グローバル化が進み、海外に移住し、起業することは以前より容易にできるようになってきました。
あなたは海外生活に憧れていますか?
国際的に活躍したいと思いますか?
世界中の人たちと交流しながらもっと幅広い人間関係を築きたくありませんか?
今回は、脱サラ後に海外移住するメリットやデメリット、起業するために必要な準備について解説します。
脱サラ海外起業の準備(1)海外の現地法人に就職する
現地法人で働いてビジネスルールや言語を修得し、生活しながら情報のアンテナを張って起業する業界のリサーチをします。
専門学校や大学で専門知識を身に付ける
さしあたり専門知識や特殊スキルがない場合には、現地の専門学校や大学に通って準備する手段があり、その知識や学位を強みに現地法人へ就職します。
学校を卒業すれば、一定の専門知識を修得している人材と見てもらえるため、現地で就職できる可能性もあります。
できれば、在学期間にアルバイトやボランティアなどで、基礎的な社会人の振る舞いやビジネスルールを知っておくと良いでしょう。
ワーキングホリデー後に現地で就職する
ワーキングホリデーとは協定のある国同士で行うビザの発給方法で、6ヵ月~3年程度その国で働きながら長期滞在できる制度です。
ワーキングホリデーの利用年齢は一般的に18歳~30歳以下ですが、中には18歳~25歳以下や18歳~26歳以下という国もあります。
ビザの発給には年齢制限以外に難しい要件がないため、現地起業の下見やコネクションづくりとして海外で働く経験を積みたい方にとっては有益な制度でしょう。
海外赴任のある日本企業に就職する
海外に拠点を持つグローバル企業なら海外赴任によって海外で働く機会を得られる可能性があります。
ただし、海外赴任を希望していても辞令がなければ海外で働けないため、その日本企業の人員配置や部署の状況など「運」の要素も関わってきます。
また、仕事を覚えるために数年間は日本国内で経験を積んでから海外へ出るというのが一般的ですが、すぐにでも渡航したい方にとっては回り道に感じるかもしれません。
海外の現地企業に就職する
日本から海外へ来て、いきなり海外の現地企業で働くのは難易度が上がります。
日本よりも実力主義が顕著な海外企業では、人よりも秀でた技能や経歴を強くアピールする必要もあります。当然ながら、現地の言葉を流暢に話せて現地での就業経験や技能がある現地の方々より雇用するメリットがなければ採用されないからです。
しかし、下記のような業界であれば海外企業への就職の難易度を下げられる可能性があります。
日本語学校や日本人学校
日本人向けのコールセンター
日本向け観光ガイド
日本食レストラン
海外企業の日本対応窓口 など
ただし、所属するのは海外企業であるため、少なくとも意思疎通ができる程度まで現地の言語を修得する必要はあります。
脱サラ海外起業の準備(2)海外でフリーランスになる
フリーランスなら法人設立の資金や手続きは不要で、ビジネスを気軽にスタートできます。
ブロガー・ライター
ブロガーやライターは、インターネット接続環境があれば仕事をする場所を問わないため、海外在住者である必要はありません。
しかし、業界の傾向として、日本在住のブロガーやライターが、海外での生活の様子をインターネットでリサーチして書いた2次情報のキュレーション記事の価値は薄れて、現地在住者が実際に見聞きした鮮度と確度の高い情報発信のニーズが高まっているため、海外在住者の方がニーズはあるでしょう。
そのため、海外での自由な生き方を求めてブロガー・ライター業界へ参入する方は年々増加傾向にあります。生活において現地の言語の取得は必要ですが、記事は日本語で書けるためチャレンジしやすいと言えるでしょう。
なお、ブロガー・ライターとして稼ぐにはインターネット検索された際に上位に掲出されるようなSEOの知識・記事構成・マーケティングなどのスキルが必要になるため稼ぐのは簡単ではありません。
IT関連のプログラマー
IT関連の職種もインターネット環境さえあれば場所を問いませんが、SNSプラットフォーマーおよびパソコンやモバイル端末に関連する巨大企業の多くは海外にあります。
ITテクノロジーは海外から日本へ入ってきますので、その業界に深く関わるなら情報の上流にあたる国で学ぶ方が、プログラマーとしての強みになるでしょう。海外は日本と雇用形態が違い、年功序列ではなく実力主義のことが多いため、雇用の不安定さはあるものの、業界的に給与水準が高いのは大きな魅力です。
バイヤーになる
バイヤーとは商品の買い付けをしている人のことで、アパレルに限らずあらゆる商品を扱う職種です。
日本で人気が出そうな海外のものや日本よりも安く販売できるものを探して、自社商品化するために世界中の商品を対象にします。日本企業が商慣習の共有や意思疎通を安心して行えるように、現地在住の日本人をバイヤーにする場合がたくさんあります。
