60代での引退は難しい時代へ
定年まで勤め上げ、残りの人生は退職金と年金で悠々自適な生活を送りたいと考えている方も多いかと思います。しかし、現代ではそのような生活を実現することが徐々に難しくなっています。
以下ではその理由について解説します。
退職金や年金だけでは生活維持が難しくなる
人生100年時代を迎え、健康寿命が伸びることで必要な老後資金が増えていくと予想されます。
加えて、退職金も減少傾向にあり、かつ円安や物価上昇といった経済的な要因により、退職金や年金だけでは現在の生活水準を維持することが難しくなっていくでしょう。
老後も働きたいと考える人が増えている
一方で、人生100年時代の到来により、キャリアの概念も変化しています。これまで定年退職がゴールだった考え方から、会社でのキャリアは「通過点」という考え方にシフトしていく必要があります。
実際に60歳でもまだまだ元気な方も多く、何歳になっても働き続けたいと考える方が増えています。60代で引退するには早いと感じる方も多く、過去に取材した60代で独立した方は「60歳は働き盛り世代」と述べています。
人生100年時代の現代では、人生の後半戦をどのように過ごすかを真剣に考え、経済的な準備はもちろん、自己実現や社会貢献など、自分らしく生きるための計画も重要になるでしょう。
実は2,000万円以上必要!?老後の資金
金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書では、「老後30年間で約2,000万円が不足する」といった試算が示されました。この「老後2,000万円問題」は多くの人に衝撃を与え、「年金だけでは老後の生活を賄うことが難しくなる」というシミュレーション結果は、老後に向けた資産運用やキャリア形成など、国に頼らず個々人で取り組む必要性を痛感させることとなりました。
老後に備えるためには、以下の3点に留意し行動することが求められます。
- 家計の見直し
- 資産運用
- 定年後のキャリア構築
今からでも将来を見据えた資金計画を立てることが必要不可欠です。日々の生活を見直し、無駄な支出を減らしながら貯蓄を増やしていきましょう。
また、NISA・iDeCoなどの資産運用にも目を向けることで、より効果的に資産を増やしていくことが期待できます。
さらに、節約や投資の他にも、長く働き続けることもこれから必要になるでしょう。健康状態に合わせて、業務委託など柔軟な働き方を選択することで、老後の資金を補うことができます。
参考老後2,000万円問題とは?若いうちから始めたい長期的な資産形成のすすめ
参考「老後2,000万円問題」を解説!本当に必要な資金を見直して将来の不安を軽減しよう
60代の再就職は困難?
「60代での再就職が困難」と言われることがあります。「60代の求職者は、転職する際に正社員へのこだわりが強い」といわれており、それが再就職が困難になる原因とされています。
企業側の視点で考えると、確かに60代の正社員採用に慎重になる傾向があります。それは、一度正社員として採用すると解雇するのが難しいためです。企業が休職者が求めているような仕事や待遇を提供できず、採用後にミスマッチとなった場合であってもそれは同様で、入社後のミスマッチを避けるため、60代の正社員採用に慎重になってしまうと考えられているからです。
このように、60代の正社員採用に慎重な企業と、正社員にこだわる求職者の間には大きなギャップがあり、これが60代の転職を困難にしている要因の一つです。
参考【バブル世代 定年戦略】定年後の正社員再就職は難しい:パートなど非正規再就職と新再雇用制度との組み合わせがおすすめ
これからのキャリアに対する不安を和らげる方法
以下では60代の方がキャリアの不安を払拭し、充実したキャリアを歩むためにどのような準備をするべきかについて解説します。
正社員以外のキャリアプランも検討する
健康寿命が伸びることに伴い、働く年齢も伸びると説明しましたが、このような状況下では、年齢に縛られない柔軟な働き方を選択することが重要です。
特に60代が転職する際に「年齢」は大きな障壁となりますが、正社員として転職することにこだわらずに業務委託契約という選択肢を視野にいれれば、その問題から解放されます。
業務委託契約で仕事を受託することで、複数の会社から仕事を獲得できるチャンスが増えると同時に、年齢が足枷とならない柔軟な働き方も実現できます。
節約を意識した生活を送る
60代は再雇用や退職、独立など収入の変化が起こりやすい年代でもあるため、不要な支出は控えめにし、将来に備えることが賢明です。
例えば定年退職後に再雇用で働くものの、収入が大幅に減少し、これまでの生活水準の維持が困難になるケースも少なくありません。
実際に、過去に取材に応じてくださったAさんは、再雇用後に給料が3分の1になったことで、以前のように外食を楽しむ余裕がなくなったと話しています。
また、学生のお子さんがいて、教育費などの出費が必要な時期に収入が減少すると、お金のやりくりがさらに大変になるでしょう。
こういったケースを踏まえて、ライフプランを念頭に置いて、あらかじめ計画を立てておく必要があります。
キャリアプランを考える上で抑えておきたいポイント
60代の方が今後考えるべきキャリアプランについても解説します。
これまでのスキルや経験をベースにする
