事業を行うためには資金が必要になります。返済不要な補助金や助成金があれば活用していきたいものです。
今回は、個人事業主が受給できる補助金・助成金とその仕訳方法についてご紹介いたします。
個人事業主が受給できる補助金には何がある?
補助金は事業を行なうための経費などに対して支払われます。
補助金を受給するためには審査があるため、事業計画書など求められている資料を作成し、募集期間中に応募する必要があります。
ただし、補助金には予算があるため、要件を満たせば必ず受給できるものではありません。
募集期間中でも予算を超えたら国は受付を終了します。
業再構築補助金
事業再構築補助金は、新型コロナの影響による経済社会の変化に対応するために、中小企業等及び中堅企業等を対象とした補助金です。中小企業等の事業再構築を支援し、日本経済の構造転換を促すことを目的としています。対象となるのは、新型コロナが蔓延し始めて以降、売り上げが減っていて、新事業を展開したり事業転換をしたりする予定のある企業です。
申請するにはいくつか条件があります。1つ目の条件は、新型コロナが蔓延し始めた2020年4月以降の連続する6ヵ月間の中で3ヵ月間の合計売上高が、2019年または2020年1~3月の同3ヵ月の合計売上高と比較して10%以上減少していることです。もしくは、2020年4月以降の連続する6ヵ月間の中で任意の3ヵ月の合計付加価値額が、コロナ以前の同3ヵ月の合計付加価値額と比較して15%以上減少していれば申請できます。
補助金額の上限は従業員の数で異なり、通常枠で従業員数20人以下の場合、100万円〜2,000万円となります。
【通常枠の場合】
令和5年2月現在、第9回の公募を受付中です。第9回の申請期間は令和5年3月24日(金)18:00までとなります。公募については、中小企業用の「事業再構築補助金」ページに掲載されますので、気になる方はチェックしてみてください。
ものづくり補助金
ものづくり補助金の正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。生産性向上に資する革新的なサービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行なうための設備投資等を支援する補助金です。補助金の申請枠は「通常枠」のほか、「回復型賃上げ・雇用拡大枠」「デジタル枠」「グリーン枠」「グローバル市場開拓枠」があります。枠によって異なりますが、補助金額は最低100万円〜最大4000万円で、補助率は、申請される枠・類型や従業員の人数によって1/2以内もしくは2/3以内となっています。
補助対象となるには、業種により資本金や従業員数などの条件があります。例えば小売業の場合は資本金が5,000万円以下または従業員数は50人以下、サービス業の場合は5,000万円以下または従業員数は100人以下でないと対象となりません。
令和5年2月現在、14次の申請を受付中です。締切は令和5年4月19日(水)17:00までとなります。採択発表は令和5年6月中旬頃の予定です。公募については、ものづくり補助事業公式ホームページに掲載されますので、気になる方はチェックしてみてください。
IT導入補助金
IT導入補助金とは正式には「サービス等生産性向上IT導入支援事業」という補助金です。社の課題やニーズに合うソフトウェアやクラウドなどを導入する際の関連費用を補助するものです。
「通常枠」のほか、「デジタル化基盤導入枠」「セキュリティ対策推進枠」があり、令和5年10月より始まるインボイス制度に対応するための会計ソフトやツールを導入した場合などにも、IT導入補助金の「デジタル化基盤導入枠」が活用できます。
なお、令和5年度のIT導入補助金は、令和4年度第2次補正予算で、以下の点が変更となったため、活用できる幅が広がりました。
・「通常枠」A類型の補助額の下限が5万円に引き下げ
・「通常枠」の補助対象となるソフトウェアの購入費用やクラウドの利用料が最大2年分と延長
・「デジタル化基盤導入枠」の補助額が50万円以下となり、下限額は撤廃
補助率は枠によって異なりますが上限金額の3/4以内、2/3以内、1/2以内で、補助金額は5万円〜3,000万円です。
令和5年2月現在、令和5年の公式サイト・応募要項が出ていませんが、前年の公式サイトで確認すると、1次の申請が令和4年3月31日(木)受付開始でした。最新情報は公式サイトでご確認ください。
「IT導入補助金2022」(独立行政法人中小企業基盤整備機構)
※令和5年度の公式サイトは令和5年2月現在未開設
「経済産業省関係 令和4年度第2次補正予算の事業概要(PR資料)」(経済産業省)
(P.18より)
※リンクの遷移先はPDFファイルです。ダウンロードに大量の通信費がかかる可能性があります
個人事業主が受給できる助成金には何がある?
