道行く”一般の人”に、これまでの人生を取材し、一人ひとりにスポットをあてた動画をYouTube「街録ch」に公開し始めてから5年目の三谷三四郎さん。現在は著名人の出演も多く、運営する「街録ch」のフォロワーは169万人にのぼる。
その人が、どうして今の思考に至ったのか・その生き方を選んだのかに興味があるという三谷さんは、”生きていることを正義”としたような大きな包容力で、どんな取材対象者でも、思想を否定せずに気持ちに寄り添いながら話を聞いていく。そんなご本人も辛かったAD時代を「鬱病だったと思う」と振り返る。そして、その頃の自分に「”死なないで”と言いたい」そうだ。
「街録ch」は、誰しもが何か思うことはあるし、何かに悩んだり傷つきながらも生きていること、悩みのない人はいないという当たり前の事実を突きつけてくる。
“人は一人ひとり違う”
誰もが知っていることだが、人は他人にも自分と同じ考えや似た思考、自分の知っているカテゴリに分けたがる。そんな世界で「街録ch」は、一人ひとりが違う人間であり、みんな”自分なりに一生懸命に生きている”現実”を改めて再認識する機会をくれる。三谷さんが運営する「街録ch」は人々に生きる勇気、人に優しくなれそうな希望を与えてくれているのかもしれない。
フリーのディレクターからYouTubeに転身。人間らしい生活へ
―早速ですが、現在どのような仕事をされているかお話しいただけますか?
会社としてはYouTube上で配信する「街録ch」の動画を制作して、その収益で売り上げを立てています。僕自体は、1週間のルーティンで言うと、月曜日は会議で、火曜日と金曜日は取材、水曜日と木曜日は自宅で編集をしています。
月曜日の会議では、「街録ch」の先々のラインナップ確認や取材対象者の選定、出演のご応募いただいた方の確認、を主にします。
火曜日と金曜日は、1日に2件か3件ぐらい、撮影しながら取材する感じです。1件あたり2時間ぐらいで行っています。
水曜日と木曜日の編集では、僕の作ったマニュアルに沿って、スタッフの方がその人なりに制作してくれた動画を、僕が整える作業をしています。大体1動画に2、3時間ぐらいかけていて、1日に2本分の作業をしています。
それ以外には、地方取材時の交通費を捻出するためにトークイベントを開催しているんですけど、宣伝をしないとお客さんに来てもらえないんで、火曜日の夜とかに自宅で生配信をして宣伝をしている感じですね。
―ルーティンを決めて、規則的な生活をされているのですね?
そうですね。割と規則的ですね。
半分以上が自宅での仕事で、会議も自宅でやっているんで、ルーティンですね。今回のように僕の取材をしていただく時も、外出として、まとめてやるように可能な範囲で調整するようにしています。
朝8時には必ず起きていて、夜も12時ぐらいには寝ているから、人間らしい生活です(笑)。時々、崩れることもありますけど、毎日、夜中の3時、4時まで働くようなことは、ほぼなくなりましたね。
何人かスタッフがいて、編集作業だけお願いしている方は完全にリモートなんですけど、取材対象者の選定とかキャスティングの仕事をお願いしてる方には会議の時に来てもらっています。別にリモート会議でいいんですけど、週に1回しかない会議だし、会う機会もないから、あえて顔を合わせながら話すようにしています。
あと、去年からディレクター業というか、ゆくゆくは自分で撮影も編集もできるような人を育てようと思って、今、みている子が2人いるんで、2人には週に1回の会議に加えて、水曜日か木曜日のどちらかで一緒の場所で編集作業をして、分からないことを聞いてもらうようにしています。出来上がった動画を観て、「ここをこう直せばいいよ」「この時、こういう絵は撮れなかった?」とか確認をしています。
人を育てていくってことで、今まで、1台のカメラで撮影してきたんですけど、2人に教えるためにもカメラが2台でもいいかなと思ったので2台で撮影することもあります。一緒に取材に来てもらっても、ただ僕の取材を見てるだけだと、その子も暇じゃないですか。将来、「街録ch」しかやらないわけじゃないし、カメラが2台あるような撮影にも慣れていってもらった方がいいとも思ったし。カメラ2台での撮影も、やってみたら新しい発見がありました。今までは、コスパだけ考えてやったんです、最初の頃とか。カメラ2台での撮影って、コストパフォーマンスは良くないですけど、チームとしてレベルアップするから、長い目でみたらプラスかなと思うんで、いま試してみています。
―ご自身でスケジュールを立てられるということは、だいぶ自由になったのですか?
