個人事業主として開業する時には、まずは“開業資金”を準備します。そして開業後には事業を継続するために、“運転資金”が必要となります。
開業資金は、ある程度、必要となる額を計算して事前に用意できますが、運転資金は実際に事業を始めて運営していく中で、必要な費用をまかなうための資金です。ですから、開業資金と共に、運転資金を事前に用意してあったとしても、事業を始めてみないことには実際どのくらいの資金が必要であるか正確な予測は難しいといえるでしょう。
事業収入が安定してくれば、収入の一部を運転資金に充てることもできますが、開業当初といった収入より支出が多い時期は、お金を借りて事業を営まなければなりません。
このように資金繰りに頭を痛めがちな個人事業主が、銀行から運転資金分の融資を受けることは可能なのでしょうか。
また、銀行以外で融資を受けられるケースはあるのでしょうか。
今回は、開業のために必要な資金の中でも、特に「運転資金」について解説していきます。また、運転資金の借り入れが必要になった時のために、個人事業主が受けられる融資についてもご紹介します。
運転資金とは
運転資金とは、「事務所の賃料や水道光熱費」「材料費や仕入れに関する費用」など、事業の運営上、必要な費用をまかなう資金のことです。
運転資金の考え方として、売り上げに関係なく毎月、同額の費用がかかる“固定費”と、売り上げなどによって変動する“変動費”に分けておくとわかりやすくなります。固定費と変動費のバランスを見ながら、運転資金の使い方を考える必要があります。
【固定費】
賃料やリース料などが該当します。売り上げが変わっても、毎月決まった金額が発生する、変動しない費用です。
【変動費】
材料費や仕入れに関する費用などが該当します。例えば、商品の売れ行きによって費用が変動するような場合は、変動費になります。
運転資金が必要になる時
運転資金が必要になる時とはどのような場合なのか、運転資金を4つの種類に分類して説明していきます。
経常運転資金
一般的に運転資金というと、“経常運転資金”のことを指します。急遽、必要になるお金は、この中に含みません。「人件費」「賃貸費用」「仕入費」などが該当します。
増加運転資金
事業を拡大する時にかかる資金を「増加運転資金」といいます。売り上げの増加を見込んで、人員や仕入れを増やす時に必要となる運転資金です。
減少運転資金
事業を縮小する時にかかる資金を「減少運転資金」といいます。事業縮小時は、店舗の閉鎖や資産の売却手数料など、追加的に発生するコストです。事業が縮小したら「資金はかからない」または「減る」と思っている方もいるかもしれません。しかし、売り上げが下がり、見込んでいたお金が入ってこなくても、最低限の固定費はかかります。資金管理には十分注意しましょう。
季節運転資金
特定の季節にだけ発生する運転資金です。例えば、「クリスマスや正月の商品仕入れのための資金」や「夏や冬に事務所で使用するエアコンの購入資金」などが該当します。
個人事業主が融資を受ける方法8選
お金を借りる時、まず思い浮かぶのは、銀行といった金融機関を利用することかもしれません。
しかし、選択肢は多いにこしたことはありません。今回は銀行からの融資をはじめ、その他にも個人事業主が融資を受けられる方法をご紹介します。さまざまな融資の方法を比較検討し、個人事業主が資金調達する方法を考えていきましょう。
(1)銀行からの融資
メガバンクや地方銀行、ネット銀行などの銀行では、法人や個人事業主向けに事業資金の融資を行っています。
普段から付き合いのある担当者がいれば相談することも可能かもしれませんが、担当者がいなければ、銀行の融資窓口で相談をしましょう。
銀行では融資を行う際に審査を行います。審査の際には、決算書や資金繰り表、事業計画書や融資を受ける理由書など、銀行から提出を求められた資料の用意が必要です。提出し
た資料をもとに銀行は審査を行い、融資が可能かどうか、金利や融資額などを決定します。
個人事業主だからといって、銀行から融資が受けられないわけではありません。しかし、開業間もない個人事業主の場合、まだ実績がないため、審査が厳しくなることも事実です。融資を受けられたとしても、希望通り額を融資してもらえない可能性もあります。
また、銀行融資の特徴として、融資の審査に時間がかかるということが挙げられます。申請から実際に融資が実行されるまでにタイムラグが発生することもあります。そのため、前もって慎重かつ計画的に申請を進めるようにしましょう。
