結婚すると、役所に婚姻届を提出することで夫婦どちらかの名字を名乗ることになります。女性の名字が変わるケースが多いのですが、その後の名義変更のことで悩む場合もあるでしょう。
ここでは個人事業主の名字が変わった際に必要な手続きや、結婚により可能となる節税方法などを合わせて紹介します。
個人事業主が結婚した際の手続き
個人事業主が結婚をした際、いくつか手続きが必要になります。中には、結婚をして名字が変わったことで、仕事に影響が出てしまう個人事業主の方もいるかもしれません。そんな方のために、個人事業主が結婚した際に行うべき手続きを8つ紹介していきます。
必要な書類や官公庁の受付時間などは、提出先にあらかじめ確認しておくことをおすすめします。
1.婚姻届
一般的に婚姻届は住所地の役所へ提出します。時間外窓口や夜間窓口を設けている役所であれば閉庁後でも受付してもらえるので、「この時間に婚姻届を出したい!」という時間帯があれば、役所に確認をしてみましょう。
婚姻届を提出することで、二人の戸籍ができ、住民票の情報も自動的に変更されます。
2.引っ越す前の自治体で転出届もしくは転居届
現在と異なる自治体に引っ越すときには、住所地の役所へ「転出届」の提出が必要になります。
手続き終了後「転出証明書」が発行されます。引っ越し先の自治体に転入する際に必要となるので保管しておきましょう。
なお、同じ自治体内での引っ越しの場合は、住所地の役所に「転居届」を提出します。
3.引っ越し先の自治体で転入届もしくは転居届
他の自治体から新しい自治体に転入する場合は、引っ越し先の自治体へ転入届を提出します。同自治体内での引っ越しの場合は、自治体へ転居届を提出します。
名義変更をする際には、戸籍や住民票が必要になるので、上記の手続きは速やかに済ませておきましょう。
4.マイナンバー情報変更手続き
婚姻で氏名や住所が変更になった場合、記載内容の書き換えが必要です。
また、確定申告の際にもマイナンバーは必要になりますので、忘れずに手続きしましょう。原則として本人が変更の手続きをすることを求められるものなので、注意しましょう。手続きには本人確認書が必要となります。
5.健康保険・国民年金
(1)配偶者の扶養になる場合
個人事業主でも収入が一定額以下の場合、配偶者が会社の健康保険に加入していれば被扶養者になることができます。
また、被扶養者が60歳未満の場合は国民年金第3号被保険者となり、国民年金保険料の支払いがなくなります。
手続きは配偶者と事業主を通して“健康保険被扶養者異動届”を健康保険組合に提出します。
ただし、被扶養者になれるか否かは、事業主が加入している健康保険組合などの判定によります。
(2)国民健康保険
配偶者が国民健康保険加入者の場合、または配偶者が加入している健康保険の被扶養者とならない場合は国民健康保険の変更手続きが必要です。
(3)国民年金
個人事業主自身が60歳未満で、国民年金の保険料を納める第1号被保険者となる場合は、近くの年金事務所または街角の年金相談センターへ14日以内に届け出をする必要があります。住所地も変更したときは、住所地の役所に“被保険者住所変更届”を提出します。
ただし、マイナンバーと基礎年金番号が結びついている場合、名字・住所の変更届出は原則として不要となります。
「1.婚姻届」「2.と3.転入(転居)届」「4.マイナンバー記載変更届」「5.(2)国民健康保険」「5.(3)国民年金の届出」は住所地の役所で手続きするので、まとめて行うと効率良くできます。
「国民年金第1号被保険者の住所・氏名変更手続き」(日本年金機構)
「年金に加入している方が引っ越したときの手続き」(日本年金機構)
6.運転免許証
住所または氏名の変更があった場合は、「運転免許証記載事項変更届」を提出します。
提出先は住所地の都道府県を管轄する警察署・運転免許更新センター・運転免許試験場などです。
7.パスポート
氏名や本籍の都道府県名などの変更があった場合、有効期限内のパスポートを本人確認書類として使用している方や、海外渡航の予定がある方は手続きが必要です。なお、住所変更のみの場合、申請は不要です。
手続き場所は、住所地がある都道府県内のパスポート取扱窓口になります。
8.印鑑登録
旧姓で印鑑登録を行っている場合、結婚して名字が変更されると登録は自動的に廃止されます。
