起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第74回・逆境に強いビジネス
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、日本でも有事の際によく問題になる「買い占め」が、世界中で起こっています。
日本においても、「トイレットペーパーが欠品するらしい」というネット上でのうわさ話がきっかけで、皆が一斉に買いに走ったのは記憶に新しいところですよね。マスクや除菌剤も早いうちに買い占められたことで生産が追いつかず、4月下旬の時点でもなかなか手に入りにくくなっています。
本当に必要とする人に行き届かないこともあるので、困ってしまいますよね。
それでは解説します!
人が買い占めに走ってしまう心理とは、どういうものなのでしょうか。
買い占めが起こるきっかけの多くは、ネット上の口コミやうわさ話でしょう。「○○がなくなりそうだ」という話が広まったとして、その内容が仮にデマだったとしても、そのデマをたくさんの人が信じてしまった途端に物がなくなってしまうわけです。つまり、皆が買い出した時に一緒に買っておかないと、結局は買えなくなる場合がほとんどです。
これはまさしく、「いい会社の株だから上がるのではなく、みんなが買うと思った会社の株だから上がる」という、証券用語でいうところの「美人投票」と同じ話なのです。自分がどう思うかよりも、周りの動きを見て選択すべきだということですね。
つまり、集団心理としては、列ができ始めてしまえば並んでしまうわけで、結果として買い占めはなくならないといわざるを得ません。
しかし、それでいいわけではありませんよね。買い占めをなくすために何かできるはずで、それを考えてみるのが今回のポイントです。
答えを解説する前に、1つ私が面白いなあと思った話を。近所の薬局が実際に行っていることなのですが、トイレットペーパーが品薄でなかなか手に入らない時に「ロール1個ずつを販売する」という方法をとっていたのです。
これだと多くの人の手に渡りますし、必要な人がその日に必要な分だけを買っていくという当たり前の様子が見られました。すごく正しい行き渡り方だと感心しましたし、商売としてはすごく理にかなった方法だと思います。
一人が1つしか買わなくなった「とっておきの方法」がある
ただ、こうした販売方法だと、一人で何回も列に並ぶ人が出てくることは容易に想像ができます。もちろんそれを禁止しておけばいいわけですが、簡単にはいかないことが多く、トラブルの元にもなりやすいのです。
その時に有効なのが「整理券」でしょう。順番に整理券を配布し、それがないと購入できない仕組みを作るわけですね。
吉祥寺に「小ざさ」という和菓子屋さんがありますが、その店の名物である羊羹は先着50名にしか販売しないため、ほしい人は朝早くから並び始めます。だいたい早朝5時前から列ができ始め、8時過ぎに整理券を配布したら、開店後にそれを持っていくことで購入できるという仕組みです。
面白いのは、この販売方法をずっと続けていることで自ずとルールのようなものができているという点です。だいたい何時頃なら大丈夫かが常連さんだとわかっていたり、ちょっと列から抜ける場合は前後の人がサポートし合ったり、交流が生まれたりして、並ぶ人たちの列が知らず知らずのうちにコミュニティのようになっているのだとか。すべてがそうはいかなくても、整理券を配布することでスムーズにことが運ぶ場合もあるのです。
ただ、今回のような緊急時にはすべてがそうもいきません。そんな時に話題になったのが、オーストラリアのコンビニエンスストアのケースです。
「一人1つまで」と注意書きをしてトイレットペーパーを販売しても、あの手この手でたくさん買っていく人が後を絶たなかったそうです。困った店長が考えたのが、1つ目は3.5ドルで販売し、2つ目からは99ドルで販売するという方法でした。
結果、誰もたくさん買おうとしなくなり、本当に必要としている困っている人にまでちゃんと行き届くようになったのだそうです。
アイデア1つで不可能も可能に!?
人間の集団心理から考えると、いくらダメだといっても買い占めをなくすことは非常に難しいのかもしれません。ルールや仕組みを一生懸命に工夫して、何とか減らそうと取り組み続けることが、これからも必要になってくるのでしょう。
ただ、今回紹介したオーストラリアの事例のような、ちょっとした発想1つでピタリと止めることもできるんだというのは、とても面白い話ではないでしょうか。ぜひ皆さんも何かアイデアを考えてみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは、「1つ目は通常価格にし、2つ目からはものすごい高値で販売した」でした。ちなみに、日本でもドンキホーテが同じ方法でマスクを販売していたそうで、7枚入りのマスクを個数制限を設けずに、1つ目はお買い得な価格で、2つ目からはその数十倍の値段で売ったのだとか。この売り方は比較的、好意を持って受け入れられていたようなので、マネするところが出てくるかもしれませんね。
構成:志村 江