60代のキャリアプランでは、転職以外に業務委託や副業などを視野に入れるべきと説明しましたが、これを実現するためには、これまで培ってきたスキルや経験を活かせる分野で働くことをおすすめします。
反対に、全く新しい業種に挑戦することは避けるべきといえます。たまに「好きなことを仕事にしよう」「ラストチャンスだから挑戦しよう」と未経験の分野に挑戦する方がいます。例えば、キャリアコンサルタントの資格を取って人事コンサルタントとして独立するようなケースです。
「前職とは関係のない事業を始めてはならない」とまでは言いませんが、経験・人脈ともにゼロからのスタートとなるため、相当な覚悟をもって取り組む必要があります。
より充実したキャリアを築くためにも、これまでの経験を土台に、新たな価値を生み出すことが重要です。
転職する際はやりがいを感じられる仕事を選ぶ
長く元気に働き続けるためには、収入や福利厚生などの条件面だけでなく、やりがいを意識したキャリアプランを立てることが重要です。
早期退職・定年退職後に年収だけを見て転職した人は、「実際に働き始めると、思っていた仕事内容と違った」という不満を感じる傾向にあります。
年収は重要な要素ですが、それだけで転職先を決めるのは賢明ではありません。自分のスキルや経験を活かし、やりがいを感じられる仕事を選ぶことで、長期的に充実したキャリアを築くことができるでしょう。
人生100年時代を見据え、単に条件が良い仕事を選ぶのではなく、自分らしく働き続けられる環境を見つけることが重要です。シニアになったからこそ、正社員として働いていた時代には難しかった自己実現も可能となるのです。
雇用(正社員採用)にこだわらない
60代での再就職を成功させるためには、正社員へのこだわりを捨て、柔軟な働き方を受け入れる必要があります。契約社員や派遣社員、フリーランスなど、多様な働き方を検討し、自分に合ったキャリアを選択することが重要です。
60代の再就職は他の年代に比べて簡単ではありませんが、柔軟な姿勢と入念な準備により、充実した職業人生を送ることは可能です。
副業でビジネスを始める
60代以降は正社員として働くことが難しくなるため、業務委託などで仕事を受けることも検討するべきですが、その働き方を実現する準備として、「副業」を始めることも検討しましょう。
例えば、60歳以降は再雇用を選択する方も多くいると思いますが、多くの企業では、再雇用社員の副業を認めています。この再雇用期間を、ただ何もせず過ごすのではなく、次のキャリアを見据えて、副業の案件を見つけたり、人脈を広げたりすることをおすすめします。
副業の案件を知り合いなどから受注するケースも少なくありませんが、年齢が上がるにつれて、このような人脈は徐々になくなっていきます。早めに行動することで、副業の選択肢もより広がるでしょう。
副業ビジネスのメリット
先ほど副業について解説しましたが、以下では60代以降で副業を検討されている方に向けて、副業のメリットについて解説します。
収入が増える
副業は本業以外の収入源を確保できるため、純粋に収入増につながり、老後資金の蓄えにも大いに役立ちます。
特に、再雇用などで収入が減少してしまった方の中には、減収分を補填し、生活水準を維持するために、副業に取り組むシニアが多いのです。
また、近年、副業を紹介するサービスは増加傾向にあり、60代以上の方にとっても副業を始めやすい環境が整ってきました。これまでの職歴で培った経験やスキルを活かせる副業もあるでしょう。
自分の強みを分析し、それを活かせる副業をクラウドソーシングサイトなどで探してみるのも一つの手です。
年齢、場所に関係なく働けるようになる
多くの場合、副業は年齢関係なく働くことができ、かつ上司や同僚との人間関係に悩まされることなく、自分のペースで仕事に取り組めるのです。
副業先で信頼を獲得すると、より多くの仕事を受託することもできます。正社員として働きたい方は、真面目に実績を積み上げ、実力が認められれば正社員として採用されるかもしれません。
このように、副業はセカンドキャリアの準備として有効な選択肢といえます。
老後生活に生きがいが生まれる
現在の60代は“モーレツ社員”だった方も多いのではないでしょうか。
長年仕事一筋でずっと家にいなかった夫が、定年退職後、急に1日中家にいるようになった途端、夫婦仲が悪化するケースがあり、居場所を失ったと感じる方も少なくありません。
このような状況を避けるには、定年後の生活に備え、打ち込める仕事を先に見つけておくことが大切です。夢中になれることがあれば、生きがいを感じ、前向きな気持ちで毎日を過ごせるでしょう。
始めるなら今がチャンス
副業や独立を成功に導く3つの要素として、「体力」「人脈」「仕事への意欲」があげられます。これらの要因を考慮すると「副業や独立は、早ければ早いほど有利だ」といえるでしょう。
体力は年齢とともに衰えていくものです。副業など、新しいことを始める際には、気力・体力が欠かせません。また、人脈についても、時間が経つほど関係が希薄になりがちです。
退職前から社外の人と積極的に交流し、頼れるネットワークを築いておくことが大切です。
早めに副業・独立の準備を始めることで、定年後のセカンドキャリアをより有利に進められるでしょう。今からでも遅くはありません。充実したセカンドキャリアに向けて、まずは一歩踏み出してみましょう。
<寄稿/BEYOND AGE>