安くて良いものを安定して確保する情報網や交渉力を身に付ければ、仕事として成立しやすいでしょう。
脱サラ後の準備期間を経て海外で起業する
社会経験を積んで言語や地域・ビジネスに慣れたら、次は本格的な起業準備にとりかかります。
フリーランスとして事業を継続する
海外起業の準備の一環で活動していたフリーランスで事業をそのまま継続しても良いでしょう。
すでに現地に慣れていれば、フリーランスとして開業準備期間に経験したことや人脈を使って新しいビジネスを始めるという選択もできます。
ちなみに、令和元年7月に内閣府政策統括官(経済財政分析担当)が行った発表によれば、日本の全就業者に占める本業及び副業フリーランスの割合は合計で5%程度ですが、アメリカでは約6.9%で、日本はアメリカの4割程度という調査結果があります。
今でもフリーランスは少数派ですが年々増加傾向にあり、起業を目標とするならマイクロビジネスの立ち上げ経験は将来生きてくるでしょう。
「政策課題分析シリ-ズ 17 日本のフリーランスについて」(内閣府)
(P.32より)
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海外で自分の法人を設立して起業する
日本人が海外法人を設立する場合、日本の法律ではなく現地の法律や制度に従う必要があります。
法人設立には要件や専門的な手続きがあり、日常会話の語学の範囲を超えることがたくさんあるため、有償で専門家のサポートを受け確実に手続きした方がよいでしょう。
また、海外の法人設立には主に下表の3つがあります。
現地法人方式(日本に本社がある法人が海外に子会社を設立する方式)
・規制や手続きは現地の法令に従い、所得税は外国税率で外国に納める
海外支店方式(日本に本社がある法人が海外に支店を設置する方式)
・現地での法人設立は不要で、規制・税率・納税先は日本の法令に準じる
・2国間の税率の差による節税効果は得られない
現地パートナー方式(日本に本社がある法人が海外の企業と提携して協力関係になる方式)
・設立の手間や費用は不要で、現地パートナーの人脈や販路が使える
・2社に資本関係はないため日本企業が自社で業務を行うより利益は下がる
現地パートナー方式なら日本からのニーズを現地でサポートすればよく、自ら海外でビジネスを興すよりもリスクが少なくて済むため、軌道に乗るまでが早い場合があります。
海外で起業するメリット
海外で起業すると、販路拡大・リスク分散・節税・ブランディングなどのメリットがあります。
日本にはないビジネスチャンスに出合える
日本の人口は約1億2,400万人です。一方、学術・研究・ビジネス・スポーツなど多くの分野では英語が共通語になっています。複数の国をビジネス対象にするだけで、ビジネスチャンスは日本限定の場合の何倍にも膨らむのは容易に想像がつくでしょう。
「人口推計(令和4年(2022年)12月確定値)」(総務省統計局)
保有資産・経済市況などのリスク分散
海外で外貨を保有していれば、海外の情勢不安や経済市況によって外貨の価値が変動するリスクがあります。しかし、外貨と日本円が同時に価値を下げる可能性は低いため、金融資産を分散して保有する主な目的はリスク分散です。
また、金利が高い海外で金融資産を保有していれば為替差益で資産が増える可能性があります。人件費や家賃、物価が安いなど経済市況が異なる国に拠点を置き、製造や仕入れを行って原価率を抑えることもよくあります。
日本との税制の違いが節税になる
海外には日本よりも所得税や法人税が低い国があり、同じ売り上げでも利益が多くなる状況になることがあります。
日本は世界の中でも所得税や法人税が高い方であり、節税効果を狙って日本企業が海外へ出るのも今では珍しくなくなりました。
また、企業や人の誘致のために所得税や法人税を極端に下げている(タックスヘイブン:租税回避)と呼ばれる国や地域では税金がさらに安くなります。
ブランドイメージが上がる
日本以外にも拠点を持ちグローバル展開する企業といえば、世界をまたにかけるというイメージに繋がり、世界的なブランドのイメージを持ってもらえるようになります。
また「質の良いものだけを自社バイヤーが現地で直接買い付けている希少な商品」として売り出すと、その商品の付加価値が上がり、イメージアップにつながるでしょう。
海外で起業するデメリット
海外で起業すると、期待した節税や人件費削減の効果が得られない場合や情勢不安からくる環境変化などのデメリットがあります。
必ず節税になるとは限らない
節税効果を期待して起業し事業を拡大して納税するのは合法ですが、ペーパーカンパニーによる脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)への対策は世界的に厳しくなっています。
