創業時、または新規事業を立ち上げるときに助けになってくれるのが“補助金”です。自身の事業とマッチする補助金があれば、必要書類をしっかりと準備して申請することをおすすめします。そして、補助金の活用を考え始めた場合、どのように申請すべきか、いつ受給できるのかなどのフローも気になるでしょう。本記事では、補助金の代表例や申請までのステップを説明するとともに、補助金申請に便利なサービスもご紹介します。
補助金とは?
補助金とは“国や地方公共団体が、条件を満たす事業主に対して支給するお金”のことです。 補助金と一口にいってもさまざまな種類があり、自社に適切かどうか条件などを確認してから申請する必要があります。
また、公募期間が短かったり、予算があるため補助する上限が決められたりという制約があることが特徴です。しかし、助成金に比べて支給される金額が大きいものが多いことから、一度の申請でかなりの補助を受けることができるといえます。上手に活用することで、事業を展開する助けになってくれることでしょう。
補助金を受け取るまでに必要な6ステップ
補助金は「必要書類を準備して申請したら、すぐに補助金が振り込まれる」とイメージしている方も多いのではないでしょうか。
補助金は申請する制度によっても異なりますが、“申請してから実際に受け取れるまでにかなりの期間がかかる”ことが基本です。また全ての補助金が“申請したら受け取れる”というわけではありません。審査に落ちることや、応募多数で補助金制度の上限額を超えてしまう場合には早期締め切りをしていて応募が間に合わないこともあります。
そこでここからは、補助金を受け取るまでに踏むべきステップを、順を追ってご説明します。
ステップ1.補助金について知る
まずは補助金について知ることから始めましょう。
補助金にはさまざまな種類があり、補助金によって目的や仕組みが異なることが特徴です。申請期限も限られているので「マッチする補助金を見つけたけれど、すでに締め切られていた」というような場合もあるのです。そのため“自分の事業とマッチする補助金をタイミング良く見つけること”が重要です。幅広く情報を集めることで、自分に合う補助金と出合えることでしょう。
時期や地域によって異なりますが、代表的な補助金として以下の例があります(2023年12月現在)。
小規模企業持続化補助金
小規模企業持続化補助金は、中小企業者が経営を継続するための支援策の1つで、設備投資やマーケティング支援、新たなビジネスモデルの開発などに対して、一定額の補助金が支給されます。
支援の対象となる企業は、従業員数、売上高または資本金、経営が安定していないなどの条件を満たす必要があります。補助率は、一般的には2/3~3/4程度で、補助金の上限額は50万円、200万円の2種類です。なお、上限額は地域や事業の種類によって異なります。
2023年は第14回の公募を締め切っていますが、「2023年度補正予算案」に小規模企業持続化補助金の予算が盛り込まれています。
(P.13より)
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ものづくり補助金
ものづくり補助金は、新製品や製造プロセスの開発・導入、生産性向上や品質管理の強化など、ものづくりの技術革新を目的とした経費に対して、補助金が支給される制度です。中小企業を中心に、製造業者なら誰でも申請できます。
補助率は最大で2/3、補助金の上限額は地域や事業の種類によって異なります。申請には、事業計画書や経営計画書、事業の説明書、財務諸表等の書類が必要であり、事前に事業計画書の審査が行われます。
17次締め切りの公募要領は、2023年12月時点で「準備中」で、整い次第公式サイトに詳細が掲載される予定です。
(P.13より)
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IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や個人事業主などを対象に、情報処理システムの導入に必要な経費の一部を補助する制度です。具体的には、業務の効率化や情報管理の強化を目的としたシステムの導入に対して、最大4/5の補助金が支給されます。
補助金の上限額は、5万円~3,000万円と事業者の規模やシステムの種類、導入目的などによって異なります。ただし、補助対象となるシステムや設備、導入条件などには制限があります。
2023年の公募は終了しましたが、2023年度補正予算案にIT導入補助金の予算が盛り込まれています。
「「IT導入補助金」でIT導入・DX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上を支援!」(中小企業庁)
(P.13より)
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事業再構築補助金
事業再構築補助金は、経済産業省が実施する補助金の1つで、新型コロナウイルス感染症の影響で困難を抱えている中小企業や個人事業主を支援するために設けられた補助金で最大の補助率は3/4です。
具体的には、事業再構築のための調査・診断やコンサルティング費用、新たな事業展開のための設備投資や開発費用などに補助金が支給されます。また、補助金を受け取るためには、申請する企業や個人事業主が事業再構築計画書を作成することが必要で、その計画書が審査を通過する必要があります。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、経済産業省が実施する補助金の1つで、中小企業の事業承継を促進するために設けられた補助金です。事業を継承する後継者が必要なスキルや知識を身につけるための研修費用や、事業承継に関するアドバイザー費用、事業を継承するための設備投資や開発費用などに補助金が支給されます。事業承継が円滑に進むことで、事業の継続や地域の雇用維持などが期待されます。
