スポーツ選手は、他の職業に比べ、現役が短くセカンドキャリアを考える人がほとんどでしょう。しかし、最近では、転職をして別のキャリアに進む以外に、本業をしながら別の仕事をする「パラレルキャリア」という選択肢を取っている社会人も多くなってきました。仕事を辞めてからキャリアを考えるよりも、後ろ盾となるもう一つの仕事があることで本業へのメリットもあると言われています。同じようにスポーツ選手も競技とは別の仕事を持つことをデュアルキャリアと表して、国も支援しています。それでは、スポーツ選手のデュアルキャリアについて考えてみましょう。
アルバイトやセカンドキャリアとは何が違う?
これまでもスポーツ選手の働き方として、本業であるスポーツをしながらアルバイトをするなど副業をしているケースは珍しくありませんでした。一流選手でない限り、スポーツ選手としての収入だけで生活するのは難しいのが現実です。そのため、サービス業などでアルバイトをしながら生計を立てている選手もたくさんいます。
プロ契約をしている選手であっても、アルバイトをしているケースもあるため、プロだからといってそれだけで生活ができるとは限りません。
では、アルバイトをしながらスポーツ選手をしている状態は、デュアルキャリアにあたるのでしょうか。
実は、「デュアルキャリア」の定義は、本業と副業で収入があること、ではありません。
デュアルキャリアは、本業と副業の両方の顔を持ち、両方ともメインとして取り組むことを言います。スポーツ選手の場合は、現役のスポーツ選手としての顔と社会人の顔ということになります。
そのため、収入の補填としてアルバイトをしている場合は、デュアルキャリアとは呼ばないのです。
また、セカンドキャリアとは、スポーツ選手を引退してからのキャリアのことを指すため、現役時代から社会人としての顔を持つデュアルキャリアとは別物です。
デュアルキャリアの主なメリット3つ
では、デュアルキャリアを選択するスポーツ選手が増えているのにはどんな理由があるのでしょうか。ここからは、デュアルキャリアのメリットを3つ紹介していきます。
1.経済的な不安が軽減される
一つ目のメリットとしては、経済的に安心できる、という点が挙げられます。
スポーツ選手と言っても種目はさまざまです。特にマイナーなスポーツにおいては、高い収入はなかなか見込めません。
スポーツ選手としての収入だけでは生活できない場合もあります。しかし、社会人として他にも仕事をしていれば、収入源が2つになるため安心できるでしょう。
2.引退後の不安がなくなる
スポーツ選手がデュアルキャリアを選択する最も大きなメリットは、引退後も社会人としてのキャリアが積める点です。
スポーツ選手は、現役を全うしたとしても、一般的な仕事より現役期間が短いことが多いといえます。また、スポーツ選手の場合、怪我をしない保障はありません。突然、競技や練習中の怪我で引退せざるを得ない状況になることもないとはいえません。
その場合も、会社員として勤めたり、自らの会社での事業をしていたりしていれば、そちらのキャリアは継続できます。
二足のわらじを履くメリットは十分にあると考えられます。
3.メリハリをつけて競技に集中できる
一見、他の仕事をしていると競技に集中できないように見えます。
しかし、他のキャリアがあるからこそ、メリハリをつけて練習時間に集中できたり、他のキャリアで成功体験を積むことで自信をつけたり、競技にも良い影響が出ることもあります。
また、デュアルキャリアと言っても、会社員として他の人と同じように会社勤めをする選択肢しかないわけではありません。
サッカー選手が投資事業を始めたり、アパレルブランドを立ち上げたり、サッカーチームやフットサル場の経営をし始めたりするケースは少なくありません。
最近では会社員でも時短勤務や、週3日出勤、リモートワーク可能など、働き方の幅は広がっています。スポーツ選手だからといって、他の仕事を並行でするのは難しいと決めつけることはありません。
デュアルキャリアの主なデメリット3つ
メリットを紹介しましたが、デメリットも存在します。メリットとデメリットの両方を見たうえで、デュアルキャリアをスタートさせるべきか検討しましょう。
1.練習時間が短くなる
デュアルキャリアで会社勤めをする場合、否定できないのは練習時間が短くなることです。メリハリもついて、集中力が増す、というメリットもありますが、仮に日本代表選手だったり、オリンピックを目指すようなレベルになったりすると、海外遠征や毎日のトレーニングが必須となる場合もあります。
会社員というキャリアの選択肢しかないわけではありませんが、スポーツ選手以外の仕事に勤務時間が決まっている会社員などを選んだ場合、他の仕事をする時間が全く取れないとなるため、競技と同じレベルで他の仕事をするのは難しくなるでしょう。
スポーツによって練習に要する時間も、練習環境も違うため一概にはいえませんが、毎日練習しなければならなかったり、海外を拠点にしないといけなかったりする場合は、会社員としてのキャリアではなく、他の人に協力をしてもらいながら事業を立ち上げるなど、他の方法を考えるのが良さそうです。
