昨今、株式会社ではなく、合同会社で法人化するケースが増えてきました。
合同会社とは、2006年の会社法改正で誕生した会社組織です。
法務省の商業法人登記(新規)の統計データをみると、初年度の2006年に登記された合同会社は3,000社余りでした。
当時は新規創立会社総数のわずか4%でしたが、2021年には3.7万件を超え全体の28%、4件に1件が合同会社になりました。
設立数全体でみると合同会社の設立割合が大きく増加しています。
個人事業主から法人化する場合の選択肢の1つとして、合同会社の特徴を理解しておきましょう。
合同会社とは
合同会社は、アメリカで法制化された法人の形態です。
日本では有限会社の形態に近い法人ですが、現在、有限会社の設立は認められていません。
合同会社の特徴は、経営者と出資者が同一で、出資者全員が有限責任社員であることです。会社の所有者と経営者が同一なので、より柔軟な経営を行いやすい会社形態といえます。
合同会社は、有限責任会社であり、英語名ではLLC(Limited Liability Company)、略称は(同)となります。
個人事業主と合同会社のメリットを比較すると、下記のようになります。
【合同会社のメリット】
・法人格を持ち、個人事業主より社会的な信用を得やすい
・法人として役員報酬を得ることができる
・給与所得控除という非課税枠を使うことができるので、節税できる
・社会保険に加入できる
・社会保険料の2分の1は会社負担になる
・法人の節税メリットを活用できる
具体的には、個人事業主の場合は社会保険料や退職金の積み立てが全額個人負担となりますが、法人の役員(合同会社の社員)は社会保険料の2分の1が法人の経費となり、退職金の積み立ても一部を法人の経費とすることができます。
法人で退職金を積み立てることによって、法人の財務基盤を強化しながら、退職金を受け取る際に個人の税負担を少なくすることができるのです。
株式会社と合同会社の違い
株式会社と合同会社の大きな違いは、合同会社の方が設立費用をおさえられ、かつ設立後の運営面の規制も少ないことです。
株式会社の登記には、定款認証5万円と定款印紙4万円、登録免許税が15万円かかります。これに対し、合同会社は、定款認証が不要なので、定款印紙4万円と登録免許税は一律6万円です。
【合同会社設立のメリット】
・設立コストが安い
・出資者の合意で利益配分を自由に決められる
・決算の公表義務がない
【合同会社設立のデメリット】
・株式会社より知名度がないので、信用度が低い場合もある
・出資者が退職すると、出資金の払い戻しを求められる場合がある
合同会社のメリットとしては「設立コストが安い」「出資者の合意で利益配分を自由に決められる」「決算の公表義務がない」などがあります。
合同会社のデメリットは「株式会社より知名度がないので、信用度が低い場合もある」「出資者が退職すると、出資金の払い戻しを求められる場合がある」ことなどです。
株式会社は、経営を行う経営者と会社の所有者である出資者(株主)を別にすることができます。
出資者は、自分で経営するのではなく、取締役を株主の総意である株主総会で選び経営を任せることができます。
さらに上場会社の場合は、広く出資者を集めることもできます。
株式会社と合同会社、おすすめなのは?
以前は、少ない資本金で会社を設立できる有限会社がありましたが、現在は株式会社も資本金1円から設立できるようになりました。
個人事業主から法人化する場合、株式会社と合同会社のどちらが良いかは、コストや運営面よりも、対外的にどちらが有利かという点を軸に考えると良いでしょう。
例えば、法人への営業が多い場合や従業員を雇用する場合を例にします。
合同会社とした場合は、取引先で、いちいち株式会社でない理由を説明しなければならないかもしれません。
社長の肩書きも代表取締役ではなく代表社員になるので、違和感を持つ方もいるでしょう。
屋号のある個人商店やインターネット上での取り引きなどでは、会社名や代表者の肩書きはあまり取引先や顧客の目に触れることもないので、合同会社でも支障はありません。
大まかにいうと、株式会社は社名を名乗ることの多いB-to-Bの取り引きが多い場合、合同会社は屋号のある店舗やB-to-Cの小規模事業者におすすめの会社形態といえるでしょう。
合同会社と個人事業主、おすすめなのは?
