個人事業主として事業を興す時、銀行口座は基本的に個人名義の口座を使います。
収支を管理するための銀行口座は、新しく開設することもできますし、それまで使っていた個人の銀行口座をそのまま使うことも可能です。しかし、中には「プライベート用の口座と仕事で使う口座を分けないといけないのか」と疑問に思っている方もいるかもしれません。本記事では、個人事業主のために、プライベート用と事業用の口座は分けた方がいいのか、分けなくてもいいのかをお伝えします。また、分けた場合は、屋号を口座名に入れるメリットについても合わせてお伝えしていきます。
銀行口座はプライベート用と分ける? 分けない?
個人事業主として事業を始める際、銀行口座はプライベート用と事業用に分けるべきなのでしょうか。銀行口座をプライベート用と事業用で使い分けるべきかどうかは、事業の規模にもよります。しかし、規模に限らず本格的に事業を行うのであれば、プライベート用の銀行口座と事業用の銀行口座は分けた方がお金の管理がしやすくなります。
新しく事業用の銀行口座を開設する場合には、メガバンクに限らず、ネットバンクや信用金庫などの金融機関であっても、手続きは共通です。
個人事業主であっても、銀行口座はプライベート用と事業用で分けるべき
個人事業主は事業のための銀行口座としてわざわざ新しい口座を開設することは義務付けられていません。しかし、事業で個人名義の口座を使う場合には、事業専用の銀行口座を新設するか、利用していない銀行口座を事業専用の口座として使うことをおすすめします。
そして、すべての事業経費は個人事業主としての事業専用口座から引き落とすようにしましょう。
事業用のクレジットカードは、事業専用口座から引き落とす
事業を展開していると、時にクレジットカードを使うこともあるでしょう。使った金額が目に見えにくいクレジットカードを頻繁に使うようであれば、事業専用として1枚クレジットカードを作成しておくことをおすすめします。このクレジットカード利用料金の銀行引き落としは、プライベート用の銀行口座ではなく事業専用の銀行口座からに設定しておきましょう。
個人事業主の給与は、事業専用の銀行口座からプライベート用の銀行口座へ振り込む
せっかく事業用とプライベート用の銀行口座を分けていても、給与があやふやだと元も子もありません。そこで収入と支出を区別するために、事業主としての収入にあたる給与分は、事業専用口座からプライベート用の銀行口座へ振り込むようにしましょう。こうすることで「今月の給与はいくら」と目に見えてお金の出入りがわかりますし、支出もきちんと把握できるようになります。
また、事業のお金の出入りが多い場合には、収入専用と支出専用の銀行口座を分けると毎月の収支がより明確になります。利用していない銀行口座と新しく開設する銀行口座などを上手く活用してみてください。
なお、銀行口座の分けるメリットなどを動画で解説しているので合わせてご確認ください。
個人事業主はプライベート用と銀行口座を分ける? 分けない?口座名に屋号を入れるメリットとは
銀行口座をプライベート用と事業用で分けた場合のメリット
効率良く事業を遂行するためには、個人事業主として使用する事業用とプライベート用の銀行口座をそれぞれ分けて管理することをおすすめします。では、事業用とプライベート用とで銀行口座を分けるのには、どのようなメリットがあるのでしょうか。銀行口座を分けた場合の、メリットは5つあります。
1.お金の管理がしやすい
2.確定申告に備えられる
3.気兼ねなく税理士に相談ができる
4.会計ソフトなどと連携がしやすくなる
5.屋号付き銀行口座が開設できる
5つのメリットがどのようなものなのか、より詳しく解説していきます。
1.お金の管理がしやすい
プライベート用と事業用で銀行口座を分ける1つ目のメリットは、「お金の管理が楽になる点」です。事業を展開していると、取り引きの入出金・オフィスの家賃・交通費や消耗品の経費など、何かとお金の出入りがあります。
これらの収入・支出をすべてプライベート用の銀行口座で扱っていると取り引きの数も多く、プライベートの支出と事業での支出の区別がつきにくくなってしまいます。どの支出が事業用のものなのかを明確に区別するためにも、初めから口座を分けておくと、楽に管理できるようになります。
2.確定申告に備えられる
プライベート用と事業用で銀行口座を分ける2つ目のメリットは、「確定申告に備えられる点」です。
確定申告をする際、青色申告で最大65万円の特別控除を受けるには、事業の財政状態を表す「貸借対照表」を必ず提出しなくてはいけません。貸借対照表の作成には、銀行口座の1年間の取り引きを複式簿記で帳簿付けする必要があります。プライベート用と事業用の銀行口座を分けていないと、事業と関係のない収入と支出もすべて「事業主借」「事業主貸」などの勘定科目で記帳する必要があり、記帳の手間が増えてしまいます。
なお、65万円の控除を受けるためには、「55万円の青色申告特別控除要件」に加えて「電子帳簿保存かe-Tax(国税電子申告・納税システム)」のどちらかを利用している必要があります。
