高齢化が著しい近年、介護タクシーの需要が拡大しています。需要の増加に伴い、介護タクシー事業の開業を目指す人が増えてきているのには、どんな理由があるのでしょうか。介護タクシーとはそもそもどのようなサービスで、開業にはどのような手順を踏まなくてはいけないのでしょうか。介護タクシー事業で開業したい方のために、詳しく解説します。
介護タクシーとは?
介護タクシーとは、高齢者や障がい者など、移動に支援が必要な方々のために特化したタクシーサービスのことです。通常のタクシーとは異なり、車両には車椅子やストレッチャー(寝台)を乗せるためのスペースが設けられ、利用者が安全かつ快適に移動できるよう設計されています。
また、介助が必要な場合には、ドライバーが乗降や車椅子の操作などをサポートすることも可能です。
介護タクシーの利用シーンは幅広く、病院への通院や施設への送迎、買い物や冠婚葬祭などの日常生活の移動に活用されています。要介護認定を受けている方が利用することが一般的で、一部のサービスでは介護保険を適用することができます。そのため、利用する際には、事前に各地域の事業者に相談し、条件や料金を確認することが重要です。
2種類の介護タクシー
『介護タクシー』という介護保険適用のサービスはありません。一般的に介護タクシーと呼ばれるものには『福祉タクシー』と『介護保険タクシー(一般名称:介護タクシー)』の2つがあります。
どちらのタクシーを利用するのかは、利用者からすると大きな違いがありますが、開業者であっても2つの違いは知っておかなくてはいけない重要なポイントです。それぞれどのようなサービスなのか、違いを解説していきます。
福祉タクシー
『福祉タクシー』と、一般的に介護タクシーと呼ばれる『介護保険タクシー』との違いは、2点あります。運転手が介護関連の資格を持っていない点と、介護保険が適応されない点です。
運転手が介助してくれないため、要介護状態の方が福祉タクシーを利用する場合には、家族が乗降のサポートをしなくてはいけません。あらかじめどのようなサポートが必要になるのか、いざというときにスムーズに介助できるようにしておく必要があります。
最近では、市町村の運営する高齢者向けのタクシーを総称して『福祉タクシー』と呼ぶケースも増えてきています。
介護保険タクシー(介護タクシー)
それに対し、一般的に『介護タクシー』と呼ばれるのは、こちらの介護保険タクシーを指します。
福祉タクシーとの違いは、運転手が介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)などの資格を所有している点です。介護保険タクシー(介護タクシー)は、訪問介護の中の通院や外出の乗降介助のサービスです。運転手が介護関連の資格を取得しており、乗降の介助をしてもらえます。家族が介助しきれない場合には、福祉タクシーではなく介護保険タクシー(介護タクシー)の方が安心でしょう。
介護タクシーの開業に必要な資格
介護タクシー事業を開業するためには、最低限2つの資格の取得が必要です。『普通自動車第二種運転免許』と『介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)』の2つです。それぞれどのような資格なのか、なぜ必要なのかを解説します。
普通自動車第二種運転免許
介護タクシーの開業をするには『福祉タクシー』であれ『介護保険タクシー』であれ、普通自動車第二種運転免許の取得が必要です。普通自動車第二種運転免許とは、営利目的で旅客自動車を公道で走らせるために必要な運転免許です。
普通自動車第二種運転免許は、普通自動車第一種運転免許保持者であれば、教習所に1ヶ月間通えば取得できます。運転技術がある方であれば、通学せず飛び込みでも受験が可能です。取得には費用が20万円ほどかかるので、開業費用として準備しておきましょう。
介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)
介護タクシーの中でも利用者の介助ができる『介護保険タクシー』を開業するのであれば、介護職員初任者研修の資格が必要です。2013年までは『ホームヘルパー2級』と呼ばれていたので、すでに所持している方は必要ありません。
福祉関係の資格の中でも、介護職員初任者研修は約1ヶ月に及ぶ10項目の研修で資格の取得が可能です。130時間ほどかかるので、開業前にはきちんと研修を受講するための時間の確保をしておきましょう。専門学校の中には夜間や土日コースもあり、40.5時間分を上限に通信教育が受けられるので、仕事をしながらの受講も可能です。
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介護タクシー開業の要件
介護タクシーの事業を開業するためには、国土交通省の各運輸局の事業許可を取得しなくてはいけません。事業許可を取得するためには3つの要件、『人的要件・設備要件・資本的要件』をすべて満たす必要があります。3つの審査要件の内容を確認し、許可申請をしましょう。
人員に関する要件
介護タクシー事業を開業するために満たさなくてはいけない『人的要件』には、3つのポイントがあります。以下の3つをすべて満たす必要があるので、チェックしていきましょう。
- ドライバーが普通自動車第二種運転免許を保有していること
- 運行管理者がいること(整備管理者と運転者の兼任可能)
