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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第86回・デジタルトランスフォーメーションの裏にある危機

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第86回・デジタルトランスフォーメーションの裏にある危機

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

コロナウイルスの影響で、以前から注目されていた「デジタルトランスフォーメーション(DX)」がさらに進むといわれています。特に導入が進んでいるのが「ウェブ会議」「セルフレジ」「インターネット通販」の3つですが、実はこの3つには、共通する「ある大きなリスク」があるといわれています。さて、それは何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉をよく聞くようになりました。

デジタルトランスフォーメーションとは、ITやデジタル技術を活用することで業務やビジネスに変革を起こすこと。ビジネス環境が激しく変化するこれからの時代に対応するために、企業がとっていくべき1つの変革のための手段だといわれています。

ITやデジタルとの融合によって、すでに色々なところで便利なものが生まれています。今回のクイズにも取り上げた「ウェブ会議」「セルフレジ」「インターネット通販」といったものは代表的で非常に分かりやすい事例だと思います。

それでは解説します!

ITやデジタル技術を活用することのいい面としては、「生産性の向上」があげられます。経営者としては効率を上げるための方法を考えることは、今後も重視していかないといけない大事なポイントの1つでしょう。

しかし、問題なのは、生産性向上や効率性を重視するあまり、「本来は自分がやるべきこと」の部分に穴がぽっかりあいてしまうということです。そして、それが原因で将来的に大失敗が起こる可能性がある、というのが考えられる大きなリスクなのです。

さて、それは一体何でしょうか。答えは「顧客接点がなくなること」なんです。

「ウェブ会議」「セルフレジ」「インターネット通販」を取り入れるということは、言い換えれば顧客と対面で触れ合える場所が大幅に縮小してしまう仕組みを導入することになるわけです。

しかも今は、ウィズコロナといわれる「顧客ニーズがものすごく大きく変化する時期」です。にもかかわらず、お客さんとの接点が減ってしまえば、「最近はどう?」みたいな話すらできなくなり、お客さんとなる人たちの動向や気持ちが分かりにくくなるのです。

商売をするうえで、これは非常にマズいことです。

顧客ニーズが激しく変わっているのに、それに気づくことができなければ、手を打つこともできません。「ある層のお客さんがなぜか一斉に消えてしまった」とか、「実は売れ行きが伸びている商品があるのにその原因が分からない」といったことが起こり得るのです。

「雑談」を増やすにはどうしたらよいか

企業向けにサービスを提供しているとある会社で、次のような話を聞きました。

その会社では、ここ最近、突然サービスが解約されることが続いたそうです。最初は「コロナ渦だから仕方がない」と捉えていたようですが、よく考えてみると、過去に突然そういう話になることはほとんどなかったそうです。

それでよくよく振り返ってみると、今年の3月くらいからコロナウイルスの影響で「取引先の担当者との飲食が禁止」となったのだそうです。以前であれば、定期的に顧客と飲み食いしながら、そのお客さんの業界がどれくらい厳しいのかなどの情報を聞いて把握できていたのに、この数ヶ月はそれが全くできていなかったわけです。結果、何もなすすべなく、突然の解約につながってしまった…ということです。

もう1つ、これは対顧客ではありませんが、リモートワークになり社内のミーティングがすべてオンラインになったことで、社員同士のちょっとした雑談が減り、上司が部下の気持ちを把握しにくくなっているという声もよく聞きます。

仲間が今、何を考えているのかを把握できていないため、組織運営が行き詰まっているのだそうです。これも効率化による1つのリスクといえそうです。

こうした出来事がその会社だけのことなのか、もしくは今後次々にあちこちで起こり得るのか、それが今は誰も分からないからこそ、焦っている人は非常に多いと思います。

ではどうすればいいのか。明確な解決策はまだ見つかっていないと思いますが、例えばもうちょっと意図的に「雑談」をするなど、顧客とのコミュニケーションを増やしていかないといけないでしょう。

実現は難しいかもしれませんが、チャレンジする価値があるといわれるのが、「お客さんとのウェブ飲み会」です。

飲食業界なら「当社が新たに開発した食材をお送りするので、ぜひ一緒に食べながら意見を伺えませんか?」などとウェブ飲み会を設定できるかもしれませんが、いずれにしろ何かしら理由を作り、機会を新たに生み出していかなければなりません。難易度は高いでしょうが、顧客接点を増やすためにはトライアンドエラーをし続けないといけませんので、やる価値はあると思います。

起こり得る危機に向き合い、対策を考えておきたい

デジタルトランスフォーメーションが進むことによるリスクをどう解決していくか。それは今後の課題であることは間違いありません。

1ついえるのは、私たちは新しい時代に起こり得る「危機」と向き合わなければならないということです。すでにその前兆は出始めているわけですから、それらを認識したうえで、対策を考えていく必要がありそうですね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「顧客接点がなくなる」でした。ちなみに、コストやセキュリティもリスクとして考えられますが、それらは十分に管理できることであり、今回の答えとしては不十分かなと考えています。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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