やっぱり、雇われていないっていうのが一番でかいですね。
全部自分で決められちゃうから、逆に、ちゃんとルールにして何曜日には何をする、と決めておかないといけないと思ったんです。動画は1週間で6日、18時投稿って決めているんで、その投稿スケジュールを保つためには、規則正しい生活をしないといけないなって思ったんですよね。
フリーランスなんで、働こうと思えば土日も寝ずに働くこともできちゃって、キリがなくなっちゃうんで、ある程度ルールを設けた方がいいって、フリーランスになって途中で気づきましたね。
僕、1回倒れて救急車を呼んだんですよ。
フリーランスでディレクターをしていた頃は、本当にめちゃくちゃな生活だったんですけど、「街録ch」を始めた時、ちょうどコロナ禍だったんで、テレビの仕事もそんなにいっぱいあるわけじゃなかったんですよね。だから、テレビの仕事もしながら一人で毎日YouTubeに投稿していたんです。お金もなかったから、スタッフも雇えなかったので本当に毎日2時間しか寝ないで一日中、撮影しているか編集しているかっていう生活をしていたんです。今でも、あの時が人生で一番働いていたと思うんですけど、そんな生活を2ヶ月ぐらい続けたら突然メニエール病になったんですよ。
今思うと大袈裟ですけどね、大病したことがなかったからもう死ぬかと思って泣きながら救急車を呼んだんですよ、こんな働き方をしていたら死ぬんだなとその時に初めて思いましたね。
そんなこともあって生活を改めようと考えていたら、妻が妊娠したんで「死ぬわけにはいかない」と思ったので、まず日曜日は絶対に休むことにしたんです。子どもが生まれてからは、土曜日も休むっていう風にちょっとずつ働き方を変えていって、今は、ほぼ週休2日です。そうは言っても平日に終わり切らない作業がこぼれてくるので、週休1.7日ぐらいみたいな感じですかね。
僕、いろんな人を取材しているんですけど、中には離婚経験がある男性とかもいるんですよね。そういう方の話を聞いていると、仕事がすごく忙しい時期に結婚して、子どもができても家庭を顧みずに働いて、大体、早期に離婚してるケースが多いので、僕は意識的に家族で過ごせる休みの日を作るようにした、という感じもあります。
もう60歳近い社長さんを取材した時、20代・30代と、家庭を顧みずにがむしゃらに働いて、年収15億円になるくらい稼いで、家族に何不自由ない暮らしを提供してるんですけど、「子どもが小さかった頃、キャッチボールを1回もしなかったってことを、未だに子どもに恨まれてるんだよね。時間を作ればよかったんだろうけど、あの時はああするしかなかった」と、切ないことを言ってたんですよ。その取材中に、たまたま小学校低学年ぐらいの子が、近くでお父さんとサッカーか何かしていたんです。「15億円稼いでも、こんなに寂しい表情をするんだな」と思ったんですよね。貴重な話を聞かせてもらっておきながら、本当に申し訳ないんですけど、自分はそんな気持ちになりたくないな、と気づかせてもらったというか、勉強させてもらったので、仕事が立て込んで土日も稼働しなくちゃいけなくなることもあるんですけど、それが当たり前にならないようにしようって気を付けています。
僕の場合は自宅で仕事をしているから、土日もずっと家庭を顧みずに働いて家族との時間がなくなっちゃって家庭関係が悪化しちゃうと、巡り巡って多分、仕事にも良くない影響が出ると思うんですよね。仕事環境もストレスのある場所になっちゃって、負のループを生み出しそうじゃないですか。
だから、基本、土日休みっていうのは崩さないようにしてますね。
あと、働きすぎて早死にしてしまう人とかいるじゃないですか。有名な漫画家とか成功している方が60歳も迎えずに亡くなってしまったりする一方で、いろんな人を取材していると、50歳ぐらいで花開く人とかもいるんですよ。だから、体力のあるうちに頑張らなきゃいけないって思いがちですけど、50歳過ぎてから人生をどうにかしている人もいることを考えると、寿命を縮めて頑張って働くのが正解でもないな、自分はそうしなくていいかなっていう気持ちになれたという部分もあります。
そもそも、僕は「幸せって何だろう」って考えた時に、“そこそこ”でいいんじゃないかって思うんです。別にお金のために働いているわけでもないですし、人から褒められたり何か受賞したりするようなことがあったとしても、それって一瞬で終わるから、世の中から成功者として見られるようになったとしても、自分が一生満たされるわけじゃないんだなって感じることがあるんです。取材で、離婚が1回の人もいれば、2回、3回と離婚している人もいて、話を聞いてると、同じこと繰り返していて、”ない理想”をただ求めてるだけなんだなって感じるので“そこそこ”でいいんじゃないかなって思うようになりましたね。
「街録ch」を始めるまで悩んだ1年間
―YouTubeを始める前に持っていた悩みとか、なりたい自分像のようなものはありましたか?