住所地の役所で本人が登録申請をする必要があります。必要に応じて新しい登録申請を行いましょう。
ちなみに、印鑑登録は“名”のみで作った印鑑でも登録可能です。“名のみ”の印鑑であれば、結婚後に名義変更をする必要はありません。
9.その他の必要手続き
代表的な8つの手続きにどのようなものがあるのかをお伝えしました。その他にも、必要に応じて下記の名義変更も行います。
・銀行口座の名義や登録印変更
・自動車登録
・クレジットカードの名義
・携帯電話や固定電話などの各種契約
・証券口座の名義
・保険契約、私的年金などの名義
取り引きの利便性を考えて「銀行口座の名義を旧姓のままにしたい」という個人事業主の方もいらっしゃるかもしれません。旧姓のまま銀行口座を使用しても、口座を凍結されることはありませんが、大口の出金や振り込みなどの際に行われる本人確認で、本人確認書類と口座の名義人が違うと手続きに支障をきたす場合があります。また、銀行が破綻した場合の預金が保証されるペイオフなどは、実際の名前と口座名義が異なると、本人とみなされず返還されない可能性があります。
個人事業主は苗字変更したらどうする?必要な手続きや旧姓OKなケース
個人事業主が結婚した際に名義変更が不要なもの
結婚をすると何かと名義変更の作業が発生するイメージが先行してしまい、手続きが面倒だと考えてしまう方も多いのでしょう。個人事業主が結婚した際に名義変更をしなくても良い手続きもあります。それぞれについて少し詳しく解説していきます。
開業届(個人事業の開業届出・廃業届出等手続)
開業届の氏名変更は不要です。旧姓で仕事をしていると、便宜上報酬の振り込みなどで必要になることも考えられます。
住所が変更となる場合は1ヵ月以内に引っ越す前の住所地の管轄税務署に「開業届(個人事業の開業届出・廃業届出等手続)」を提出する必要がありましたが、2023年1月1日より、納税地の変更については、提出不要となりました。
特に届け出をせず、確定申告書は変更後の住所地で行います。
確定申告は旧姓ではなく新姓で行いますが、備考欄に名字がかわったことや、旧姓で仕事をしているなど記載すれば良いことになっています。
「No.2090 新たに事業を始めたときの届出など」(国税庁)
確定申告は新しい名字で行う
個人事業主で、確定申告の前に結婚をして名字が変わった場合、新しい名字や住所で確定申告を行います。
ただし、還付金の振り込みのための銀行口座を指定する場合、口座名義は申告者本人のものに限られます。そのため、旧姓のままの銀行口座を指定することはできないため、注意が必要です。
離婚であれば名字を変えなくてもよい
結婚をすると婚姻届の提出により、夫婦としての新しい戸籍が作られ、戸籍筆頭者の名字を名乗れるようになります。
それに対し離婚の場合は、元の名字に戻ることも、離婚前の名字を引き続き名乗ることもどちらも可能です。「元の名字に戻した方が良いのでは?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、中には仕事の都合上、名字を変更しないケースもあります。
離婚前の名字を引き続き名乗るためには、離婚した日から3ヵ月以内に「離婚のときに称していた氏を称する旨の届」を提出する必要があります。名前をそのまま引き継ぎたいのであれば、早めに確認をとっておくようにしましょう。
旧姓のままで仕事をするにはどうすればいいのか
中には個人的に旧姓から新姓への変更に対して抵抗感があったり、取引先に新姓を覚えてもらうのに時間がかかるのを懸念するなど、仕事の内容によっては不便だったりすることもあるでしょう。
この場合、旧姓を屋号として使用することで、旧姓のまま仕事を続けることが可能です。
実際に旧姓で活躍している個人事業主は多いですし、仕事上、必要がなければ、取引先に結婚したことさえ知らせていない方もいるでしょう。ただし、注意点があります。
まずは、報酬の振込先口座の名義を旧姓から新姓に変更した場合、取引先への通知を忘れないようにしてください。
また、確定申告時、還付金の振込口座の名義人は確定申告者と同じであることが必要です。そのため新姓名義の口座を指定するようにします。
結婚により可能となる節税方法とは