また、補助金を受け取るためには、承継予定者が事業承継計画書を策定し、審査に通過しなくてはいけません。
これら以外にも、各種の補助金が設けられており、時期や地域によっては、特定の業界や目的に対する補助金も多数存在します。申請期間や申請方法、支援の対象となる事業内容などには制限があるため、国や地方自治体のWebサイトなどで詳細を確認することをおすすめします。また補助金は、申請する企業や団体によって異なる制限や条件があります。事前に申請資格を確認し、自社や団体が申請可能な補助金を選ぶことが大切です。
ステップ2.補助金に申請する
事業に合う補助金を見つけたら、申請する準備を進めましょう。
公募要領や申請書を確認し、必要書類を一式準備します。提出する書類は“応募申請書・事業計画書・経費明細書・事業要請書など”です。補助金によって提出するべき書類や提出方法が異なっているので、募集ページをしっかり読み込み審査基準について理解し、漏れのないように書類を用意しましょう。また、補助金申請の提出期限を守ることは非常に重要です。期限を過ぎて提出すると、申請が受け付けられない場合があります。
法人・個人事業主向け共通認証システムのGビズIDが必要なこともあります。IDの取得には時間がかかることもあるので事前に取得しておくことをおすすめします。
申請書や実績報告書などに、虚偽の情報を記入することは絶対に避けましょう。誤った情報で申請したことが発覚した場合、不正受給となり、補助金を受け取ることができないどころか、罰金や刑事罰などの重いペナルティを受けることになります。
ステップ3.補助金に採択される
補助金の公募期間が終了すると、事務局は申請した書類を照らし合わせて採択する事業者を決定します。
公募終了から一定期間が経つと、採択された事業者へ選定結果通知が届きます。補助金は、採択された後は“補助金を受け取るための交付申請という手続きが必要になる”のが特徴です。
交付申請が認められると交付が決定します。採択された際には“選定結果通知書・補助金交付規程・交付申請書・交付決定通知書”を受け取り“交付申請書・経費の相見積もり”を提出するのが一般的です。
ステップ4.事業を実施する
交付決定後、補助事業を実施します。実施内容は、交付決定された通りです。
事業内容をやむを得ず変更しなければならなくなった場合は“計画変更申請書”など所定の書類を提出するなど、事前に事務局の承認を得ておく必要があります。
また、補助金の支給対象となる経費に関しては、領収書や証拠書類をわかりやすく整えて保管しておきましょう。補助金申請の際に必要になるので、書類はしっかりと保管しておくことがおすすめです。
ステップ5.報告をし審査を受ける
事業の実施を終えたら、報告に移ります。
実績報告書・経費についての証拠書類 ・請求書を提出し、実施した事業の内容とかかった経費を報告しましょう。
“結果としていくら受け取れるか”は事業の実施が終了した後に決まります。
ステップ6.補助金を受け取る
問題なく実施されたことを事務局が確認すると、補助金の額が確定し交付されます。
提出するために集めた補助金の対象となる領収書や証拠書類は、補助事業の実施が終了した後も5年間保管しておかなければなりません。 「補助金事業が終了したから」と書類を処分してしまう方がいますが、いざというときのためにきっちりと保管しておきましょう。
補助金申請に必要な書類とは?
補助金を申請する際に必要になる書類は、制度ごとに異なります。補助金ごとに事務局が異なるので、それに沿った必要書類を準備しましょう。
制度ごとに独自の書類を設けていることもありますが、基本的に“応募申請書・事業計画書・経費明細書・事業要請書・申請書”が必要になることがほとんどです。大概、提出が求められるものなので、基本的な書類については気になる補助金を見つけたときに、押さえておくことをおすすめします。
申請書類を記入するときの注意点
せっかく自分たちの事業に合う補助金の申請をするのであれば、審査を通過して採択されるように工夫したいものです。
続いては、申請書類を記入する際のポイントや注意点をご紹介します。
記入例を超えるレベルの申請書を作成する
一般的な申請書には、このように記入してくださいと記入例がつけられていることが多くあります。
その記入例を参考にしながらその通りに記載してしまう方がいますが、それはNGです。記入例というのは平均的な書類であり、記入例のレベルを超えるものを作らない限り、採択には近づけないといえるでしょう。
採択を目指すなら、記入例と同等のレベルではなく、そこから差別化できるように工夫していくことをおすすめします。他の申請書と差別化をするポイントとして、パッと見たときの“第一印象”にこだわることも大切です。見出しをつけてインパクトを与えたり、イメージ図や写真を用意したり、箇条書き・下線・太字などを駆使したりしてみましょう。
補助金の用途を明確にする
内容はもちろんですが、審査に関わる人たちに“気になる”と感じさせることも重要です。そこでこだわりたいのが「目的・概要欄」です。概要が目を引くものであれば「その先も読んでみたい」という気持ちにさせられます。
支給の条件にあてはまっていることはもちろんですが、補助金の利用目的が魅力的なものであるほど、興味を持ってもらえるでしょう。しっかりアピールできる言葉を選んで記載するようにしましょう。
業界用語を多用しない
詳しく説明しようとすると、業界の中でしか通用しない専門用語を多く使ってしまいがちになるでしょう。
