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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第151回・値上げ時代の強い味方

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第151回・値上げ時代の強い味方

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

値上げラッシュが続き、ここのところスーパーなどでは買い控えだけでなく、商品棚にも変化が起こり始めています。例えば、一部のスーパーではある大手メーカーのウインナーが店頭から消えてしまったり、トップシェアの商品がシェアを大きく落としてしまったりするというような話も出始めたようです。そんな試行錯誤が続く小売業界の中で、圧倒的にシェアを伸ばしている商品群があります。さて、それは一体何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

商品の値上げが続く中、消費者も、スーパーなど小売店の現場も、どのような策をとろうか必死に考えています。

そして、その防衛策のおかげでトップシェアの商品がシェアを大きく落とすというようなことが、一部スーパーでも起こり始めたのです。

例えば、仕入れ先を一本化することで、商品を安く販売できるようにした結果、大手企業の有名ブランドの一部商品がお店に置かれなくなった…というような話が出始めました。

それでは解説します!

そんな試行錯誤や変化が続く小売業界の中で、時代の流れとも合致し、大きく売り上げを伸ばしている商品群があります。

それが「PB(プライベートブランド)」です。ここ最近は、コンビニエンスストアやスーパーなどであらゆるPB商品を見かけることが多くなりました。

今、PBがシェアを大きく伸ばしているのは、実は「伸びる条件」がしっかりそろっているからなのです。

まずはPBの歴史を振り返ってみましょう。

PBの食品が初めてこの世に出たのは1960年代で、最初に扱ったのはダイエーだといわれています。第1世代のPBは、小さな無名のメーカーが作っており、宣伝費がかからない分、安く販売できるのがウリの商品でした。ただ、正直なところ品質はナショナルブランドには及ばなかったようです。

80年代に入ると第2世代が出てきます。円高の時代だったことから、海外から安く輸入する流れができたのです。しかし、海外のものが多かったゆえに味が日本人の口に合わず、大して流行ることはありませんでした。

続く第3世代で大きな変化が起きました、大手の一流メーカーがPB商品を作るようになったのです。味や品質、品質管理といったことが大手メーカーの商品と同じ水準になり、「値段だけが安い」状況が実現したわけです。おそらく今の若い方々の多くは、PBというとこの時代をイメージする人が多いのではないでしょうか。「なんとなくブランドイメージが劣るだけで、品質は一緒」な商品が少しずつ浸透し始めたのです。

そして今が第4世代になるわけですが、「PBの方がおいしいかもしれない」という時代です。これはセブンイレブンの「セブンプレミアム」が起こした革命といわれます。「金の○○」で有名なセブンプレミアムゴールドのシリーズで、いろんなシェフなどとコラボして良い商品を作ったら、大手メーカーの有名商品よりも高い評判を得るものが出始めました。

こうした流れを受けて、まさに今、PBが流行る条件がしっかり揃ったというわけです。それが、「世の中で値上げが続いていること」と「消費者のPBに対するブランドイメージが良くなったこと」の2つです。

それにより、「あえてPBを選ぶ」消費者がどんどん増え始めたのです。

セブンプレミアムの次は、あのスーパーのPB商品か!?

経済評論家として、今とても注目している流れがあります。PBにおいては2022年くらいまではセブンプレミアムが躍進していましたが、今年に入ったあたりからはイオンのPBである「トップバリュー」の勢いがすごいのです。

コンビニエンスストアで売られるPBは、人気ではあっても、ボリュームや影響度の点ではまだまだ大きいものではありません。逆に、日本で最大のスーパーであるイオンでたくさんの人がPBばかりを買うようになれば、間違いなく世の中は動くでしょう。今、その流れが少しずつ出てきているように感じるのです。

トップバリューにはいろいろな商品がありますが、注目しているのがビールです。

大手のビールメーカーのほとんどが、缶に金色を施したプレミアム商品を出していますが、それと同じようにトップバリューでも金色のプレミアムなビールが出ています。PBですから価格は大手ビールメーカーのものよりも安めです。

実際にどこが作っているのだろうかと思って手に取ってみたら、「サッポロ」とある。飲んでみても、納得です。

もう1つ面白いのが、トップバリューのカップラーメンです。しょうゆ味、カレー味、シーフード味という、どこかで聞いたような定番の組み合わせです。食べてみると、想像した味にとても近いのです。ラベルを見てみると「明星食品」とあります。

一瞬「あれ?」と思ったのですが、よく考えると明星食品は今、日清食品の子会社なのです。本家よりも安い値段で、そのジェネリックとも言える美味しいカップ麺が買えるのは、とてもありがたい話です。

このように「実際は大手が作ったもの」が安く買えるわけで、PB商品は値上げの時代においてお得で貴重な商品といえるでしょう。

値上げの裏で起きているさまざまな変化

PBに着目して気づくのは、消費者の生活防衛という点では今まさに「大きな波」が来ているのではないか、ということです。

値上げが今のトレンドであることは間違いありませんが、こうした大きな環境変化が起きているときは、大きな業界構造変化も同時に起きているものです。その一端が、PBを取り巻くところに見て取れます。

変化の時代だからこそ、皆さんも情報のアンテナをいろいろなところに張ってみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「プライベートブランド」でした。ちなみに、今のPBの状況は、かつてのユニクロに似ているかもしれません。昔のユニクロのイメージは「安くていいけど、誰かとかぶったらちょっと恥ずかしい」感じのものだったと記憶していますが、今や「安くて品質も良い、堂々と着られるもの」になりました。今のPB、まさしくそんな感じだと思いませんか?


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

構成:志村 江

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