助成金は補助金とは異なり、条件を満たせば基本的に誰でも受給できます。
キャリアアップ助成金
厚生労働省が、パートやアルバイト、非正規社員の正社員化、待遇改善など、キャリアアップを促進する取組みに対し助成する助成金です。
キャリアアップ助成金は、以下の6つのコースに分かれており、助成金額・申請期間はそれぞれ異なります。
・正社員化コース(非正規・派遣社員を正規雇用、正社員化)
・障害者正社員化コース(障害のある非正規社員を正社員化)
・賃金規定等改定コース(非正規社員の基本給を3%以上増額)
・賃金規定共通化コース(非正規社員と正社員共通の賃金規定を採用)
・賞与・退職金制度導入コース(非正規社員のための賞与・退職金制度の導入)
・短時間労働者労働時間延長コース(非正規社員の週労働時間を3時間以上延長し、社会保険を適用)
人材開発支援助成金
雇用保険の被保険者に対し、職務に関連する専門的な知識や技術を習得させるための職業訓練等を行なった場合に、その費用や賃金が助成されます。令和4年12月より、新規事業立ち上げのため新たな知識・技術習得訓練を実施した場合に活用できる「事業展開等リスキリング支援コース」が追加され、職業訓練には以下の9のコースとなりました。
・特定訓練コース(正社員の労働生産性向上のためのOFF-JT、若年人材育成訓練などの実施)
・一般訓練コース(正社員の職務に関連した専門知識・技能習得訓練などの実施)
・教育訓練休暇等付与コース(有給教育訓練休暇等制度の導入・実施)
・特別育成訓練コース(非正規労働者等の人材育成の実施)
・人への投資促進コース(デジタル人材・高度人材育成訓練、労働者の自発的訓練、定額制訓練の実施)
・事業展開等リスキリング支援コース(新規事業立ち上げのため新たな知識・技術習得訓練の実施)
・建設労働者認定訓練コース(認定職業訓練・指導員訓練のうち建設関連のものを実施)
・建設労働者技能実習コース(技能向上の実習を有給で受講)
・障害者職業能力開発コース(障害者に必要な、一定の教育訓練を継続的に実施)
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
職業経験、技能、知識等のさまざまな理由から安定した就職が困難な求職者をハローワーク等の紹介で一定期間(原則3ヵ月)試行雇用した場合に支給される厚生労働省の助成金です。原則、対象者1人につき月額4万円になります。
「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」(厚生労働省)
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
ハローワーク等の紹介により高年齢者や障害者などの就職困難者を、雇用保険一般被保険者として雇い入れる事業主に対して、厚生労働省が助成します。
助成対象期間や支給額は、就業形態や困難理由などにより異なりますが、対象労働者一人当たり30万円~240万円となります。
「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」(厚生労働省)
中小企業退職金共済制度に係る新規加入掛金助成および掛金月額変更助成
中小企業退職金共済を新たに導入した場合、掛金月額の1/2(従業員一人当たりの上限5,000円)を加入後4ヵ月目から1年間分、支給されます。
また、既に中小企業退職金共済を導入している会社で掛金月額が18,000円以下の場合に、増額すると増額分の1/3を増額月から1年間、助成されます。
「中小企業退職金共済制度に係る新規加入掛金助成及び掛金月額変更掛金助成」(厚生労働省)
助成金や補助金の仕訳はどうなる?
