個人事業主として仕事を始めて1人だけで仕事をするより、関連業種の知人や友人と「共同経営者」として一緒に仕事をした方がお互いにメリットがあると思うかもしれません。しかし、雇用契約や下請けの関係にない、共同経営だからこそ気を付けたいポイントがあるのも事実です。
個人事業主として共同経営するには、いくつかの方法があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
共同経営のメリット
共同経営のメリットは、1人では資金やノウハウ、ネットワークが不足し、創業することが難しいと思われる場合でもお互いの不足点を補完し合えることです。
創業資金を出し合ったり、経営者としての目線で一緒にビジネスアイデアを考えたり、それぞれの強みと弱みのバランスを活用しながら事業をすすめられます。
他の個人事業主と共同経営することで、1人ではできない事業を始めることができるでしょう。
共同経営のデメリット
共同経営であれば1人でできない仕事ができる反面、共同経営ならではの難しい点があります。
デメリットとしては、後述の通り、いくつかの経営形態がありますが「対等な立ち位置で共同経営することは難しい」ということです。人間関係や資金面でのトラブルが発生しやすいことが考えられます。
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個人事業主が共同経営をする方法
個人事業主が共同経営をしていく方法は、大きく分けて3つあります。それぞれ、経費の計算方法などが異なってきます。
1.個人事業主が一部の事業を共同で行う
個人事業主が事業を共同で行う場合、それぞれが独立して契約するのか、代表者をたてるかによって方法が異なります。以下の2つのケースが存在します。
・数人の個人事業主がグループとして仕事を受注した上で、一人ひとりが依頼主と個別契約を結び、個別に支払いを受ける
・個人事業主の1人が代表として依頼主から仕事を受注し、他のメンバーは下請けとして個人事業主から「外注」というかたちで業務を請け負う
コンサルタント業務や企画・デザインなど、プロジェクトごとに受注した業務に合わせてメンバーを集めて仕事を請け負う場合もあれば、シェアオフィスのメンバーなどで継続的に仕事を請け負う場合もあります。
受注した業務ごとに、仕事の配分や担当分けがきちんとできていれば、責任範囲を明確にして売り上げと費用の按分割合を決められます。
短期間のプロジェクトのために数人の個人事業主が集まって業務を行い、プロジェクトが終了したら解散できるという業務内容の場合に進めやすい方法です。
2.法人格のある組織を設立し、参画する
大きなビジネスに発展しそうな事業の際には、法人化するのも1つの方法です。法人格を持つ具体的な組織としては、下記が挙げられます。
・株式会社
・合同会社
・一般社団法人
・有限責任事業組合(LLP)
この場合は、共同経営者それぞれが個人事業主としての仕事を続けながら法律に基づいた組織を構成し、役割に応じた仕事をします。会社を設立することで社会的な信用力が高くなり、取引先との契約がスムーズになるというメリットがあります。
法人化をするとなると、会社設立のための定款作成や登記などの費用や手間もかかりますが、個人事業主と比べて節税のメリットも大きいです。
また、法人化については動画で詳しく解説していますので合わせてご確認ください。
法人化のメリット・デメリットを解説!
3.複数の個人事業主で1つの事業を行う
「資金が少ない」「経験が不足している」などの理由で、複数の個人事業主が、飲食店や美容院などを共同経営して事業を行う方法もあります。出店するために、まとまった開業資金が必要となる飲食店や美容院を開店する場合などに検討されることも多いかもしれません。
「2.法人格のある組織を設立し参画する」の場合と異なり、法人格がないため、銀行や取引先との契約は多少の注意が必要です。個人事業主の1人が代表で銀行などの取り引きを行うか、一人ひとりの個人事業主が個別に契約を結んで事業を行うことになります。
個人事業主が共同経営をする際の注意点
「1.個人事業主が一部の事業を共同で行う」の場合は、あまり大きな問題はありません。受注する業務ごとに、仕事の配分や担当分けをして、責任範囲を明確にします。売り上げと費用の按分割合を決めて、個人事業主として受注している他の仕事の収支と合わせて、各自で確定申告をします。
「2.法人格のある組織を設立し参画する」のように、個人事業主として事業を続けながら法人の代表格としても事業を行う場合は、個人の業務に加えて法人の運営と収支が発生します。2つの事業を同時に行うことになるので負担は大きくなりますが、個人と法人で事業を切り分けることができれば、あまり問題はありません。この場合、法人の法人税申告と個人の確定申告の両方を行います。
