中小企業は日本の経済を支えていますが、経営者の高齢化などにより将来の存続が危ぶまれている企業も数多くあるのが現状です。
事業承継者への経営交代が進まない要因には、自社株を渡す際に発生する贈与税や相続税が多額になることが挙げられます。
今回は、相続税対策としての自社株買いについて解説していきます。
自社株買いとは?
自社株買いとは、すでに発行された株式を会社が買い戻すことです。
2001年の商法改正により自社株買いが原則自由となってからその条項が現在の会社法にも受け継がれています。
上場している大手企業の自社株買いのニュースは新聞などでも見かけると思いますが、中小企業でも自社株買いをすることは可能です。
また、自社株買いによって自社で保有される株のことを金庫株と呼びます。
自社株買いのメリットの1つとして、一株当たり利益の計算上、自社株買いをした分は発行済み株式数から除かれるため「一株当たり利益を増加させる」というものがあります。
合併や会社分割の際に現金を使わずに金庫株を割り当てられることで、会社の現金の減少を防ぐこともできます。
それから、大株主が株を売却する際に自社株買いで対応することで、株主が分散したり敵対的買収者の手にわたったりするリスクの軽減が可能です。
一方で自社株買いをするには多額の資金が必要な場合もあり、現金が大きく減少することがあります。
成長に必要な資金が出ていくことで、会社の成長を妨げる可能性があるでしょう。
また、金庫株となった部分は議決権保有割合を計算する際に除かれるため、大株主が自社株買いで会社に株を売り渡すことで自分の保有権割合を引き下げてしまい、株主総会での提案権などに影響することもあります。
なぜ事業承継の際に自社株買いをすると良いのか
中小企業でも規模が大きくなってくると、自社株式の譲渡に多額の税金がかかってくることになります。
また、創業者一族で相続が発生したりすると、相続税の最高税率は55%にも上がります。
そのため、相続財産がほとんど自社株だけの場合には、自社株の株価が高くなればなるほど相続人は相続税を払うのが困難になってしまうのです。
そのようなときに活用するとよいのが“自社株買い”です。
会社が保有する現預金が多い場合、事業承継で得た持ち株の一部を会社に買い取ってもらうことで、相続人は現金を得ることができます。
ただし、通常は会社に株式を買い取ってもらうと、資本金の額を超える部分については“実質的に会社が配当を払った(みなし配当)”とみなされ、配当金課税の対象となるのです。
配当金課税は総合課税のため、ほかの所得と合算されます。
しかし、相続税の申告期限後から3年以内の譲渡であれば、特例として20%(+復興特別所得税)の分離課税となります。
所得の額にもよりますが、所得税の税率の高い人にとっては納める税金を減らすことができます。
また同様に相続税の申告期限後から3年以内の譲渡であれば、支払った相続税を会社に買い取ってもらう株式の所得費に加算することができるため、譲渡益を減少させることもできます。
相続により事業承継者以外の相続人に株式が相続されることもあります。
しかし、その相続人が事業に関心がなければ、株主総会で反対されるなどのリスクが生じるでしょう。
そこで会社法174条では「相続人に対する株式の売渡請求」というものを制定しており、相続の開始から1年以内であれば、会社は相続人に対して売り渡しを請求できるようになっています。
会社側は特別決議が必要となりますが株主の分散をさせることができます。
一方、相続人側は、前述した20%(+復興特別所得税)の分離課税や所得費加算のメリットを享受することが可能です。
自社株買いをする際は「剰余金の分配可能額(配当可能利益)」に注意を
自社株買いができるからといって、会社は際限なく自社株を買い取ることができるわけではありません。
自社株買いには財源規制というものがあり、過度な財産の減少を避けるために、剰余金の分配可能額を超えて行うことはできないのです。
剰余金の分配可能額とは、“配当可能利益”とも呼ばれていて、正確な計算はとても複雑です。
簡便的な計算式であれば、
分配可能額=そのほか本剰余金の額+そのほか利益剰余金の額―自己株式帳簿価額
という形で求めることができます。
特に中小企業であれば、この簡便的な計算式で基本的には大丈夫でしょう。
つまり貸借対照表の資本部分の金額から資本金、資本準備金、利益準備金、そして保有する自己株式の帳簿価額を引いたものと理解すればよいのです。
したがって、自社株買いを行う際は、この計算式で求められる金額を超えないように注意しなければなりません。
まとめ
相続が発生したときに自社株買いを利用すれば、高額の相続税を支払うことが可能になります。
ただし、買い取る金額は無制限ではないため注意が必要であり、会社から現金が出ていくことから今後の経営に影響が出ないかなどを考慮しなければなりません。
事業承継者と会社の未来を考えながら適切な方法をとりましょう。