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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第79回・心地よいホテル

独立ノウハウ・お役立ち

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

中国でeコマース事業などを展開するアリババが、2018年12月に「FlyZoo Hotel」というホテルを開業しました。次世代のホテルといわれていて、そのハイテクさが非常に話題となっています。そのホテルでの体験についてのクイズです。宿泊客が自分の部屋から外出する際に、「これは便利だな」とふと感じる瞬間があるのだそうですが、さてそれは一体何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

中国のアリババが運営する「FlyZoo Hotel」をご存知でしょうか。「次世代のホテル」といわれるようにハイテクな設備が整っていて、他のホテルではできないようないろいろな体験ができると話題になっています。

例えば、このホテルには鍵がありません。正確には、顔認証で部屋の鍵が開く仕組みになっています。エレベーターも顔認証によって自動的に部屋のあるフロアまで運んでくれる仕組みですし、ホテル内のジムやレストラン、自販機などを利用する際も全てが顔認証で判断されます。

これだけでも、なかなか斬新で画期的ですよね。

それでは解説します!

AIを駆使することで、利用客に新しい体験をもたらしてくれるこのホテル。いろいろな仕組みの中でも、宿泊客が驚くサプライズのような1つの体験があるのだとか。

それは、外出しようと部屋を出た後のことです。

部屋に鍵はないので、ドアを閉めたらそのままエレベーターホールに向かうわけですが、エレベーターホールに着くと同時に、すでに到着しているエレベーターのドアが開いて、待たずに乗り込めるのだそうです。

これは、部屋を出たタイミングをAIが察知して、エレベーターを自動的に動かしておいてくれるという仕組みです。利用客にしたら、エレベーターホールに着いてボタンを押す必要もなければ、エレベーターが到着するのを待つ必要もないわけです。

宿泊客に言わせると、最初は「すごい!」と驚くだけだそうですが、繰り返し利用しているうちに、その便利さがものすごく快適に感じるようになるのだとか。そうやって「当たり前」が変わっていくのでしょう。

ただ、よく考えてみると、この仕組みはそれほどハイテクではないのかもしれません。ソフトウェアをちょっと書き換えたり、既存のセンサーなどの技術をうまく使えば、日本でも簡単に実現できそうに思えてなりません。

つまり、人がサービスに対して便利さや快適さを感じる時に、必ずしも高度な技術が必要なわけではないということでもあります。新しいサービスのあり方として、非常に参考になりますよね。

なぜ中国はITが進んでいるのか?

「FlyZoo Hotel」では他にも便利な仕組みがたくさんあります。

例えば、部屋の中で照明をつけたり、テレビやエアコンを操作したいときは、全てスピーカーに向かって話しかけることで解決できます。スマートスピーカーの仕組みと同じですが、スピーカーが部屋の中のあらゆることと連動しているため、すべて事足りてしまうというわけですね。

ちなみに、ルームサービスもスピーカーに頼めば届きます。しかも、頼んだものはロボットが部屋まで運んでくれる仕組みだそうですから、徹底していて非常に面白いですよね。

このように、「FlyZoo Hotel」ではあらゆることが自動化されており、そのおかげで、他ではできない体験を楽しみながら快適に過ごすことができるというわけです。

一方で、この状況は「全ての行動が監視されている」ともいえます。ただ、人に監視されていると思ったら気持ち悪いですが、監視しているのがAIなら人はあまり気にしないのかもしれません。となると、AIを活用したサービスは今後も広がっていくのでしょう。

ITを使った新しい事例というと、アリババに限らず、中国という国を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。我々コンサルタントも、中国への視察を通じて新しいビジネスのヒントを得ることはよくあります。

その理由については諸説ありますが、私が思うに、中国人には日本人のようなサービスに対する強いこだわりや固定概念がないからこそ、思い切った試行錯誤ができるのではないでしょうか。

例えば、最近の中国の飲食店や喫茶店はメニューを置いておらず、かわりに机に2次元バーコードが貼ってあるだけのお店が増えています。利用客は自分のスマホで2次元バーコードを読み取ってメニューを開き、注文すればすぐに商品が運ばれてくる仕組みで、スマホ上で決済までできるため、レジでの会計も不要です。

日本のように店員さんがおしぼりと水を持って注文を取りに来たり、キャッシュレスであってもレジで会計をするようなことはないわけですね。このサービスが良いか悪いかは別として、そう遠くないうちに日本でもこのようなお店ができるかもしれません。

5Gによってどんなサービスが生まれそうか?

今後5Gが普及すると、さらに私たちの生活は大きく変わっていくでしょう。それに伴って新しいサービスが生まれる余地も間違いなく増えるはずです。

その時に、私たちの想像を超えるものとして、中国で普及しているサービスの中にヒントがあるのかもしれません。視察に行ければいいですが、それができなくても中国のトレンドに注目してみることは、ネタ探しの1つとして有効であり面白いかもしれませんね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「エレベーターを待たずに乗れる」でした。ちなみに、中国のITを実感するためのツアーなどの企画が旅行代理店で用意されていたりするので、興味がある人は調べてみてくださいね。私の経験上、期待外れなものも含めてなかなか面白い体験ができると思います。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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