2.すべての企業がスポーツ選手の採用に積極的なわけではない
スポーツ選手やアスリートの採用に関心を示している企業が存在しているのは事実ですが、すべての企業がスポーツ選手を社員として採用することに積極的なわけではありません。現役ではなく引退後のセカンドキャリアでの採用であれば、フルタイムで働いてもらえるため、企業側もフルコミットしてもらえるから採用しよう、となる場合もあります。
しかし、デュアルキャリアの場合は、現役スポーツ選手としての活動を続けながら仕事をするため、「自社の仕事が疎かになるのではないか」「何かあったら競技を優先されるのではないか」という考えが企業側に浮かんでしまうものです。
スポーツ関連の企業やメーカーなどであれば、現役選手であることをマーケティングや商品開発に活かせるので、好ましく思われる可能性は高いです。
スポーツと全く関連性がなく、選手としての知識や経験が活かせそうにない職種であれば、採用されるハードルは高くなるといえるでしょう。
3.仕事面の成果も求められる
一つ勘違いしてはならないのが、デュアルキャリアの場合、仕事の成果もきっちり求められるという点です。
会社の宣伝のために所属しているわけではないため、スポーツでの成果と同じように、仕事でも成果を出す必要があります。
もし、自分が大事な試合の前になると競技のことしか考えられない状態になるだろうと予想される場合は、デュアルキャリアは向いていないのかもしれません。
スポーツ選手は市場の需要はある?
マイナビが運営する人材紹介サービス「マイナビアスリートキャリア」の調査によると、デュアルキャリアに関心を示しているスポーツ選手の割合は、46.6%と最多の結果となっています。
一方で、企業側の需要はどのくらいあるのでしょうか。「マイナビアスリートキャリア」によると企業もスポーツ選手の引退後の採用ではなく、デュアルキャリアでの採用も積極的に検討しているようです。
採用側にとってデュアルキャリアはリスクもありそうですが、それでも採用するのには理由があります。
雇用したいアスリートの魅力の1〜3位まではこのような結果となっています。
1位:ポジティブであること
2位:努力家であること
3位:誠実さ・真面目さ
「現役アスリートの採用に関する実態調査 (2018年/N500)」(マイナビアスリートキャリア):https://athlete-career.mynavi.jp/dualcareer/
この内容を見ると、確かにプロのスポーツ選手に備わっている素養であり、会社勤めにも有利に働きそうな想像ができます。
プロになっている、という事実だけでも、努力家であることなどは立証できているといえるでしょう。
デュアルキャリアをスタートさせる方法
デュアルキャリアを始めたい、と思っても始め方がわからない方もいるのではないでしょうか。最近では、スポーツ選手のデュアルキャリアを支援するサービスも多数存在します。
スポーツ選手専用のキャリアサービスに相談する
人材紹介サービス大手の株式会社マイナビが運営する「マイナビアスリートキャリア」に登録すると、希望条件を確認しながら、希望にマッチしそうな企業を紹介してくれます。
プロスポーツチームと複数提携しており、実績も多いので、スムーズな仕事探しが実現するかもしれません。
また、スポーツ選手がデュアルキャリアの啓蒙活動を志し、キャリア支援の法人を立ち上げているケースも多いです。
元プロ野球選手である奥村武博さんも、「一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構」を立ち上げ、キャリア相談やコンサルティングをされています。
一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構:https://www.adcpa.or.jp/
スポーツ選手向けのキャリアスクールに通う
いきなり、求人探しをするにはスキルに自信がない…という場合は、スポーツ選手専用のビジネススクールに通う、という方法もあります。
セールススキルやPCスキル、ビジネスマナーなどを学べるスクールも多数存在します。
株式会社Maenomeryが運営する、アスリートデュアルキャリア ・教育サービス「HEY!」では、オンライン受講や、実際の職場に近い形での体験ができるインターンコースなども用意されています。
HEY!:https://maenomery.jp/dual-career/
スポーツ選手の働き方も変わりつつある
ひと昔前までは、プロのスポーツ選手は競技に集中するもの、とされていました。最近では、スポーツ選手が望んでいるだけでなく、学べるサービスや環境の土台もできてきました。これからは、スポーツをしながら企業で働いたり、自分の事業を持ったりすることも自分次第でできるようになります。デュアルキャリアを諦めなくてよいのです。じっくりスポーツと向き合うためにもデュアルキャリアを検討してみるとよいでしょう。
<文/中西由貴>