助成金や補助金は営業活動から得た収入ではなく、継続的に得られる収入でもないので、雑収入として計上します。
助成金や補助金の給付が決定した場合、帳簿には借方に「未収入金」、貸方に「雑収入」のように処理します。
後日、受給したら、借方に「預金」、貸方に「未収入金」のように帳簿をつけます。
助成金や補助金は支給されるまでに時間を要する場合があります。
入金が翌事業年度となった場合でも、支給が決定した事業年度に計上するので注意してください。
個人事業主が補助金や助成金を申請するメリット3選
個人事業主が補助金や助成金を申請すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。それぞれの要件を満たすのは難しいですが、要件を満たすと大きなメリットを得られます。
申請を行うにあたっては、これからの事業計画を見直す良い機会にもなります。個人事業主が補助金や助成金を使うメリットを比較し、申請の可否を検討しましょう。
返済の必要がない
個人事業主が補助金や助成金を申請する1つ目のメリットは「返済の必要がない」ことです。
補助金や助成金は融資とは異なり、基本的には返済の必要がありません。
例えば、雇用関係の助成金なら、企業や労働者が負担する雇用保険の一部が原資になっているためです。
親戚や知人からの借金や金融機関からの融資の場合、事業への口出しや干渉に加えて、配当のような利回りを期待される可能性もあります。しかし、補助金や助成金を利用すれば、そのような悩み事もなく事業に集中できるでしょう。
計画的に資金調達できる
個人事業主が補助金や助成金を申請する2つ目のメリットは「計画的に資金調達できる」ことです。
事業規模の小さい個人事業主やフリーランスは「設備投資」「人材育成」「人材確保」などのためにお金を使いたくても、資金不足で実現できないことが多いでしょう。
融資で資金調達をすると、返済の必要がない場合でも出資者が経営に関与してくる可能性があります。その場合、経営者が計画に沿った事業を進められずに、経営の方向性を見失ってしまうこともあります。
しかし、補助金や助成金は出資者からの干渉を受けることもありません。資金調達したうえで計画に沿った事業を進められるようになるでしょう。
継続的に受給できることも
個人事業主が補助金や助成金を申請する3つ目のメリットは「継続的に受給できる」ことです。
事業維持をするには、販路開拓や事業転換を検討する事業者もいます。ただし、それらを行なうには多額の費用がかかります。
そのような事業者を助けてくれるのが、補助金や助成金です。
補助金や助成金の中には、要件を満たせば、一度の申請で継続的に一定の期間、受給できるものもあります。これらを活用すれば、資金の負担を最小限に抑えつつ、事業転換や新規開拓を進められるでしょう。事業維持の手助けにもなります。
個人事業主が補助金や助成金を申請する3つのデメリット
個人事業主が補助金や助成金を申請し、資金を使えるようになるまでのデメリットを解説します。
個人事業主が補助金や助成金を使う際のメリット・デメリットを比較し、申請の可否を検討してみてください。
要件を満たすのが難しい
個人事業主が補助金や助成金を申請する1つ目のデメリットは「要件を満たすのが難しい」ことです。
補助金や助成金の中には、事業の業態や規模によっては利用できないものがあったり、要件を満たしにくいものがあったりします。
また、補助金や助成金を受け取るためには、提出書類を揃える必要があります。
個人事業主やフリーランスの場合は、仕事をしながらこれらの手続きを進めていくことになります。申請書類の作成に手間や時間もかかるため、事業に支障をきたす可能性もあるでしょう。
申請の準備に時間をかけたくない場合は、社労士など専門家の支援を受けてみると良いかもしれません。中には補助金や助成金が出た場合の成果報酬で代行してくれる専門家もいます。
受給するまでに時間がかかる
個人事業主が補助金や助成金を申請する2つ目のデメリットは「受給するまでに時間がかかる」ことです。
補助金や助成金を受給するには、書類を提出して審査に通す必要があるため受給までに時間がかかります。早急に資金調達したい場合は、間に合わないケースもあるでしょう。
また、不正受給を防ぐために審査の設定が厳しい助成金制度もあり、書類審査だけでなく実地調査が行なわれる場合もあります。
申請しても審査に落ちたり、受給を却下されたりすることもあるため、補助金や助成金は必ず受給できるわけではありません。
特に補助金に関しては、申請者が多く、競争率が高いため、申請にかける時間や手間のバランスを考えて検討するといいでしょう。
申請期限が設けられている
個人事業主が補助金や助成金を申請する3つ目のデメリットは「申請期限が設けられている」ことです。
補助金や助成金には申請期限があり、期限内に申込みをしないと審査を受けることすらできません。
助成金は比較的長く申請期限が設けられていますが、補助金の申請期限は1ヵ月程度と短いものもあり、申請期限に猶予がないと感じるケースも多いです。
1日でも申請期限に遅れると受給できなくなり、次回の申請日まで待つことになります。
また、必要書類の不備があった場合も同様で、期限内に再提出しなければなりません。そのため、補助金や助成金を申請する場合は、申請期限に余裕を持つ必要があります。
個人事業主の補助金や助成金の申請は早めに
資金不足に陥りやすい個人事業主やフリーランスにとって、返済義務がない補助金や助成金は嬉しい制度だといえます。ただし、補助金や助成金は申請期間が限られているため、活用できそうな制度は、年度初めに検討しておくようにしましょう。
また、助成金や補助金の申請についてはGビズIDアカウントを使用したe-Govの電子申請に限られているケースもあります。GビズIDアカウントは2種類あり、審査が不要なアカウントもありますが利用が制限されます。利用制限のないアカウントを取得する場合、アカウントの発行は、審査書類に問題がない場合でも1週間程度かかります。なるべく早めに準備を進めるようにしましょう。
<文/ほのゆき>