- 整備管理者がいること(運行管理者と運転者の兼任可能)
不備がないか、開業前にきちんと確認してから申請に行きましょう。
設備に関する要件
介護タクシー事業の開業には『設備要件』も満たさなくてはいけません。
設備要件を満たすためには、営業所は土地や建物の使用権限が3年以上あり、事務所・休憩所・仮眠室が併設されている必要があります。原則”車両の長さ×幅+1m以上”のタクシー車庫を併設することも義務付けられています。また、点検、整備、清掃のための水道などの清掃施設も付随していなくてはいけません。
また、タクシーはリフト、スロープ、寝台などがついている福祉車両が1台以上必要です。運賃メーターを基に料金を請求する場合には、タクシーメーターの設置をしなくてはいけません。
資金に関する要件
介護タクシー事業開業に必要な『資本的要件』では、申請日以降に以下の資金を常に確保していなくてはいけません。
- 所要資金合計額の50%以上の自己資金
- 開業当初に要する資金の100%以上の自己資金
足らなくならないよう、きちんと管理しておきましょう。
介護タクシー開業にかかる費用
介護タクシー事業を開業するためには、設備費や人件費などさまざまな費用がかかります。どんなことにどれほどの費用がかかるのか、紹介します。
<法人設立費用>
- NPO法人:数千円
- 株式会社:約26万円
- 合同会社:約11万円
<車両費用>
- 車両費:軽自動車160万円~ / ストレッチャー用ワゴン車350万円~
- 車庫代:約1万円(地域によって異なる)
<事務所費用>
- 自宅を使用する場合:ほぼ無料
- 事務所を賃貸する場合:賃貸料(物件によって異なる)
<資格費用>
- 普通自動車第二種運転免許:約20万円
- 介護職員初任者研修:約9万円
<管理費用>
- 事務用品
- 設備費用
- 水道光熱費
- 通信費
<運転資金>
- 人件費×6ヶ月=運転資金(人件費によって異なる)
介護タクシー事業を開業するには準備資金はもちろん、運用にもそれなりの資金が必要になります。
介護タクシーの開業で使える補助金・助成金・減免制度
上記でも紹介したとおり、介護タクシーの開業には多額の費用がかかります。開業には活用できる助成金や補助金があったり、減免制度があったりするので、なるべく節約できるようチェックしていきましょう。
業務用車両に関する補助金・減免制度
各都道府県では、福祉用車両の購入にあたり補助金を出してくれたり、自動車税などを減免してくれる制度があります。条件や金額は各自治体によって異なるので、自分が住む自治体のホームページなどをチェックしてみましょう。
参考:8ナンバーではない自動車で、構造上身体障害者等の利用する自動車について減免対象となるものを教えてください|千葉県
参考:UDタクシー(ユニバーサルデザインタクシー)導入促進事業|横浜市
参考:補助金のご案内(タクシー関係) – 自動車|国土交通省
小規模事業者持続化補助金
小規模事業の生産性向上と持続的発展を目的とした助成金です。業務効率化に必要な費用のうち、上限50万円とした2/3の費用を補助してくれます。
※2024年の募集は終了しています。2025年以降の申請については最新情報をご確認ください。
参考:小規模事業者持続化補助金|全国商工会連合会
地域公共交通確保維持改善事業費補助金
公共交通のバリアフリー化や利用環境改善の支援が目的の補助金制度です。福祉車両の導入の1/3ほどを補助しています。
参考:公共交通政策:地域公共交通確保維持改善事業 P36|国土交通省
地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)
雇用機会が特に不足している地域の事業主が対象になる助成金制度です。この助成金制度を活用できる地域は限定されているので、注意しましょう。助成金の支給要件は以下です。
- 同意雇用開発促進地域等の事業所における施設・設備の設置・整備及び、地域に居住する求職者等の雇い入れに関する計画書を労働局長に提出すること
- 事業の用に供する施設や設備を計画期間内(※1)に設置・整備(※1)すること
- 地域に居住する求職者等を計画期間内(※1)に常時雇用する雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者(以下「被保険者」という)(※3)としてハローワーク等の紹介により3人(創業の場合は2人)以上雇い入れること
- 事業所における労働者(被保険者)数の増加、設置
- 設備事業所における完了日における被保険者数が、計画日の前日における数に比べ3人(創業の場合は2人)以上増加していること
※1 計画日から完了日までの間(最長18か月間)
※2 助成対象となる設置・整備費用は1点あたり20万円以上で、合計額が300万円以上である場合に限る
※3 短期雇用特例被保険者および日雇い労働被保険者を除く
自身が開業しようとしている地域が対象かどうかは、各自治体への確認が必要です。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者のキャリアアップが目的の取り組みに支給される助成金です。キャリアアップ助成金には『正社員化コース』『賃金規定等改定コース』など、7つのコースがあります。どのコースを適用するのか、きちんと見極めが必要です。キャリアアップ助成金の支給要件は以下です。
- 事業主が雇用保険適用事業所であること