3.気兼ねなく税理士に相談ができる
プライベート用と事業用とで銀行口座を分ける3つ目のメリットは、「税理士などに相談や依頼をするのが楽になる点」です。
税理士などに相談を行う際、事業専用口座を持っていないと、通帳を確認する際にプライベートのお金の収支まで見られてしまいます。事業専用口座を持っていれば、プライベートな収支を見られる心配がないため、気兼ねなく通帳を見せて相談や依頼がしやすくなるでしょう。
4.会計ソフトなどと連携がしやすくなる
プライベート用と事業用とで銀行口座を分ける4つ目のメリットは、「会計ソフトなどとの連携がしやすくなる点」です。
近年、クラウド型の確定申告ソフトや会計サービスが急速に普及してきています。これらのクラウド型ソフトやサービスの多くは、金融機関の口座やクレジットカードとの連携ができるよう設計されています。金融機関と連携し、銀行口座の情報を会計ソフトに取り込んで利用することができるため、「自力で確定申告をしたい」「毎月のお金の管理がしたい」という方にとって、大変便利なツールです。
会計ソフトに事業用の銀行口座情報を取り込めば、記帳に利用できるのが何よりものメリットです。大幅に仕訳の手間を削減できるうえ、プライベートの収支と混同してしまったり、ミスもなくなったりします。事業用のクレジットカードを持っているのであれば、同じ会計ソフトに連携することでクレジットカード決済した経費も自動で計上できて便利です。
5.屋号付き銀行口座を開設できる
プライベート用と事業用とで銀行口座を分ける5つ目のメリットは、「屋号付き銀行口座を開設できる点」です。
個人事業主が事業用の銀行口座を開設する際、金融機関によっては“屋号”付きの銀行口座を開設できる場合があります。屋号付きの銀行口座には、クライアントから信頼されやすい、事業が認知されやすいなどのメリットがあります。
特に、商品の購入者から直接代金を振り込んでもらうようなネットショップなどを運営している場合は、個人名の口座だと振り込みをためらわれてしまうこともあるでしょう。店舗の名称が入った屋号付きの銀行口座であれば、顧客に安心感を持って利用してもらえるでしょう。
通常の銀行口座と屋号付きの銀行口座の違い
屋号とは、個人事業主の「事業名」「店舗名」にあたるものです。法人で例えるならば、「会社名」を指します。屋号付き口座は、文字通り口座の名義人に屋号が入っています。
開設のために銀行窓口に行く必要があったり、屋号を証明する書類の提出が求められたりするなど、個人口座を開く時とは違った手続きが必要となるため「面倒だ」と感じるかもしれません。しかし、屋号付きの銀行口座を開設すれば、取引相手に事業をしている銀行口座であると認識してもらえるため、安心感を持って取り引きしてもらえるようになるでしょう。
個人事業主が銀行口座に屋号を入れるメリット
基本的に、個人事業主の銀行口座は個人名義の口座になります。屋号を付けて事業を行っている場合、屋号に個人名を付け加えた名義の口座は開設できますが、屋号だけの口座を開設することは基本的にはできません。
面倒な手続きを踏んででも銀行口座に屋号を入れるのには、どのようなメリットがあるのでしょうか。屋号の付いた銀行口座を開設するのには、主に3つのメリットがあります。
1.取引相手からの信頼度が増す
2.複数の事業を区別できる
3.振込時や請求時にわかりやすい
以上3つの屋号を付けた際のメリットを、より詳しく解説していきます。
1.取引先からの信用度が増す
屋号は、個人事業者が使う商業上の名前です。「〇〇商店」「〇〇コンサルティング」「サロン〇〇」など商業上の名前を銀行口座に付けることで、取引先からの信用度が増します。
2.複数の事業を区別できる
複数の事業を行っている時は、事業別の屋号を付けることで銀行口座を分けられます。例えば「〇〇ネイル」と「〇〇エステ」を区別することが可能です。
3.振込時や請求時にわかりやすい
振り込みや顧客に請求書を発行する場合、屋号付きの銀行口座名の方が顧客は「何の事業をやっている誰なのか」が一目で判別できるため、わかりやすくなります。
屋号付き銀行口座を開設するまでの流れ
屋号付き銀行口座の開設はメガバンクやゆうちょ銀行、ネットバンクなどで開設が可能ですが、方針により認めていない銀行もあります。
銀行口座開設を希望する金融機関に行く前に、必ず電話やWebサイトで開設の可否と必要書類を確認しましょう。
【屋号付き銀行口座が開設可能な銀行(一例)】
「りそなビジネスダイレクト・りそなWebサービス」(りそな銀行)
「事業用途で個人名義の口座を開設されるお客さまへ」(ゆうちょ銀行)
「法人・個人事業主のお客さまへおすすめ!」(PayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)) など
(2023年1月時点) 詳細は各銀行のホームページでご確認ください。
その場で口座が開設できないことも