では、個人事業主と合同会社を比較した場合、どちらが良いのでしょうか。2つの違いを把握し、個人事業主のままでいるのが良いか、合同会社にするのが良いかを考えましょう。
合同会社は設立費用がかかる
大きな違いは“設立費用”です。個人事業主は、開業するのに費用がかかりません。
合同会社は、設立にあたり約10万円の費用がかかります。
その内訳は定款の印紙代4万、登録免許税6万で合計10万円です。ただし、電子定款を作成すれば、収入印紙代4万円は0円にできます。その場合でも登録免許税6万円の費用はかかります。
さらに合同会社の場合は、資本金を用意する必要があります。資本金は1円から認められているものの、運転資金となるため、ある程度は用意しておかなければなりません。外注費として支払いが発生する場合などは資金不足にならないようにしましょう。
合同会社は所得が高いと個人事業主よりも税率が低い
個人事業主も合同会社も累進課税です。法人税の税率は最高でも23.2%です。
一方で個人事業主は、695万円から899.9万円の場合の税率は23%、900万円から1799.9万円の場合は税率が33%です。所得が4000万円以上になる場合は、45%になります。
そのため、所得が高くなる可能性があるのであれば、法人化するのが良いでしょう。
また、法人化すると経費として計上できる項目が多いため、節税の観点からみても合同会社の方がお得といえます。
合同会社の方が社会的な信用が高い
合同会社の方が個人事業主よりも信用は高くなります。
合同会社は、株式会社に比べ数が少なく、少数派ではあるものの法人格というのに代わりはありません。
情報がすべて開示されていて、経営者の情報も分かる法人に比べ、個人事業主は素性が分かりづらくリスクがあると思われやすいです。そのため、企業が取引先として選ぶ際には、個人事業主よりも法人である合同会社の方が選ばれやすいといえます。
また、「上場企業や行政の仕事がしたい」など取引先からも信用力を求められるような案件を受注しようとするなら、信用度の高い法人(合同会社)にした方が良いでしょう。
合同会社の方が銀行から融資が受けやすい
当然ですが、社会的信用は融資の際にも影響します。
個人事業主のままで銀行から融資を受けたいと思っても、審査で不利になります。
合同会社の場合は、創業融資を受けたり、法人を対象とした助成金・補助金などが使えたりなど資金集めの観点でも合同会社が良いといえます。
事業を拡大していく予定があるのであれば、個人事業主から合同会社に変えるのが良いでしょう。
合同会社を選ぶ理由・メリット
誰もが知っているような日本の企業でも、合同会社を選んでいるケースは少なくありません。なぜ、合同会社を選ぶのか、その理由を解説します。
経営判断が柔軟に速くできる
出資者=経営者である合同会社は、経営判断が柔軟にできる、というメリットがあります。株式会社の場合、出資者が経営者であるとは限らないため、株主の決定に沿わないといけません。
一方で合同会社は、経営者自身が会社の方針などさまざまな決定ができます。経営者自身の意向をすぐに反映させられるのもメリットです。
外部から買収されにくい
合同会社は株式を発行できないため、外部から買収されにくいメリットがあります。
株式会社の場合は、経営陣だけでなく外部も株を持てるため、常に買収されるリスクが存在しています。一方、合同会社は、持ち分を譲渡する際は、社員全員の同意が必要です。また、合同会社は出資の割合にかかわらず、社員が議決権を平等に保持しています。
そのため、株が譲渡されたとしても、第三者が強い支配力を持つことは難しいでしょう。こういった仕組みから他社に買収されるリスクが非常に少ないため、大手の有名企業であっても、合同会社を選ぶケースがあるのです。
決算公告の義務や役員の任期がない
株式会社は決算書を公告する義務があり、役員には任期があります。そのため、役員の任期が終わると役員を交代させる必要があり、その都度、役員の登記費用も発生します。
合同会社の場合は、決算公告の義務も、役員の任期もありません。役員の交代がないため、株式会社のように役員交代により発生する変更登記のための手続きが必要ないため、費用の節約ができます。
合同会社の事例・GAFAのあの企業も?
最後に、大手企業で合同会社を選択している例をみていきましょう。世界的企業であるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の中にも合同会社を選んでいる企業があります。そもそも合同会社はアメリカで誕生した形態であり、アメリカの大手企業が存在するのは当然といえます。
GAFAの中でもFacebookをのぞく3社は、もともとは株式会社で合同会社に移行しています。以下のような企業が挙げられます。
【大手合同会社の例】
・Google合同会社
・Apple Japan合同会社
・Amazonジャパン合同会社
・ユニバーサル ミュージック合同会社
・合同会社ユー・エス・ジェイ
・コダック合同会社
・ニューウェルブランズ・ジャパン合同会社
経営の視点でも合同会社はメリットが多いため、企業規模にかかわらず、メリットで選択しているということが分かります。
個人事業主は合同会社設立という選択肢を
合同会社は、もともとはアメリカの会社組織なので、日本での設立が増えているといっても、一般の知名度はまだまだ低いのが現状です。
しかし、アメリカ大手企業の日本子会社の中には、株式会社ではなく、合同会社で設立しているところも少なくありません。
合同会社を設立することで、法人設立費用の軽減だけでなく、ベンチャー企業などは自社ならではのこだわりを示すこともできます。
株式会社と合同会社のメリット・デメリットを理解した上で、決めると良いでしょう。
<文/中西由貴>