罪を犯さないことは当然ですが、節税を主な目的にして海外進出するようでは、情勢や法令が変わると、海外進出が無意味になることを理解しておきましょう。
物価や人件費が高いこともある
物価や家賃、人件費が短期間で急激に高騰する可能性もあります。
自国の情勢不安や他国からの連鎖反応で経済市況は急激に変動することもあるため、物価水準や税率が低いと思っていても安心はできないのです。
また、給与水準が日本よりも高い国では、日本の給与体系を基準に人を雇用すると想像以上の人件費となることもあります。
海外特有の起業リスクがある
情勢不安によって下記のような事象が起こり、営業できなくなる可能性があります。
・金融市場の変動で取引企業の破綻や自社の資金が尽きる
・デモや暴動が起こり都市封鎖や店の破壊・略奪が起こる
・政権交代や体制変化により以前の常識や手法が通じない
・事前予告なく、いきなり取引先から仕事を打ち切られる
有事の際に慌てないよう、情勢変化の流れが速く、雇用や取引関係は不安定だと思っておくようにしましょう。
海外移住と海外起業のための4つのステップ
海外移住や起業を成功させるために重要な4つのステップをご紹介します。
ステップ(1)現地に馴染む
脱サラ後に海外移住して海外で起業したい場合、それを実現するための第1ステップは、まず住みたいと思っている国を訪れてみることです。
過去に何度か現地に赴いており、その国で生活したいという強い決心があれば別ですが、インターネット上の情報や噂話だけで移住する場所を決めることは、後になって後悔する結果になるかもしれません。
海外に移住して起業しようと考えるならば、まず候補の場所に足を運んであなたの目で確かめてみましょう。もし可能なら現地滞在費を稼ぎながら海外生活を味わえるワーキングホリデー制度を利用すると良いでしょう。
ステップ(2)市場調査および起業分野の選定
生活したい国の候補を決めてから選択肢をさらに絞るために、市場調査をして、自分の起業分野を決めましょう。
一番簡単で効果的な方法は、同じように脱サラをして海外移住を経験した人たちに会うことや、SNSやブログなどから体験談を聞くことです。
また、現地を訪れた場合、現地の方々とたくさん話して生の声から起業分野のヒントを収集するようにしましょう。
ステップ(3)法的条件と対応策を知ること
海外で働くなら、パスポートとビザを取得し、手続きや許認可等その他の法的条件を満たす必要があります。
そのような条件を整理し、ビジネス開始に必要なプロセスとやるべきことが分かると、あなたの海外移住と起業がより現実味を持つようになります。
また、いきなり海外で起業するより、まず日本で会社を作って1~2年後に海外に進出するという形で現地でのビジネスを開始した方が、よりスムーズに進むということも珍しくありません。
例えば、アメリカ合衆国の場合、L-1(企業内転勤者)ビザという新規事業立ち上げ目的のビザがあります。ビザ申請の3年前までに日本の会社に継続して1年以上雇用されており、日本での会社が親会社になるという条件であれば、より簡単にビザの取得が可能となります。
一定期間、海外で生活してから永住者となるためのグリーンカードの申請も可能となります。
このような条件面を調べ、法律を専門としている方々とも相談しながら、あなたやご家族にとって最も適している仕組みを決めるとよいでしょう。
ステップ(4)資金とその他、必要なものの用意
ステップ(1)~(3)で海外移住、起業のための必要なプロセスがより明確になったら、必要資金とその他のことを考えることができるでしょう。
まず資金に関しては、自分の生活に必要な資金とビジネスに必要な資金を別々に考えましょう。生活に必要な資金として、1~2年間収入がなくても生きていけるような金額を用意しておいた方が、より不安なくビジネスに取り組むことができます。
ビジネスに必要な資金はビジネスの種類にもよりますが、ビジネスに必要な資金も1年間無収入でも事業が続けられるように運転資金を用意した方がいいでしょう。
また、クレジットカードや銀行口座がすぐに作れない国も多いため、海外での生活やビジネスに必要なクレジットカード、銀行口座、オンライン決済などの登録は日本にいるときに行いましょう。
脱サラして開業をする場合、クレジットカードはできるだけ会社を辞める前に作っておくべきです。
あなたの海外移住や起業にとって強力な味方:「日本」というブランド
新しい刺激を求めて日本から離れたいという考えで海外移住や起業を考える場合でも、「日本」というブランドを使わなければもったいないです。
日本人は勤勉で礼儀正しくきれい好きというイメージを持っている人が多いことと、犯罪率の低さもあいまって、多くの国ではビザなしで90日以上の滞在ができるのです。
海外の情報を収集するなら、現地の日本人ネットワークやジェトロ(日本貿易振興機構)、領事館等の国の機関も積極的に活用するようにしましょう。
<文/柴田敏雄>