- 事業主がキャリアアップ管理者を雇用保険適用事業所ごとに置いていること
- キャリアアップ計画書の作成及び、労働局長への提出
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する労働条件、勤務状況及び賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができるようにしておくこと
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組むこと
参考:厚生労働省キャリアアップ助成金||厚生労働省
【10STEP】介護タクシー開業までの流れ
介護タクシー事業の開業は10つの手順を踏まなくてはいけません。開業までの流れは以下です。
事業計画を立てる
介護タクシーを開業するためには、まず事業計画を立てることが重要です。市場のニーズや競合状況を調査し、提供するサービス内容やターゲット層を明確にしましょう。また、収支計画や初期投資費用、運営にかかるコストを具体的に見積もることで、事業の方向性が見えてきます。
必要な資格の取得
介護タクシーを運営するには、二種免許(旅客運送事業のための免許)が必要です。また、介護福祉士やホームヘルパーの資格があると、利用者へのサービス向上につながります。運転手自身が資格を取得するか、資格を持った人材を雇用する準備を進めましょう。
営業所等の設置
事業を行うための営業所や車両を保管する駐車場の確保が必要です。営業所は法的な要件を満たし、運営に支障がない場所を選びましょう。また、駐車場は業務用車両の台数分のスペースが必要です。
各管理者の配置
法令で定められた運行管理者や整備管理者などを配置する必要があります。これらの管理者は業務を円滑に運営するための要となる存在です。資格を持った人材を確保し、業務体制を整えましょう。
運輸支局への許可申請
必要書類を準備し、所管の運輸支局へ事業許可の申請を行います。申請書類には、事業計画書や営業所の詳細、使用する車両の情報などが含まれます。不備があると申請が遅れるため、丁寧に準備しましょう。
法令試験
許可申請後、運輸支局で法令試験を受ける必要があります。この試験では、道路運送法や安全運行に関する知識が問われます。試験に合格しなければ許可が下りないため、十分な準備を行いましょう。
許可証交付
法令試験に合格すると、介護タクシー事業の許可証が交付されます。許可証を受け取ることで、事業開始の準備が大詰めを迎えます。この段階では、今後の手続きに備えたスケジュールを再確認しましょう。
登録免許税の納付と、領収書の提出
許可証交付後に、登録免許税を納付する必要があります。納付した際の領収書を所定の場所へ提出し、手続きを完了させます。登録免許税の額は事業規模により異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。
業務用車両の購入・登録
事業で使用する車両を購入し、営業用ナンバーを取得します。車両は利用者が安心して乗車できるよう、設備や安全性に配慮したものを選びましょう。また、登録手続きには時間がかかるため、計画的に進めることが大切です。
運輸開始届の提出
最後に、運輸支局へ運輸開始届を提出します。これにより、介護タクシー事業の運営が正式にスタートします。必要書類を確認し、万全の状態で提出しましょう。その後は営業活動を開始し、利用者にサービスを提供していきます。
介護タクシー開業で失敗しないための3つのコツ
介護タクシー事業は需要が高まる一方で、開業や運営には多くの課題があります。成功するためには、事前の準備と計画が欠かせません。ここでは、失敗を防ぎ、安定した事業運営を実現するための3つのポイントを紹介します。
市場調査とターゲットの明確化
介護タクシー事業を成功させるためには、地域のニーズを徹底的に調査し、ターゲットを明確にすることが重要です。競合他社との差別化ポイントを見つけ、利用者層に合ったサービス内容や価格設定を工夫することで、事業の方向性を確立できます。
サービスの質を重視する
単なる移動手段に留まらず、利用者が安心して快適に利用できるサービスを提供しましょう。ドライバーの接遇マナーや車両設備、安全運転の徹底など、利用者満足度を高める工夫が成功の鍵です。また、地域の介護施設や訪問介護サービスと連携することで、利用者のニーズにより幅広く応えることが可能になります。
法令遵守と資金計画の徹底
介護タクシー事業は、法令を遵守しなければ営業停止のリスクがあります。必要な許認可を取得し、法律に基づいて運営を行いましょう。また、初期投資や運営コストを正確に見積もり、補助金の活用も視野に入れた資金計画を立てることで、安定した運営が可能になります。
制度を活用し、小さな負担で介護タクシーを開業しよう
介護タクシー事業は、今後の社会高齢化に伴い更なる需要の増加を見せるでしょう。開業にはさまざまな費用が必要になるものの、必要な資格は2つと簡潔で、なおかつ取得しやすいものなので「いつか独立したい」という方は介護タクシー事業の開業を目指してみても良いかも知れません。
介護タクシーは助成金の制度が整っているほか、フランチャイズも充実している事業です。ひとりですべての準備が難しそうであれば、フランチャイズの活用も考慮してみてはいかがでしょうか。サポート体制も万全なので、よりスムーズに開業までこぎつけるでしょう。
<文/ちはる>