個人事業主が結婚すると、何か得するようなことはあるのでしょうか。
結婚とは、民法上の手続きにより婚姻が成立した状態を指します。そのため、結婚すると税法上では同じ家計という位置づけになります。個人事業主は結婚して何か得するようなことはあるのでしょうか。代表的な節税方法を3つ紹介していきましょう。
1.配偶者を扶養に入れられる
個人事業主が結婚することにより実施できる節税対策の1つ目は、配偶者を扶養に入れられるということです。配偶者を扶養に入れるということは、すなわち個人事業主が自分の収入で配偶者を養うということです。配偶者を扶養に入れることで、配偶者の生活費に相当する分だけの税金が控除できます。所得控除額は以下の通りです。
「配偶者控除」または「配偶者特別控除」が適用できる条件は以下です。
1.「配偶者控除」と「配偶者特別控除」共通の適用条件
・本人の合計所得金額が1,000万円以下である
・民法上の配偶者である
・配偶者が納税者本人と生計を一にしている
・配偶者が青色申告者の事業専従者として納税者本人から給料の支払いを一度も受けていない、または白色申告者の事業専従者でない
2.「配偶者控除」と「配偶者特別控除」で条件が異なる点
配偶者の合計所得金額により、以下のように区分されます。
配偶者控除:年間の合計所得金額が48万円以下の場合(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
配偶者特別控除:年間の合計所得金額が48万円超133万円以下の場合
配偶者の年間の計所得金額の計算方法は、給料と給料以外で区分されます。
(1)パートなどの給料のみ
年間の合計所得金額の計算方法は【給与収入-給与所得控除】となります。
(2)内職など給料以外の収入のみ
年間の合計所得金額の計算方法は、収入金額から必要経費を差し引いた残額となります。
2.配偶者に給料を支払う
個人事業主が結婚することにより実施できる節税の2つ目は、配偶者に給料を支払う方法です。
個人事業主の場合、事業で獲得した所得を配偶者に分配することで個人事業主本人の所得税率を下げられます。その代表格が「青色事業専従者給与」です。事業に従事している場合、配偶者へ給料を支払うことで、個人事業主の必要経費として処理することが可能となります。
青色事業専従者給与を適用するためには、以下のすべての条件を満たす必要があります。
・本人が青色申告者であること
・「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税務署に提出していること
・本人と生計を一にする配偶者であること
・原則、本人の事業に従事する期間が6ヵ月を超えること
・届出書に記載されている方法(給料や賞与)と金額の範囲内で給料が支払われていること
・給料の設定額が配偶者の労働の対価として相当であると認められる金額であること
「No.2075 青色専業専従者給与と事業専従者控除」(国税庁)
優遇税制を確実に受けるためには?
配偶者特別控除を受けながら、配偶者に青色事業専従者給与を支払うことはできません。これら2つの節税方法は、どちらか片方しか適用できません。そのため、節税効果の高い優遇税制を選択するようにしましょう。
青色事業専従者給与の場合、知識不足で手続きに不備があると税務調査で否認されるリスクがあります。確実に優遇税制を受けたいのであれば、手続きに不備が出ないよう準備を徹底したり、税理士に手続きの代行を依頼したりするなどして対策を練りましょう。
税金の払い方やスケジュールなどの詳しい情報は動画でまとめていますので合わせてご確認ください。
個人事業主の税金の払い方・ルール・スケジュール
まとめ
旧姓で仕事を続けることは可能ですが、公的な届け出に関しては新しい名字への名義変更が必要です。
この手続きを効率的に進めるにはコツがあります。
まず、名義変更が必要な手続き先をリスト化します。次に、手続き方法や手続きの起源はいつなのか、手続きに必要な書類などを調べます。
この場合、手続き先機関の公式サイトなどで最新情報を確認してから準備するようにしてください。
最後に、手続きを行う順番を決めます。
また、オンラインや郵送での手続きが可能な機関もあるので、忙しい個人事業主としてはぜひ活用したいところです。
<文/ちはる>