銀行融資に関しては次の章「銀行の融資はハードルが高い?」でも、詳しくお伝えします。
(2)信用金庫からの融資
信用金庫は信用金庫法に基づく地域密着型の金融機関です。地域の発展のため、地域で事業を行う中小企業や個人事業主への事業資金の融資や、これから地域で事業を行う方に向けた開業資金の融資も行っています。
営業地域が一定の地域に限定されていたり、日本政策金融公庫と比べると金利は高かったりする傾向にありますが、地域密着型のため親身になってくれることもあります。
(3)信販会社のビジネスローン
信販会社は主に商品やサービスを購入した際に、代金を販売会社に支払い、後日、利用者から支払いを受ける、いわゆるクレジットサービスを行っている会社です。
信販会社では中小企業や個人事業主向けのビジネスローンを展開しています。銀行ほど審査は厳しくないため、急ぎで運転資金が必要な場合には検討しても良いでしょう。ただし、銀行や日本政策金融公庫の融資と比べると金利が高めなので、どうしても必要という場合に留めておくことをおすすめします。
(4)日本政策金融公庫の貸し付け
日本政策金融公庫は、政府が100%出資する金融機関です。国民生活事業として、中小企業や個人事業主を対象とした、小規模企業向けの小口資金や新規開業資金の貸し付けなどを行っています。
銀行の融資と比べると金利が低く、借入期間も長く設定されているのが特徴です。担保不要で利用できるサービスもありますが、申し込みには銀行融資よりも多くの書類が必要で、審査基準も厳しいです。銀行融資と同様あるいはそれ以上に審査に時間がかかるため、融資スタートまでにはある程度の時間がかかります。
既に事業を行っている個人事業主への融資以外にも、新たに事業を始める方や事業を開始して間もない方向けに、貸し付けを行っています。
新規開業資金の貸し付けの中には、女性または35歳未満か55歳以上を対象とした「女性、若者/シニア起業家支援資金」や、廃業歴などがある方向けの「再挑戦支援資金 (再チャレンジ支援融資)」などもあり、通常の新規開業時よりも有利な条件の支援が受けられます。
「新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)/女性、若者/シニア起業家支援資金」(日本政策金融公庫)
「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」(日本政策金融公庫)
(5)クラウドファンディングで資金を集める
クラウドファンディングとは、インターネットを経由して賛同者を募り、不特定多数の人から資金を集める方法です。
プロジェクトを行うための資金調達が難しい個人事業主や団体が、インターネットで企画内容やサービスなどをプレゼンテーションすることで、広く資金提供者を募ることができます。
少額の資金提供者を数多く集めることで、必要な資金が調達可能となります。ただし、賛同者が集まらない場合は、資金が予定額まで集まらない可能性もあります。予定額に満たない場合は資金を1円も得られないということもあります。クラウドファンディングを行う場合には、思うように資金調達できない場合も想定して別の方法も検討しておくことも大切です。
(6)ベンチャーキャピタルに投資してもらう
画期的なアイデアがあり、将来、上場を目指しているという場合は、ベンチャーキャピタルからの投資も期待できます。
ベンチャーキャピタルは、未上場企業へ投資して、その企業が上場した際にキャピタルゲインを得ることが目的です。目指す先は「上場」になるので、上場を考えていない法人や個人事業主の方にはあまりおすすめできません。
(7)個人向けのカードローンで借りる
銀行や消費者金融が提供している個人向けのキャッシングサービスであるカードローンを利用して、個人事業を行うための資金を確保することもできます。
カードローンは安定的に返済できることが融資の条件となります。
なお、生活資金としての融資を主としているカードローンは、事業資金が目的の場合は利用できない場合もあるので、金利や限度額、融資までにかかる時間とあわせて契約前に確認しておきましょう。
(8)人から借りる
家族や親戚、友人や知人からお金を借りることも、時には必要となります。
身近な方から事業資金を借りた場合も、後々のトラブル防止や、借りた資金を贈与とみなされたりしないように借用書を作成しておきましょう。
銀行の融資はハードルが高い?