しかし、審査を行うのは業界の中の人だけではありません。大学教授や企業の役員など各界のプロフェッショナルではありますが、業界のことを全て網羅できている方ではない可能性もあるのです。そのため、申請書の中では業界用語を多用せず、誰が読んでも読みやすくわかりやすいものであることを意識して作成するようにしましょう。
専門用語を多用しなければいけない場合、語句解説などを挿入するのも1つの手です。
数字や具体的なデータを利用する
せっかく素敵な事業計画を立てていたとしても、ふわっとした曖昧なものでは採択されません。
市場調査や競合調査をする際には、数字や統計などの具体的なデータを利用して説明することで、より明確な道筋が見えてきます。一般的に以下のようなデータが役立つケースがあります。
【財務諸表】
収支計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書などの財務諸表は、事業の財務状況を把握するために必要です。事業の売り上げ、利益、資産、負債、キャッシュフローなどの指標を確認することで、企業の経営状態を判断することができます。
【事業計画スケジュール】
事業計画を具体的かつ明確なスケジュールにします。あまりに急であったり客観的にみても無理だったりするようなスケジュールではなく、実現可能でイメージしやすいスケジュールを作成しましょう。
【市場調査データ】
補助金申請の際には、市場調査データを利用することがあります。市場規模、需要動向、顧客ニーズ、競合状況などのデータを収集することで、事業の市場性や成長性を判断することができます。各省庁の公的データも役立てましょう。
【技術開発データ】
新たな技術開発を行う場合には、技術開発データが必要となります。特許取得状況、開発費用、技術革新の効果などのデータを収集し、技術開発の進捗状況を把握することが重要です。
以上のようなデータを収集し、分析することで、補助金申請の審査に通過するために必要な資料を揃えることができるでしょう。審査員を納得させる方法としても効果的なので、積極的に活用していきましょう。
補助金申請の代行
補助金申請の代行については、以下のような機関や団体に相談することができます。補助金申請にかかる全てのことを代行してもらえるわけではありませんが、サポートを受けることでより申請しやすくなるでしょう。
【商工会議所】
日本全国に515ヵ所ある商工会議所は地域経済の発展と中小企業の支援を目的として設立され、地方自治体の指導の下で活動する団体です。商工会議所は、商工業者や事業者の団体であり、地域の産業振興、地域経済の発展、雇用創出、地域社会の活性化などを目的として、さまざまな事業を行っており、中小企業の補助金申請の代行もしています。地域によっては、無料で代行してくれる場合もあります。
【地方自治体】
地方自治体でも、中小企業や地域の産業振興のための補助金制度を設けており、申請や手続きの代行をしている場合があります。相談できる場所は経済産業局などがメインとなりますが、自治体によって異なりますので、各自治体の公式Webサイトを参考にしてください。
【専門のコンサルティング会社】
補助金申請の代行を専門とするコンサルティング会社や、税理士事務所でも相談することができます。専門的な知識やノウハウを持ったプロが代行してくれますが、一定の費用がかかることも多いです。ただし、中にはSNSなどで補助金の申請代行などをうたう業者も存在するため、高額な成功報酬等を請求する悪質な業者などには注意しましょう。不正受給を斡旋する業者である可能性もあるのです。
【行政書士事務所】
補助金の申請に行政書士の依頼が必要かどうかは、申請する補助金の種類や申請書の内容によって異なります。一部の補助金においては、行政書士による書類の作成や手続きの代行が必要となる場合がありますが、全ての補助金に行政書士の依頼が必要なわけではありません。
以上のような機関や団体に相談することで、補助金申請の手続きをスムーズに進めることができます。ただし、補助金の申請には専門的な知識が必要であり、手続きのミスや書類の不備があると申請が却下されることもあるため、申請者自身が申請書の作成や手続きを行うことが困難な場合は、行政書士や専門のコンサルタントに相談することをおすすめします。補助金の申請には締め切りが設定されていることが多く、時間的な余裕がない場合もあるため、早めに相談することが重要です。
申請サービスを活用して内容にこだわるのがコツ
補助金を申請する際に便利なサービスとして“jGrants”があります。
jGrantsはデジタル庁が運営する補助金の電子申請システムです。24時間365日いつでも手続きができます。キーワードから目的の補助金を探すことができ、補助金の申請後はマイページから交付までの状況がわかります。こういった便利なサービスを活用することで、補助金を探す時間や応募の手間を削減し、その分、採択されるための書類作りに労力を費やせるようになるでしょう。
補助金を申請するには、さまざまな書類を用意する必要があります。また、制度によってスケジュールや必要書類が異なるので、自分に合いそうな補助金を見つけたら、事務局から出される情報は漏らさずにチェックするようにしましょう。補助金に関する基本的な情報は、独立・開業を目指している方にとって“知っておいて損はない情報”です。積極的に補助金を活用し、事業を展開していくことをおすすめします。
独立・開業を目指している方は、補助金情報だけではなく、さまざまな業種や業界のビジネスの情報を掲載している「アントレ」も活用してみてください。アントレでは、全国のフランチャイズや代理店、開業支援情報などといった役立つ情報を数多くご紹介しているので、今後の参考になるはずです。
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<文/北川美智子>