会社員が一定期間、勤めた会社を退職する場合、会社都合の退職でも自己都合の退職であっても、条件を満たす場合、雇用保険制度の基本手当)の手続きをすると「失業の基本手当(失業給付)」を受給することができます。
しかし、個人事業主やフリーランスの場合は、「雇用保険の適用外」となるため失業保険による手当を受給できません。開業前に会社員として働いていた際に雇用保険に加入しており、退職後に個人事業主となったという場合には、失業手当(失業保険)を受給できます。通常、失業手当はハローワークに離職票の提出と求職の申し込みを行った日(受給資格決定日)から通算して7日間の待機期間が過ぎたら、失業状態にあるという認定を受け、受給資格が得られます。自営を開始または自営準備に専念する方は、受給資格がないとされていますが、求職活動中に創業の準備・検討を行うという場合は支給可能なケースもあるので、ハローワークに問い合わせてみましょう。また、求職中に開業すると、再就職手当が支給されるケースもあります。
なお、副業をしながら会社員として働いていた場合など、退職後も「個人事業主としての活動をしている場合」は失業手当を受給できません。バレると不正受給となってしまうため、副業を行っている方は注意が必要です。それぞれ具体的に説明します。
失業保険とは
失業保険とは、「1週間の所定労働時間が20時間以上」「同一の事業主の適用事業に継続して 31 日以上雇用される見込みがある」場合は、社員であってもアルバイトであっても、会社や個人事業主に雇われて働いていており、雇用されていた際に雇用保険に加入していた人が対象となります。なお、労働者を一人でも雇用する事業主は、原則として強制的に雇用保険が適用されます。定年・倒産・契約満了・自己都合などで離職した時に、再就職先が決まるまでの一定期間、手当を受給できる国の制度です。
受給資格には、原則として、離職の日以前2年間に12ヵ月以上、雇用保険の被保険者であったことが受給の条件となります。年齢や退職理由により異なりますが、受給期間は離職日の翌日から1年間が対象となります。
解雇や定年、契約満期満了などが離職の理由である場合は、離職の日以前1年間に6ヵ月以上、雇用保険の被保険者であったことが受給の条件となります。条件を満たす場合、求職申し込みをしてから7日間の待機が経過したのち、受給開始となります。自己都合や懲戒解雇の場合は、7日間の待機+2ヵ月または3ヵ月の期限が経過したのち、受給開始となります。
手続きの際には「離職票」「マイナンバーカード」「本人名義の預金通帳」「顔写真」などが必要となります。マイナンバーカードがない場合は、個人番号の記載のある住民票や、マイナンバー通知カードと運転免許証などの身分証明書で代用できます。
「離職されたみなさまへ」(厚生労働省)
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求職している状態であることが前提
大前提として、「就職しようとする意思といつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就けず、積極的に求職活動を行っている」という状態に対して支給されます。失業者が1日でも早く再就職し安定した生活ができるようにする、セーフティーネットの役割を持ちます。
「家事や学業に専念する予定がある」など、積極的に求職していない場合には失業手当を受給できません。
基本手当を受給するには、原則として4週間(28日)に1度の認定日に「失業の認定」を受ける必要があります。
失業手当の計算方法
所定の受給期間中に、雇用保険制度から基本手当(失業給付)を受給することができます。基本手当(失業給付)の金額は、離職時の賃金と年齢によって支給額の上限が決められています。
基本手当(失業給付)の金額は離職時の1日当たり賃金の45〜80%で、上限が日額6,835〜8,355円です。賃金が低い人ほど、高い給付率となっています。
受給期間は、離職時の年齢と離職理由などにより異なりますが、離職した日から1年間、90〜360日分を受給することができます。
日額7千円として試算すると、1ヵ月28日分で約20万円を受給することが可能です。
また、個人事業主であっても社員やパートを雇用している時は、雇用保険と労災保険の加入が義務付けられています。
「雇用保険事務手続きの手引き【令和4年10月版 】」(厚生労働省)(厚生労働省)
(P.179より)
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個人事業主が廃業(退職)した時に失業手当は受給できるのか
失業手当は、雇用保険に加入している人が受けられる給付制度です。
個人事業主は、雇用保険、労災保険の適用外となるため、失業保険を受給することはできません。個人事業主は、仕事をするのもしないのも、いわば自己責任と考えられています。
「いつまで働くか」を決めるのも自分自身のため、残念ながら、個人事業主が廃業(退職)しても失業保険は受給できません。
しかし、事業を開始した人が事業を行っている期間等は、最大3年間受給期間に含まないという特例があります。離職日の翌日以降に開業した場合、給付期間の対象期間は通常の1年間ではなく、起業から廃業(退職)までの期間を最長3年間とするもので、受給期間の特例の申請手続きが必要です。この場合、離職日の翌日に起業し、2年後に廃業すると、廃業翌日から1年間が受給可能な期間となります。
「離職されたみなさまへ」(厚生労働省)
(P.6より)
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事業開始前に受給資格があれば手当を受給できる
ただし、個人事業主であっても事業開始前に雇用保険の受給資格を有し、所定給付日数が残っている場合は廃業届を出すことにより基本手当の受給できる場合があります。
特に、倒産や解雇、雇い止めなどの特定理由や特定受給資格者にあたる場合は、居住地のハローワークで受給資格の有無を確認する必要があります。
詳しくは、ハローワークインターネットサービスを参照ください。
「求人者・求職者の皆様へ」(ハローワークインターネットサービス)
「離職されたみなさまへ」(厚生労働省)
(P.5より)
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個人事業主は失業保険や再就職手当をもらえるのか?条件や注意点を解説
個人事業主は失業給付金をもらえる?失業保険や再就職手当について
また個人事業主が廃業したとき、失業保険が受けられるのかを動画で解説していますので合わせてご確認ください。
個人事業主が廃業した時に失業保険は受けられるのか?