メガバンクや地方銀行などの金融機関では、個人事業主向けの融資を行っているので、個人事業主が銀行から融資を受けることは可能です。
ただし、銀行の融資を利用するには、審査を通ることに加え、担保などの提供を求められることがほとんどです。
担保として提供できる不動産など、個人資産を保有していれば問題ないのですが、資産がない場合は、信用保証協会の保証を受けて、銀行から融資を受けることになります。つまり、銀行から融資を受けるには信用保証協会の審査に通過することと、保証料を支払うことが必要となるのです。
なお、融資額や金利、融資期間や返済方法など融資の要件については、各銀行で異なりますので、よく比較検討しましょう。
銀行から融資を受けるのは早い方が良いのか
事業資金の融資を受ける場合、審査が厳しい銀行融資を受けられることは一種のステータスであり、今後の融資も受けやすくなると考える方もいるようです。
しかし、大切なことは融資を受けることができたか否かではなく、計画通り継続的に返済できたかどうかです。
理由としては、新たな融資や追加融資を受けたいと思った時に、これまでの融資の返済状況も判断基準となることもあるからです。
まとめ
今回は、運転資金について、個人事業主が銀行から融資を受けられるのか、また銀行以外から融資を受ける方法についてもお伝えしました。
一般的に、開業時に1年程度の運転資金を用意しておくと安心といわれています。運転資金は、売掛金が回収されるまでの期間に左右されます。スモールスタートかつ回収される期間が短ければ、調達資金をある程度少なくすることも可能です。
しかし、事業が順調でも資金繰りがうまくいかないと事業継続は難しくなるものです。資金が必要な時には適切に融資を受け、資金繰りに悩まない事業運営を目指しましょう。
また、融資だけではなく、補助金や助成金など、国や自治体が事業資金を援助する制度の利用も同時に検討すると良いでしょう。応募基準を満たせば申請ができますし、融資と違って返済をしなくても良いお金というのが嬉しいポイントです。
なお、融資の申し込みの際には「開業届」の提出を求められることがありますので、申請前には必ず提出するようにしましょう。
個人事業主は、何かと不安定な状況に陥りやすいですが、いざという時に踏ん張りをきかせてピンチを回避するためにも、資金繰りの手段をいくつも用意しておくのはとても大切なことです。
せっかく「やりたいこと」や「挑戦したいこと」を見付けて、新しい事業をスタートさせたら、辞めることよりも「継続するにはどうしたら良いのか」と前向きに考えられる環境を日頃から整えておきたいものです。
そのためにも、今後も「使えるもの」や「頼れるもの」を知っておくようにしてみてください。
村上 年範さん/クレディ・テック株式会社 代表取締役
金融商品や不動産を活用した経営コンサルティングを得意とし、前職のプルデンシャル生命保険株式会社在籍時より担当したクライアント数は年間200社にのぼる。2013年クレディテック株式会社設立。金融と不動産を軸とし、税務・法務の観点から知識提供を行う、資産形成および財務のコンサルティングサービスを展開。海外不動産についても強いコネクションと発信力を持ち、これまでの取扱高は150MM以上。現在、「幻冬舎GOLD ONLINE」にて、幅広い資産形成ノウハウを連載中。
【村上年範 運営】金融・不動産にまつわるYoutubeチャンネル
<文/西川ちづる>