複数の個人事業主が共同経営する場合に注意
「3.複数の個人事業主で1つの事業を行う」の場合はかなり複雑になります。それぞれの個人事業主が共同経営者として対等な関係で不公平感なく経営していくためには、事前に起こるであろうトラブルを想定して対処法を考えてから、共同経営していくかどうかを決めましょう。
「1.個人事業主が一部の事業を共同で行う」に近い場合は、業務ごとの売り上げと費用を分けた上で、共通の経費区分を決めそれぞれで負担します。確定申告も各自が行います。
しかし「3.複数の個人事業主で1つの事業を行う」時に、事務所や店舗を借りて運営する事業の場合は、取引先や家賃・光熱費・通信費などを全て別々の契約にすることは現実的ではありません。3人で経営していくからといって、オフィスや店舗の面積を1/3ずつ共同経営者で割って敷金や家賃を支払う契約を結ぶことは不可能だからです。
また社員やパート、アルバイトを雇う場合の雇用契約および社会保険などの手続きも、いずれかの個人事業主が代表者として行うことになります。
売り上げや経費などのように単純に金額を按分すればいいだけの問題ではなく、事業を経営していく上で必要となるあらゆる契約や取り決めは、代表者がいる前提で考えられていることもあるのです。
代表者となる個人事業主の責任が重くなる
複数の個人事業主が共同経営をする場合は、資金の調達方法・オフィスや店舗の不動産契約・スタッフの雇用契約など、共同経営者同士で均等に責任を振り分けることができません。
責任の範囲や金銭面でのトラブルが発生しやすいため、契約や銀行口座は屋号を使用し、個人事業主としての契約・売り上げ・費用の支払いと明確に区別しなければなりません。
しかし、屋号を使う場合でも、銀行口座や契約は共同経営者のうちの1人が代表として契約することになるので、代表者の責任が重くなります。
特に代表の立場の人には、取引先や金融機関との交渉や必要書類の用意、お金の出し入れなど、経営者としての業務が集中します。
責任者の立場になるので、売り上げが好調で仕事が順調なうちはよくても、環境が厳しくなると精神的にも金銭的にも負担が大きくなる可能性もあります。事業をやめて「共同経営者の関係を解消する」際に、それぞれの負担を対等に分け合うことも簡単ではありません。
代表者となる個人事業主の負荷を減らす方法
共同経営者同士の負担の区分を懸念する場合は、代表者をたてて下請けとして働く「1.個人事業主が一部の事業を共同で行う」方法や、代表者と雇用契約を結んで「従業員」となり、それぞれの関係性を明確にしてビジネスを進めた方がトラブルを防げる可能性が高いです。共同経営者として対等な関係ではなくなってしまうかもしれませんが、デメリットを減らすという観点で検討してみてもよいでしょう。
それぞれが個人事業主として独立して共同経営する目的や売り上げ、業務のリスクをどこまで均等に分散させたいかを話し合うことが大切です。
一時的かつ短期的なプロジェクトであれば「1.個人事業主が一部の事業を共同で行う」方法でもよいですが、長期的にビジネスを続けて成長させていくのであれば、事前にしっかりと確認しておきましょう。
夫婦で共同経営する場合
友人や知人ではなく夫婦で共同経営する場合は、「夫婦ともに独立する場合」と「どちらかが代表者となり配偶者を事業専従者にする方法」があります。
後者の場合、青色事業専従者給与と事業専従者控除によるメリットがあります。実質的には共同経営をしているものの、確定申告は1人だけが行い事務手続きの簡素化や節税につなげることができます。
「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」(国税庁)
まとめ
本記事では、個人事業主が複数人で共同経営をしてビジネスを進めるメリットやデメリット、共同経営の方法や注意点などについて紹介しました。それぞれの知恵や資金を出し合って経営していくのでメリットが多いかと思いきや、ビジネスで必要な契約など誰か1人に権限や責任、負担が集中してしまう懸念があります。
事業内容や規模の大きさや期間にもよりますが、共同経営する場合はできるだけ「1.個人事業主が一部の事業を共同で行う」方法か「2.法人格のある組織を設立し参画する」方法で責任の範囲や仕事、費用の分担を明確にしてトラブルにならないように気を付けましょう。
どうしても「3.複数の個人事業主で1つの事業を行う」方法で共同経営する場合は、想定される問題点をあらかじめ列挙して解決方法を決めておく、または共同経営を解消する場合の条件を明確にしてから始めることをおすすめします。
共同経営の方法は事業が進んでからだと、変更するのが難しいことが考えられます。それぞれが納得して事業を始められるように準備を進めましょう。
<文/北川美智子>