「会社の名前ではなく、自分の名前で勝負したい」
おそらく独立・起業を考える人にとっての、大きな目標だと思います。
今回お話を伺った美崎栄一郎さんはまさに、大企業の看板を捨て、自分の名前で勝負をし続けています。
日用品メーカーの最大手「花王」で商品開発に携わった後、独立。
現在はビジネス書作家・セミナー講師、起業家など、幅広い分野で成功を収めています。
今回は「花王」から独立をして作家・起業家の道を選んだ理由を、美崎さんの半生を振り返る形で伺いました。
自分の名前で勝負をし続ける。その姿勢を体現する美崎さんの頭の中を、紐解いていきましょう。
美崎栄一郎
ビジネス書作家/講演家/起業家
株式会社「花王」で衣料用洗剤「アタック」や化粧品ブランド「ソフィーナ」など、幅広い商品の開発を担当。
2009年頃から作家業も始め、デビュー作『「結果を出す人」はノートに何を書いているのか』がビジネス書大賞1位に。その後も著書『iPadバカ』がiPad関連の書籍で最も売れた書籍として記録されるなど、ヒット作を連発。
「花王」から独立後、作家業と並行しながらセミナー講師、起業家としても活躍し、自身が立ち上げた「株式会社戦国」では代表取締役・総大将として、メイドインジャパンにこだわったユニークな「ご当地お土産」で、地方再生に貢献している。
現在は「働く人と仕事の不和の解消」をテーマに、全国各地に会社を作るため、奔走中。
著書は「作品」ではなく「商品」。マーケティングを活かし実現した、職業作家への道
ー作家やセミナー講師をはじめ、起業家としてもご活躍されている美崎さん。現在のようなお仕事をされるようになった経緯を教えてください。
私は新卒で入社した「花王」という会社で、商品開発を担当していました。
それから15年間、商品開発に携わっていましたが、15年で10の製品を世にリリースしました。
1つの製品が開発され世に出るまで、普通1年以上の時間がかかるので、この数字は比較的ハイペースな方です。
1つの商品を開発し終わったら、すぐにまた別の開発を任される。そういった生活が続いていたので、休みもなかなかとれない状態でした。
そして10年以上商品開発の仕事を続けていく内に、だんだんと「花王」ではできないような仕事に挑戦してみたいと思うようになったんです。
ーそれが、作家業だったのですね。
はい。
もともと文章を書いてみたいという気持ちがあったのと「花王」の美崎栄一郎、という名前ではなく、何の後ろ盾もない自分の名前で勝負できる仕事をやってみたかったんです。
そして2009年に本を書くことを始めました。最初は副業として、仕事の合間に本を書き始めたんです。
ー「本を作って世に出す」という作業は、1人だとなかなか難しいと思うのですが、どうやって作家デビューを果たしたのでしょう?
まず、本を出すための方法をいろいろ調べてみました。
そして1番良さそうな方法が、出版社の編集者に自分が書いた本をプレゼンすることだったんです。
ー出版社に売り込むという方法ですね。
はい。
しかし普段から、出版社にはたくさんの売り込みが来ているでしょうし、普通に本を売り込んでも意味がないなと。
そこで私は、もっと効果的に売り込む方法を考えてみました。
「花王」時代私は定期的に、社会人向けに“ビジネスで役立つスキル”をお教えする勉強会を主催していました。その勉強会に編集者の方も呼んで、3時間近く熱弁してプレゼンしてみせました(笑)。
その後「ここで話した内容について、本を書かせてほしい」と、編集者に伝えたんです。そして快諾を得ることができました。
ー美崎さんの強みを活かした売り込み方ですね。その後は、どのように作家生活を歩んでいかれたのでしょうか?
とにかくたくさんの本を出版しました。(iPhone、iPadなどの)ガジェット系、仕事術、ノート術、エクセルの効果的な使い方など、ジャンルもバラバラに出しましたね。
ーここにも何かしらの意図があるのでしょうか?
本屋での著書売り場を、できるだけ広く確保したかったからです。
当時はまだ駆け出しの作家だったので、作家として名を売らなければなりません。そのためにまず私の本の存在を知ってもらうことが大切でした。
しかし、もし私が「ノート術」の本しか書かなかったら、出版した順で古い本から置かれなくなってしまいますよね。
そこで私はノート術だけでなく、ガジェット系、仕事術、エクセルなど様々なジャンルで本を書いていきました。ジャンルが違えば内容も重複しないので、本を出せば出すほど本屋での「美崎栄一郎」のコーナーは充実していくのです。
ー当時まだ駆け出しの作家だったとは思えないほど、入念で緻密な策が練られていますね。
たしかに私は作家としては初心者でしたが、マーケティングの基本的な考え方は、「花王」の商品開発と変わらないんです。
例えば、「花王」の洗剤に「アタック」という商品がありますが、これをいくら改良しても「アタック」という商品に変わりないんですよね。
新しいバージョンの「アタック」が出たら、古い「アタック」はお店に置かれなくなってしまう。つまり、店頭に置かれる商品の絶対数は増えていきません。
「アタック」をちゃんと売りつつも、柔軟剤の「ハミング」やトイレ掃除の「マジックリン」といった用途の異なる洗剤を開発して、店で売られる商品の幅を広げる。
この考え方は、作家という職業においてもなんら変わりはありません。
私は自分の著書を「作品」ではなく、あくまで「商品」だと思っています。
そして「商品」は、売れなかったら意味がありません。「本を売る」という目的を設定して、その目的に合わせて策を考えていったのです。