再就職手当とは
再就職手当とは、ハローワークで失業保険を受給している人が、受給期間中に再就職先が決まった場合に支給される、いわば「就職祝い金」のようなもので、早期の再就職を促すために国が設けた制度です。
再就職先が決まると失業保険の受給が終わりますが、支給残日数(受給期間満了日までに受給できる日数)が、「所定給付日数の3分の1以上」残っていて、「1年を超えて引き続き雇用されることが、雇い入れ当初から確実と認められる職業に就いた場合」などの要件を満たす場合に、再就職手当が支給されます。
なお、受給金額は、支給残日数が3分の2以上残っている場合は基本手当日額の70%を残りの日数分、3分の1以上残っている場合は基本手当日額の60%を残りの日数分、受給できます。なお、基本手当の上限は、離職時年齢が60歳未満の方は6,190円、離職時年齢が60歳以上65歳未満の方は5,004円と、年齢により異なります。
早期に再就職先を決めると多く支給される設定になっています。
「再就職手当のご案内」(厚生労働省)
(PDF3枚目)
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個人事業主が廃業(退職)した後に再就職手当は受給できるのか
再就職手当は「失業中の求職者のための制度」なので、個人事業主は廃業(退職)しても再就職手当の対象にはなりません。
ただし、廃業した事業を開業する前に雇用保険の支給残日数を所定給付日数の3分の1以上有していた場合で、かつ一人以上を雇用した場合など、受給要件を満たす場合は、基本手当の支給残日数に応じて再就職手当を受給できます。
個人事業主として事業を始め、雇用保険の受給資格がなくなった後は、廃業(退職)後に再就職手当を受給できません。
副業として事業所得がある場合は失業保険を受給できない
失業保険は、副業で収入を得ている人は受給できません。
例えば、会社に勤めていて、副業として個人事業主として開業届を提出し、事業所得を得ている人がいたとします。本業の会社で雇用保険に加入していたとしても、退職時は副業で事業所得があるので失業保険は受給できません。
失業保険は「就職しようとする意思といつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就けず、積極的に求職活動を行っている」という方のための、セーフティーネットのようなものです。そのため、退職後も副業でビジネスを行っている状況では「失業している」という状況ではないのです。事業所得の売り上げがわずかであっても、まったくない状況であっても、失業手当の「対象外」となります。
退職前に廃業届を出せば失業保険の受給対象になる
しかし、本業である会社を退職する前か、退職後の雇用保険の受給が可能となる期間内に廃業届を提出すれば、「失業状態」であると申請できます。失業保険の受給も可能となります。
廃業届を提出したのならば、事業は停止しなければなりません。こっそり事業を継続していた場合にバレたら、不正受給となってしまいます。不正受給が疑われる場合にはハローワークから調査が入ります。
不正受給と認定された場合、受給する権利を失ってしまうだけではなく、悪質だと判断されるとその数倍を返金しなければならないことにもなりかねません。
「失業保険を受給しつつも、廃業したことにした副業でこっそり稼ぐ」という不正受給は、絶対に行わないようにしましょう。
「不正受給について」(厚生労働省)
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まとめ
この記事では失業保険の概要や条件、個人事業主の方が受給できない理由を中心に、副業で事業を行っている場合などについても解説しました。
繰り返しになりますが、個人事業主やフリーランスの方は、雇用保険の対象外となるため原則として失業保険は受給できません。しかし開業前に雇用保険に加入していて受給対象になっていた場合、退職後に個人事業主となる場合に再就職手当を受給することは可能です。
個人事業主は、働き方も働く期間も、自分で決めることができます。そのため失業保険については個人事業主の方は、病気や事故、その他の事情で事業を続けられない場合のリスクも自分で負わなければなりません。
個人事業主は開業直後から、国民年金基金、小規模共済や確定拠出年金を利用して退職後の資金準備を行うことをおすすめします。さらにもし働けなくなった時のリスクに備えた傷害保険、生命保険、所得補償保険などで備えることを忘れないようにしましょう。