近年、中小企業の事業承継が問題となる中、オーナー企業の株式資産を減らす手段として従業員持株会への株式譲渡が注目されています。
今回は、従業員持株会に株式譲渡を行うメリットや注意点をまとめました。
従業員持株会とは?
従業員持株会とは、一般的に民法に基づいて設立される組合で、多くの上場企業や一部の未公開企業で導入されています。
従業員が給与・賞与からの天引きで毎月一定の金額を拠出し、持株会が窓口となり自社株を買い付ける仕組みです。
従業員の資産形成を支援する“福利厚生制度”として位置づけられます。
従業員持株会を設立するメリットとデメリット
<経営側>
メリット1.株主構成の安定を図ることができる
従業員持株会が株主構成の上位にあれば市場に出回る株式数が少なくなり、TOBなどによる敵対的買収の防御力になります。
メリット2.労働へのインセンティブが上昇する
会社業績が上がって株価が上昇すると株を持っている従業員は得をするため、仕事へのモチベーションアップにつながります。
メリット3.株主構成が安定化する
上場を目指す際は安定株主として資本政策で助けとなるため、株式公開後はTOBなどでの敵対的買収の防御力となります。
デメリット1.業績悪化の可能性がある
業績悪化などによる株価の下落やほかの経営問題による配当の下落は、従業員のモチベーション低下につながります。そうした意欲低下がさらなる業績悪化を引き起こすといった、負のスパイラルに入る可能性が高くなってしまいます。
<従業員側>
メリット1.手軽に株式をもてる
持株会は一般的に低価格(1000円程度~)のため手軽に始められます。
メリット2.天引きで積み立てる
会社からの給与・賞与から引かれるため、気楽に積み立てることが可能です。
メリット3.奨励金が付与される
従業員持株会に加入すると、企業から“奨励金”という報酬を得られることがあります。
デメリット1.配当が値下がるリスク
持株会では個人が自由に株式売買できないため、業績悪化など配当の値下がりのリスクがあります。
デメリット2.会社と一蓮托生の関係になる
従業員持株会に多額の資金を投入すれば、会社に財産を依存させることになるため、
「会社の業績が上がって株価が上がれば天国」
「会社の業績が下がって株価が下がれば地獄」
といった一蓮托生のような関係になります。
従業員持株会へ株式譲渡を行うフロー
従業員持株会へ株式譲渡を行う際の注意点
1.シナジー効果を期待できない
株式譲渡により業務提携を行って得られる異業種・同業他社とのシナジー効果は得られません。
2.譲渡株式数は3分の1以下にする
株主総会では重要事項決定に「3分の2以上の議決権」が必要となります。そのため、経営者側は「3分の2以上の株式」を必ず保有している必要があります。
3.譲渡所得税と住民税がかかる
オーナーの保有株式を従業員持株会に譲渡するため譲渡分が減少し、対価が現金で入ってきます。譲渡により利益が出れば、譲渡所得税と住民税がかかります。
4.運営実態のない従業員持株会は違法となる
従業員持株会を設立しても実際の従業員が加入して運用を行わず、課税を免れる目的で利用した場合、脱税と認定され延滞税・加算税・刑事罰などが課される可能性があります。
まとめ
事業承継などで株式を譲渡したい場合は、従業員持株会を利用して相続税などを節税しながら事業承継をすることが可能であるなどメリットは大きいといえます。
しかし、制度設計をしっかりとしていないままに従業員持株会の運用を始めると、取り返しのつかないデメリットが発生してしまうでしょう。
従業員持株会の設立自体は簡単ですが、そのメリット・デメリットの判断や制度設計が非常に重要となります。
失敗しないためにも、弁護士や証券会社、M&A会社など専門家のアドバイスをもらいながら慎重に進めていきましょう。