人事業主は青色申告をすることで、最大で65万円の青色申告特別控除を受けられます。所得から直接控除されるため、大きな節税効果が得られるでしょう。
ただし、売り上げが一定規模を超えると、法人の方が節税効果が高くなることもあります。法人化を検討するべき損益分岐点は、所得700万円~800万円の場合や売り上げが1,000万円以上となった時でしょう。
参照:「個人事業主と法人の違いとは?法人化を検討すべき売り上げ・利益の損益分岐点とは」
個人事業主のデメリット
個人事業主は法人や会社員と比べて社会的な信用や保障がありません。個人事業主のデメリットと、具体的にどのようなときに困ることが多いのかをご紹介します。
信用度が低い
個人事業主は、法人に比べて信用度が低いといわれています。法人は会社として登記されており、決算書や貸借対照表などの財務情報も公開されていることが多いため、取引先や金融機関から信用されやすく、営業活動や融資の審査などに有利に働きます。
その一方で、個人事業主には登記や決算書の提出義務がありませんし、簡単に開業・廃業できることもあり、取引先や金融機関から信用されにくいといえます。
事業用口座の開設、決算書の作成など、信用度を高めるための対策をしましょう。
融資を受けることが難しい
法人よりも信用力の低い個人事業主は、融資の審査が厳しくなりやすい傾向にあります。融資の審査になかなか通らない、借りられる金額が限られるなど、資金調達で苦労することも多いでしょう。
私的な融資も受けづらく、会社員に比べて、住宅ローンを組んだりクレジットカードを作ったりする時にもハードルが高くなるといわれています。
会社員は勤務先から毎月一定の収入を得ていることが前提となり、金融機関としても比較的安心して融資ができます。
その一方で、個人事業主は収入が不安定なことも多く、金融機関も審査を慎重に進めることが多いです。
これらのデメリットを払拭するために、開業届の提出と確定申告はしっかり行いましょう。確定申告を毎年しっかり行うことで、金融機関は個人事業主の財務状況を正確に把握できます。住宅ローンを組む予定があるなら、あえて経費計上するものを減らして、所得を増やすのもおすすめです。
事業用の口座を開設し、事業収入と生活費を明確に区別することで、事業の収支をわかりやすくすることもできます。
資金調達が必要になった時には以下の方法を検討してみると良いでしょう。
1.補助金・助成金
2.日本政策金融公庫からの融資
3.金融機関からの融資
4.制度融資
5.ビジネスローン
6.クラウドファンディング
7.ファクタリング
8.リースバックや資産の売却
9.知人や友人からの借り入れ
10.日雇いアルバイト
参照:「個人事業主向けの資金調達10選・抑えておきたい開業前後の注意点」
社会的な保障が弱い
個人事業主は会社員のように、社会保険や雇用保険の適用を受けられません。病気やケガ、失業などの際には、自己負担で生活を支えなければなりません。厚生年金がなく国民年金のみのため、老後の生活も不安になりがちです。
国民年金基金への加入や個人型確定拠出年金(iDeCo)を活用した資産形成など、意識的に老後への備えを進めましょう。自分の老後は自分で守るためにも、安心できる「自分年金」を考えておきましょう。
国民年金基金は、国民年金に上乗せして給付を受けられる制度です。国民年金の保険料とは別に、掛け金6万8,000円以内で掛金を自由に設定できます(2024年2月時点)。
iDeCoは、自営業者や個人事業主の方は“個人型”への加入となります。掛け金は月額5,000円〜68,000円の範囲内となり、1,000円単位で自由に設定できます(2024年2月時点)。保険料は、小規模企業共済等掛金控除の対象となり、税金が控除されるのでぜひ検討してみてください。
個人事業主になるには
個人事業主になるためには、税務署に開業届を提出しなければなりません。開業届は事業を開始した日から1ヵ月以内に提出する必要があります。
開業届は税務署でもらう、または国税庁のWebサイトからダウンロードし、記入・提出できます。e-Taxソフトで届出書を作成の上、e-Taxにより提出という方法もあります。書き方は、国税庁のWebサイトに見本がありますが、わからなければ税務署の職員に聞くこともできます。
個人事業主になったらやるべきこと
個人事業主になったら次のようなことをやらなければなりません。忘れないようリストを作り、完了したらチェックを入れていきましょう。
・国民年金、国民健康保険に加入する
・開業届を提出する
・青色申告特別控除を受ける場合は、青色申告承認申請書を提出する
・金融機関で事業用の口座を開設する
・帳簿をつける
・確定申告をする(開業した翌年の2月16日~3月15日に行う)
個人事業主の確定申告
確定申告書は国税庁のホームページからダウンロードするか、税務署で入手できます。または国税庁の「確定申告書等作成コーナー」でオンライン上で作成することも可能です。確定申告書には事業の収入や経費、所得税の計算結果などを記載します。
確定申告書のほか、次の書類も用意しておきましょう。
・源泉徴収票(給与所得がある場合)
・配当金等の受領明細書(配当金等がある場合)
・医療費控除の明細書(医療費控除を受ける場合)
・住宅ローン控除の明細書(住宅ローン控除を受ける場合) など
確定申告は毎年2月16日から3月15日の間に行わなければなりません。確定申告書の提出期限を過ぎると、延滞税や加算税が課されることもあります。
税務署で申告する場合
税務署で申告する場合の流れは次のとおりです。
1.確定申告書の作成
2.必要書類の準備
3.税務署への提出
4.所得税の納付
電子申告する場合
電子申告する場合の流れは次のとおりです。
1.e-Taxを使用するための利用者識別番号(ID)と電子証明書を取得
2.税務署のホームページでe-Taxの利用者登録
3.確定申告書の作成
4.必要書類の準備
5.e-Taxによる申告
6.所得税の納付
信用度が低い個人事業主だからこそ、開業届と確定申告を忘れずに
個人事業主は、会社員と比べて信用度が低いといわれています。そのため、開業届と確定申告をきちんと提出することで、事業を継続する意思や税務申告の遵法精神があるということを示せます。取引先や金融機関に評価され、社会的信用度を高められるでしょう。
個人事業主として開業することは、法人を設立するよりも簡単です。しかし、青色申告の申請や事業用口座の開設など、開業届の提出以外にもやらなければならないことはたくさんあります。
開業後は営業活動で忙しくなりますし、想定外のトラブルなども起きることがあるので、開業前からできる準備はどんどん進めておくことをおすすめします。
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<文/赤塚元基>