屋号付き銀行口座は個人口座と異なり、当日その場で開設できず確認後、後日、開設となる場合もあります。口座開設までの期間は、当日〜1週間程度を見ておきましょう。
支店は選べない
屋号付き口座の支店は、個人口座と異なり、任意の支店での開設ができず、自宅や事業所から一番近い場所となる場合が多いです。
屋号付き銀行口座の開設に必要な書類
銀行により異なりますが、ここでは屋号付き銀行口座の開設に必要となる代表的な書類をご紹介します。
代表的な必要書類1.屋号が確認できる書類
屋号付き銀行口座を開設する際に必要となるのが、屋号が確認できる書類です。下記の書類を求められる場合が多いです。銀行によって必要な書類が異なるので、詳しくは窓口に確認しましょう。
・屋号の記載がある開業届(「[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続」)の写し
・確定申告書の写し(屋号で確定申告をしている場合)
・屋号で事業をしていることがわかる書類
・屋号付きの開業届(「[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続」)の写し
個人事業主の開業届を税務署に出した時に、屋号を届けている場合は開業届の写しを用意します。
開業届を出していない場合は、屋号を記載した開業届を2部提出し、1部に受領印を押してもらいます。
開業届を税務署に出した時に屋号を届け出していない場合は、あらためて屋号の届けを出します。
・確定申告書の写し(屋号で確定申告している場合)
開業届に屋号を記入していなくても、確定申告時に屋号を付けて申告することができます。
・屋号で事業をしていることがわかる書類
名刺・パンフレット・ホームページのコピーなど、屋号を付けて事業を営んでいることがわかる書類を添付します。
代表的な必要書類2.本人確認書類
屋号が確認できる書類と併せて、本人確認書類も必要となります。
【本人確認書類として認められる書類(一例)】
・運転免許証、パスポート、住民票原本、印鑑証明書の原本
・公共料金の領収書の原本
個人事業主が事業専用口座を開設する際の注意点
事業を効率良く運営するのに役立つ事業用の銀行口座。しかし、事業専用口座を開設するのには、3つ注意しておかなくてはいけない点があります。
1.審査が必要な場合がある
2.口座開設まで時間がかかる場合がある
3.事業用の口座や複数口座を開設できない金融機関もある
それぞれの注意点について、もう少し詳しく解説していきます。
1.審査が必要な場合がある
個人事業主が事業専用口座を開設する際に注意が必要な1つ目のポイントは、「審査が必要な場合がある点」です。
プライベート用の銀行口座の開設は、本人確認書類などを提出すれば申し込みができます。審査に通らず口座を開設できない、というケースは少ないです。
それに対して事業用の銀行口座の場合、 審査には事業の実態がわかる資料の提出が求められます。審査結果によっては、事業用の口座を開設できないこともあるので注意しなくてはいけません。万が一、審査に通らなかった際に備えて、口座を開設する別の金融機関も候補に挙げておきましょう。
2.口座開設まで時間がかかる場合がある
個人事業主が事業専用口座を開設する際に注意が必要な2つ目のポイントは、「口座開設まで時間がかかる場合がある点」です。
事業用の口座を開設するためには、審査や金融機関の確認期間に時間を要します。審査期間は金融機関や申し込み内容によって異なりますが、2〜3週間程度の時間がかかると見越しておいた方が良いでしょう。
審査が完了するまで事業用の口座は開設できません。すぐに事業で口座を利用する予定があるのであれば、なるべく早く対応できるようにしましょう。
3.事業用口座や複数口座を開設できない金融機関もある
個人事業主が事業専用口座を開設する際に注意が必要な3つ目のポイントは、「事業用の口座や複数口座を開設できない金融機関もある点」です。
金融機関によっては「事業用の口座が開設できない」「一人で複数の口座を持てない」などの制限が設けられています。
また、事業用の銀行口座が開設できないという規定のある金融機関で、口座を事業用に利用していることが発覚してしまうと、最悪の場合、口座を差し止められる可能性があります。
新しい口座の開設を検討している場合には、金融機関が事業用口座や複数口座に対応しているか、事前に確認を行いましょう。
個人事業主の口座開設のポイントを把握しよう
個人事業主として事業用の銀行口座を持つことは、経営者としての覚悟の表れです。
事業を始めるのに、プライベートのお金と事業のお金を分けることを考えたら当たり前のことでしょう。
銀行口座の開設については、上記以外にも注意点があります。
まず、屋号付きの口座開設はすべての銀行、ネットバンキングでできるわけではありません。
口座開設を一人一口座に限定している銀行では、個人口座を持っていると、屋号付きの口座を追加で開設できません。
ATMの数や立地、手数料、取引先の金融機関など総合的に考えて口座開設をする銀行を決めましょう。
<文/ちはる>